表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/163

~代官になったので領地をプロモーションします⑥~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

     ◇      ◇


  開店から三日目、収穫祭の最終日。

 夕方に「奉納の儀」を行う特設ステージの準備が直売所の隣で進められていた。

 特設ステージは板張りの仮設の舞台で、四方10メートル位の大きさだ。奥に奉納棚として野菜や果物を載せる棚を作った。

「お酒もあった方が、ジン(精霊)は喜ぶです。」

 ヴィーの進言通り、酒も奉納する予定だ。

 この地の豊穣を約束してくれた神様に感謝するのは建前で、メインは地精霊だ。ヴィーによると、「地精霊が多く留まっている土地は豊作が続く」とのことだ。

  

 先程、奉納の儀の主役の一人「舞姫」シリアが到着したのを、ルー姉さんたちが大騒ぎしながら出迎えていた。直売所の客室でスイーツや加工品を食べさせているらしいが、どれも好評の様子で安心した。

 もうすぐ夕方だ。大司教様もそろそろ到着するだろう。「奉納の儀」の準備を始めよう。


         ◇


 「皆さま、お待たせいたしました。これより、「奉納の儀」を始めます。」

 僕のアナウンスで、収穫祭を締めくくる「奉納の儀」が始まった。

 夕暮れせまる特設ステージの前には、ひょっとしたら1000人近くいるのではないか、というくらいの大勢の人が集まっていた。

「奉納の儀」に舞姫シリアが来ることは、表立って宣伝していない。混乱を避けるためだ。しかし、いつの間にか噂が広がってしまったようだ。


 舞台上にはマイクを用意して、アンプ付きスピーカーを舞台両袖にセットした。みんなには「声を大きくする魔法道具」と説明しておいた。


 「みなさん、ウルド領の収穫祭においでいただき、ありがとうございます。

 おかげさまで、我がウルド領は、神様が約束してくれた豊穣を迎えました。

 今日は、大司教様がお見えになっていますので、神様に感謝の祈りをささげていただきます。そして、この地のジン(精霊)に感謝するため、舞姫・シリア様に舞を奉納していただきます。」

 おおーっ!

 いいぞー!

 観衆は、僕の案内に弾かれたように大歓声を上げた。


           

 「では皆さま。一緒に祈りましょう。」

 大祭司様には、最初にお願いして正解だった。敬けんなお祈りは、先に済ませてもらうに限る。

それでも1000人の民衆が一斉に祈りをささげる姿は、信者でない僕でも敬けんな気持ちになる。


 「この後、あたしたちが踊るですよね。」

「私たちでいいのかなぁ、って感じなんですけど‥‥」

 祈りの間、静まり返る大観衆を舞台の袖のテントから覗いて、ヴィーとリリィは首をすくめて恐縮している。2人は〇kB系グループのコスプレ衣装を着ていたが、これは僕が秋葉原で買って来たものだ。

「大丈夫だ。自信を持っていけ! 楽しくやればいいんだ!」

 僕は、無責任に2人を送り出した。


  ♪ ♪ ♪ 

 現世日本の○K○系グループの曲が流れ、聞いたこともない音楽に観衆は戸惑っていたが、ヴィーとリリィが舞台に上がったとたんに、大歓声が沸き上がった。


 なーに?! あの2人! 

 キレー!

 不思議な衣装だけど、すごくカワイイ!


