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~代官になったので、盗賊と戦ってみた➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

        ◇      ◇


 既に日が落ちて、代官所に集まっていた人たちも帰った。

 僕は、宿泊棟の自分の部屋で寝ていた。矢を受けた傷のせいか、それとも盗賊団とはいえ、初めて人を撃ち殺してしまったショックからなのか、熱を出してしまったのだ。


 「どう? 熱は下がった?」

「まだ、少し高いです。」

 水とおしぼりを交換に来たルー姉さんに、心配顔でヴィーが答える。

「腕の傷は化膿するような心配は無さそうだし、ヴィーちゃんも、あんまり心配しすぎないでね。」

「はい‥‥でも‥‥」

 ヴィーは、心配顔でユウの寝顔を見ている。 



 僕は、夢を見ていた。

 夢の中で昼間の盗賊団と戦っている。なぜか相手は、いくら撃っても生き返ってくるゾンビ軍団になっていた。お約束だが、ゾンビに噛まれるとゾンビ化してしまうので、僕は、必死で逃げながら拳銃を撃っている。

 ガチッ、ガチッ、

 ヤバい、弾切れだ。ちくしょう、追いつかれる。しかし、こういう時に限って足がもつれて前に進まない。

 奴らの手が伸びてきて、「捕まる!」と思った時だった。


 「ご主人様、逃げるです。」

 何処からかヴィーが現れて、手を引いてくれた。すると、すごいスピードで走ることが出来た。

 あっという間にゾンビの奴らは見えなくなってしまった。



 「あら、なーに、手を握ってあげてるの?」と、部屋に入ってきたルー姉さんが、おしぼりをヴィーに手渡す。

「うなされて、手を伸ばしてきたです。でも手を繋いだら安心したみたいです。」

 ユウの顔が穏やかになっているのを見て、ルー姉さんは「良かったわねー。」とニマニマしながら出ていく。


 ルー姉さんは部屋の外で心配顔のリリィに「もう大丈夫みたいよ。」と声をかけた。2人も今日は休むことにしたようだ。



        ◇       ◇


 「ユウ様、お怪我は大丈夫ですか。」

「ええ。腕は、しばらく吊っておくけど、大丈夫ですよ。」

 公爵家執事のバートさんが、代官所を訪ねてきたのだが、今回はいつもに増してかしこまっている。いつもダンディな雰囲気を醸し出しているバートさんだが、今日は、いつもよりキリッとしている。

「ねぇ、時々来るあのおじさん。いつもに増してカッコイイね。」と、ルー姉さんが騒ぐほどだ。


 「公爵様は、ユウ様に騎士(ナイト)の称号を授与したいご意向です。今回はぜひとも!」


 実は、前回の洪水対応でもそのような話があったのだが、辞退させてもらっていた。

 領民たちの畑を犠牲にするだけかもしれない「賭け」のようなことをやったのだ。その結果、うまくいったからといって騎士の称号を貰うことには違和感があったのだ。


 しかし、今回のお話しは、受けようと思っている。

 僕は、話を受けるにあたって公爵に一つお願いをすることにして、それをバートさんに託した。

 返事は、すぐに返ってきた。「了解した。」とのこと。

 その代わりに公爵の方から条件が付いてきた。「ユウが元いた世界の恰好をして来い。特ヴィーとリリィに可愛い格好をさせて来い。」とのこと。 僕はちょっと憤慨してしまった。

 (主役は、僕じゃないのかよ。)

