~代官になったので領地をプロモーションします④~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇ ◇
「代官様、そろそろ最初の収穫が出来そうです。」
村長の連絡を受けて、畑に行ってみると、ジャガイモ、トマト、カボチャ、トウモロコシなどが、収穫できそうな状態になっている。急きょ人を集めて、試験的に収穫してみると、思った以上にたくさん採れた。また、どれも出来が良いことが確認できた。
「よし、「収穫報告」の準備をしよう。村長、この前確認した領内にある一番大きい荷馬車を持ってきて下さい。それとリリィ、ヴォルフに送ってもらって大教会に行って来てくれ。大司教様の空き日程を確認してきてくれ。」
僕は、収穫を迎えたら大司教様のいるファーレ大教会へ報告に行くと決めていた。
ファーレ大教会に「演出」を加えた行列を作って行く。その行列をファーレの市民に見てもらうのだ。
ウルド領が「神の約束した豊穣を迎えた」ことを宣言することは、効果的なプロモーション活動になるだろう。
◇
「こんな大きな荷馬車で行くんですか?」
「そうだよ、飾り付けもするよ。大司教様にお礼の報告と、大教会に収穫物を奉納に行くんだからね。」
手配した荷馬車が代官所に運ばれてくると、その大きさにみんな驚いている。程なくしてリリィが戻って来た。
「大司教様は、3日後の午後、ご都合が良ろしいそうです。」
「よーし、村長と世話役は、一緒に大教会に行きたい領民を募ってくれ。」
「えっ、そんな大勢で行ってもよろしいのですか?」
「もちろん手が空いてる人だけど、行列を作って賑やかに行こうよ。それと明日、荷馬車の飾りつけをやるから、手伝ってほしいんだ。」
「分かりました。」
(よし、宣伝のために、もうひと押しやっておくか。)
「ヴォルフ。ヴィーを乗せてファーレの街を回って、3日後のことを宣伝してきてくれないか?」
ヴィーを乗せたヴォルフのバイクが走っていくのを見送りながら、僕の胸は高鳴って来た。
「さあ、お祭りの始まりだ!」
◇
ガラーン、ガラーン、
ガッコン
二頭立ての大馬が付ける鈴が音を立てると同時に、荷馬車が動き出した。
「さあ、行くぞ!」
「おう!」
僕の合図で、登旗が高く掲げられる。たなびく登旗には、「豊作祝い・感謝」「神の恵みの豊穣の地・ウルド」などが書かれている。
ファーレの大教会へ向かう行列は、先導にヴォルフを含め、背の高い男たちが4人、大きな登旗を掲げている。その男達には、生成りの作務衣を用意した。その後ろに、野菜を摘んだ荷馬車が続く。荷馬車には、僕とリリィ、ヴィーが乗っている。僕は、先導の男達と同じ衣装だが、リリィとヴィーには、巫女さんの(コスプレ)衣装を用意した。
教会への御礼と報告という趣旨を踏まえて、神聖な雰囲気を出そうと思ったのだ。
僕らの作務衣は、作業服専門店ワー〇マンで、リリィとヴィーの衣装は、秋葉原のコスプレ衣装店で見つけてきた物だ。
その後ろに、領民たち20人程が、小型の登旗を持って行列になって続く。
◇
川を渡り、行列がそろそろファーレの街に入るところで、僕は、みんなに声をかけた。
「じゃあ、みんな。そろそろ声を出していこう!」
「おう!」
エイサー!
オウ!!
エイサー!
オウ!!
かけ声に合わせて、リリィとヴィーは、鈴をシャンシャン振り鳴らしている。
行列が街道を進んで、ファーレの街へ入って来ると、
おう、来たぞ!
おーい!!ウルドの行列が来たぞ!
おめでとう!
おめでとーっ!
街道沿いに集まっていてくれたファーレの市民から声が掛かる。
「ヴィー、宣伝効果抜群だな。」
「はい! ヴォルフと街中走り回って宣伝したです。「ウルドのお目出たい行列を見に来て」って。」
ファーレの街を洪水がから救ったウルド領で、大司教様が「この地に神が豊穣を約束する」と宣言したことは、ファーレの街の誰もが知っている話だ。(あの恥ずかしい絵本で‥‥)
教会の敬けんな信者でもあるファーレ市民の歓迎は、予想以上のものだった。
街中に入ると紙吹雪が舞ってきた。
「うわぁ、すごい。キレー。」
「すごいねぇ。」
行列に参加した領民の親子がはしゃいでいる。
「みんなぁ、声か小さいぞー! もっと声出していこう!」
「おう!」
エイサー!
オウ!!
「リリィ、ヴィー、せっかくおめかしして来たんだから、立って手を触れ!」
「ユウ様もです。主役なんだから。」
「そうだ。そうだー!」
後ろの行列から促されて僕も立ち上がった。
紙吹雪と歓声は、僕らが大教会に着くまで続き、途絶えることはなかった。
行列が教会に着いとき、たくさんの市民が行列に付いてきてくれたていたので、僕は皆さんに向かって挨拶をすることにした。
僕が荷馬車の上に立ち上がると、「うわー!」という大歓声が起こった。
「皆さん。今日は僕らを歓迎してくれて、ありがとうございます。おかげさまでウルドは大豊作を迎えて、こうして教会にご報告に来ることが出来ました!!」
うわーっ!
