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~異世界でも彼女が出来そうです➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

         ◇     ◇


 ファーレン公爵の城・会議堂では、月に一度の領内定例会議が行われていた。領内各地の郡代役の貴族、役人達を集めての会議だ。各郡代からの定期報告が行われていたが、

「失礼します。」

 報告を受けていたアヴェーラ公爵のもとへ執事のバートさんが歩み寄り、何か耳打ちをした。

「なにぃ‥‥」

 公爵は、キッとバートさんを睨むと立ち上がり、集まった幹部たちに向かって、

「火急の用事が出来た。後は公太子ロメルに任せる。」

 言い放つと席を立ち退出する姿に、会議堂にはどよめきが広がった。

「何があったのだ?」

「王宮から、何か火急の話が来たのか?」

 どよめく会議室を後にしたアヴェーラ公爵は、バートさんを伴い、そのまま急ぎ足で城を出ると後宮へとやって来た。


 後宮の客室では、目を腫らしたヴィーが一人で、うつむいて座っていた。

 客室の扉を開けたアヴェーラ公爵は、ヴィーを見つけて駆け寄ると、声のトーンを上げながらヴィーの手を取った。

「ヴィー、どうしたというのだ。何があったのだ。私に話してみよ。」

「アヴェーラさまぁ‥」

 ヴィーの釣り目がちの大きな瞳が、涙で潤んでいる。自分を見上げて声を詰まらせるヴィーを思わず抱きしめると、ニヤけてしまいそうなるのを(いかん、いかん。)とぐっとこらえる。

「あたしは、ご主人様のそばにいては、いけないのです。」

「うん?‥‥なにを言っておるのだ? 少し落ち着いて話してみよ。」

(ニヤけていては、いかん様だな‥。)

 アヴェーラ公爵は、ヴィーの頬に手をやり、涙を拭いながら隣の椅子に腰かけると、お茶を勧めた。



 「ユウは、その奴隷解放の儀式が済んだ後で、何も言わなかったのか?」

 公爵が尋ねた。ヴィーはお茶を飲んで少し落ち着きを取り戻したようだ。

「「これからは、新しい関係だから。」とおっしゃいました。「ヴィーは、自由になったんだからね。」とも。でもあたしは、ご主人様のそばにいたいです。そばにいられれば、もう‥‥何も‥‥」

 声を詰まらせ、再び涙を流すヴィーの肩を抱きながら、アヴェーラ公爵は、

「ユウも言葉が足らんヤツだが、‥‥お前も短慮よの。」

「えっ‥‥?」

「あいつに、この国の‥‥いや、この世界の常識は通用しないぞ。あいつはきっとお前を‥‥いや、これは、私が言うことではない‥‥。待っておるしかないのだが‥‥。」


 この様子を見て、少し離れて待機していたバートさんが、歩み寄ってきた。

「ユウ様に、ヴィーさんがこちらに来ていることを、お知らせしておきますか?」

 アヴェーラ公爵に確認しつつ、ヴィーにも優しく微笑みながら尋ねた。


 かぶりを振るヴィーの顔を見た後で、アヴェーラ公爵は、

「そうだな‥‥いや、明日でよい。少しあいつにも心配させておけ。」

 アヴェーラ公爵は、バートさんに命じてから、ヴィーの頬に手をやり、優しく見つめて、

「せっかくだから、ゆっくりしていけ。ミリアも喜ぶぞ。メイド達もな。」


 そしてドアの方に向かって、

「おい、お前たち。そろそろ入ってきても良いぞ!」

 するとドアの外で聞き耳を立てていたミリア姫とメイドたちが、ぞろぞろ入ってきた。

「ばれていたのですね。」

「ヴィーちゃん。どうしたのー?」

 メリア姫とメイドたちがヴィーに駆け寄った。

 ミリア姫やメイドたちに囲まれて、少し笑顔になったヴィーの顔を見ながら、

(公爵様のご命令に背いてしまいますが、ユウ様には直ぐにお知らせしておきましょう。)

