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~異世界で悪者の計略を暴きます①~

完結を機会に、誤字脱字・てにおは修正をしています。

     ◇      ◇


 王都の公爵邸にアヴェーラ公爵が到着した。

公爵は出迎えた僕らの中にヴィーを見つけると、駆け寄って抱きしめた。そのまましばらく抱擁していたが、ロメル殿下の「母上、報告をいたします。」との言葉に渋々ヴィーを離し、ロメル殿下の報告を受けることにした。

公爵邸の会議室には僕の仲間の三人と公爵家の面々にミクを加えたメンバーが集まった。


 「ふーむ、グラベルの奴、本当にオーガを囲っていたか‥‥。全員無事で何よりだったな。そして‥その娘がミクとやらか?」

アヴェーラ公爵に視線を向けられてミクが体を固くする。

「公爵様! ミクは悪くないのです。麻痺毒は畑を荒らす獣のためだと聞かされて‥‥」

「ふむ、そのあたりの話も聞かせてみよ。」

公爵は、共に囚われの身となったヴィーから話を聞いた後、ミクからも直接話を聞いた。


 「お前たちの話からすると、このミクという娘は、グラベルに利用されていただけのようだな。 しかし、この一件は王子に毒を盛って病床に付かせ、その間に(まつりごと)を思うがままにするという、前代未聞の悪事であるぞ。この娘の助命嘆願も簡単ではないと考えるがよかろう。」

僕らの説明を聞いた上でのアヴェーラ公爵の言葉に、僕が嚙みついた。

「お言葉ですが公爵様、ミクは僕と同じで、この国の悪徳貴族の陰謀の被害者です。それなのに公爵様がそのようにお考えとは‥‥ガッカリです!」

「貴様は直ぐにそのように‥‥話は最後まで聞け! まったく‥‥」


 声を荒げた公爵だが、リリィとヴィーがハラハラと心配顔なのを見て「大丈夫だ、心配するな。」と声を掛けてから、

「ユウ、明後日は満月だ。お前には頼みたいことがある。それ次第で、この娘は救えることになろう。そしてグラベルに尻尾を出させるためには、この娘は当面、オーガとの戦闘に巻き込まれて死んだことにしておくのが良かろう。」

 その後でミクに向かって「安心しろ。何とかする。」と微笑むとミクも少し安堵したようだ。


 「ユウ。ヴィーを助けるために使い魔を使ったそうだが、グラベルの尻尾を掴むために、何か使えそうなものは無いか?」

「はい。防犯対策に使おうと思っていたものを、いくつか持ってきています。」

「聞かせてみろ‥‥」


 僕は、公爵・ロメル殿下と現世日本の科学力を使った作戦を練ることにした。



         ◇      ◇


 「至急、クラン王子にお目通り願いたい。」

「ダメです。「王子はご容態が悪く、何人たりとも通すな。」と王太后様から申し付かっております。」

王城・後宮の玄関口で押し問答をしているのは、グラベル伯爵と公爵家執事のバートさんだ。


 僕らは、グラベル伯爵が動き出す前に王宮への対応に手を打っておいたのだ。


 アヴェーラ公爵によると、

「恐らくグラベルは、悪事の全容が発覚する前に王子を取り込むために接触を図るはずだ。しかし王子に会わせてはならん。バートと近衛の衛士をお預けして、王太后と王子の周りを固める手はずだ。」

 王子のお見舞いに来たファーレン公爵家の手によって討伐されたものの、王都に十体ものオーガが現れたことは一大事だ。取り急ぎ後宮の護衛強化が必要だとして、王太后から依頼される形にして公爵家の手勢を配置しておいたのだ。


 護衛に就いたバートさんは、今でこそ公爵家の執事を勤めているが、先の大戦の英雄であり、この国の「剣豪五指」の一人であることは、この国の誰もが知っている。


 「無礼者! 私を誰だと思っているのだ!」

「宰相のグラベル伯爵様です。」

 グラベル伯爵は、バートさんに掴みかかって怒鳴り散らしている。その声が後宮内にも響き、後宮の官吏や使用人たちがビクビクしているが、バートさんは涼しい顔をしている。

「力ずくで通っても良いのだぞ!」

「では、やっていただきましょう。出来るものなら。」

 静かに微笑んでいるが一騎当千の迫力を持つバートさんにグラベル伯爵もかなわない。


 「貴様、覚えていろよ!」

捨てゼリフを残して後宮を後にするグラベル伯爵だが、先程バートさんに掴みかかった際に上着の襟裏に小さな装置を付けられたことには気付かなかった。


 「ユウ様に言われた通り、小さな使い魔を伯爵の襟裏に忍ばせましたが‥‥、あれが本当に「耳」の役目を果たすのでしょうか? 異世界の魔法は不思議なものです。」

 バートは、グラベル伯爵の後ろ姿を見送りながら首を傾げていた。



 グラベル伯爵は後宮を後にする馬車の中で、

「くそう‥‥、いったいオーガどもはどうしたんだ。「何かあった時のために」とゾーディアック卿から借り受けたというのに、簡単にやられてしまったではないか‥‥。何人もの娘達と大量の酒という高い「維持費」を払って囲っていたのに、ワシが困った時に何の役にも立たんではないか!」

 側近の前で文句を言うグラベル伯爵は、この会話が盗聴されているなどとは夢にも思っていなかった。



 ガタン!

