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~異世界で悪者の計略を暴きます➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。


       ◇     ◇


 「ただいまー。」

「おうユウ。待ちわびたぞ。直ぐに王宮に行くぞ。」

 王都の公爵邸に帰って来た僕を迎えたのは、アヴェーラ公爵とロメル殿下だった。急いで支度をさせられ、馬車に乗るようにせかされた。


 「どうしたのですか、そんなに急いで。」

「グラベル伯爵が逃亡を計ろうとしてな。予定を早めて拘束した。奴め、図々しく王宮で「何も悪いことはしていない。」などと喚きたてていてな。王太后と王子の前で至急説明が必要になった。」


 馬車の中でアヴェーラ公爵の説明を受けた。


 話によるとグラベル伯爵は、国境近く「辺境」に広大な領地を持っているのだが、突然「急用ができたので領地へ帰る」と言い出して荷物をまとめ始めたというのだ。

 その情報を得たロメル殿下とバートさんが駆け付けて、王宮に「任意同行」させることになったということだ。


 「ところでユウ、例の物は用意出来ているのか?」

 期待たっぷりに聞いてきた公爵に、

「とりあえず、これと‥‥」

 包みから銀のインゴットを見せると、

「おおっ、銀か! ユウ、分っておるではないか! 私の分もあるのか?」と目を輝かせたが、

「ありませんよ。これはメインのお宝ではありませんから。」

「何だ。そうか‥‥。しかし、これよりも素晴らしいものがあるというのか? 何だ? 見せてみろ。」

「内緒です。」

「貴様、何をもったいぶっているのだ。」

「もう王宮につきますよ。」

「むう‥‥そうか。」

 僕らを乗せた馬車は、王宮の大きな門をくぐるところまで来ていた。


         ◇


 「その者がヤマダユウか? 公爵の娘・ミリアを盗賊から救って、ナイトとなったそうだな。」

「はい。」


 王宮・後宮の貴賓室。

 僕は王太后の前でひざまずいて騎士の敬礼をしている。僕の後ろにはヴォルフ、リリィ、ヴィーも控えているが、彼らの緊張は大変なもので、心臓の鼓動がここまで聞こえてきそうだ。

 僕らの斜め前にはアヴェーラ公爵とロメル殿下、バートさんがいる。目の前には王太后とその後ろに側近達がおり、少し離れてベッドの上にクラン王子が起き上がった体制で僕らの話を聞いている。

 そして公爵たちと対角線で向き合うようにグラベル伯爵が「むすっ」とした顔で座っている。


 「公爵家が王子の見舞いに来ることとなり、そなたもナイトとして同行して王都に来たが、直前にさらわれたお前の恋人が、グラベル伯爵の所有する城に閉じ込められていることが分かって救い出した。ということだが、それは真か?」

「はい、事実です。」

 王太后の問いに僕が答えていると、

「私の所有する城がそのようなことに使われていたとは、気が付きませんでしたな。これから何かに使おうと思って手に入れた古城ですので‥‥。」

「グラベル、お前には聞いておらん。黙っておれ!」

 割って入ったグラベル伯爵だが、王太后に一括されて首をすくめる。


 「それを手助けしたロメル公太子達は、城から出てきたオーガと戦いになったそうだが、真か?」

「はい、真でございます。」

 ロメル殿下が、王太后に一礼しながら答える。

「オーガと戦闘になった際に、その城の中で見つけたものがあるそうだな。」

「はい、こちらに‥‥」

 バートさんが大きな布袋の中身を床に広げると、引き裂かれたドレスや下着が何着も入っていた。

「これを殺された娘達の親に確認したところ、「娘の物に間違いない。」という証言を得ています。」

 グラベル伯爵は一瞬口を歪めたが、直ぐに申し訳なさそうな顔になって、

「申し訳ございません。私の監督不行き届きでございます。私がうかつに購入した古城が、そのような恐ろしいことに使われてしまったなど、全く気付きませんでした。」

 床に手を付いて詫びるグラベル伯爵に、クラン王子はホッとした様子で、

「グラベルは関わっていないのだな。それを聞いて安心したぞ。」


 そのやり取りを冷めた目で見ていた公爵が、

「お話はもう一つあります。王子がご病気になった原因についてです。」

 それを聞いた途端、それまで威厳の中にも穏やかさを保っていた王太后の目がつり上がった。

「なにぃ? 原因が分かるというのか! 申せ,早よう申せ!!」


 「恐らくは、草花の根から抽出した強力な麻痺毒によるものと思われます。そして、先程の古城の花壇で栽培されていた野草が怪しいと考えております。さらには、毒の抽出作業を担ったであろう者の特定まで出来たのですが‥‥」

