【番外編】~余談ですが~ ミク編① 私がさらわれてきた訳
番外編を投稿する都合上「連載中」にしています。紛らわしくてすみません。
ウルド直売所で働き始めて、もう半年近くになる。
ユウちゃん達に助けてもらって、私は自由の身になれた。ここ、ウルド直売所ならば、前の世界で身に着けた知識も役に立てられている。
私、小林ミクは、この世界にさらわれて来たんだ。
◇ ◇
「あーあ、遅くなっちゃったなぁ。この辺り、ちょっと暗くて怖いのよねー。」
あの日は、サークル活動で帰りが遅くなった。
私はアイドル研究会に入っていて、その日はお互いの「押し」の話で盛り上がってしまい、いつもよりも遅くなった。
(早く、この道を通り過ぎたい‥‥)
そう思って足を速めた時、
「お急ぎのところ申し訳ございません。」
「ひゃあ!! 何?! 何よ?!」
いきなり後ろから声を掛けられて、飛び上るほど驚いた。振り向くと、黒いフードを被ったおじさんが立っていた。
(いつの間に私の後ろに来たの‥‥)
よく見るとフードの下の顔には、額に変なお札みたいな物が張ってある。
驚いた私は、全速力で走った。
しかし、夢中で走っているうちに、気が付くと、どこか知らない所に迷い込んでしまったみたいだ。知らない道を走っている。どこまで走っても霧に包まれた知らない道を‥‥。
◇
走り疲れて立ち止まり、辺りを見回してみると、いつの間にか霧が晴れてきた。しかし、それによって気付いた。私は、何処か知らない場所に来てしまったみたいだ。
(ここは、どこなんだろう‥‥。)
霧が晴れて、月明かり照らされた辺りを見渡すと、古城の庭の様だ。しかし古びた城は、日本の城ではなく、中世ヨーロッパの城のようだ。そして何故か、ここは日本じゃない気がする。妙な空気感がそれを伝えている。そんなことを考えていた私の前に、その男は現れた。
ゾーディアックと名乗ったその男は、顔にいくつもの蛇の入れ墨がある不気味な男だ。
「コバヤシミク。お前は、こちらの世界では「予知能力」を発現出来るはずだ。そしてお前は、元いた世界にはもう帰れない。その力を使って、我々に助力するしか、生きていく道はない。」
私は、知らない世界に連れて来られてしまったの?
その「予知能力?」とかを、利用されるために?
捉えられてからしばらくの間、私は、予知能力を発現させるための方法について、指導を受けていた。そしてその力は、月の魔力が得られる満月の日だけ使えるのだそうだ。
ある日、
私は、見張りの目を盗んで脱走したけど、城から出たところで捕まった。
捉えた私に男達は「オーガ」に凌辱された後で殺されたという女の子の遺体を見せた。
「言うことが聞けないならば、お前もこうなる。」と。
そして尖塔の小さな窓から庭を覗く様に指示された。
「そっと覗いてみろ。声を出すなよ。オーガに見つかればお前も慰み物にされるぞ。」
庭を見た私は、驚いて声を出しそうになって慌てて口を押えた。身長が3m近くある鬼のような怪物が見えた。RPGに出てくるオーガが、庭を歩いているのだ。
私は、死体を見たのも、オーガなんていう怪物を見たのも、もちろん初めてだった。
この世界は、怪物や魔導士のように恐ろしい力を持つ者達が支配する世界なんだ。そして人の命が、とても軽い世界なんだ。
私は全てを諦め、こいつらの言うことを聞く選択をするしかなかった。
私は、普段は古城の尖塔に軟禁されていたけど、時々、馬車で街に連れ出された。
街の様子を私に見せて、この国の今の様子をインプットさせることで、予知能力に役立てようとしているみたいだ。
◇
私がさらわれて来てから、今日は2度目の満月の日、
「この領地に、領主としてあの男を任命しようと思うが、半年後の状況を確認してくれ。」
古城の尖塔に軟禁されている私を訪ねて来たのは、グラベル伯爵という人だ。この国で宰相をしているらしいが、はっきり言って悪者臭い人だ。
しかし、言うことを聞くしかない私は、言う通りにした。
領主に任命したいという人は「カザン子爵」という人で、隣室に控えていた。私はその人の顔を覗き見てから、領地の地図を見る。そして目を閉じて、この人の半年後をイメージする。
(隣の部屋にいる人・カザン子爵が、領主になって半年後‥‥半年後。あれ‥何も見えない‥‥)
前回の満月に何度か予知をさせられて、予知をすることに慣れてきたが、こんな事は初めてだ。
「あのう、なにも見えないんですけど‥‥」
「‥‥そうか、では3月後を見てみてくれ。」
「見えない」なんて言ったら怒られると思ったけど、伯爵様は、何か思い当たる事でもあるみたいだ。
(じゃあ、3ヶ月後‥‥領主になって、3ヶ月後‥‥あ、今度は何か見えて来た。)
頭の中に映像が浮かんで来た。隣室にいるカザン子爵が見える‥‥部下らしい人を叱責している?‥‥叱られている人は、すごく悔しそうにしているなぁ‥‥。
あ、場面が変わった。これも良くあることだけど、重要な事や事件・事故みたいなものは、優先的に見えるみたいなんだ。
隣室の人が街を歩いているのを、さっき怒られていた人が後ろから‥尾行‥している? 人気のない所で、短剣を取り出して近づいて‥‥後ろから?!
「キャーッ!!」
悲鳴を上げて頭を抱えた私の肩を掴んだグラベル伯爵は、
「ど、どうした?! やはり駄目だったか? 殺されたのか?」
私は頷いてから、
(なによ! 殺される事が分ってるなら、こんな予知させないでよ!)
涙を浮かべて伯爵を睨んだ。
「すまんな、部下になる予定の男とは、怨恨があってな。やはり無理か‥‥」
そんなこともあった。
そのうち私は、予知には当たるものと当たらないものがあることに気付いた。
多くの人が関わる事案の予知ほど、外れることがあるのだ。それは「あくまでもその時点の予知」だからで、その時点での事象の積み上げによって予知されることだからだろう。
多くの人が関わる事によって不確定要素が多くなる事案は、予知が外れることがある。政治に関する予知はまさにそういう事案だ。
予知が外れて、伯爵がイライラしていることがあった。
でも、イライラしたってしょうがないじゃん。私のせいじゃないよ。
そんなある日、私が閉じ込められている尖塔の向かいの部屋に女の子が連れられて来た。
とてもきれいな娘だ。ダークエルフとか言ってたけど、久しぶりの話し相手になるかもしれない。
脱走する時に見つけたルートのうち、塞がれずに済んだルート、天井裏を伝って会いに行ってみよう。
もう少し番外編あります。