 コスプレ衣装に身を包んだ2人が、音楽に合わせて踊り始めると、期せずして会場の一角で手拍子が始まった。ウルドの領民達だ。それは直ぐに会場全体に広がっていく。

 それに驚いてヴィーとリリィは顔を見合わせたが、ヴィーがいたずらっぽく笑うと、それを見たリリィも一瞬で笑顔に変わった。


 夕暮れで薄暗くなり始める頃合いだが、観衆の後ろの方からでもなぜか舞台が明るく見えた。

 ステージにはかがり火を焚いてあるのだが、明るく見えるのはかがり火の灯りだけではないようだ。二人が踊り始めると、舞台の周りを優しい光が包み始めたのだ。


 舞台上では、ヴィーが踊りながら何かつぶやいている。リリィが聞き耳を立ててみると、

「‥‥に豊穣をありがとうです。」

「みんなが元気にすごせました。ありがとうです。」

「ご主人様に巡り会わせてくれて……ありがとうです。」

(お礼を言っている? 誰に向かって‥‥?)


 不思議に思いながら踊るリリィが、舞台上に何か気配を感じて「はっ」とした。

(!!、‥‥子供?)

 今にも笑い出しそうな、楽しくてたまらない、というようにはしゃいだ子供が、すぐ近くにいるような気配がする。‥‥しかも大勢‥‥?

「リリィ! もっとあたしと合わせるです!」

 ヴィーに言われて、自分のダンスをヴィーにシンクロさせていくと、

(ええっ?!)

 背中に羽の生えた小さな子供達が、舞台の上で一緒に踊っているのが、一瞬だけ見えた。

 リリィが驚きの表情を見せると、ヴィーが、

「ジンがとっても喜んでるです。リリィ! 最後まで頑張るです!」

「はい!」


 ♪ ♪ ♪

 ヴィーとリリィは、最も盛り上がる「サビ」の部分の激しいダンスを懸命に踊った。


 そんな2人の踊りを、舞台の袖から真剣な表情で見つめる目があった。舞姫・シリアだ。

「初めて会った時から、ジンに愛でられている娘であることは分かっていたが、‥‥これ程ジンの気勢を高められるとは‥‥。私が責任を持って仕上げなければいかんな。」

 シリアは、真剣な表情で2人の踊りを見つめていた。


 フィニッシュのポーズを決めた後、2人が大歓声を浴びながら舞台を降りてきた。2人とも息を切らせながらも笑顔だ。

 2人をねぎらいながら大歓声が収まるのを待って、僕はシリアを紹介する。


「皆様お待たせしました。舞姫・シリア様、お願いします。」


 シリアは、静かに舞台に上った。

 付き人の笛の音が響き始めると、その穏やかな旋律に促されるように会場が静まり返っていく。

 シリアは舞台の上で仰向けに寝そべり、舞台を笛の音だけが流れていく。


 やがて、笛の旋律が変わったかな? と思った瞬間、唐突にシリアの腕が「にょきっ」と立ち上がった。そして両の手の平が「ぱかっ」と開いた瞬間、

「芽が出た!」

 観客の子供が、思わず声を上げてたしなめられていたが、心配いらない。会場の全員が同じことを思っただろうから。


 シリアが身をくねらせながら立ち上がる。観衆には、その姿が懸命に伸びる若い芽に見える。

 いや、若い芽にしか見えないから不思議だ。

 シリアが体を揺らす。強い風が吹きつけて、若い芽がそれに耐えているように見える。

 折れそうになってしまうのを必死に耐える。

 それを見た観衆は、自分も強風に身をさらしている様に感じてしまい、一緒に耐える気持ちになった。


 今度は、強い日差しが照り付けているようだ。シリアが恨めしそうに空を見上げながら、しおれてしまいそうになるのを耐える。

 これには観衆も、のどの渇きを感じた。

  がんばれーっ!

