~代官になったので、盗賊と戦ってみた④~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇ ◇
「隣に何かできるみたいだけど、ユウちゃん今度は、何を始めるのかしら?」
ウルド領直売所の庭を掃除するルー姉さんは、けげんそうな顔で隣に建築中の建物を見上げた。
農産物直売所は、ルー姉さんの参加で加工品の種類も豊富となり販売も好調だ。
そこで僕は、前々からやりたいと思っていた「第三次産業」に着手することにした。直売所に隣接して温泉宿を建設中だ。領内で温泉の湧出が確認されたのだ。
領内の数少ない資源として岩塩がある。塩は王国では「専売品」であるため販売が難しかったが、加工品に使う分には税の対象とならない。このため加工品の生産と合わせて、これまでよりも岩塩の生産を増やそうとして、岩塩の採掘場を再調査したのだ。
「瘴気が出て危ない」として閉鎖されていた坑道を確認したところ、ガスとともに温泉の湧出が確認できたのだ。ちなみに「瘴気」として領民に恐れられていたのは、亜硫酸ガスのようだ。換気には気を付けなければいけない。
「ヴォルフ、温泉の排管工事は、どのくらい進んでる?」
「はい、ユウ様。もう八割がた終わっています。」
「じゃあ、そろそろ公衆浴場と「宿」の方を急がなきゃな。」
「はい、そちらも順調です。」
温泉宿は、第三次産業として領内の産業の一つになるが、温泉の活用としてはもう一つ。領民の福利厚生施設として、公衆浴場も建設中だ。
この世界では、風呂は贅沢な生活習慣だ。大量の水と大量のマキを使う。湯を沸かす手間も大変だ。よって普通は貴族の生活習慣となるところだが、天然温泉が出れば話は別だ。僕が現世日本からFRPの配管資材を持ってきてパイプラインを作れば良いだけだ。
公衆浴場は、労働者の疲労回復や女性のおしゃべりの場にもなるはずだ。
◇ ◇
「ユウ様、本日は、お願いがってまいりました。」
公爵家執事のバートさんが、妙にかしこまっている感じだ。こういう時は、何かある時だ。
「なんですか、改まって。」
「まことに申し上げにくいのですが‥‥実は公爵様が、「ユウは、いつになったら私を招待するつもりなのか、探って来い。」と仰せで‥‥。」
「ええっ?」
僕は、口には出さないようにしたが、たぶん顔に出てしまっているだろう。
(面倒くさい案件が来た!)
そのことが。
ミリア姫がお忍びで遊びに来た直売所は、ファーレの街でも有名になっていた。しかし、公爵は僕に招待される形で来たいらしいのだ。
公爵にどのようにお返事をするかは、バートさんとも相談したが、「公爵様をお迎えできる施設がようやく完成するので、そのお披露目としてご招待したい意向だ。」ということにした。
まったく面倒くさい。
温泉宿のこけら落としは、もっと気軽にやりたかったのだが、そういう訳にもいかなくなってしまった。
しかし、そのことを公爵にお知らせすると追加注文がついた。
「ユウの故郷の料理を食べさせろ。」とのこと。
恐縮するバートさんに「宿代は、しっかり頂きますよ。」というのが、精一杯の抵抗だった。