 グラベル伯爵が目を大きく見開いて食い入るように聞いている。


 「どうした。早う続きを申せ!」王太后が催促する。

「その城に軟禁されていたミクという娘が、毒の抽出をしたようなのですが‥‥、オーガとの戦いに巻き込まれて、命を落としてしまったのです。」


 それを聞き終わったグラベル伯爵は、唾をのみ込んでから大きなため息を付いて立ち上がった。

 「何だ。それでは何の証拠にもならないではないか! それなのに私をここへ連れてきたのか! なんと無礼な! アヴェーラ公爵様、あなたを立ててお話を聞いておりましたが、何ですかあなた方の話は! 証拠が何もない! それにベルフールは美しい花だから、花壇に植えてもおかしくないだろう。」

「ほう、ベルフールという花から麻痺毒は作るのだな。」

 アヴェーラ公爵が微笑むと、グラベル伯爵は慌てて口を押さえた後、

「し、知らん。そういう花が花壇にあったということだ。 だ、第一、ミクという娘がいなければ、私が毒を作らせたなど、下らない疑いをかけること自体、無理があろう。」


 「グラベル伯爵が毒を作らせたなど‥‥、そこまでは言っていないのだがな。」

 アヴェーラ公爵は、グラベル伯爵が額の汗を拭い始めたのを見て、たたみかける。

「ユウ。例の魔法道具を持ってまいれ。」

「はい」


 僕が、盗聴器で録音した音声を再生する準備を始めた。

「このユウという男は、様々な魔法道具を使いこなす魔導士です。こ奴の用意した小さな使い魔をグラベル伯爵の上着の襟に忍ばせていただいた。まずは、先程の会話を聞いていただきましょう。」


 『‥‥申し訳ありません。私の監督不行き届きでございます。私がうかつに購入した古城が、そのように使われていたなど、全く気付きませんでした。‥‥』

「おおう、伯爵の声だ。先程の会話ではないか。」

「不思議なものだな‥」

 スピーカーからグラベル伯爵の声が聞こえると、王宮の側近達にもどよめきが起こった。


 「そんなくだらない魔法が何だというのだ。」

 僕は、事態を理解していないグラベル伯爵に説明した。

「グラベル伯爵様、申し訳ございませんが、上着の襟の裏側をご確認ください。」

「んん‥‥、何だこれは?」

 グラベル伯爵は、襟の裏側から小さな金具のような物を取り出した。

「グラベル伯爵には、一昨日バートさんと後宮で押し問答になった時に、それを付けさせて頂きました。それは耳の役割を持つ小さな使い魔です。それを付けるとそれ以降の会話は全て筒抜けになるのです。」

「だから、何だというのだ。」


 グラベル伯爵は、まだ事態を良く理解していないので、

「聞いていただきますね。先日バートさんと後宮で揉めた直後のグラベル伯爵の会話です。」


 『‥‥くそう‥‥、いったいオーガどもはどうしたんだ。「何かあった時のために」とゾーディアック卿から借り受けたというのに‥‥、何人もの娘達と大量の酒という高い「維持費」を払って囲っていたというのに、何の役にも立たんではないか!』


 再び再生されたグラベル伯爵の声を聞くと、

 ガタン!

「グラベル! きさま!」

 王太后が、立ち上がって声を荒げた。


 「お、お待ちください。これは、魔道の‥魔道の作った出まかせです! 作りものです!」

 グラベル伯爵は、僕に向かって怒りを露わにして、

「貴様ぁ!下らない魔道でワシを陥れようという魂胆だな! こんな魔道ではなく、きちんとした証拠を出せ!」

 今にも掴みかかってきそうな勢いだ。


 「きちんとした証拠とな。では入ってまいれ。」

 アヴェーラ公爵の声に促されて小柄な人影が、おずおずと入って来た。

 ミクだ。


 「お、お前は、ミク! ミクではないか。ミクは生きているではないか!?」

グラベル伯爵が驚きの声をあげた。

するとミクは、

「す、すみませんでした。私が伯爵様から言われて、ベルフールから毒を抽出しました。でも、畑を荒らす獣を追い払うためだと言われて作ったので、‥‥まさか、まさか王子様に使われるなんて思わなくて‥‥」

「ちょ、ちょっと待て‥‥いや、知らん。ワシは知らんぞ。ワシはこんな娘は知らんぞ!」


 もうグラベル伯爵は、取り乱して支離滅裂になっていた。


 「グラベル‥貴様ぁ―っ!! ‥‥グラベルは地下牢へ入れておけ!」

「いや、待って下さい! 王太后様! 王子! クラン王子! 私は、私はーっ!」

 2人の衛士に両腕を掴まれて、グラベル伯爵は連行されていった。


 それを見送ると王太后は、大きなため息をついてからアヴェーラ公爵を見た。

「だいたい、アヴェーラの筋書き通りだったかしら?」

「だいたいね。」


 二人を見て、僕とロメル殿下も目配せしてうなずき合った


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