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~異世界で悪者の計略を暴きます④~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。


        ◇     ◇


 「ウルド領代官、そしてファーレン公爵のナイトを務めるヤマダユウ、同じくナイトのヴォルフ、入られよ!」

 僕とヴォルフの名が高らかに告げられると、王宮・迎賓の間の大きな扉が開かれた。


 おおーっ!

 パチ、パチ、パチ


 歓声と拍手の中、スーツ姿の僕とヴォルフがカーペットの上を進んでいく。スーツは以前公爵に招待された時に着たものだ。


 「続いて、ヤマダユウの従者、リリィ、ヴィー、入られよ。」

 ドレス姿のリリィとヴィーが入っていくと、


 おおーっ!!

 何と!美しい娘たちではないか!

 本当にオーガを倒したのか?

拍手とともに驚嘆の声が響く。


 僕とヴォルフ、リリィとヴィーが並ぶと衛士達によりラッパが鳴らされた。

ラッパが鳴りやむとグラベル伯爵によって更迭させられていた前宰相が前に進み出た。前宰相(復職したのだそうだ。)は貴族にしては人の良さそうなおじさんで、満面の笑みで僕らを紹介してくれた。


 「これより、此度のグラベル伯爵による陰謀を打ち砕くとともに、王都に害悪をもたらした魔物をせん滅し、さらにはクラン王子様をご病気から回復させるという多大なる活躍をされたヤマダユウ殿とその従者の方々に対する論功行賞を行います。」


 おおーっ!

 パチパチパチ

会場が再び歓声と拍手に包まれた。


 「ヤマダユウ殿は、この卓越した3人の従者を従えて此度の活躍をされました。ご本人は魔道具使いであり、オーガをも倒す強力な武器から小さな虫のような道具まで、様々な魔道具を使いこなします。

 また、これまでも、困窮していたウルド領の立て直しや、洪水からファーレの街を救うなど、賢者のごとく活躍をされてきました。此度のグラベル伯爵の陰謀を打ち砕くに際しても中心的な役割を果たされた。

 これまでの功績を評価するとともに今後に期待して、ヤマダユウ殿を男爵にしょう爵させるものとします。」


 高らかにラッパが鳴り、僕が前に進み出ると、一段と歓声が大きくなった。

王子が確かな足取りで僕の正面に進み出てきたのだ。


 おおーっ!王子が!

 あのようにご壮健なお姿を見せて下さるとは!


 どうやら大歓声は僕に向けられたものではない様だが、ヴィーの功績に対するものだと思えば気分もいい。僕は王子の前に進み出て騎士の敬礼をしてから、うやうやしくしく王子の手から短剣を受け取った。


 続いて、

「ヤマダユウ殿の従者ヴォルフ殿は、此度の件に限らず、常にヤマダユウ殿のそばでその活躍を支えてこられた。今後も励まれることを期待する。騎士爵を任ずる。」


 おおっ!


 驚きの声が上がった。

後で聞いたことだが、騎士爵という領地無しの「名前だけ貴族」とはいえ、亜人が貴族になるのは王国では、十年ぶりのことらしい。


 「同じくリリィ殿は、ヤマダユウ殿から魔道具を付与され、此度のオーガせん滅に最も活躍された。騎士(ナイト)に任ずる。これからも王国のために励まれよ」

 リリィがドレス姿のまま騎士の敬礼をすると、


 おお! まさに「戦乙女ヴァルキリアだ!

