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~最終話 異世界国づくり後編④~

     ◇   ◇


 「無事に開国式も終わりました。みんな、お疲れ様でした。」

 乾杯!!

 お疲れ様でした!


 開国式が終わり、最後の国賓であるクラン王を送り出すと全ての仕事が終わったので、打ち上げをしているのだ。


 「あのう‥‥ユウ様、この料理って本当に国賓にお出しした物と同じなのですか?」

恐る恐る聞いてきた若い衛士に、

「そうだよ。噓だと思うなら、ミクに聞いてみな。」

僕の言葉に、

「ホントだよ。っていうか、今日の方がおいしいと思うよ。本番は見映えを優先しなきゃいけないからね。」

僕は、城の衛士や使用人達のモチベーション向上のために、「式典の打ち上げで、国賓と同じ料理を食べさせる。」と言ってあったのだ。


 うおーっ! すげえ!

 食うぞーっ!

それを聞いて衛士たちが騒いでいる。

それを横目で見ながら、

「ミク、めったな事はいうものではないぞ。」

ワイングラスを手にしながらアヴェーラ公太后がつぶやいたが、

「いや‥‥言われてみれば、そうかもしれん‥」

料理の味に目を丸くしてから、

「ミリア、一旦帰って来て良かったな。」

隣の席のミリア姫に声を掛けた。


 ミリアは、クラン王とは婚礼前だが、「戴冠式が無事に終わるまで、クラン王子の側に居させて欲しい。」としてグラント王国王宮に行っていた。そして、無事に国王となったクランと共に、ファーレン大公国開国式に来ていたのだ。

「しかし、クラン王を一人で返す時の、お前の切なそうな顔と言ったら‥‥ようやくお前にも女性にょしょうとしての感情が芽生えて来たか‥‥」

言いかけて脇を見ると、

「姉上! このお肉は僕のために、メイドが持ってきてくれたものですよ!」

「何よ!いいじゃないちょっとくらい! お肉にあなたの名前が書いてあるとでも言うの?!」


 年の離れた弟と料理の取り合いをしている娘を見て、

「‥‥はぁ、後悔しても遅いですぞ。クラン王‥‥」

ため息をついていた。


 「でも母上、戴冠式を前にしたクラン王の最大の難関であった領主達との会見は、ミリアがいたからこそ乗り切れたのですよ。」

ロメルの言葉に、

「そうなのか? それが本当であれば、見てみたかったものだ。」

微笑んだアヴェーラだったが、


 「うわーん‥」

「もう! 泣くこと無いでしょ! 料理くらいで!」

聞こえて来た騒ぎに、

「ミリア!! 少しは、わきまえよ!!」

立ち上がって声を荒げた。


 「ご実家で、甘えていたいのでしょう。」

目を細めて声を掛けて来たバートに、

「ふう、まったく‥‥、バート、座ってくれ。そなたもこれまで、本当にご苦労であった。」

労いの言葉をかけると、

「こちらこそでございます。では、失礼します。」

バートがアヴェーラの隣に座った。


 「‥‥」

2人顔は顔を見合わせて、しばらく沈黙した後で、

「ところで‥」「ところで‥」

今度は、同時に同じことを言って、再び言葉に詰まった。


 「では私から言わせてもらう。こんな時が来たら、そなたに言いたかった事があるのだ。

そなたはこれまでずっと、ファーレン公爵家のために尽くしてくれた。爵位も捨てて公爵家のために働き続けて‥‥、しかし、これからは自分のために生きて欲しいのだ。」


 その言葉を聞いて、バートはしばらく沈黙した後、一度立ち上がってから、膝を付いて胸に手を当てた。騎士の敬礼だ。

「では、これからは‥‥私自身のために、アヴェーラ様にお仕えしたく思います。」

思いがけない言葉に、

「な、何を言っておるのだ、そなた‥‥ はっ!?」

慌てるアヴェーラが気付いたときには、ミリア、リーファ、ミク、ヴィーに、テーブルを囲まれて、熱い視線で見つめられていた。さすがにリリィは遠慮していたが、頬を染めて遠巻きに見つめている。


 「バート‥‥やっと言えたのね、良かった。」とミリア。

「でも、バートさんの性格を考えれば、これまでご遠慮していたのも解ります。」とリーファ。

「ヴィー、これが「秘めた大人の恋」ってヤツよ、分かった?」とミクに言われて、

「良く分からないけど、大人の恋なのです!」ヴィーは、鼻息を荒くしている。


「貴様ら‥‥見世物では無いぞ! 散れ!散れ!」

「キャーッ!!」


 娘達を追い払ってから、

「その…なんだ‥よろしく頼む。」

アヴェーラの差し出した手を取ると、手の甲にうやうやしくキスをするバートだった。

 キャーッ!


 娘達が遠巻きに騒いでいるのを横目に、

「ユウ、ご苦労だったね。お陰で滞りなく開国式も終わったな。」

ロメルがねぎらいに来てくれた。

「はい。これからは、やりたかったことを進めていきましょうね。」

ロメルとユウは、グラスを合わせて向き合った。


 「殿下‥じゃないですね、陛下か‥‥陛下!」

僕は茶化しているつもりは無いのだが、

「止めてくれよ。」

ロメルに嫌がられてしまったが、それはスルーして、


 「産業の基盤づくりは、今後も進めていきます。今度はグラント王国も含めて連携していく事になるでしょうから、もっと色々なことが出来ますよ。」

「そう言っても簡単ではないと思うのだが‥‥、ところでユウは、この国に、いや‥‥この世界に足りない物は何だと思う。」

ロメルに聞かれて、ユウは少し考えてから、

「庶民の娯楽‥‥でしょうか? 領民に仕事を増やせば生活が豊かになりますから‥‥ファーレでは既に、ちょっとした娯楽に回すお金も生まれているはずです。娯楽が新しい産業となって、経済を回す原動力の一つにもなります。」

「ふむ、娯楽か‥‥」

考え込むロメルに、


 「お兄ちゃん、私、やりたいことが色々あるんだけど。」

話に割り込んできたミクに、

「楽しい事だったら、グラント王国でもやってね! ユウ、王国にも来てくれるって王太后様おかあさまに言ったわよね!」

ミリアが乗って来た。


 「「時々は」、って言ったんですよ。」

「えーっ!?」

不満そうなミリアに、

「でもグラント王国の王都の方が、ファーレよりも人口は多いですから、何をやるにも有利ではあるんですよね。でも、そのためには、まず王都の領民達も豊かにしないといけません。」

「あては有るのかい? ユウ。」

「当面は、繊維産業をファーレでやったように王都でも広げるのがいいと思います。人口が多い街ならば需要はありますし、裁縫の労働力も確保しやすいですからね。」

話を聞いていたミクが、僕の肩に両手を乗せて、

「じゃあ、やろうか。王都コレクション!」

乗り気になっていた。

さらに、

「あとね、あとね、ファーストフードのお店も欲しいと思うの。女性が働き出したら、食事も便利な方が良いし、独身男性だって時間が無い人には便利だよ。現世の日本でも江戸時代からファーストフ―ドの屋台は、いっぱいあったんだよ。」

ミクは、自分の希望と仕事づくりをかなり混同している気がする。

しかし、それでいいと思う。


 楽しく出来れば、それが原動力になるのだから。


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