 思案して、一人うなずくバートさんだった。


         ◇     ◇


 「あれ、ヴィーは?」

 直売所にやって来た僕は、手伝いをしているはずのヴィーがいないことに気が付いて、ルー姉さんたちに尋ねた。

「あのね、ユウちゃん。ヴィーちゃんのことなんだけど‥‥」

 ルー姉さんが何か言いにくそうにしている。

 いつもハキハキしているルー姉さんらしくないな、と思っていると、後ろで、うつむいていた2人の女性がおずおずと前に出て来た。

「あの‥‥私達のせいなんです。」

「ごめんなさい。」

 何度も頭を下げながら謝ってきた。

「‥‥話を聞かせてもらえますか。」

 ヴィーと、何かトラブルがあったのだろうか。僕は話を聞くことにした。


          ◇


 キュ‥ドドド‥

 僕はバイクのエンジンをかけてゴーグルを付けると、小さくため息をついた。

「なんでそうなっちゃうんだよ。」

 ヴィーとリリィの奴隷解放は、前々からやろうと思っていたことだが、その方法が解らなくて、遅くなってしまったのだ。

 方法を知ることができたのは、教会の大司教様とお付き合いが始まってからだった。


 奴隷制度が国で認められている以上、国が認める救済措置もある。

 奴隷契約を結ぶとき、奴隷は「隷属の呪縛」によって拘束される。この呪縛によって主人に強く反抗したり危害を加えようとすると、体が動かなくなると同時に激しい頭痛に襲われるのだそうだ。

 ちなみに、うちの2人がそんな目に合うようなことは無いので、呪縛の効果は確認出来ていない。


 そんな奴隷契約の救済措置として「奴隷解放」担うのが教会の役目にもなっている。

 奴隷の主人が教会に一定額を寄進する、または、主人を亡くした奴隷の場合は、後見人の寄進によって教会は奴隷解放の儀式を行い、奴隷は隷属の呪縛から解放される。

 教会の司教や祭司のうち、高位にある者は「神聖術」を使えるそうで、この神聖術によって、ほとんどの呪縛が解放できるそうだ。


 「えっ、あの二人は奴隷だったの? そんなふうには見えないけどね。」

「契約上は、そうなっていまして。解放してあげたいんですけど方法が分からなくて‥‥」

 僕と大司教様のそんな会話がきっかけで分かったことだ。


 (それが、なんでこうなっちゃうんだよ。)

 僕は、バイクを走らせながら考えた。

 ヴィーとリリィの二人と、暮らし始めた頃のことを思い出す。

(「夜伽とか‥‥してませんし‥‥」)

 2人に気を使わせたことがあったが、僕も男だ。あんなにカワイイ女の子たちと一緒にいて、そういう気にならないわけがない。

 しかし、

 奴隷の身分で、自分に逆らえない女の子を、思い通りにするなんて出来ない。ちゃんと解放してから、ヴィーには、僕の気持ちを伝えたいと思っていたんだ。


 ウルド領内を一回りしたが、ヴィーは見つからない。

(ひょっとして‥‥でも、もしそうだったら嫌だなぁ‥‥)と思いながら、遠くに見えるファーレの城の 尖塔を見ていた時だった。

「ユウ様!? ユウ様ですか?」

 こちらへ向かって駆けてくる馬上の人から声をかけられた。声の主は、公爵家執事のバートさんだった。



 「そうですか‥‥、やっぱり後宮ですか‥‥」

「余計なことを、してしまいましたかな?」

 川沿いの河畔林にバイクを止めて、僕らは堤防の上に立っていた。

「いや、ありがとうございます。後宮にいるなら安心です。」

 僕はバートさんに頭を下げた。


 「立ち入ったことを伺って申し訳ないのですが、ユウ様は、ヴィーさんのことを、どうなさるおつもりですか?」

「えっ、迎えに行きますよ。」

 当然のように答える僕に、バートさんは、少し考え込んだ後で、

「申し訳ありませんが、少しご面倒をおかけするかもしれませんね。」

「えっ?」

「公爵様は、ヴィーさんのことを、大変お気に入りのご様子です。」

「はい。それは存じておりますが‥‥」

「ユウ様の態度によっては、公爵様は、「暫くうち(後宮)でヴィーを預かる。」などとおっしゃるかもしれません。」

「ええーっ! なんで?」 


 バートさんは、困り顔で頭を抱える僕を見ながら、

(私の役目は、ここまでで良いですよね。後はお任せします。)

 何か企むような顔で、川の向こうに見える城の尖塔を見つめていた。


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