 そのことに。


           ◇      ◇


 満月を待って、僕は現世日本に向かった。今回の一番の目的は、公爵に要求された衣装探し。

 僕とヴォルフの分は直ぐ決まったが、リリィとヴィーの分は、なかなか決まらなかった。男の僕には、買いにくい物もあったし‥‥。

 そして、村の開発も新たな段階に入っているので、そのための資材も買っていかなければ‥‥。


           ◇


 「ええっ、何ですかこれ? キレイな布地ですけど‥‥」

「ご主人様。これ、あたしたちが着る‥‥付ける? ですか?」

「いや、これは、その‥‥公爵様の要望に応えるためにね‥‥」

 帰ってきてから、しどろもどろになりながら二人に説明するのも大変だった。



           ◇     ◇


 「ユウ様、こんな感じでしょうか?」

「うーん‥‥」

「何処か着方、間違ってますか?」

「間違ってないんだけど、ヴォルフがスーツ着ると‥‥デカいホストみたいになっちゃうんだよなー。」

「「ほすと」 って何ですか?」

「いや‥‥まあいいや。」

「えーっ、何ですか?」


 今日、僕らは、公爵の居城へ招待されているため、宿泊棟の僕の部屋でヴォルフと支度をしている。

 公爵家の姫君であるミリア姫様が盗賊団にさらわれたのを救い出し、その功績に対して「騎士(ナイト)」の称号を頂けるというのだ。

「でも、ホントに、俺も行っていいんですか?」

「おう。「ヴォルフにもなんかちょうだい」って言っておいたから、何かくれると思うよ。」

「えーっ! いいですよ俺なんかに。そもそも亜人の俺が、お城に行くこと自体、大丈夫なのかと思いますよ。」

「大丈夫だよ。アブェーラ様は、亜人に対して偏見は無いみたいだし、メイドとかに亜人もいたよ。」

 公爵の居城では、多くの使用人が働いているが、確かに猫耳メイドとか獣人系の亜人も働いていた。

「仕事が出来れば良し。」という主義らしい。

 なお、公爵の側仕えについては、「可愛ければ、なお良し。」ということらしい。


 そろそろリリィとヴィーも、支度ができたかな。



          ◇      ◇


 「ウルド領代官・ヤマダユウ様、ご入場です。」

 公爵の居城、謁見の間で、僕の名前が声高らかに呼ばれると同時に扉が開かれ、一斉に衛士隊がラッパを鳴らす。

「おおーっ。」

「あれが、ファーレを洪水から救った英雄か?」

「今度は、15人の盗賊団からミリア姫様を救ったそうじゃないか。」

(なにか話が大きくなってるなぁ)と思いながら、ざわめきの中を衛士に先導されて僕が入っていく。

「おお、後ろが噂の供の者か?」、

 僕に続いて、供の3人が入っていくと、騒めきがさらに大きくなった。僕に続いてヴォルフ、そしてリリィとヴィーが入室する。

「「美しい2人の娘と、背の高い狼の亜人を連れている。」 噂の通りだな。」


 僕とヴォルフは、現世日本で買ったスーツ着ていた。ヴォルフは、なんとなくホストっぽいのは否めないが、元々イケメンだし背も高いので、カッコはついている。

 リリィとヴィーにはチャイナドレスを着せてみた。リリィは、濃い目の青地に鮮やかな花の刺繍がたくさん付いているドレスだ。スカート部のスリットは、本当は太腿のもっと上の方まであるのだが、リリィが恥ずかしがったので、少し下で止めてある。白い肌と黒髪にドレスがとても映えている。

 ヴィーは、小麦色の肌との相性を考えて、薄い黄色とも金色ともいえるような色の生地を選んだ。こちらは花と蝶の刺繍だ。

 2人ともドレスと同色の扇子も持たせた。


 「「異国の賢者」という二つ名だったが、見たこともない装いをしてくるものだな。」

「見て! 異国のドレスは、キレイで可愛らしくて、素敵。」

「亜人の彼も、「優男」って感じで、結構いい男じゃない。」

 今日は、領内の有力者が集まっているらしいが、貴族が多いようだ。貴族の奥様やご令嬢が騒いでいる。

 進みながら奥を見ると、公爵に近い「上座」に大司教様がいた。目が合ったので軽く会釈すると微笑んで会釈を返してくれた。


 奥まで歩いていくと、正面の玉座からアヴェーラ公爵が階段を降りてくる。下にはすでにロメル殿下とミリア姫が両脇になる様に立っており、中央に立った公爵が僕に向かって微笑む。

「ユウ。よく来てくれた。」

「はい、公爵様。この度は、ありがとうございます。」

 僕が、公爵の正面に立つとラッパが止んだ。


 静まり返った謁見の間に、アヴェーラ公爵の良く通る声が響く。

「ウルド領代官・ヤマダユウの、此度の勇敢なる働きによって、わが娘ミリアは無事に救われた。また、先の洪水からファーレの街を救ったことにも、この場で改めて礼を言わせてもらう。

ヤマダユウに、我、アヴェーラ・ファーレン公爵の名において、騎士ナイトの称号を与えるものとする。」


 公爵の宣言を受けて、僕は片膝をつき、胸に手を当てる騎士の敬礼で敬意を表する。

 僕の前に、公爵が歩み寄り、介添えのミリア姫に持たせてあった短剣を僕に手渡してくれる。それを僕は、両手でうやうやしく受け取る。

 その瞬間、衛士隊が吹き鳴らすラッパを合図に大きな拍手が起こった。

 おおーっ!

 いいぞーっ!

(神聖な儀式だと思ったら、割とくだけているんだなー。)僕が思っていると、


 「続いて、ヤマダユウの従者・ヴォルフ!」

「はひっ!」

 ヴォルフは、大きな声で返事をしたが、声が少し裏返っている。実は、ヴォルフに沙汰があったのは、城に着いてからだった。「ヴォルフにも何か授与して欲しい」とお願いしてあったのだが、こんなにきちんとした形で応えてくれるとは思わなかった。


 「ヴォルフ。此度の勇敢なる働きに感謝する。先の洪水の時も同様だ。これからも、いついかなる時も主を助け、今後も励むがよい。騎士補の称号を与える。」

 ヴォルフには、ミリア姫から短剣が手渡された。


 騎士補というのは、騎士になるには経験が足りないが、その資質が十分にあるものに与えられる称号で、1年後には正式に騎士になるそうだ。

 後ろに控えるリリィが、口元に手を当てて嗚咽をこらえている。ヴィーがその肩を抱いて支えていた。

 騎士の家を取り潰されて奴隷に身を落としたリリィにとって、家人であったヴォルフが騎士の身分を再び得ることには、ひとかたならぬ思いがあることだろう。

 今回のミリア姫救出は、「ヴォルフの働きがあってこそだった。」という僕の進言を、公爵家がきちんと聞き入れてくれたのだ。


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