 会場にどよめきと歓声が起こった。

ヴォルフとリリィには、王子の妹である姫君から短剣が渡された。


 「同じくヴィー殿には、王太后御自ら労いのお言葉があるそうです。」

会場にざわめきが広がる中、王太后がヴィーの前に進み出た。


 「ヴィーよ、此度の働きに王太后としてだけではなく母親として感謝する。そなたのおかげでクラン王子は、このように壮健な姿を見せることが出来ている。」

ヴィーは、騎士の敬礼はせずに貴族の礼儀にならってドレスの裾を持って会釈している。


 「ヴィー、こちらに来なさい。」

 王太后がヴィーを自分の隣に並ばせると、その肩を抱いた。ヴィーは肩を抱かれて驚いていたが、王太后の言葉にさらに驚いた。


 「皆の者よく聞くのだ。先の大戦以来、ダークエルフはあらぬ疑いを掛けられ、忌み嫌われてきたが、それは偽りだ。偽りに皆が踊らされてきたのだ。

今日ここに、私は宣言する! ダークエルフは我が王国の誇るべき民だ! 今後、ダークエルフに不当な差別をした者は私が許さない! 皆の者、心せよ!」


 そして会場が大きな拍手に包まれると、ヴィーは王太后や会場に集まった貴族たちに何度も何度も頭を下げた。

「ヴィー、そんなに頭を下げなくて良いのだ。顔をあげよ。」

「でも‥‥でも‥‥」

 顔をあげるとヴィーは、ぽろぽろ涙を流しており、その頬を王太后が拭う。


 「ぬうう‥‥」

感動的な場面のはずであるが、1人歯ぎしりをして悔しがる者がいる。

「あれは私がやりたかった役目なのにーっ!」

 ロメル殿下とバートさんが、アヴェーラ公爵をなだめるのに苦労していた。


 その後でファーレン公領家の論功行賞となったのだが、既に公爵家でありこれ以上のしょう爵もありえない中で領地でも増えるのか? 僕はそんなことを考えながら王太后の話を聞いた。


 「此度のことで、我が国におけるファーレン公爵家の重要性を再認識した。そして病にあったとはいえクラン王子の未熟さも再認識したところだ。」

このような華やかな場で、我が子に厳しい言葉を浴びせる王太后だが、その言葉に対して、

「王子はひどい病にあったのに‥‥」

「王太后のお言葉は、少し厳しすぎるのではないか‥‥」

 貴族たちの間では、そんなヒソヒソ話が聞こえる。

(ひょっとしたら、これも王太后様の狙いなのかなー)などと僕が考えていた時、


 「これから即位を迎える王子の教育指南を兼ねた補佐役に、ロメル公太子を迎えたいと考えている。」

「ええっ!」

 自分の名を呼ばれたロメル殿下が驚いているので、本人には知らされていなかったのだろう。

アヴェーラ公爵の方を見ると「驚いたかロメルよ」と言わんばかりの「ふふん」という顔をしているので知っていたのだろう。

「役職は、「摂政公」とでもいうべきか。よろしく頼む。」


 おおーっ! 

