~異世界で最後の戦いに臨みます⑬~
◇
「ヒドイな、これは。申し訳ないが‥‥時間の問題としか言いようがない。」
駆け付けたダレン先生の見立ても厳しいものだった。
「そんな‥! そうだよ! ユウ様のポーション(現世の薬)があるじゃねえか! あれでなんとかなるんじゃねえか?」
誰かの提案にも、
「ユウ様に聞いたことがある。ポーションは、ご自分にはあまり効かないんだそうだ。」
「そんな‥‥」
現世の薬は、この異世界の人達には劇的に効くが、現世から来たユウには普通の薬だったのだ。
皆が絶望に打ちひしがれていると、
「ヴィー! 崖下の池に来るのだ! セレス様がお呼びだ!」
ヴィーを呼びに来たシリアとミクも、
「これは、なんてことだ‥‥」
「お、お兄‥‥ユウちゃん?!」
ユウを見るなり言葉を失った。
◇
崖下に造った池の水上に、半透明の美しい女性の姿があった。
高位精霊のセレスだ。
そして、池の岸にはユウが寝かされている。
いつも明るくはしゃいでいる幼女精霊・テレスが、セレスの足元にしがみついて離れない。
それが事の深刻さを予感させて、皆、静まり返っていた。
「ではヴィー‥‥良いのですね。」
「はい。夕べお願いした通り、私の命を使って下さいです。」
ヴィーは、泣きはらした目をしているものの、笑顔でテレスに答えた。
「ダメよ!! 絶対ダメ!! ユウちゃんが生きるためにヴィーの命を使うなんてイヤよ!」
「そうです! そんなことしてもユウ様は、喜びません!」
ミクとリリィが泣きながら訴えるが、
「ヴィーの生命力以外では、成しえないのです。」
セレスは落ち着いて答える。
「なによ! 冷血精霊! やめてよ!」
「そうです! もっと何かやりようを考えてください!」
泣きながら食い下がる2人に、
「やめろ! お前達、高位精霊に無礼であろう!」
シリアがいさめても引かない。
しかし、ユウの血の気がどんどん引いていくのを見て、
「時間がないようです。ヴィー、来なさい。」
促されると、ヴィーはセレスのもとへと歩いた。
「うわーん!」
泣き出した2人をアヴェーラが抱き寄せた。
アヴェーラは、ミクとリリィを抱き寄せると、セレスの足にしがみついてこちらを伺うテレスに向かって、「たのむぞ」という様に口を動かした。
それにテレスは、小さくうなずいて答えた。
次の瞬間、辺りが眩い光に包まれ、皆、目を覆った。
池をを中心とした眩い光は、どんどん大きくなってゆく。
「少し離れよう。」
皆、少し離れることにした。
しゃくりあげるミクとリリィに、シリアが、
「高位聖霊は、自然の奔流を守るのが本来の役目だ。消えゆく命を、つなぎとめることは本来出来ないし、ましてや命を創り出す様なことも出来ない。自然に従うのが役目だ。」
「うええん‥‥」
声を上げて泣き出したミクを見て、小さくため息をついたシリアが、
「だから、今回は‥かなり難しいのだ。」
しばらくすると、
眩い光が治まって来るとともに、次第に柔らかな光に移り変わってゆく。
「うええ‥‥うえ?」
それは、ミクとリリィが見慣れた暖かい光に見える。見慣れた2種類の光のようだ。
オレンジ色の柔らかい光と、青く光る澄んだ光。
泣き止んだミクとリリィが、抱き合ったまま目を凝らすと、
その光の中で、なにやら楽しげに踊る姿が見えた。
「地精霊さんと水精さん‥?」
背中に羽の生えた子供達と、青い半透明の人魚達が楽しそうに踊っている。
その輪の中心で。笑顔の幼女も踊っている。
「テレス様‥‥?」
ミクとリリィの顔が、期待の笑顔に変わっていく。
光の輪の中で、ゆっくりと起き上がったユウに、ヴィーが抱き着いているのが見えた。
「ユウ様!!」
「ヴィー!!」
ミクとリリィが駆け出すと、その場の全員が2人に続いた。
◇
「ヴィーの‥‥ダークエルフの、生命力はとても大きなものです。ユウを救うためには、それを使うしかありませんでした。」
セレスの前でミクとリリィが正座して、頭を垂れている。
「そして同時に、ヴィーの望みをかなえることも出来ました。」
夕べ、城の中庭の噴水池で、ヴィーはセレスに願いを伝えていた。
ユウにもしもの事があった時は、自分の命を使ってユウを助けてほしいと。
その時「ヴィーの望みは、他にないのか」とセレスに問われたヴィーは、
「私は、何百年も続く命なんて要らないのです。私の望み‥‥私の夢は、ユウ様と同じ時間、同じ時の流れを生きる事です。でも、それは、かなわない事なのです。」
そう言ってため息をついたのだ。
「ヴィーの大きな生命力は、ユウの命を繋ぐのに、ほとんど使ってしまいました。今のヴィーは、只人と同じくらいしか、生きられないでしょう。」
セレスはユウの命を救うとともに、ヴィーの願いを叶えていたのだ。
「セレス様!!」
ミクとリリィが、胸の前で手を合わせて感激するも、
「でも、私は「冷血精霊」ですから。」
セレスは、頬を膨らませて横を向いていた。