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~代官になったので、盗賊と戦ってみた③~

        ◇ 


 授与式の後、僕らは後宮の客室に呼ばれていた。 ミリア姫がお礼が言いたいから、という趣旨のはずだったのだが‥‥。


 「悪者はね、10人いや、15人はいたかしら。アジトに連れていかれたら、どんなひどい目にあわされるかと思うと、私はもう死ぬ覚悟を決めたの。そこに2人が鉄の馬で駆け付けてくれたの。「姫を返せ―っ!」ってね。」

 キャー!


 並べた椅子の上に立って意気揚々と活劇を語るミリア姫を囲んで、メイドたちが歓声を上げている。その輪の中に、リリィとヴィーも入っている。同年代の娘たちとはしゃぐ機会なんて、2人には、そうそうないことだ。2人が楽しんでいるなら、好きにさせておこう。


 僕とヴォルフは中庭で「いい天気だねー」などといいながら、寝転んでくつろいでいた。流れる雲を見ながら、少しうとうととし始めた頃、

「申し訳ありません。ヤマダユウ様。ちょっと来ていただけませんか。」

 困り顔のメイドが、僕を呼びに来た。

「姫様が止まらなくて‥‥」

 ミリア姫の居室にリリィとヴィーが「連れ込まれて」悲鳴が聞こえてくる、というのだ。


 「姫様、開けますよ。」

「キャー! ダメです!」

 姫の居室の扉を開けるときに聞こえてきたのは、リリィの悲鳴だった。


 「見せて! もっと良く見せて。」

「キャー! お許しくださーい!」

 部屋の中では、リリィとヴィーが、ブラジャーとショーツだけの姿にさせられており、リリィは、ミリア姫によって、ブラジャーを今にもはぎ取られそうになっている。


 「姫様! 何をしているんですか!」

 僕が大声をあげるとミリア姫は、「おっ来たわね。」と言うなり、悪びれもなく駆け寄って来た。

「すごいわ! 2人の下着。キレイで可愛くて、ちょっと大胆でエッチだけど、そこもステキ。あなたこれ、どこで手に入れたの?!」

 目をキラキラさせて、僕に迫ってくる。

「‥‥いや、今日の二人の衣装は、体の線がきれいに出た方がいいから‥‥」

 僕が答えると大きくうなずいて、

「そうなのよ! そこも大事! あたしの下着なんかこれよ!」

 いきなりスカートをガバッとめくって、自分の下着を見せる。ドロワーズとかいうタイプのいわゆるカボチャパンツだ。

「姫様っ!」

 慌てて駆け寄ったメイドが、スカートを押さえる。

「ほしーい! あたしもこんな下着が欲しーい! きっと年頃の娘は、みんなそう思うわ。」


 話を聞いてみると、リリィとヴィーの着ているドレスが素敵だということで、よく見せてほしいという話になり、姫様の部屋に連れ込まれた。

「もっとよく見せて」ということで、ドレスを脱がされたところ、今度はキレイな下着に目を付けられ、こんなことになってしまったようだ。

 ちなみに今日の2人の下着は、僕が現世日本で恥ずかしい思いをして買ってきたもので、淡いパステルカラーのブラジャーとショーツで、レースが多用してある。


 「ねえ。相談があるんだけど。」

「ええ‥、なんか悪い予感しか、しないんですけど‥‥」

 この姫にキラキラした目で迫られると、嫌な予感しかしない。そして、その予感は当たったようだ。


 「わたしね、母上様に「社交界の付き合いを大事にしなさい」って、言われているんだけど、気取った場が苦手で苦手で‥‥。でも公爵の娘となれば、社交界でも一目置かれる存在にならないといけないのよ。そこで相談なの!」

 (でも、公爵家の姫様なのに、メイド達と「女子高か!」というようなノリで騒いでいるこの姫様なら、色々言われているだろうなぁ。)

「貴族の娘たちは、きっとみんなこのステキな下着を欲しがるわ! でもこれは、私を通さないと手に入らないの! そして私は、社交界の中で同年代の娘たちに、幅を利かせることが出来るの! ねえ、いい考えだと思わない?」

「ええー‥‥」

「ねえ、お願いっ!」

 ミリア姫は、目をキラキラさせながら僕に迫ってくる。

 今度は女性下着の買い付けか‥‥気が重い。


          ◇       


 「相談があるから来てくれ。」とアヴェーラ公爵から呼ばれて後宮の公爵の私室に向かった。

 アヴェーラ公爵が相談をするために、僕を後宮の私室に呼んだことを、ミリア姫はすごく驚いていた。政務ならば城の会議室や応接室に呼ばれるのが普通であり、ごく限られた近しい者しか後宮の私室に呼ぶことはないからだ。


