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~最終話・異世界国づくり前編③~

      ◇   ◇



 「この度は本当にありがとうございました。クラン王子様のご支援により、我らは勝利出来ました。」

グラント王国・王宮の貴賓室で、僕達は王太后とクラン王子に挨拶をしていた。王子の後ろには王宮警備隊長のバルガスが立っている。


 「僕は、大した事はしていないよ。双王国として支援を送ったのだけで、頑張ってくれたバルガスを褒めてあげて欲しいな。」

「何を言いますか! 此度のことはクラン、貴方の手柄です。あなたが良くやったのですよ!」

満面の笑みで王子を推す王太后に対して、部下を褒めてくれという王子。これを見たミリアが大きくうなずいているのを見て、僕もマリナも安心した。


 「つきましてはお礼と、来るべき戴冠式のお祝いの品をお持ちしました。」

合図をすると護衛として同行したゾラが、荷台を押して入って来て、荷物にかかっていた布をはがした。


 「おお!! 銀ですね! 凄い量ではないですか! 」

荷台には、1kgのインゴットが50個、50kgの銀のインゴットが積んであった。この世界では品薄で希少金属である銀は、金とほぼ同じ価値があるのだ。


 「それと、その壺はなんですか?」

「これが入っています。香りをご確認ください。」

僕が、見本の小瓶から粒を出して、1粒潰してメイドに渡した。

メイドに届けさせた黒い小粒を手にした王太后が、それを顔に寄せて香りを確認した途端、

 ガタン!

驚いて立ち上がった。

「こ、胡椒なのですか!?」

「はい。ラートル侯爵領の山地で栽培に成功しました。 今年採れた内の出来の良いものを、ほとんどこちらにお持ちしました。」


 感激している王太后の顔を見て、

(よくまあ、そんなウソを白々しく。)と言いたげに、ミリアがジト目でユウを見たが、

「すごい! すごいものを持ってきてくれたものです!」

感激しきりの王太后を見て、

(まあ、いいでしょう。)

自分を納得させていた。



 「そなたと少し話がしたい。」として、僕は、王太后に別室に呼ばれて、その間、ミリアはクラン王子とお茶を飲んで過ごすことにした。


 王太后の私室らしい部屋に呼ばれたことに、僕が驚いていると、

「気の置けない話をする時は、この方が良かろうと思いました。そなた、私に何か話があるのでしょう?」笑顔で僕を見てきた。


 王太后は、クラン王子の戴冠式が決まったことや、今回、王子の判断で送った支援が成果を上げたこと等から、かなり気落ちに余裕が出ているようだ。


 (探り合いみたいな話では、絶対かなわないなぁ‥‥)

そう思った僕は、

「はい、双王国の‥‥両国の末永い安定のために、その身を使おうとしている姫がおります。」

正直に話してみることにした。


 それを聞いた王太后は、しばらく呆然とした様に口を開けていたが、

「クランには、過ぎた姫だと思っておるのでは、ありませんか?」

思いもかけない言葉が返って来た。


 「私も間者くらいは使っています。ミリアは、そなたに嫁ぐと聞いていました。もし、そうでなくても、国交を持ちたい外国の王子に嫁がせるかと‥‥。

ファーレン公爵‥いえファーレン大公国は、我らグラント王国を生かさず殺さず‥‥そんな風に扱うと思っていましたからね。」

(割と分っているんだなぁ、)と思ったのが、顔に出てしまったらしく、

「こういう時は、直ぐに否定するものです!」

叱りつけてから、恐縮して頭を下げる僕を見て、クスクスと笑っている。


 「そなた、不思議な男ですね。魔道で人を欺くようなことが出来るのに、‥‥古代竜とて、そなたの企てと魔道具で倒したのでありましょう? そのくせ簡単な噓もつけないところもある。」

そして僕に向き直って、

「そなたは、クランをどう見ますか? この先、王としてやっていけると思いますか?」

再び想いもかけない事を、今度は聞いてきた。


 「すみません。僕は、宰相になれって言われているのに、国王の仕事があまり解っていなくて‥‥でも、クラン王子は、思いやりがあって下の者から慕われています。それに、人を見る目もありますよね‥‥あ、グラベル伯爵の時はやっちゃいましたけど‥って、ああ! すいません!」

「そういうところです!」

再び僕を叱りつけてから、プッ、と噴き出した。


 そして小さくため息をついた後で、

「では、別の言い方を‥‥ミリア姫をめとることで、2つの国の結びつきは強くなりましょう。それ以外にクランに、また我らの王宮に、何か良い事はあるのですか?」

値踏みするように、僕の顔を覗き込んできた。


 僕は「うーん」と考えながら、

「ミリア姫に頼まれれば、僕はイヤとは言えないから、結構こちらに来ることになるのかなぁ‥‥?」

ぼそっと出た言葉に王太后が、

「それはまことですか?!」

身を乗り出して来たので、たじろぎながら、

「えっ? ええ、まあ。そんなにちょくちょくは来られないですけど‥‥。

それと戴冠式も、何か協力させて下さい。例えば料理では、デザートとかミクに協力させますよ。今日もお土産に持って来ましたから、食べてみて下さい。」

期待に満ちた王太后の顔をみて、僕は、この件がうまくいく事を確信していた。



 ユウが王太后と会っている間に、ミリアもクラン王子と話し合いをしていた。

その中で「ファーレン公爵領においでになりませんか?」という話をした。

ミリアは、クラン王子と結婚する前にどうしても確認しておきたいことがあり、公爵領に来て欲しいと思っていたのだ。

それに対してクラン王子からは「私も常々行きたいと思っていましたが、戴冠式の前に時間が取れるか調整させてほしい。」という答えを貰っていた。



 双方の話し合いが終わり、その後のお茶会では、菓子工房ミクの焼き菓子が大好評だったのだが、

「ちょっとぉ、これすごく美味しいじゃない! 私、初めて食べるんだけど!?」

「知らないですよ。僕だって「日持ちする焼き菓子で自信があるヤツ」って頼んだだけですから。」

僕に文句を言うミリアを、マリナがいさめるのを見て、クラン王子が笑っている。


 王太后は、ユウの顔を見て満足げにうなずいていた。

(敵に回せば厄介なこの男が、見方に付いてくれるとなれば、何と頼もしいことか!)


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