 王都公爵邸では、席を立ったアヴェーラ公爵が、装飾として壁に掛けてあったサーベルを手に取って無線受信機に近づいたと思う間に鞘からサーベルを抜いたのを見て、僕が慌てて駆け寄った。

「待って下さい。公爵様。これは僕の使い魔が「耳」となって、グラベル伯爵の声を届けているだけです。」

「分っておる! 先程聞いて分っておるが‥‥気分が悪いのじゃ! 若い娘たちの命をなんだと思っておるのか!」


 バートさんに取り付けてもらった盗聴機の受信を始めたところ、いきなり核心に迫る会話が聞けたのは良かったが、アヴェーラ公爵の怒りが爆発してしまったのだ。


 「あいつを早く捕まえて、縛り首にしろ!」


 怒鳴って部屋を出ていく公爵の後ろ姿を見送りながら、僕とロメル殿下が顔を見合わせた。

「裏は十分取れたようだな。私はグラベル伯爵を拘束する前に、母上と王宮へ向かう。王太后に会って話を通しておくのだ。ユウはすまんが、母上の注文に応えてくれないか。」

「分りました。出来るだけ善処します。しかし殿下、出かける前に少し話を聞かせて下さい。」



 「ふーむ‥要するに公爵様は、「王太后の気を引いて我々に有利に事が運ぶように、珍しいお宝を探してこい。」ってことですか。」

「まあ、そういうことになる。すまんな、ユウ。」

 僕と殿下は「王太后に献上する品」について相談していた。


 「資金は出して頂けるということですから良いのですが、よく分からないのが‥‥メインのお宝について「私と王太后の分をペアで」っていうのは、どういうことですか?」

「いや、それは‥‥。」

 ロメル殿下の目が泳いでいる。

「ははぁ‥‥ついでに自分の分も欲しいっていうことですね。分かりました。まあいいです。では参考に、この国の貴金属や宝石の流通について教えてください。」

 僕は出来るだけこの国の情報を聞いてから現世日本に行きたいと思っていた。せっかく探してきたものを「こんな物はこちらにもある。つまらん。」とか言われても悔しいので。


 そして僕と同じように、こちらの世界にさらわれて来たミクにも何か買って来てやろうと思って声を掛けた。するとミクは、嬉々としてものすごい数のリストを作り始めたので「絞りこまなければ却下!」と言い渡した。

 ミクは渋々と絞り込みをしたリストを作っていた。


 ヴィーを無事に救い出した後、グラベル伯爵の悪事を暴くことについても思いの外順調に進んでいるが、僕にはもう一つ心配事があった。

 ゾーディアック卿の存在だ。

 グラベル伯爵は、既に拘束寸前のところまで来ているが、もう一人の敵であるゾーディアック卿については全く情報が無いし、姿も見せない。それが気になっていた。


      ◇


 「じゃあ、行ってくるから。」

「行ってらっしゃいです。」

 ヴィーとリリィに見送られて僕は、王都公爵邸から現世日本へ向けて出発した。僕は最近になって満月の当日だけでなく前後一日の三日間は異世界間の移動が可能となっていた。

 僕の魔力が増大したのか月の魔力が増大しかのは判らないが。



           ◇      ◇


 現世日本のアパートに戻った僕は、スマホで情報収集をしてから調達に出かけることにしていた。

まずは、銀のインゴットの購入だ。


 ロメル殿下に確認させていただいた情報によると、王国並びに周辺国では深刻な「銀不足」に悩んでいるそうだ。銀は魔除けの効果を持つ金属であり、魔物との戦闘に欠かせないそうで、矢尻や槍の先端等に銀を使うことで多くの魔物に効果的な武器となるとのこと。

 そのため魔物と戦った先の大戦で大量消費して以降、王国周辺では深刻な銀不足に陥っているというのだ。


 ちなみに王国での銀の価格は、金の3分の1くらいだそうで、現世日本の数十倍だ。今後、僕が取り扱うようになれば、かなりおいしい取引が出来るかもしれないのだ。

 そしてもう一つ、メインのお宝はジュエリー系にすることにした。

 こんな時に自分へのお土産を割り込ませるアヴェーラ公爵にも、ひと泡吹かせてやりたいものだ。


 銀のインゴットは、店頭小売よりもネット販売の方が多いようだが、小売りしている店舗を見つけた。500グラムのインゴットを6枚買って約50万円だった。

 向こうの世界では数十倍の値が付く「レアメタル」らしいので、王太后様にも喜んで頂けそうだ。


 次はジュエリーを探すのだが、路面店舗やデパートを回っているうちに僕には別の考えも浮かんできた。

「王太后や公爵への贈り物なんか探すより、ヴィーとリリィへのプレゼントを探したいなあ」と。


 そしてミクから頼まれたものも探さなければならないので、今回はかなり忙しいな。


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