 「ユウ。これはまだ、ロメルにしか相談していない事だから、内密にしてもらいたいのだか‥‥」

 人払いされた部屋で、僕がうなずくと公爵は続けた。

「ウルド領をファーレン公領に組み入れたいと考えている。お前、私の家臣にならないか?」

「えっ?」

「どうだ?」

 驚く僕にかまわず、グイグイ聞いてくる公爵に、僕は努めて冷静に、考えながら答えた。

「その方が‥‥ウルド領の経済も安定するでしょうから、僕の立場では、いいことだと思いますが、国王直轄領の組み入れなんて出来るんですか?」

「お前の気持ちが聞ければ、方法は後から考えればいいことだ。基本的に領地の交換ということになるだろう。」


 話を聞いてみると、等価交換であれば、領地の交換は難しくない様だ。現世日本の行政境でも同じような話はある。川を挟んだ飛び地があるような場合は、交換してしまったほうが行政としても管理が容易となり、そんな例はある。

 また、ウルド領の農業の成功は、少なからずファーレン領の農業に影響を与えてしまったようだ。早い話が、ファーレン公領の農産物の売れ行きが悪くなっている、というのだ。

 公爵領では、農地を手放して転職したいという農民が出ているようだが、逆に隣接する領地からは「そんなことなら領民ごと農地を引き取りたい」という話がある様なのだ。


 「しかしな、必要なのは外向けの大義だ。ウルド領を取り込む大義を整えることが大切なのだ。」

「大儀ですか‥‥あ、でも僕が今日相談しようと思っていたことが、役立つかもしれません。」

「何、お前の相談というのは、この話に関係するのか?」

「公爵様や王宮が、どうとらえていただけるかは、分かりませんが‥‥」

「良い、話してみよ。‥‥いや待て、お前の考えが聞けるのならば、ロメルも呼んだほうが良いな。」


 ロメル殿下と執事のバートさんが加わったところで、僕は今後の洪水対策の在り方と、ウルド領とファーレン領の協力についての考えを説明した。


 「現在、堤防の決壊箇所は「仮復旧」の状態になっていますが、今後の「本復旧」に向けて提案したいことがあります。「越流堤防」の建設、そしてウルド領に本格的な遊水地を造ることです。」

「エツリュウ‥堤防? なんだそれは?」アヴェーラ公爵が首をかしげる。

「はい、堤防を本格的に復旧させる時に、ウルド側の堤防の一部を少し低くしておくのです。

そうしておくことで、今回のような大きな洪水が来た時には、一定以上の水位になるとウルド領側に洪水が流れ込んで、川の水位がそれ上がることを防ぎます。あらかじめウルド領を、洪水を溢れさせる「遊水地」と決めておくことで、ファーレの街は安全になります。」


「ユウ、それはありがたい話だが、そのようなことをウルド領側で受け入れられるのか?」

ロメル殿下は心配顔だ。

「ウルド領の農地にも、何年かに一度くらいは、洪水が流れ込んだ方が良い部分もあります。洪水の氾濫には、土地を肥やす働きもありますから。ただし、洪水被害があった時には、間違いなくファーレン公領からの支援を約束していただかねばなりません。出来れば洪水の後片付け等も含めて。」

「それは、もちろんだ。」ロメル殿下の返事にアヴェーラ公爵も大きく頷く。


 「ウルド領が、ファーレの街を守る遊水地となった時には、この協力関係・約束事は、絶対に果たされねばなりません。将来に渡ってです。しかし、領主・代官が代替わりすれば、約束が果たされないかもしれません。このことがウルドをファーレン領に組入れなくてはならない理由になりませんか? 」

「なるほど。別々の領地では、将来に渡って約束を違えない保証はないから‥‥。良いかもしれんな。」

アヴェーラ公爵は、頷きながら納得している様子だ。


 「ところで、もう一つの話だ。私に仕える気はあるか?」

「はい、僕で良ければ。‥‥でも、ウルド領の代官をしばらく続けたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「暫くは、ウルドの代官を兼任しながら、私に仕えてもらうことになろう。」

「それなら大丈夫そうですね。」

「そうとなったら、早いうちに王宮に「根回し」しておかねばならんな。今の王宮には、油断のならん、怪しい奴がいるからな。」

「母上、そのようなことをユウに‥‥」

 アヴェーラ公爵は、ロメル殿下がたしなめるのも気にもせずに続けた。

「ユウ、宰相のグラベル伯爵には気をつけろ。怪しい手勢を囲っていて、本人も怪しい奴だ。

何よりお前の持っている力‥‥「異なる世界を渡る力」は、絶対にヤツに悟られてはならん。 絶対にだ!」

 

          ◇       ◇


 王国の都ガーラの中心、巨大な王宮には、東西南北に門があるが、北の門で、門番の衛士が馬車を止めた。

 馬車の操者が面倒くさそうに通行手形を呈示する。手形には、宰相・グラベル伯爵の紋章が入っていた。

「失礼しました! 宰相様のお客様とは知らず。」

 衛士達が敬礼して道を開けると、馬車は走り出した。通り過ぎる馬車の中に人影が見えた。

 馬車を見送りながら、敬礼を解いた衛士か、

「おい、馬車の中の人、見えたか?」

「いや、なんか黒いフードを被っていて良く見えなかったけど‥‥」

「俺、ちらっと見えたんだけど‥‥なんか、顔に‥‥蛇が見えたんだよな。」

「えっ、なんだよそれ、 見間違いじゃないのか?」

「そうだよな‥‥ごめんな、気味の悪いこと言って。」


 城壁の中を走る馬車の中、フードをすっぽり被った男の頬には、いくつもの蛇の刺青があった。


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