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~異世界で悪者の計略を暴きます③~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。


 「王太后様、此度の騒ぎを収めるためにお出まし頂き、ありがとうございました。おかげさまで私の部下のヤマダユウの想い人も、無事に奪還することが出来ました。」


 ロメル殿下の言葉に合わせて僕が深々と頭を下げる。

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。王子が床に臥せったために私が取り乱して、グラベル伯爵に付け込まれてしまったのだ。しかし、あの男の先読みには驚かされたものだ。だから私も‥‥」

「お、王太后様、大事なことを忘れておりました。」

 ロメル殿下が、王太后の言葉に被せるように発言した。王太后が一瞬「むっ」としたが続ける。

「此度のことに対してお礼の品がございます。人払いをして頂けますとありがたいのですが‥‥」


 王太后がアヴェーラ公爵に確認の視線を送ると、公爵も頷いている。

「分かった。人払いをしよう。」


 僕と仲間三人と公爵家の三人、王太后とベッドの上の王子だけとなり、王子の介添えのメイドを残して側近も退出した。

「王子は、そろそろ休ませたいのだが‥‥もう一刻(一時間)以上起き上がっているからな。」

「は、母上私は大丈夫で‥‥ゴホッゴホッ。」

「クラン!」

 王太后が駆け寄る。クラン王子は青ざめており、安静が必要なことは、誰の目にも明らかだった。


 それを見たヴィーが僕らの前に進み出て、包みを取り出した。

「あのう‥ベルフールの毒なら解毒薬を作ったですよ。麻痺毒は毒の特定までが大変なのです。何の毒か分かれば解毒薬は作れるで‥‥」

 おずおずと包みを開けるヴィーに、王太后が物凄い勢いで駆け寄った。

「おい! この娘は何者なのだ。確かか? 確かに王子の病を直せるのか? どうなのだ!」

「あ‥あうぅ」

 肩を掴まれて詰め寄られるヴィーを、アヴェーラ公爵が自分の手元に引き寄せ、頭を撫でながら、

「大丈夫。この娘のことは私が保証する。それに森や草木のことでダークエルフに勝る知識を持つ者はいない。」

 微笑んで王太后に応えた。



 王子は退席することとなり、ヴィーとバートさんが王子に解毒薬を飲ませるため、供に退出した。

ヴィーが何かやらかしたら大変なので、僕も一緒に行きたかったが、「大丈夫だ、バートにまかせよ」と公爵に言われてしまった。


 「まずは、これをご覧ください。」

 僕は王太后様の前に、銀のインゴットを包みから広げて見せた。

「おおっ、銀か!」

 王太后の目が輝いた。その王太后に対して、

「少し僕の話を聞いて下さい。信じていただけないかもしれませんが、僕は異なる世界から、さらわれて来たのです。そして‥‥」


 僕は以前公爵に説明したことを王太后にも説明した。ここへ来る馬車の中で、公爵から「王太后には、全て話してくれ」と言われていたのだ。


 「むうう‥‥にわかには信じられんな‥‥」

 僕の話を聞いた後、腕を組んで考え込んでしまった王太后に、

「僕の故郷では、こちらほど銀の相場は高くありませんから、これからもお届けできますよ。」

「何? 本当か。」

「ええ、公爵を通じてですが。」

 アヴェーラ公爵がニッコリ微笑むと、王太后は少し不満そうにして、

「今回持ってきた分は貰えるのか?」

「はい、もちろんです。しかし、今回のメインはこちらです。」

僕は、紫色のビロードのハードケースをうやうやしくしく王太后の前に差し出して、「ぱかっ」と開いて見せた。

 身を乗り出した王太后がそれを見て「へ?」という顔になってしまった。


 「何ですか? 私にも見せてください。こ奴、先程は勿体付けて見せてくれなかったので‥‥」

 覗き込んだ公爵の顔も「へ?」となったが直ぐ顔を戻して、

「ユ、ユウ。こ、これは本物なのか。ほ、本物の真珠‥‥「人魚の涙」なのか?」

「えっ、「天然物か?」 ってことですか? モチロンです。(〇崎真珠の上物ですから)」


 僕が持ってきたのは真珠のネックレスだった。ロメル殿下から大陸中央部の王国では「人魚の涙」真珠が大変貴重で、ほとんど目にすることは出来ないと聞いていたのだ。


 「し、真珠は天然の物に決まっておろうが‥‥そうではない。本物なのかということだ。これほどの粒の大きさ、きれいな形、粒のそろい方、そしてこの数だ! どれ程多くの漁師が、どれほどの年月をかければ、これほどの奇跡を集められるというのだ‥‥。」


