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~代官になったので盗賊と戦ってみた~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

       ◇


 ドドドド‥

 2台のバイクが、街道を走っていく。


 「こっちです!」

 前を走るヴォルフが手で進行方向を示しながら叫ぶ。

 盗賊団のアジトは、詳しい場所は特定できていないが、概ねの場所の目星は付いている。なので、馬車と複数の馬が走った形跡を追っていけば良い、というのだ。

 ヴォルフは「馬車と馬の走った跡が残っている」というのだが、僕が見ても全然わからない。ひょっとしたら狼の亜人であるヴォルフには、追走本能みたいなものがあるのかも知れない。

 

 「ユウ様! 見えてきました。あれでしょう!」

 ウルド領を出てファーレの街も離れた草原の中の一本道で、ヴォルフが指さす先に土ぼこりが見えてきた。馬車と、馬にのったヤツが五人(五騎)くらいだろうか?

 馬車に何人か乗っているとして、約十人の盗賊を相手にしなければならないのか? 緊張が走る。


 「馬のヤツから倒してきましょう。」言うや否やヴォルフがバイクのスピードを上げる。

 ドドドド‥


 すると前を走る相手も僕達の接近に気づいたらしく、馬を方向転換させている。それを見たヴォルフは、今度はバイクのスピードを緩めると、バイクにまたがったまま拳銃を構えた。銃身の長いリボルバー・パイソンだ。


 バン!

 初弾で仕留めた様だ。相手は馬から転げ落ちた。

「ヴォルフ! 残弾に注意な! あと五発だからな!」

「はい!」

 僕は、リボルバーの装弾数をヴォルフに確認した。

 相手が死んだかもしれないのに、何かゲームのように現実味がないのだが‥‥。


 ピュッ!

 相手が放った矢が、すぐ脇をかすめた。

 危ない危ない。これは戦いだ。相手は凶悪な盗賊なのだ。倒さなければ、こっちがやられる。それに次はヴィーやリリィが狙われるかもしれない。

 僕は、バイクを止めて両手で銃を構える。(ヴォルフのように運転しながらなんて無理だ。)


 パン、パン、パン、

 何発目が当たったのか分からないが、馬から落ちたので当たったのだろう。 僕も残弾を確認しよう。僕のオート拳銃・グロックの弾倉には残り12発残っている。


 「この野郎! 俺たちを「トバルの蛇」と分かって来てんのかぁ!!」

 牛刀のような大刀を抜いて、突っ込んでくる相手に、

 パン、パン、パン、

 3発使ったが仕留めた。


 「副長! 追って来た奴ら、なんだか危ねぇ魔法使いやすぜ!」

「なんだと!」

 馬上の男の声に、馬車の幌を開けて男が顔を出した。男の頬には、遠目から見ても分かるくらいの大きな傷がある。こいつが盗賊団の副長だろう。

 この世界には、拳銃なんて物は無いはずだ。こいつらに、僕らの武器のことを悟られないうちに勝負をつけなければ。


 バン、バン!

 ヴォルフが、馬に乗った最後の1人を倒したようだ。後は、馬車の中の敵だけだ。何人残っているのだろうか?


 すぐ目の前で馬車が止まった。草原の中の一本道で、遮蔽物がない状況だ。どちらの方が優位だろうか? ヴォルフは、この間にリボルバーに弾を装填している。僕より落ち着いているようで心強い。

 僕は「ふうっ」と、深呼吸してから、

「出てこい! 僕たちは見てのとおり魔法を使う! お前たちはもう終わりだ。おとなしく姫を返せ!」

 すると馬車の中からゆっくり出てくる様だ。 一瞬ほっとしたのだが、直ぐにヤバいシチュエーションであることが分かった。テレビドラマとかでよくあるやつだ。


 「おらぁ! てめえら、お姫様がどうなってもいいのか!」

 姫を盾にして副長の男が出てきた。ナイフを首に突き付けている。

「いやぁ‥‥助けて‥」

 涙ぐんで声を上げる娘が姫様なのだろう。アヴェーラ公爵と同じ黒髪の少女は、ちょうどリリィやヴィーと同じ16、7歳ぐらいだろうか? アヴェーラ様をそのまま、少女にしたような容姿だった。


 「てめーら、その魔法道具を捨てろ! お姫様が、どうなってもいいのかよぉ!」

姫の首にナイフの刃が当てられた。

「ひぃぃ‥いやぁ‥‥」

 姫様の嗚咽が漏れる。


 「ちくしょう‥‥ユウ様、どうしましょう。」

「ヴォルフ。僕が合図したら、手に持った銃は捨ててくれ。僕も手に持った銃は捨てる。」

「何ごちゃごちゃ言ってやがる! 女殺すぞ!」副長の男が怒鳴り声を上げた。

「ヴォルフ、捨てろ。」

「はい‥‥」

 僕らは、同時に手に持った銃を、盗賊たちに分かりやすいように脇に放り投げた。


 「へっへっへ」

 下卑たわらいを浮かべながら、馬車の中から残りの盗賊も出て来た。大刀を持った男と弓矢を構えた男が1人ずつ。

「てめえら何もんだ?」傷の男、副長が尋ねてきた。

「ウルド領の代官をしている者だ。」

「あぁ、ファーレを救った英雄様かよ。 てめえもここまでだ! やっちまえ!!」


 ビシュッ!

