~最終話 異世界国づくり後編⑥~
◇
「ヴィー! 其方何を考えておるのだ! ユウはどこだ?!」
ユウの自宅にアヴェーラ公太后が駆け込んで来た。
「なんでユウ様があちらの世界に行くのを、知ってるですか?」
ヴィーが尋ねるとアヴェーラの足元から、幼女精霊・テレスがひょっこりと顔を出した。
「テレス様を責めるでないぞ! 心配して私に知らせに来てくれたのだ。」
アヴェーラは、生前のテレスと付き合いがあったが、精霊となってからも付き合いが出来ているようだ。
今や大精霊となったセレスの力が強まることで、テレスにも変化が出ていた。一つは実体化だ。
今回のように単独でセレスの泉を離れる時は、一定時間は半透明の体が実体化出来るようだ。
「ユウはどうしたのだ。」
テーブルを挟んでヴィーと向き合うアヴェーラが尋ねた。膝にはテレスが抱かれている。
「向こうの世界に行ったです。」
「行かせてしまったのか!?」
「はいです。」
驚くアヴェーラに対して、ヴィーは落ち着いている。
「ユウは、向こうに行って何をすると言っていた。」
「ご両親に会ってくると言っていたです。」
「あああ‥‥」
アヴェーラが天を仰いでため息をついた。
「いいかよく聞け、ヴィー。もしもの話だ。
もしも私の息子が行方知らずになったとして、しばらくの間、音信不通だったとする。そんな息子がひょっこり帰って来たら‥‥、どれほど嬉しいことか。そして‥‥そんな息子をむざむざ返すものか! むざむざ離すものか! どう‥だ‥‥」
アヴェーラはヴィーの顔を見て話を止めた。
ヴィーは涙を流しながら、
「ひぐっ‥‥それでも、ユウ様が決めることなのです。ユウ様の未来は、ユウ様の人生は、‥ユウ様が決めるものなのです!」
そう言い切った。
「バカ者‥バカ者め。」
アヴェーラはそう言ってヴィーを抱きしめるしかなかった。
テレスもヴィーを心配顔で見上げていた。
ヴィーを落ち着かせるために(落ち着いていたのにアヴェーラが煽ったのだが)、リリィにも来てもらった。
そのリリィが、お茶を入れている。
「ところで、ユウは向こうの世界に行く時に、何か持って行った物はあるのか?」
「金貨を持って行ったです。」
「なにぃ‥、どのくらい持って行ったのだ?」
アヴェーラに睨まれると、ヴィーは拗ねた様に横を向いてしまった。
「ヴィー、ユウ様は金貨をどのくらい持って行ったの?」
リリィが後ろからヴィーを優しく抱きながら尋ねると、
「大金貨‥‥20枚持って行くって言ってたです。」
「むう‥‥向こうで暮らすつもりなら、もっと持っていきそうなものだが‥‥。」
考え込むアヴェーラに対して、
「ユウ様を信じて待ちましょう。」
リリィは、落ち着いてヴィーを励ましている。
(其方、何を呑気なことを言っておるのか!)
アヴェーラに睨まれても、
(ユウ様を信じて待つしかないでしょう。)
リリィは微笑んで返すだけだった。
ドドド‥‥、
外から聞こえてきたバイクの排気音が止むと、ヴォルフが入って来た。
「おお、ヴォルフ。よく来た。座れ。」
アヴェーラに促されて椅子に座ったヴォルフの膝の上に、テレスが飛び乗った。
「お、おう?!テレス様、ど、どうも‥‥」
先日遊んでもらった(罰ゲームとも言う)ヴォルフをテレスはずいぶん気に入っているようだが、ヴォルフの方は、テレスをどう扱って良いか分からず困っている。
「ところでユウ様は、どうされた?」
ヴォルフに聞かれても、ヴィーは口を尖らせて黙っている。
「そのことだ。ヴィーのやつは、ユウを見す見す向こうのご両親に合わせに行かせてしまったのだ。」
呆れ顔のアヴェーラにヴォルフは、
「じゃあ、お帰りを信じて待ちましょう。」
リリィと同じことを言った。
「貴様ら、夫婦で気楽なことを言いおって‥‥」
アヴェーラが、文句を言いながら紅茶を飲もうとした時だった。
部屋のドアが開いて、眩い光が溢れた。
「ただいまーっ。」
ユウが帰って来たのだ。
「お帰りなさいませ。」とリリィ。
「何が「ただいま」だ! お気楽なやつめ!」とアヴェーラ。
ヴォルフは、微笑んで小さく一礼しただけだ。
そしてヴィーが、
「お帰りなさいです!」
駆け寄ってユウに抱き着いた。