 会場にどよめきが起こった。

「これは大変なことになったぞ!」

「これからは、王宮に何か伺いを立てる時にはまず、ロメル殿下に確認せねばならんのか!」

「早急にコネを作らねばならん。」


 慌てる貴族たちに向かってアヴェーラ公爵が、

「皆の者に言っておくが、うちのロメルは堅物でな。袖の下とかは通じんからな。心得ておくようにな。」

「うっ‥‥」

アヴェーラ公爵と目を合わせられずに、下を向いた貴族が何人かいた。


 ロメル殿下の登用は、若い王子に言い寄って自分に有利に(まつりごと)を進めようとする貴族たちへのけん制の意味もあるようだ。


     ◇  


 「母上、母上はご存知だったのですね? なんで断って頂けなかったのですか?」

「はぁ? 何故断る必要があるのだ。」

 公爵邸に戻ると早速、ロメル殿下は、アヴェーラ公爵に抗議を始めた。


 「いつも私のことを未熟者と言っておいでではないですか。そんな私に摂政公など‥」

「未熟者には違いないが、クラン王子よりはましだろう。」

「それは‥‥、いやいや王子に失礼でしょう。」

ロメル殿下も一瞬同意して慌てている。


 「なあユウ、王子よりはロメルの方が幾分ましだよな?」

(ヤバい、早く離れればよかった。)と思ったが、捕まってしまったので意見は言おう。

「でも殿下、王子と人の良さそうなあの宰相さんだけでは、チョット頼りなくないですか?」

「聞いたかロメル、王宮の事情など良く分からないユウが見てもそう思うということだ。」


 「ふうっ‥」

 殿下も観念したように椅子に座って、大きなため息をついている。

「なあバート、正直に言ってみてくれ。どう思う?」

 ロメル殿下に意見を求めれれたバートさんは、

「上に立つ者はどのような立ち振る舞いが求められるか?殿下なら王子にご指南出来ることも多いでしょう。そして直ぐに答えが出せずに、お2人で悩むこともあるでしょう。それで良いではありませんか。」

 落ち着いた笑顔で答えている。

「そういうことだ。観念しろ。 さあ、今日は飲むぞ! 祝いだ、祝いだーっ!」

 公爵は上機嫌だ。


 リリィとヴィーが、 ドレスからメイド服に着替えて厨房に入ろうとして呼び止められた。

「おい。お前たちは、そんなことはせずとも良いのだ。お前たちのお祝いだぞ。」

 公爵に声を掛けられたが、

「申し訳ありませんが無理です。落ち着きません。」

「そうなのです。」

 パタパタと厨房に入って行った。

「私もお手伝いします。」

ミクも後ろから二人に付いていく。


 その夜は、遅くまで歓談となり、僕はアヴェーラ公爵やロメル殿下といろいろな話をした。

 現在、ファーレン公領の領都ファーレの町は、王国内で人口では3番目、税収では4番目なのだそうだ。ロメル殿下は、これを両方とも王都に次ぐところまで押し上げたいそうだ。

 そのためにも「領都ファーレのスラム街を何とかしたい。」というロメル殿下と「スラム街は必要悪だ。簡単に否定するな。」いうアヴェーラ公爵の議論となったのだが、公爵は議論を楽しんでいるというか、殿下を試している様子だった。


 しかし、今後の成り行きが少し変わってしまった。殿下はスラム街改善に向けて準備を進めてきたようで、

「まさにこれから取り組むための準備をしていたところなのに、このようなお役目を受けては‥‥」

「今さら言っても仕方なかろう。お前は月の半分以上は、摂政公として王宮で王子の補佐として過ごすのだ。」

 鼻息荒く議論していた2人がいきなり僕に向き直った。

「そこでユウ、頼みがある。」


 「お前には、ファーレ市政の要職についてもらう。」

「えっ、ウルドの代官は続けられるっていう話じゃなかったですか?」

 僕の言葉に公爵は、

「代官は、お前が信頼おけるものに任せれば良い。ちょうど、「領地を持たない名前だけ貴族」になった者がいるだろう。」

 なるほど、と思ってヴォルフの方を見ると、ヴィーが何か可笑しなことを言ったようで隣のリリィと大笑いしているところだった。

「お前が手助けしながら、やらせてみたらどうだ。」

「‥‥いいですね。それにファーレの街の仕事もやってみたいですね。」


 僕と公爵が盛り上がっていると、

「ユウ、私の意見もキチンと反映させるのだぞ。」

ロメル殿下が面白くなさそうに口をはさんだ。

「はい、有効だと思ったものは取り入れます。」

「なにぃーっ! 言ったなこいつ!」


 僕と殿下がじゃれ合いのようなことをやっているのを、アヴェーラ公爵が嬉しそうに見ながら、

「ところでユウ、ミクの扱いについて相談があるのだ。」

「えっ、は、はい。」

「お前がミクに確認したという「先読み」の力についても含めてだ。」


 公爵が僕たちのことを王宮で調整している間に、僕はグラベル伯爵に利用されていたミクの「先読み」すなわち「予知能力」についてミク本人に確認していた。


          ◇


 「満月の日になるとグラベル伯爵がやって来て私に予知をさせるの。「この案件について、1月後にどうなっているか先読みしてくれ」みたいな感じで‥‥、私は、それに対して1ヶ月先どうなっているかをイメージすると、頭の中に映像が浮かんで来て。それを伯爵に伝えるの。」

