~異世界で宿敵と向き合います④~
すみません。段落がずれていたところを直しました。中身は変えていません。
◇
ヴィーが歓喜するその少し前、
ヴィー達が監禁されている古城に隣接した雑木林の中。
「ユウ、そこに写っているのは、君の使い魔の目に映る景色なんだね。「鳥目」という魔術と同じ原理のようだが、鳥を使い魔にする鳥目では、景色を見られるのは術者だけなんだけどね。」
「皆で景色を共有できるところは、鳥目よりも優れています。さすがユウ様です。」
僕が操作するドローンのモニター画面を見るロメル殿下とバートさんは理解が早くて助かる。
僕らは王都に着くと、ヴィーをさらった奴らが指定した宿「黒猫亭」には寄らずに、王都にある公爵邸に馬や荷物を預けて、この古城に直行してきたのだ。
僕らは、まず敵のアジトを把握してから作戦を練ることにした。
ドローンで古城の全景を確認して、ヴィーが監禁されていそうな場所とオーガが潜伏していそう場所を特定した上で作戦を考えることにした。
ヴィーが監禁されているのは「恐らく二本ある尖塔のどちらかだろう。」ということになった。
(確かにアニメとかでも、さらわれたお姫様が監禁されるのは、尖塔だな)と思いながら、僕も納得した。
そしてオーガが潜伏しているのは、「城の奥の部屋か、地下室だろう。」とのことだ。
先ずは、ドローンによって確認しやすい尖塔を確認することにして、尖塔に沿ってドローンを上昇させた。最上階には窓があったので慎重に侵入した。
果たして、
モニター画面には、歓喜するヴィーの姿が映った。
「ヴィー! そんなに騒ぐなよ。誰かに気付かれたら困る‥‥」
とりあえずドローンを着地させなければならないが、モニター画面がぼやけてしまって良く見えない。
「ユウ様は、手が離せませんからね。」
僕の頬を伝う涙をリリィが、拭ってくれていた。
微笑むリリィの目も潤んでいた。
ドローンの着陸操作を終えた僕は、突然後ろからガシッと肩を掴まれた。驚いて振り向くとロメル殿下が微笑みながら、
「ユウ! 直ぐにヴィーを助け出そう。」
「いや、でも‥「確認してから作戦を練る」ということでしたし‥‥。」
「尖塔は独立構造だから、数人で制圧できるだろう。問題は、城からオーガが出て来て乱戦になった時だが……。」
僕とロメル殿下が相談していると、
「せん越ですが、私とユウ様が援護いたします。 ヴォルフと接近戦に強い方が尖塔に突入して頂くのは如何でしょうか。」
リリィが、小銃を持って進言した。
「俺も、それがいいと思います。」
ヴォルフもリリィに賛同している。
◇
突入班には、ヴォルフとバートさんに加えて衛士隊の精鋭三人が選ばれた。ロメル殿下が「突入には、僕も必要ではないか?」とアピールしてきたが、自重して頂いた。
僕らは、三班に分かれて行動することにした。
ヴィーがいる尖塔に突入する突入班五人。突入が敵に発覚すると同時に陽動活動を行う陽動班五人。僕とリリィに加えて弓の得意な衛士二人が後方支援班、指揮を執るロメル殿下は後方支援班に付いて頂くことにした。
僕らは、身を低くして尖塔と城の母屋に接近すると、ロメル殿下が拳を振り上げる合図で一斉に行動を開始した。
突入班のヴォルフが、尖塔の扉に駆け寄ると、これを蹴り破り、一斉に突入が始まった。
「誰だてめえっ!」
「ぐわーっ!」
叫び声が上がると、
バン、バン
ヴォルフの拳銃の音が響く。大きな物音がするまで拳銃は封印にしていたが解禁だ。ヴォルフは、既に尖塔の階段を駆け上っているはずだ。
すると城の母屋から、覆面をした数人の男たちが出てきた。これに対しては、陽動班が対応した。揺動班といっても衛士隊の精鋭たちだ。直ぐに尖塔との間に位置を取りつつ、男達に切りかかる。
圧倒的な強さを見せつけられて、城の母屋から出てきた男の一人が、城に駆け戻って行った。仲間を呼びに戻ったのであろう。
しばらくすると、果たして、
オーガらしき巨体が三体、母屋から姿を現した。
「少し、待ちましょうか?」
僕らに緊張が走ったが、オーガ達が尖塔に向かうのを見たロメル殿下の「いや、やってくれ。」という言葉を合図にリリィと僕の小銃が火を噴いた。
ドギュ、 ドギュ、 ドギュ
銃弾を受けたオーガが、血を噴き出して倒れる。
予想通り、小銃の弾丸であれば、オーガの固い皮膚も貫通出来るようだ。小銃は貫通力の高い7.62ミリ径を使用するタイプだ。
