~最終話・異世界国づくり前編⑧~
◇
「これより、戴冠式を前にクラン王子の会見を行います。皆様、今しばらくお待ち下さい。」
グラント王国の領主貴族達が王宮の大会議室に集まっていた。
この中には更迭され、辺境の領地に移動となったカント公爵は含まれていない。なお、カント公爵家のこれまでの領地は、王宮預かりとなっているそうだ。
「では、戴冠式を前にクラン王子からお言葉を頂きます。」
宰相に紹介されて入室しようとするクラン王子に、廊下でロメルがそっと耳打ちした。
「王子、思いのままのお気持ちを、語ればよいのですよ。」
その隣で微笑むミリアが大きくうなずくと、
クランも笑顔でうなずいてから入室した。
クランが入ってくると、貴族の中でそわそわしている者達がいる。当初の予定では、この後すぐにベリル侯爵が離反を宣言し、伯爵と子爵2名が賛同することになっていた。
実は、その話は多くの貴族達にも伝わっており、それを「見物だ」と思っている者が多かった。
そんな異様な空気の中で、会見は始まったのだ。
しかし、クランの言葉の前に切り出すはずのベリル侯爵が、なかなかその声を上げない。
王子が壇上に立って、語りだそうとした時だった。
ガタン!
ベリル侯爵が立ち上がった。
「わ、私は‥‥」
(よし、始まったぞ! )
それに合わせて、伯爵達3名が鼻息荒く立ち上がったが、
「も、申し訳ございません。わ、私は‥ふ、不遜にも‥‥この3名と共謀して‥‥」
下を向いて、予定と違う内容を語りだした。
「おいっ! 侯爵様は、何を言いだすのだ!?」
「わ、解りません!」
共に立ち上がった3名が驚いていると、
「‥ふ、不遜にも、王国からの離反を計画しましたが‥‥考え直しました。この3名にもよく言って聞かせます。」
「そ、そんな‥話が違うではないか‥‥侯爵様、なぜ今さら!?」
立ち上がった3名は、驚きと怒りに震えている。
「クラン王子には、ベリル侯爵に離反を思いとどまらせた強力な後ろ盾がおられるのだ。」
そう言いながらセダム公爵が立ち上がった。
「皆に紹介しよう。クラン王子と婚約された、ファーレン大公国のミリア姫様だ。」
紹介されて、しずしずとミリアが入ってきた。
クランの隣に立つとドレスの裾を広げて一礼すると、クランと目を合わせて微笑みあった。
なんだと?!
ファーレン公爵家の姫など、あり得んだろう!?
ざわついた部屋に、
「だまりなさい!」
王太后の声が響いた。
「皆の者、静かにするのです。 では、どうぞ、お2人もお入りください。」
王太后に招かれて入ってきたのは、ファーレン公爵家のロメルとユウだ。
「な、なぜこの場にロメル公太子が‥ヤマダユウ子爵まで‥」
再びざわつき始めた室内に王太后が、
「皆に伝えたはずであろう。独立・建国に当たって、ロメル殿下は、クラン王子との交渉によって我らに協力と支援を約束してくれたと。
ここにおられるロメル殿下が当面の資金提供と政策協力を約束してくれた。そして‥‥」
王太后がミリアに歩み寄って、
「見よ! クランの花嫁として、妃として、これ以上の‥ひ、姫が、ど、どこにおりましょう‥か‥」
自分で言いながら感極まってしまった様だ。王太后に寄り添ってミリアが支えている。
その様子を見たセダム公爵が引き継いだ。
「この後ろ盾を確認して、ベリル侯爵は改心したのだ。皆の者も、ゆめゆめつまらぬことは考えるではないぞ!」
は、ははーっ!
会場の全員が平伏したところで、
「では、クラン王子。お言葉を頂けますかな。」
セダム公爵が笑顔で促した。