 王太后も顔を戻して、

「これを私が、本当に‥‥も、貰えるのか?」

「はい、お収め下さい。あ、公爵様の分もありますよ。王太后さまとペアで欲しかったんですよね。」

 僕の言葉を聞いたアヴェーラ公爵が、手のひらを突き出して、

「バ、バカを申すな! こんな‥‥こ、国宝級の品だぞ。私はもっと普通の物を持ってくるかと思ったから‥‥。」

「ホワイト系とピンク系があるんですよねー。やっぱり王太后様がピンク系で、アヴェーラ様がホワイト系かなー。」

「えっ、あ、私もピンク系がいいなー‥‥じゃなくて! 私は、いい‥遠慮する。」


 アヴェーラ公爵と僕のやり取りを見ていた王太后が微笑みながら小さくうなずいた。

「アヴェーラ、せっかくだから二人で頂きましょう。私とあなたの仲ではないですか。」

「バーシア‥‥」

 ため息をつきながら、二人が真珠のネックレスに見入っていた時、


 「大変です。王太后さま、王子さまが、王子さまが!」

王子のそば付きメイドが、顔を紅潮させて入って来た。

「どうした? 王子に‥‥クランに何かあったのか!?」

王太后はメイドが入って来たドアの方を見て、そのまま硬直してしまった。


 その視線の先には、バートさんに支えられながらではあるが、自分の足で歩いて来たクラン王子の姿があった。やつれてはいるものの、先刻までと違って顔色に赤みがさしている。


 「は、母上‥‥」

「な、何ですか‥何ですか? クラン。」

 王太后は、口元を手で覆って肩が震えている。

「母上、私は‥‥は、腹が空きました。」

「ええっ?‥‥そうですか、お腹がすきましたか…では、うんと豪華で精のつくものを‥‥いやダメです。最初はおもゆから‥‥。う、ううっ、‥‥良かった。」

 そのまま泣き崩れる王太后にアヴェーラ公爵が駆け寄り、固く抱きしめ合った。


 「えへへー、薬がちゃんと効いたですよ。」

王子の後ろから、ヴィーがひょっこり顔を出した。


 「そなたが王子を‥‥なんと礼を言ったらよいか。」

王太后がヴィーに駆け寄って手を取ると、その二人をまとめてアヴェーラ公爵が抱きしめた。


「へへーっ。」

ヴィーが頭をかいて照れていた。


          ◇


 その後はお茶会となったので、僕が現世日本から多めに買って来たコンビニスイーツを王太后様や、クラン王子にも提供した。(王子には消化の良さそうなヤツを)

みんなの驚嘆の声を聴きながらのお茶会となったのはいうまでもない。

 アヴェーラ公爵が「こんな美味い物があったのに、今まで私のところに届かなかった」と文句を言っていたが「甘い物好きとは知りませんでしたので」と言ってスルーした。


 上機嫌の王太后様から、ミクのことは「今後も不問とするので連れて帰ってよい」という言質が取れた。恐らく王太后は、グラベル伯爵の「先読み」について、ミクが何らかの形で関係していそうだと、推測していると思う。しかし、それも含めて不問として頂いたのだ。


 「ユウ、今回のことでお前達は褒賞を得られるだろうが、その件は私に任せてくれないか?」

「え? いいですよ。別にヴィーを助けるためにやったことですし、公爵様に手助けして頂いて助かりましたから。お任せします。」

 お茶会の間に公爵と交わしたヒソヒソ話が大した話になるとは思わず、僕は軽々しく「お任せします」と言ってしまったことを後から後悔したのだ。

 


       ◇    ◇



 「ヴィー、こっちのドレスも着てみよ。 リリィ、髪飾りはこっちの方が良いかもしれん。」

アヴェーラ公爵が嬉々として二人の身支度を指示している。

「あ、ユウとヴォルフは、汚い格好でなければ何でもいいぞ。」

僕らに対しては、かなりおざなりだ。


 今日は王都滞在の最終日になるはずだったのに、僕らは王宮に招待されてしまっている。


 数日間アヴェーラ公爵が王宮に詰めていたので、その間に僕らは王都観光のようなことをして過ごしていた。しかし、いつまでも遊んでいるわけにもいかないので、「そろそろ帰らないといけません。僕らも仕事がありますから‥」という話を昨日ロメル殿下に切り出したところ、

