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~異世界で宿敵と向き合います➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

     ◇


 「母上、先程入った情報によると、最近王都では、凶悪事件が起こっているようです。」

「何だ? 話してみよ」

情報収集から戻ったロメル殿下とバートさんから聞いた報告は酷いものだった。


 「夜、若い娘がさらわれて、数日後に殺されて見つかる。という事件が、このところ立て続けに起きているそうです。」

「何と‥‥。人のすることではないな。」

「それがどうやら本当に、人の仕業ではないのかも知れないのです。」

「なにぃ‥‥。詳しく話してみよ。」

ロメル殿下の言葉に、公爵は表情を険しくした。


 「娘たちは凌辱された上、首の骨を折られています。これまでに5件も起きているようなのですが‥‥。」

ロメル殿下の説明に合わせてバートさんが地図を広げた。王都郊外の地図のようだ。

「ヴィーが監禁されていそうな場所として我々が目星をつけたのが、ここ、グラベル伯爵が買い上げたという古城です。そしてこの印が、これまでに娘たちの遺体が発見された場所です。」

「これは‥‥。」

 遺体は、その古城を中心とする周囲に円を描くように遺棄されていたのだ。


 「そしてもう一つの情報ですが、この古城には、定期的に食料の他に大量の酒が運び込まれているようです。」

「なにぃ! ‥‥オーガか? グラベルの奴、まさかそこにオーガを囲っているのか?!」

「私も、そうではないかと思います。」

うなずき合う公爵とロメル殿下達が、「なんでそうなるの?」という顔の僕に説明してくれた。

「オーガは、人やエルフの女をさらって乱暴することが多い。そして大酒飲みなのだ。グラベル伯爵が、オーガを囲っているのなら、ウルド領にオーガを連れてきたのも奴らの一味と見て間違いないだろう。」


          ◇


 同じ頃、

 ドドド‥

 ウルド領に向かうヴォルフのバイクの後席で、リリィは、先月のことを思い出していた。ユウが、「今後のために」と新しい武器を調達してきた日のことだ。



 「今後のことを考えて強力な武器を調達して来たんだ。ヴォルフが使っている拳銃よりも、見た目が大きい分、強力だけど衝撃は小さい。そして遠くから攻撃が出来る。」

僕が、現世で手に入れてきた新型のアサルトライフル(以降「小銃」)をヴォルフに説明していると、

「それは、私にも使えるでしょうか?」

それに強く興味を示したのは、リリィだった。


「私だって、ただ待っているだけなのは嫌です。ユウ様やヴォルフが戦っているのを‥‥無事に帰るのを、ただ待つだけなのは嫌です!」

「僕は反対だ。リリィを戦いに加えて、危険にさらすのはダメだ!」

「お待ちください。私は最初に申し上げたではないですか、ユウ様をお守りしたいと。」

(それが、恥ずかしくて嫌だから言ってるんじゃないか) と思いつつ、ヴォルフに援護を求めた。


 「なぁ、ヴォルフ。ヴォルフもそう思うだろう。」

ヴォルフは、先刻から腕を組んで黙り込んでいたが、

「敵から‥‥距離を置いたところから攻撃できるのですか? それなら反対できません。」

「ヴォルフ‥‥。」

リリィが、胸の前で両の拳を握りしめて、ヴォルフの賛同に感激している。

「ヴォルフ! リリィが心配じゃないのかよ!」

声を荒げる僕に対して、ヴォルフは冷静に答えた。


 「前の俺だったら、絶対反対してました。でも、今の俺には、お嬢の気持ちが解るから‥‥」

「「お嬢」じゃなくて「リリィ」って呼ぶって約束でしょ。」

リリィが脇からヴォルフをつついている。真面目な話の最中なので止めて欲しい。

「‥‥今の俺には、お嬢‥‥リ、リリィの気持ちが解ります。主をお守りしたい。たとえ我が身を危険にさらしても‥‥それがユウ様に御恩がある俺達の、そして騎士の家に生まれた者としてのリリィの思いです。」

