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~代官になったので領地をプロモーションします➁~

完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。

      ◇     ◇


 「うわぁ、お姫様みたいです。」

「こんなドレス、私たちが着ても良いのでしょうか?」

「大丈夫だよ。ていうか、今日着ていかないと公爵様の機嫌が悪くなるかもよ。」

「それは困るです。」

 代官所でドレスを広げて、リリィとヴィーは歓声を上げている。

 僕らは、アヴェーラ公爵から招待を受けて、城へ向かう準備をしていた。


 洪水被害から半月程過ぎた頃、公爵家執事のバートさんが代官所にやって来た。

「公爵様は、先の洪水におけるユウ様の働きに感謝して城にご招待したいご意向です。後片付けが落ち着いているか「「様子を見てこい」、と言われまして。」

「分かりました。実は僕もご相談があって、城に伺おうと思っていたところです。」

「ところで当日は、お供のお二人に、これをお召しになる様にと公爵様が‥‥。」


 という訳で、公爵指定のドレスを二人は着ていくことになっていたのだ


         ◇


 「迎えの馬車が来たみたいだよ。準備できたー?」

「はーい。今行きまーす。」

 返事の後で二階の部屋から階段を降りてくる二人を見て、ヴォルフは口を開けたまま、固まってしまった。持っていた荷物を足元に落としてしまっている。

 紫色と白の地に大きなリボンの飾りがついたドレスをまとったリリィは、肌の白さが更に際立っていた。

「ヴォルフ、私の恰好……変じゃないかしら。」

 少し照れながらリリィが聞くと、ヴォルフは「はっ」として、

「すごく、すごくきれいです。お嬢‥‥。」

「まぁ‥‥。」リリィが照れて、頬に手を当ててうつむいているのを見て、後ろからヴィーが、

「あたしは! ねぇ、あたしは!?」

 両手をバタバタさせて騒いでいる。


 「ヴィー。僕に見せてよ。」

 僕が呼ぶと、ヴィーは、リリィの後ろに隠れてしまったが、「見せてごらん」と再度促すとおずおずと僕の前にやって来た。

ヴィーのドレスは、レースが多用された黄色と白の地にたくさんの花飾りがついているドレスだ。ヴィーの小麦色の肌に合わせた配色だ。

「とってもきれいだよ。」僕が言うと

「さ、さぁ、‥‥もう行くです。早く行くです。」

顔を真っ赤にして、手足をギクシャクさせながら庭で待っている馬車の方に行ってしまった。


馬車ではバートさんが待っていてくれた。

バートさんに手を取られて馬車に乗り込む二人の姿は、本当にお姫様の様だった。


       ◇ 


 僕らは、二台の馬車でファーレの街へ向かった。バートさんと僕らが乗る馬車とそれを先導する馬車だ。川を渡り、そろそろファーレの街に入るという頃、


 「そろそろ、幌を外しましょう。」

 バートさんが先導の馬車に声をかけると、操者が降りて来て、バートさんと二人で僕らの乗っている馬車の幌をたたみ始めた。僕らの乗る馬車は、いわゆるオープンタイプの仕様だった。

 幌をたたむとバートさんは、「私は、先導の馬車に移りますね。」と馬車を乗り換えてしまった。不思議そうにする僕らにかまわず、二台の馬車は進んでいく。馬車は、そろそろファーレの街に入ってきた。


 「幌を開けると開放的ですね。」

「風が気持ちいいのです。」

 幌が外された馬車で、髪とドレスの裾を風になびかせるリリィとヴィーの姿を、僕がニマニマ見ていると、何かざわめきが聞こえてきた。


 「おい、あの馬車じゃねーか?」

「きっとそうだよ。」

「お姫様みたいな人も乗ってるし。」

僕らは、声がする方を見て驚いた。

街道の両脇に大勢の市民が詰めかけている。

(今日は何かのイベントがあるのかなー?)僕が、そんなことを考えた時だった。


 先導車のバートさんが馬車を停め、僕らの馬車に駆け寄ってきた。そして大きな声で、

「皆さんにご紹介します。先の洪水からファーレを救った英雄、ウルド領代官のヤマダユウ様です!」


 うわーっ!!

 やっぱりそうだ!

 ありがとう! 

 ウルドの代官さまーっ!


 バートさんの声に弾かれるように、大歓声が上がり、紙吹雪が舞った。

「ええっ?」

「何事なのです?」

 僕らが見上げると、紙吹雪は、街道の建物の上からまかれていた。

 あっという間に馬車は、民衆に取り囲まれる。

「ユウ様、立ち上がって手を振ってあげてください。さあ、お2人も。」

 バートさんに促されて、僕らが立ち上がると、民衆の興奮はさらに上がった。


 うわーっ!

 ファーレのためにありがとう!

 俺たちの街を守ってくれて、ありがとう!


 大歓声と紙吹雪の中で、僕らは顔を見合わせた。

「ファーレの人たちは、ご主人様のなさったことを、これほどに歓迎してくれて‥‥良かった。」

 リリィが声を詰まらせた。

 ヴィーは大歓声の中、民衆に手を振りながら何か叫んでいるが、泣いているようだった。


 

 途中何箇所かの街角でも、このような大歓迎を受けながら、僕らは公爵の城の門までたどりついた。城門の両脇には衛士隊が並んでいる。

 馬車が門をくぐる時に、両側の衛士隊が一斉にラッパを吹き、そのラッパを合図に、紙吹雪が舞う。

 紙吹雪の中、前を見ると正面玄関前でロメル公太子が出迎えてくれており、隣には教会の大司教様が立っている。僕らは、馬車を下りて彼らの前で一礼し、頭をあげると大司教と目が合った。すると大司教は、僕に向かって「にかっ」と笑った。

 これを見て僕は、この街の喧騒をようやく理解することが出来た。

(大司教様、お願いした通りにやっていただいたのですね。しかし、やりすぎです。)


 僕は、洪水の後でウルドにお見舞いに来てくれた大司教様に二つのお願いをしていた。一つは、「ウルドの地に「神の祝福による豊穣」が訪れることを宣言してほしい」ということ。もう一つは、「ウルド領での洪水時の対応を、ファーレの市民に伝えてほしい」というものだったのだ。

 二つともウルド領の施策「ブランド農作物」に必要なことなのだが、これほどの騒ぎになるとは思っていなかった。

 ちなみに僕らが今日、城に招待されていることは、事前に教会から街の人に知らせてあったそうだ。


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