「母上は、君の処遇について王宮で調整しているのだ。そして君たちの褒賞についてもね。」

僕だけでなく、ヴォルフ、ヴィー、リリィの3人を見回して微笑んだ。


         ◇


 王都滞在予定最終日の前日、夕方になってからようやくアヴェーラ公爵が王宮から戻って来た。

「ようやく調整が終わった。ユウ、お前は「男爵」になることになったぞ。私は子爵にしてもいいんじゃないかと粘ったんだけどな‥。」

「はぁ‥?」

 キョトンとしている僕を囲んで、

「すごいです。ユウ様。貴族になるなんて!」

「キャーッ!大変なのです!」


 手を取り合って大騒ぎしているリリィとヴィー、感慨深そうに大きくうなずくヴォルフに、公爵が、

「ああ、お前たちも褒賞の対象だからな。」

「えっ?」

リリィとヴィーが驚いていると、

「当たり前だろう。今回、最も多くのオーガを倒したリリィ。王子を瀕死の病床から救ったヴィー。

お前達は王宮で注目の的だぞ。」

「ええっ?」

 戸惑う二人に微笑んでいたアヴェーラ公爵が、僕とロメル殿下に表情を厳しくして、

「お前たちには話がある。ユウをさらって来たであろう怪しげな男・ゾーディアック卿の行方が分かった。あの男、どうやらとんでもないことを画策していたようだ。」



 会議室に呼ばれた僕とロメル殿下・バートさんには、公爵から驚くべき話を聞かされた。

「グラベルの話に「何かあった時のためにとオーガを借り受けた」というのがあったが、私は、それは少しおかしいと思っていたのだ。」

「はい、それは私も思いました。」同意するロメル殿下とバートさんに、

「おっ、お前たちもそう思うか?」自分に同意する息子に満足げにしながら、

「お前の考えを申してみよ。」

「はい、オーガ十体以上というのは、大変な戦力です。用心棒というよりもむしろ‥‥」

「何だ、遠慮せずに申してみよ。」

公爵に促された殿下が表情を厳しくして続けた。

「例えば‥大規模な侵攻作戦において揺動の役割を担うような戦力です。」

「おう‥‥その通りだ。お前の読みの通りのことが起きていた。どうやら王都への侵攻が画策されていたようなのだ。」


 僕らは息をのんだ。


 王宮で僕らの処遇について調整していたアヴェーラ公爵と王太后に、国境周辺の警備を担当する辺境警備隊から驚くべき報告がなされた。

「国境近くの大森林に魔物の大群が集結していた」というものだ。

 しかし正確には「国境近くの大森林に魔物の大群が集結していたが途中で様子が変わり、集結が完了しないうちに魔国に向かって引き返して行った。」というものだ。


 その変化が現れる直前に、ゾーディアック卿が国境近くの街道で目撃されていた。そしてその前日には、僕らとロメル殿下達がオーガをせん滅しているのだ。


 魔国と王国は直接国境を接しているわけではなく、中立地帯である広大な「大森林」を挟んでいる。グラベル伯爵が国境近くの辺境に広大な領地を持っているため、ゾーディアック卿もその周辺では動きやすかったのではないか、と考えられた。


 「お前たちは、期せずして王都への侵攻という魔国の企てをも打ち破ったのだ。」

「はぁ‥?」

僕の気のない返事に、公爵は小さくため息をついて「まったくお前は‥」といいながら続けた。

「恐らく、魔国の軍勢が王都への進行を開始するのと時を合わせて、揺動役のオーガが王都で暴れることで混乱を起こし、進軍を助けるというものだったのであろう。

しかし、王都には十体のオーガをあっという間にせん滅する戦力があった。奴らは急きょ侵攻作戦を回避したのであろう。」


 公爵の話を聞き終えるとロメル殿下は「ふう」と小さくため息をついてから、

「何にせよ、良かったですね。しかし、この話は公にはされないですね? 母上。」

「そうだな。王都に混乱を起こさせてはいかんからな。この話がもっと早く分かっていれば、ユウの扱いももっと‥‥。」

「いいですよ僕のことは‥‥。男爵に‥貴族になるって聞かされただけで、もういっぱいいっぱいです。」


 そのような経緯で僕らは王宮に招待されており、慌ただしく支度をしていたのだ。


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