僕が、改めてリリィの顔を見ると、リリィは、僕の目を真っ直ぐ見つめて大きく頷いた。

「じゃあ、試しに、撃ってもらってから、判断するからな。」

「はい!」


 果たして、

リリィは、小銃(アサルトライフル)の操作を簡単に習得した。そして驚くべきは射撃の腕前だった。

最初こそ発砲音に驚いていたが、それに慣れると驚くべき集中力を発揮して、僕はもとより、ヴォルフに迫る正確な射撃の腕前だったのだ。


 今後、この心強い後方支援が期待できると思うと、リリィの参戦を断ることは出来なかった。


          ◇


 ヴォルフとリリィは、ウルドの代官所に着くと直ぐに支度を整えた。小銃の他にもユウに言われた小道具を積み込み、身支度も整えた。ちなみに以前サバゲーショップでリリィとヴィーの分のフィールドウェアが買ってあった。僕とヴォルフの分を買った時にノリで買ってしまったものだが、「動きやすいから、農作業の時にでも使って」と渡してあったものだ。


 ヴォルフは、倉庫からバイクのサイドカーを出して手早く取り付けている。サイドカーは、荷物が多いときに使おうと思って買ってあったものだ。

これらの準備を整えてヴォルフとリリィが出かけようとした時、

「ちょっと、あんた達どこ行くの?」

ルー姉さんから声を掛けられた。


 「しばらく留守にします。」

静かに答えるヴォルフの様子と物々しい二人の身支度を見て、ルー姉さんは何かを察した。

「ユウちゃん達に何かあったの?!」

察しのいいルー姉さんには、正直に話すしかないようだ。


 「何者かに襲われて、ヴィーがさらわれました。バイクを転倒させられて、ユウ様は頭を少し打っていますが無事です。これからユウ様、公太子様達とヴィーを取り返しに行きます。」

「そんなことが‥‥、でもリリィちゃんまで行くことないでしょ? 危ないんでしょう?」

心配顔のルー姉さんに改めて言われて、ヴォルフは直ぐに言葉が出なかった。


 「大丈夫です。みんなで無事に帰ってきます。」

静かに答えるリリィの顔を見たルー姉さんは、息をのんだ。

(静かだけど燃えるような決意の瞳‥‥。この瞳は、どこかで見た覚えがあるような‥‥!

思い出した。教会の大壁画の‥‥ヴァルキリア(戦乙女)だ。)


 教会には、「天魔大戦」の伝説を描いた大壁画がある。天界と魔界の戦いが長引く中、戦いに志願した天界の乙女が、戦場に降り立つとヴァルキリア(戦乙女)に変化した、という物語が壁画に描かれている。

そのヴァルキリアを思わせるリリィの表情に、ルー姉さんも何も言えなくなってしまったのだ。


 ルー姉さんは、リリィに駆け寄ると強く抱きしめて、

「みんな、無事に帰って来てね」と、言って少し笑顔を見せてくれた。


 キュ‥ドドド‥

サイドカーに荷物を積み込んだヴォルフのバイクのエンジンがかかると、

「行ってきます。」

リリィは、微笑んで後部座席に乗り込んだ。


   ◇     


 ロメル殿下と執事のバートさんは、衛士隊の精鋭「近衛隊」の中から、十人の側近に準備をさせていた。彼らは先行部隊として、既に荷物をまとめているようで、これなら直ぐに出発できそうだ。

王都へは、馬車で二日程度の行程だそうだ。

敵のアジトの目星も付いているのなら先制攻撃もかけられるだろう。何より敵の手に渡っているヴィーを一刻も早く取り返したい。

ヴォルフとリリィが合流したら、直ぐに出発するようにしたい。


 なお、これから敵地で戦うことになるが、僕は、敵に対していくつものアドバンテージがあると思っている。現世の知識と科学力をフルに使った情報収集能力、攻撃力、そしてスピードだ。



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