最初の三体が倒れたのを見て、後続のオーガ達は異変に気付いたようだ。様子をうかがうようにしながら出て来たと思いきや、いきなり二手に分かれて突進して来た。
陽動班に向かう三体と、僕らの方に向かってくる三体だ。
「ユウ、こちらは任せるぞ!」
ロメル殿下が陽動班の応援のために駆けだした。
「殿下―っ! リリィ、こちらを確実に仕留めるぞ。その上で殿下の支援だ。」
ドギュ、ドギュ
「はい!」
リリィは、返事よりも早く二体のオーガを仕留めていた。僕が残りの一体を仕留める。
僕らは、倒したオーガの脇を走って殿下の支援に向かおうとしたのだが、
ガシッ
突然、リリィが倒れていたオーガに足首を掴まれた。
「キャーッ!」
リリィの悲鳴に振り向いた僕が、
ドギュ
オーガの頭部を撃ちぬいた。
胸部を撃ちぬいたオーガは死んでいると思ったが、まだ息があったようだ。
震えが止まらないリリィの肩に手を置いて、「大丈夫か?」と声を掛けると、
「大丈夫です。すみません。戦闘中に悲鳴など‥‥」
悲鳴をあげてしまったことに恥じ入っているようだった。
「そうだ、ロメル殿下の支援を!」
僕は陽動班の戦闘の行方を確認したが、ロメル殿下は混戦の中心にいて、銃撃で支援できるような状態ではなかった。
しかし、
ウギッ!
獣のような断末魔の叫びをあげてオーガの首が飛ぶのを最後に、戦闘は終わったようだ。首のないオーガが倒れると、首を切り飛ばしたロメル殿下の姿が見えた。
「殿下って、本当に強いんですね。」
僕が感心していると、弓使いの衛士が、
「そりゃあ殿下は、この国の剣豪五指の一人ですからね。殿下やバートさんの「威力」をまとった剣ならオーガも討てます‥‥しかし驚きなのは、あなた方です。ナイトのヤマダユウ殿の強さは知っておりましたが、お供の方がこれほどお強いとは‥‥。」
可憐な容姿のリリィが、オーガを四体も倒した事実に驚いていた。
良く見ると揺動班の中には突入班のバートさんも合流していた。
(ということは既に‥‥。)僕は、辺りを見回した。
「ユウ様!」
呼ばれた声に振り向くと、ヴォルフにしがみついているヴィーの姿があった。
「ヴィー!」
僕が呼ぶとヴィーは、弾かれたように僕に駆け寄って、飛びついてきた。
ヴィーを抱きしめると、その体が改めて細くて華奢に感じられて、僕はそれが愛おしくて強く抱きしめた。
「ヴィー‥‥。」
「ユウ。すまんが、まだ戦闘行動中なので、抱擁は中断してもらっていいか? ヴィーもすまんな。」
ロメル殿下から遠慮がちに声を掛けられて、僕らは少し照れながら離れた。
「あれ? その子は誰?」
気付かなかったが良く見てみると、ヴォルフに抱きかかえられている少女がもう一人いる。
◇
リリィとヴィー、そしてもう一人の少女・ミクを庭の隅に退避させてから、僕らは古城の内部へ侵入した。
用意してきたハンドライトが古城の内部を明るく照らしている。「魔石を使った照明よりも格段に明るい」と衛士達が驚いていた。
リリィには同行を申し出られたが、ヴィーとミクを託して退避させた。
オーガによってさらわれて来た娘たちは、ここで凌辱されて殺されている。まだ、遺棄していない遺体などがあるかもしれないのだ。
(そんなところには僕も入りたくないし、取り戻したヴィーと一緒にいたい。) とは言えずに僕も同行するしかなかった。オーガの残党が、まだ残っているかもしれないし。
城の最も奥の部屋に入ると、酒の匂いと混じって異臭がする。どうやら血の匂いのようだ。ここが、オーガのねぐらに間違いなさそうだ。
部屋の隅で何かを探していたバートさんが、
「こ、これを見て下さい!」
何かを発見したようだ。
ライトで照らして皆で確認すると、さらわれた娘達が着ていた衣服のようだ。引き裂かれたドレスや下着が一カ所に集められたものだった。
それを袋に詰めて、僕らは古城を後にした。
僕らは当初の予定通り王宮でアヴェーラ公爵と合流はせず、王都にある公爵の別邸に公爵を呼んで相談することにした。
ヴィーと同じ尖塔に監禁されていた少女、「小林未来」の扱いについて、今後のことを相談しなければならなくなったからだ。
ミクに話を聞いている中で、聞き捨てならない言葉を聞いてしまったのだ。
「王子様が臥せっておられるのは、私の作った毒薬のせいかもしれません。」