 弓を構えた男がいきなり僕に矢を放ってきたが、僕は突然のことに体が動かなかった。

「ユウさまーっ!」

 ヴォルフが駆け寄るが間に合わない。

 その刹那、

 『ご主人様‥‥』

 ヴィーの声が微かに聞こえたような気がした。


 ヒュゴッ!

 一陣の突風が矢の軌道をわずかに逸らし、矢は僕の左腕にあたった。

「うぐっ!」

「なにしてんだ! 仕留めろよ!一気にやっちまえ!」

 副長は姫を付き飛ばすと、ナイフを手に僕に突進してきた。

「ヴォルフ! 向こうの二人を頼む!」

「はい!」

 僕らは同時に、背中のホルスターに隠してあった予備の拳銃を抜く。

 パン、パン、パン、

 決着は、一瞬でついた。


 「て、てめえら、汚ねえぞ‥‥」

 副長は、自分のことを棚に上げつつ息絶えた。

「女性を盾にするような奴に言われたくないね。いつっ‥‥。」

「ユウ様! 大丈夫ですか?」

 慌てて駆け寄るヴォルフを手で制する。

「まずは、姫様の無事を確認だ。」


 僕らが駆け寄ると、姫様は、ガタガタ震えつつも、

「遅いわよぉ‥‥、もっと早く来てよぉ‥‥。」泣きべそをかきながら文句を言っている。

「文句を言う元気があれば、大丈夫ですね。」

「なによぉ、その言い方、失礼‥‥って、あなた、矢が刺さってるじゃないぃぃ!!」



 ヴォルフが「ちょっと痛いですよ」いうや否や、僕の腕から矢を引き抜いた。

「いだっ‥」

 そして直ぐに、傷口に口を当てて吸った。

「ぺっ‥毒矢じゃないですね。」言いながら手早く傷の上を縛り、止血してくれた。


 「うわーん。ごめんなさーい。あだしのぜいでー。」

「大丈夫ですよ。かすり傷みたいなもんです。」

 男はこういう時には強がりを言うものだ。スゴく痛いけど。

 泣きべそ顔の姫様に、バイクに積んであったヘルメットを被せ、顎紐を止めてあげてからヴォルフのバイクの後ろに乗るように促した。

「じゃあ、帰りましょうか。」

「はい。」

 笑顔で声を掛けると、姫様も笑顔になった。


 僕らは元来た道にバイクを走らせた。


         ◇ 


 ウルドの代官所には、領内外からたくさんの人が集まっていた。

「おおっ。帰って来たぞー!」

「お2人とも無事だぞ!」

「姫様も一緒だぞー!」

 僕らのバイクに気付いて大騒ぎしている。

 僕らが、バイクを止めるとたくさんの人に囲まれた。

「よくぞ、ご無事で。」村長がほっとしたような顔で迎えてくれた。


 「ミリア様!」

 公爵家からは執事のバートさんが駆けつけて来ていた。

「あっ、バート‥‥」

ミリア姫は思わず僕とヴォルフの後ろに隠れた。

「私たちの目を盗んで城を抜け出した結果が、これですか。公太子殿下と公爵様から、しっかりお説教していただきますぞ。」

「うわーん、ごめんなさーい!」

 泣き出す姫様に、バートさんは、羽根布団のように分厚いマントをふわりと掛けると、その上から優しく抱き抱えて、馬車に乗せた。そして僕に深々と頭を下げると、

「申し訳ありません。今日のところは失礼いたします。いずれ日を改めてお礼に参ります。」 

 馬車に乗り込んだ。


 「ふうっ、とりあえず良かった。」僕がため息をつきながら、公爵家の馬車を見送っていると、

「ご主人様ーっ」

 振り向くと、ヴィーが駆け寄ってくる。集まった人たちが気を聞かせて道を開けてくれる。


 「ご主人様っ!」抱きついてくるヴィーを受け止めた瞬間、腕に激痛が走る。

「あつっ、いってーっ!」

「ああーッ、血が?! ごめんなさい、加護効かなかったですか?」

「ヴォルフ!お守りするって言ったじゃないの。」とリリィ、

「そんなぁ、お嬢‥‥」とヴォルフ、

「いいからユウちゃんを連れてきなさい!怪我してるんでしょー!」とルー姉さん。


 初めての戦闘だったけど、何とか無事に帰ってこれた。

 これからもこの世界で、この仲間たちを守っていきたい、と僕は思った。


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