 ミクは、こちらの世界に来れば予知能力が発揮出来るとして、現世日本からさらわれて来たのだった。


 「ゾーディアック卿から、「お前は物事の未来を見る力がある。」って言われて、さらわれて来たんだけど‥。

 でも「予知」をしてみるとね、当たることと、当たらないことがあったの。

 そのうち満月の日だけじゃなく、前後合わせて3日間能力が使えるようになって来て‥‥」

「あ、僕もこの頃は、そうなって来た。」

 僕の現世日本とこちらの世界を行き来する能力「トラベラー」も満月当日だけでなく、この頃は3日間に渡って能力が使える。


 「うん、慣れてくるとそうなるみたい。でね、満月の日に予知してみたことを、確認のために翌日もう一度予知してみたら、結果が違っていたの。」

「えっ、なんで?」

「何度かやってみたんだけど、多くの人が関わるような事は、そういうことが多くて‥‥

 考えてみたんだけど、予知はその時点での予知で、翌日に予知する時点では、状況や前提条件が違っているかもしれないのよね。

 だから、多くの人が関わる政策の効果とか、政令による人の動きとかは当たらないことがあって、グラベル伯爵が、イラついていたこともあったの。

 それに対して、自然現象とか事故とかは、正確に予知できるっていうか‥‥」


            ◇


 「ミクからは、そのような話を聞きました。」

僕の話を聞いてから、公爵は大きくため息をついて、

「危ういな‥‥。国の行く先を預かる身であれば、誰もが欲して誰もがすがってしまうような力だ。」

「しかも、外れる場合もある。」

僕の言葉に、うなずきながらもう一度ため息をつく。


 「そこでだ。ユウ。 ミクの身柄は、当面お前が預かれ。」

「やっぱり、そうですよねー。」

 ミクは大学二年生(僕が見ても高校生にしか見えないんだから、この世界の人が見たらさぞ幼く見えるのだろうが)、農学部で食品化学を学んでいた経歴があり、ウルドの直売所で活躍できそうだ。


 「ミク、ちょっとこちらへ来なさい。」

 公爵に呼ばれて、ミクが少し緊張気味に公爵の隣に座った。すると公爵が立ち上がって、

「皆の者よく聞け。ミクは今後、ユウの妹として扱うことにする。ユウが自分の国から呼び寄せたのだ。そして「先読み」は封印だ。ミク自身をも危険にさらす恐れがある。皆の者良いな。」


 はっ!

 はい!

「ミクも良いな。」

 皆に伝えてからアヴェーラ公爵が確認するとミクは、

「「先読み」はその方がいいです。私もやっていて怖かったから。でも‥‥」

「何だ? 申してみよ。」

「お兄ちゃんにするなら、ホントはもっとイケメンがいいんだけどなぁ。公太子様みたいな‥‥」

 ロメル殿下をチラ見してモジモジしながら語る。


 「はっはっは、聞いたか? ユウ。」

「ちくしょー‥‥」

 ロメル殿下にドヤ顔でさっきの仇を取られてしまった。


 その後、酔っぱらったヴィーが「ミクはユウ様の良さが分ってないのですーっ!」と乱入してきて大騒ぎになった。歓談は夜更けまで続いた。



 「ユウ、一人で何をしているんだ。」

 僕がバルコニーで酔いを醒ましているとロメル殿下が隣に立った。

「ちょっと酔い覚ましを‥‥」

ロメル殿下は僕の横に座ると感慨深げに、

「君と初めて会った時には、こちらの世界に来たばかりの君に、いろいろ相談したな。」

「ええ、でも相談して頂いて嬉しかったですよ。こっちの世界でもやっていける気がしてきましたから」

「そうか‥、これからもよろしく頼むな。」

「はい、こちらこそです。」

 僕と殿下は互いに握った拳をコツンと合わせてから笑いあった。


 その様子を歓談の続く部屋の窓から見て、アヴェーラ公爵とバートさんが微笑んでいた。


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