よかったねー!
おめでとうー!
大歓声が、少し収まるのを待って僕は続けた。
「皆さんに、お知らせがあります。ウルド領は、「神の恵みの豊穣」に感謝して、「大・収穫祭」を行います。みんな来てくださいねー!」
うわーっ!
みんなで行くぞー!
行くからねー!
僕は市民の皆さんに、最後に大きく手を振ってから、深くお辞儀をした。
市民の皆さんが散開していくのを見送ってから荷馬車を下りて、大教会を見上げる。
尖塔は、公爵の居城より立派なんじゃないだろうか。大聖堂もでかい。改めてこの教会の最高権力者の助力が得られたことに感謝すべきだろう。そしてその機会を作ってくれたロメル殿下にも。
大聖堂に向かう階段を昇ると、正面入り口が見えてきた。入口で白い法衣を着た大司教様が出迎えてくれている。僕たちは、大司教様の前に整列して一礼した。
「ようこそウルドの皆さま。大豊作おめでとうございます。おかげで私の面目も保てますね。」
「すみません。ご心配されていましたでしょうか?」僕が伺うと、
「いや、心配はしていなかったよ。君の話には乗ったほうが、教会としても良さそうだと思ったんだよね。」
「ありがとうございます。」
大司教は、気さくに話をしながら僕たちを大聖堂の中にある来賓室に案内してくれた。
「収穫の報告を、大司教様に一番最初にしたかったのです。」
「ありがとう。 では早速いただいてみようか。」
大司教様のテーブルには、大皿の上にみずみずしい野菜や果物がてんこ盛りだ。
収穫できた野菜は、箱詰めにして寄進したが、トウモロコシやトマト、メロンは、試食していただくように準備してもらった。。
「おおっ、すごく美味しいね。ファーレの街中さがしても、こんなにおいしい野菜や果物は手に入らないよ!」
「ありがとうございます。大司教様にそう言っていただいて、本当に安心しました。」
大司教様が、笑顔でトマトを頬張っている。
それを見て後ろの方で、村長が脱力してへたり込んでいる。本当に安心したらしい。
歓談が一息つくと、大司教様が、
「ヤマダユウ殿、実は今、珍しい来客がいてね。君も会ってみないか? ちょっと有名人なんだよ。」
「はい、‥‥ですが大司教様、私は異国から来たので、この国の事情に疎いのですが‥‥。」
大司教様にせっかく有名人をご紹介いいただいても、知らない人ではリアクションしづらい。
「なんというお名前の方なのですか?」
「シリアという有名な舞姫なんだけどね。」
(やっぱり知らないなー‥‥)と僕が思った時、
「キャー! シリア様が来てるですか?」
「すごい! 本物ですか?」
ヴィーとリリィの反応がすごい。そして僕に向ける期待の眼差しの圧力がすごい。
「あ‥‥、では、ご紹介いただけますか‥‥、できればこの2人も同席させていただけますか?」
◇
ステンドグラスを通した幻想的な光が降り注ぐ大聖堂に、舞姫・シリアはいた。
肩までの真っ直ぐな銀髪をサラサラとなびかせて、目を閉じた長身の女性は、まるで瞑想しているかのように見えた。僕たちが近づくとゆっくりと瞳を開いて銀色の瞳を僕らに向けた。
「ほう、これは珍しい。ダークエルフと一緒にいるのは、‥‥ずいぶん遠くから来たお方の様だ。」
舞姫・シリアの言葉にリリィとヴィーが身構える。2人とも先程までのはしゃいだ様子は無い。異世界人という僕の正体が、一見で見破られたのか?
「身構えずとも良い。舞を続けていると、いろいろ見えてくることもあるのだ。」
微笑むシリアを、ヴィーが不思議そうに見つめる。
「不思議な‥‥、不思議な光に包まれている人なのです。」
場所を先程までの来賓室に移し、僕はシリアに洪水から今日までの経緯をかいつまんで話した。シリアは、洪水からファーレが救われたいきさつは知っていたとのこと。大司教の勧めで奉納品のメロンを口にすると、そのおいしさに驚嘆して目を丸くしていた。その顔を見た大司教が微笑みながら、
「シリア殿、ウルドで行われる収穫祭で、舞を奉納していただけませんか?」
気軽に声をかけた大司教と、それを横で見ていた僕以外の、その場の全員が凍り付いた。
シリアといえば、この王国の外でも名前が知れ渡る大スターであり、上級貴族である領主クラスの招へいにも応じないことも多い。
その舞姫が、小さな領地の収穫祭で舞を奉納するなんて有り得ないことだ。
「いいぞ。」
「ええーっ!?」
おかわりのメロンを食べながら、こともなげに答えるシリアにみんなが驚いていると、
「その変わり条件がある。うまいものを食わせてくれることと、もう一つ。 そのダークエルフの娘にも舞わせてみるのだ。面白いことになるぞ、きっと。」
驚いて顔を見合わせる皆をしり目に、シリアは「うまいなコレ」とか言いながらメロンをほおばっている。
◇
「来て良かったですね。ユウ様。」
「ああ、そうだね。」
夕焼けのファーレの街をみんな笑顔で後にする中、ヴィーだけが困惑顔だった。
「なんで私まで……踊るですか?」
そのことに。