~最終話 異世界国づくり後編⑦~
◇
テーブルに着くと、テレス様が僕の膝に乗ってきたので、
「お土産があるんですよ、テレス様。」
声をかけると、ぱあっ、と可愛らしい笑顔になったので、コンビニの袋をリリィに手渡して「食べさせてあげて」と頼んだ。
「ご両親には、状況を説明したのか?」
「はい、理解が追いつかないところもありましたが、一応説明してきました。」
僕は皆に、さっきまで行っていた現世での事を話した。
◇ ◇
現世日本・山田家では、ユウの父親がトイレに入ろうとして、ドアノブに手を掛けたところ、
突然、ドアが中から開いて眩い光が溢れた。
「な何だ!?」
驚いた父が床にへたり込んでいると、
その光が徐々に収まり、
「ただいま。」
ユウが、ひょっこり顔を出した。
「お、お前ユウか?!」
父が驚いて、
「か、母さん! ユウが‥ユウが帰って来たぞ!!」
その声を聞いてパタパタという足音と共に、懐かしい声が聞こえてきた。
「何言っているんですか、あな‥た?! ユウちゃん?!」
母は駆け寄ると、僕の頬に両手を当てて、
「ホントに?! ホントにユウちゃん?!」
「うん、ホントに僕だよ。母さん。」
母は目を潤ませながら、僕を強く抱きしめた。
「うーむ、とても信じられない話だ‥‥」
僕の話を聞き終わってからも、腕を組んだままつぶやく父に、
「でも僕が異世界から帰って来た時に、ドアから溢れた光を見ただろう?」
「ああ、あんなところから現れるなんて、一体どうなっているんだ。」
父が驚くのも無理はない。玄関や窓に鍵が掛かっている状態で、僕はトイレの中から現れたのだ。
「でも、ユウちゃんが、向こうの世界にしか留まれない体になっちゃったっていうのは、本当なの?」
「うん。こっちの世界では長く生きられないそうだよ‥‥」
「そんな‥‥」
母の悲しそうな顔を見て心が痛んだ。嘘をついているからだ。セレス様はどちらか一方を選べると言ったのだ。
「その‥、向こうの世界では、お前はうまくやっていけているのだな?」
「うん、何とかやってる。」
父は、僕の目を見て小さくため息をついて、
「なら‥‥いい。」
静かに言った。
「ちょっとお父さん、そんな簡単に?!」
抗議する母に、
「ユウの顔を見てみろ。いつの間にか‥‥こんなに大人びた、男らしい顔つきになって‥‥」
テーブルの僕の手に、手を重ねる父の目が潤んでいた。
2人を見ていた母が、何かを思い出した様に、
「ユウちゃん、あなた、向こうの世界にお相手はいるの?」
「うん。大切に想っている人がいる。」
「どんな娘?! 写真とかないの? 」
いきなりテンションが上がってきた。
僕がカバンからタブレットを取り出すと父が、
「ユウ、向こうの世界にも電気があるのか?」
「無いよ、携帯型のソーラーパネルで充電してる。」
「そんなこといいから! 早く彼女の写真見せてよ!」
母に鼻息荒く催促された。
「ちょっと! 可愛い過ぎない?! あなた、また二股掛けられてない? 大丈夫?」
「おい、母さん! またって‥」
タブレット画面の笑顔のヴィーに、両親が驚いているので、
「大丈夫だよ。思いやりがあって、とってもいい娘なんだ。‥実は、もう結婚しているんだ。」
笑顔の僕に、今度は母が手を重ねてきた。
その後、持参した大金貨を「向こうで稼いだお金だ」と渡そうとすると、「こんな大金、危ない仕事をして稼いだお金ではないのか?」と心配されたが、それを何とか説明すると今度は、
「お金は新婚生活に使いなさい」と言われた。
結局、半分受け取ってもらったが、半分は持ち帰る様に説得された。
最後に、色々土産を持たされた上で、いつか方法を見つけて、ヴィーを連れて来ることを約束して、僕は現世日本を後にしたのだ。
◇
コンビニスイーツの試食会をしながら僕の話を聞き終えると、ヴィーが笑顔で、
「私も、ユウ様のご両親にお会いしたいのです。」
「そうだね。セレス様の力が高まれば、今度は2人で送り出してもらえるかも知れないね。」
僕らの話をどの程度理解しているのか分からないが、クリームをべったり付けた顔で、テレスがコクコクとうなずいている。
「すいません。ちょっとヴィーに話があるので席を外します。」
アヴェーラに断って僕達が奥の部屋に移動すると、ヴィーが後ろから抱きついてきた。
「ヴィー、僕が帰ってこないと思って心配した?」
「帰って来ると信じていたです。でも、アヴェーラ様が‥‥」
「何か余計なことを言ったのか? まったくもう‥‥」
後ろから回されたヴィーの手に僕も手を重ねたら、思い出したことがあった。
「そうだヴィー、渡したい物があるんだ。」
僕は、現世日本から持たされてきた荷物の袋の中から小さな箱を取り出して、ヴィーの手を取った。
「僕の母さんが、母親から貰った物だってさ。僕のおばあちゃんだね。「ユウから、ヴィーちゃんに渡して欲しい」って。」
僕はヴィーの薬指に指輪をはめた。小さなルビーの付いた指輪だった。
「ユウ様の家に伝わる家宝なのですか? きれいなのです。」
「家宝とかじゃないんだけどね。娘がいたら渡したかったんだってさ。うちは男の兄弟しかいないからね。」
ヴィーは、目の前に手をかざして、
「でも、とても大切な物なのです。頂けるなら大事にするです。」
ヴィーが僕を振り返って、涙ぐみながら僕を見上げた。僕はヴィーを抱き寄せて顔を近づけ、唇が触れそうになった時、
「お兄ちゃん、お帰りーっ!」
「ミク様! いきなり入っては、いけませんわ!」
いきなりドアが開いてミクが入って来た。後ろにはリーファ妃がいる。
「大丈夫だよ、リーファちゃん。いくら2人が仲良くても来客中にラブシーンなんて‥‥」
ミクは、僕が腕を伸ばしてヴィーの体を離すのを見て、
「‥‥してたのかな? ごめんね。
ま‥まあ、いいよね。お兄ちゃんが無事に帰ってきたんだから、お祝いに飲もうよ。
ウルドでワインを造ったんだよ。村長がね、一番最初に、お兄ちゃんに飲んで欲しいんだって。
ねぇ、ヴィーも機嫌直してよーっ!」
ミクがワインボトルを掲げて笑うと、口を尖らせて横を向いていたヴィーも、もう笑っていた。
テーブルに戻るとロメル大公とミリア姫も来てくれていた。
皆の顔を見て思った。僕はこれからも、この仲間達と共にこの世界を生きてゆくのだ。
「それではお兄ちゃんの帰還を祝って、カンパーイ!!!」