~最終話・異世界国づくり前編➈~
クラン王子は壇上に立つと、領主貴族達を見回した。
(この中の、どれくらいの領主が僕の味方なのだろうか‥‥)
そう思うとクランは、冷や汗は出て来るが、言葉が出てこなくなってしまった。
しばらくして、会議室がざわつき始めた時、ミリアが動いた。
ミリアは、領主貴族達が座る座席側に移動して、クラン王子の正面に立つと、真っすぐ王子を見つめた。
(私にお話しして頂いたように、お話しくださいませ。)
(ありがとう、ミリア。)
クラン王子は、ミリアを見つめて小さくうなずいた。
ミリアが数日前、密かに王宮に来てくれてから、2人は多くの事を語り明かしていたのだ。
「私は‥、いや、自分の言葉で語らせてもらうよ。
僕は、ロメル殿が自分の考えを通すために国を興すのを見て、うらやましく思うとともに、僕には無理だと思った。 だって僕は本当は、王になんか、なりたくなかったんだから。」
「ク、クラン、何を言い出すのですか‥‥?!」
王太后がその場にへたり込んでしまった。
「ぶっちゃけましたね。大丈夫かなぁ。」
「まあ、様子を見よう。」
僕とロメルは、そっと耳打ちした。
「僕は、民にも優しくありたいけど、君達、領主貴族にも離反してほしくない。 僕はそんな‥‥優柔不断の臆病者なんだ。だってみんな、ロメル殿が摂政になった時、「いっその事、このまま王になってくれないか」って思っただろう。」
それを聞いた多くの領主貴族達が目を伏せてしまった。
「そして、母上‥‥」
思いがけず声を掛けられた王太后が、へたり込んだまま顔を上げた。
「母上にも、たくさん無理をして頂きました。自分の手を汚すような事をしても、それを僕に気付かせないようにしたり‥‥、僕に王位を継がせるために、本当にご苦労をおかけしました。」
それを聞いた王太后が、思わず肩を震わせて嗚咽した。
ミリアが領主席側から駆け戻って、王太后を抱きしめると、声を殺して泣き出した。
(こちらは任せて、続けて下さい。)
ミリアと目を合わせると、クランは領主達に向き直った。
「だから、ベリル侯爵を不安にさせてしまったのは、僕の責任なんだ‥‥」
ガタン!
ベリル侯爵が椅子から降りて、肩を震わせながら床に座り込むと、深々と土下座した。
それに3人の領主達も続いた。
「この国に戻ってくれて‥‥ありがとう。」
ベリル侯爵は、肩を震わせるだけで、そのまま顔を上げることが出来なかった。
「僕は先日、ファーレに行ってロメル殿とヤマダユウ殿と話し合ったんだ。
その話を始めるまで、僕は国王になる実感も‥‥正直、感じていなかったんだ。
色々な話をして‥‥、こんなことがしたい、あんなことが出来たらいいなって、そんな話をしているうちに少しずつ、国王になるっていう実感が湧いて来たんだ。
でも、その後に「ベリル侯爵が離反したがっている。」という話を聞いた。
やっぱり僕には、国王としての資質が無いのかなぁ、と思ったよ‥‥」
それを聞いた王太后が、ガバッと顔を上げてベリルの方をにらんだ。
クランは、「まあまあ」と手で合図してから、領主達に向き直った。
「だから、皆にお願いがあるんだ。こんな僕を、助けてほしいんだ。王宮のことはセダム公爵に助けてもらっているけれど、各領地の運営は、皆と話し合って、皆に助けてもらいながら進めていきたいんだ。」
仰せの通りに!
我らこそ、新国王のお助けを頂きたく存じます!
期せずして次々に声が上がった。
その姿をみて、クランは微笑んで小さくうなずいて続けた。
「この国の、各領地の運営のやり方を、僕は少し見直したいんだ。
ヤマダユウ殿が、ファーレン公爵領と連携している各領地で、役割分担をしながら大きな産業の枠組みを作り上げている。そのやり方は、各領地の負担が少なくて、仕事の効率がいいんだ。
そして、大きな仕事を始める時には、関係者みんなで、しっかり話し合いをするんだ。
それを僕も、この国でやってみたい。領主の皆と、どんな風にその領地を豊かにしていくか?
そんな話し合いを、皆とやってみたいんだ!」
いつの間にか、全ての領主達が、真剣なまなざしでクラン王子を見つめていた。
「王子、ベリル侯爵の処分は、いかがなさいますかな?」
セダム公爵が穏やかな声で訪ねた。まるでクランの答えが分っているかのように。
「原因が僕にある以上、僕が裁くことは出来ないから‥‥当面は保留とする。今後の務めを見て判断することでどうだろうか?」
「仰せのとおりに。」
うやうやしく一礼するセダム公爵を横目で見て、王太后が不満そうな顔でミリアを見たが、
「「新国王」の仰せのとおりに、致しましょう。」
そう言って微笑むと、「ふん」と鼻息を荒くしてコクコクと、うなずいている。
ミリアは、既に姑の操作術を心得ているようだ。
「それから、僕の希望を言わせてもらうと、各領主は領民を大切に保護してもらいたいんだ。国を繫栄させるために、領民は大切な推進力だからね。だから領主は、領民を守らなければならない。それも貴方達、領主の大切な仕事だと考えてもらいたいんだ。
先程の話と含めて、今のところこれが、僕の考える国是みたいのものだよ。」
パチパチパチ
静まり返った室内に、僕とロメルの拍手の音が響くと、口を開けて聞き入っていたセダム公爵が、
「立派でしたぞ、王子!」
感激に声をあげながら拍手を始めた。すると会場全体に拍手が広がった。
「一時は、どうなる事かと思いましたけど、まとまりましたね。」
「ああ、正直に想いを伝える。僕も学ぶところがあった。」
僕はロメルと顔を見合わせながら拍手を続けた。
王太后は、その様子を見て肩を震わせながら涙を流し、ミリアに支えられていた。
クラン王子が語り終えて「ふーっ」とため息を付くと、王太后を支えながら見つめるミリアの瞳も少しうるんでいた。
その後、戴冠式はつつがなく行われた。
大司教から王冠を受けるクラン王子改めクラン王は、(こういうのもなんだけど)本当に美しく輝いて見えた。
さあ、いよいよ次は、僕らの開国式だ。