 観衆の中から声が掛かる。


 空から何か落ちてきた様だ。シリアが手のひらに何かを感じて、表情を「ぱあっ」と明るくする。恵みの雨が降って来たのだ。

 会場の全員が、ほっと胸をなでおろす。

 これらの全てを、シリアは自らの所作「舞」で表現している。


 やがて大きく育った若い芽は、大輪の花を咲かせた。シリアはこれを、広げた両手を回して輝く様な笑顔で表現している。

 その瞬間、会場は、割れんばかりの拍手と大歓声に包まれた。


 大歓声の中で、舞台が更に明るく温かい光に包まれていた。

 舞台の袖で、その光を見つめてヴィーが胸の前で手を合わせていた。それを見たリリィもそれにならう。

 光は、オーロラのように舞台を包み込みながら空に伸びていく。そしてウルド領全体を見渡せるほど、空高くまで上ると、中心の一点に収束して次の瞬間、大きく弾けた。

 それは小さな光の雨となって、ウルド領に広く降り注いだ。


「どうやら、うまくいったようだな。」

 舞台から降りてきたシリアは、額の汗をぬぐいながら空を見上げてつぶやく。

「しかし、これほどのジンの気勢に包まれて舞うのは久しぶりだ。そなた達のおかげだな。」

 笑顔のシリアに声をかけられたヴィーとリリィは、

「そ、そんな、とんでもないです。」

 手の平を突き出して後ずさりしながら謙遜していた。


 舞台の奥に用意していた果物や野菜が、いつの間にか無くなっている。酒の瓶も空になっていた。

そして領民たちは、翌朝、一晩に育ったとは思えない程、たわわに実った野菜をみて、驚くことになる。

 そして収穫された野菜のおいしさに、もう一度驚くことになるのだった。


       ◇     ◇


 農産物直売所の開店から、10日が過ぎたが、来客の数が減る気配はない。「神の恵みを受けたウルドの農作物を食べると病気にならない」とか、「神の恵みを受けたから、ウルドの農作物は美味しい」とか、うわさも広がっているようだ。


 しかし、心配事が出来た。直売所の評判を聞いたのか、「ガラの悪そうな男たちが数人で、様子をうかがうようにしていた」というのだ。

 僕は何かあった時のために、防犯ブザーを店員に持たせることにしていた。

 そして僕とヴォルフは、いざという時のために、銃の練習も密かに続けていた。

 しかし、思わぬ事件が発生してしまった。


         ◇


 「ユウ様! 直売所で誘拐だそうです!」

 代官所の執務室にヴォルフが飛び込んできた。

「ええっ!? 誰が誘拐されたの?」

 僕が心配したのはリリィとヴィーだが、今日は2人とも代官所にいる。ほっと胸をなでおろしていると、頭からの流血で白い制服を染めた若い衛士が担ぎ込まれてきた。

「すみません。ミリア様が‥‥姫様が、さらわれました!」

 息も絶え絶えに訴える衛士だが、

「ええっ? それ誰?」 

 僕には聞いたことがない名前だった。

「ロメル殿下の妹君の‥‥ミリア姫様です!」


 「ヴォルフ! 銃とバイクを用意しろ! 行くぞ!」

「はい!」

 話を聞くと、公爵家には三人の嫡子がいて、ミリア姫は先月まで、王家・国王の王宮に、礼儀見習いに預けられていたものが、帰ってきていたというのだ。

 どうやら直売所の評判を聞いて、お忍びで来ていたようだ。

 なお、犯人の一人には、頬に大きな傷があり、このあたりで有名な盗賊団「トバルの蛇」の幹部の男に間違いない、ということだった。


 急いで支度をしながら、これらの話を聞いて出かけようとした時、

「ご主人様っ! 待ってです。」

 ヴィーが駆け寄って来て、何か呪文のような言葉を唱えつつ、手で空を切った。

「ジン(精霊)が、ご主人さまをお守りしますように。」

 呟きなが僕にしゃがむ様に促すと、額に口づけをした。目には涙をためている。


 「大丈夫だ。俺が命に代えても、ユウ様をお守りする。」とヴォルフ。

「あなたも無事に帰ってきて!」

リリィが声を上げる。

「大丈夫だ。きちんと無事に帰ってくる。 ヴォルフ、行くぞ!!」

「はい!」


 僕とヴォルフは、バイクに跨るとアクセルをふかした


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