~異世界で最後の戦いに臨みます⑫~
ギシャーッ!
腹から血を流し、怒り狂った古代竜は、ゾラ達が逃げ込んだ坑道に首を突っ込んできた。
「今だ!」
坑口の蓋が空いて、ヴォルフの座った砲台が現れた。
坑道に突っ込んだ古代竜の首を見ると、坑口で首を曲げたところのウロコが僅かに逆立っていた。ヴォルフの砲台から狙える角度だ。
(ここだ!)
ガガガ!
ヴォルフの25ミリ機関砲が火を噴いた。
バババッ‥
血しぶきと共に数枚のウロコが飛び散ったが、
ギシャーッ!
古代竜は直ぐに坑道から首を引き抜いた。
そして、ヴォルフの砲台に向かって行こうとするのを、
「雑魚に構うな! ダークエルフの娘を目指せ!」
ゾーディアックが叫ぶ。
パン、パン、
「うおっ!」
古代竜に指示を出すゾーディアックに向かって、僕がグロックを打ち込んだが、距離がある上に拳銃なので、側に着弾したが当たらなかった。
古代竜は、ゾーディアックの指示によって、再び崖上に向かって進んで行く。
崖を上りきりそうなところで、古代竜が首を伸ばして崖上を覗くと、台の上にヴィーが見えた。
ギシャーッ!
ヴィーの姿を確認した古代竜が叫び声を上げた。ズシズシと崖に爪を突き立てて登って来るのを、ヴィーは、震えながら待った。
そして、古代竜が崖上に現れた時、
「じゃあ、逃げるのです。」
足元の蓋を開けると、坑道へ続く穴へと飛び込んだ。
ヴィーの姿が見えなくなると、古代竜は怒り狂って、ヴィーが飛び込んだ坑道へ首を突っ込んだ。
「私の番ね!」
カムフラージュしていたリリィの砲台の支柱が、崖上の地面からせり上がった。
しかし、それを予想していたかの様に、古代竜が直ぐに首を引き抜いた。そして素早く一歩二歩とリリィの砲台に接近したかと思う間に身を反転させた。
「いかん! 砲台を引っ込めろ!!」
「ちくしょう、あの野郎! 攻撃を読んでやがるのか?!」
慌ててハンドルを回して、砲台を引っ込めようとしたが、引っ込みかけた支柱を古代竜の尻尾が襲った。
バキィ!
衝撃で砲台から振り落とされそうになり、リリィは必死でしがみ付いた。
ギキ‥‥
「くそう、回らなくなっちまった‥‥。」
砲台下の坑道では、ドワーフ達がハンドルを回そうとするが回らない。
砲台の支柱は折れまがり、それ以上引き込めなくなってしまったのだ。
「リリィ! 腹に向かって打ち込め!」
僕が叫ぶとリリィが我に返った様に、機関砲を構えた。
ズダダダ‥
先程、ゾラに撃たれた傷の所を狙った。
ギシャーッ!!
古代竜は、鮮血を飛ばしながら直ぐに反転した。すると、
ガキィ、ガキィン‥
背中のウロコは機関砲の弾丸を弾いた。そして、少し身をよじらせたかと思うと、
ビシュッ‥
再び鋼鉄のムチの様な尻尾が、今度はリリィが座る砲台を直撃した。
バキィ!
「あうっ!」
悲鳴と共にリリィは砲台から投げ出された。
「リリィーッ!!」
リリィは崖上の地面で、ぐったりしている。衝撃で気を失ってしまったようだ。
古代竜が、動けないリリィに一歩二歩と接近していく。
その時、
「お前の目当ての私は、ここにいるのです!」
ヴィーが先程、飛び込んだ坑道から出てくると、自分の二の腕をナイフで切りつけた。腕から血が流れ落ちる。
その途端に古代竜の目が赤く光り、
ギシャーッ!!
叫び声をあげてヴィーに突進してきた。
ダークエルフの血に反応したのだ。
そこへ、
「どりゃーっ!」
大剣を構えた大男が古代竜に突進しながら叫ぶ。
「嬢ちゃんは砲台に向かって走れ!」
「あ、ありがとなのです!」
その大男・バルガスの威力を纏った大剣が、古代竜の腹に突き刺さった。
ギャオーッ!
悲鳴をあげる古代竜を確認すると、
「俺も逃げるぜ!」
自らもヴィーが向かった砲台に走る。
ギエーッ!
怒り狂った古代竜が2人を追う。
ヴィーとバルガスが駆け寄る砲台には、ヴォルフが乗り込んでいた。
「バルガスさん。感謝するぜ!」
バルガスが作ってくれたわずかな時間に砲台に乗り込んでいたヴォルフが、機関砲を構えた。
怒り狂って突進してくる古代竜に対峙して、ヴォルフは不思議と落ち着いていた。
(当初の作戦とは少し違ったけど、ドルクさんが命をかけて弱点を作ってくれた。そこをみんなで攻撃してきたけど‥‥これで最後だ!!)
十分に引き付けてから、ヴォルフが古代竜の腹に機関砲の照準を合わせた。
ドガガガガガガガ!
古代竜が驚いた様に立ち止まった。
背中に生えていたはずの背びれの多くが吹き飛んでいる。
古代竜の腹には大きな穴が空いていたのだ。
「やったぜ!」
「うおーっ!」
皆が歓声を上げたが僕は、
「ゾラ! とどめの用意だ!」
魔道騎士団にとどめを促した。まだ生きているかもしれないのだ。
「ユウ様―っ!」
ヴィーが、僕を見つけて駆け寄って来る。
そのヴィーを、腹に穴が空いた古代竜が首だけ回して目で追っていることに僕が気付いた。
そして吹き飛ばされてわずかしか残っていない、背びれが光った。
「ヴィー!!」
あわてて僕が駆け寄るヴィーに向かって、古代竜が火の玉を吐き出した。
腹に穴が開いているせいか、腹からも炎が漏れ出し、火の玉は小ぶりだった。
しかし、ヴィーを焼き殺すには十分な大きさだ。
僕はヴィーに駆け寄ると、そのままヴィーを突き飛ばした。
その僕の背中に、火の玉は着弾した。
僅か2.3秒のことが、僕にはものすごく長い時間に感じた。
ボン!
「ユウ様―っ!!」
小ぶりな火の玉は僕の背中で爆発した。
「ユウ様―っ! イヤーッ!」
ヴィーの悲鳴が聞こえる。小ぶりといっても古代竜の火の玉だ。
(重度の火傷って、体表面積の何割くらいで死んじゃうんだっけ‥‥)
そんなことを考えながら、僕の意識は薄れていった。
かたや古代竜は、
魔道騎士団がRPG数発を撃ち込むと断末魔の悲鳴を上げてよろけた。
「どうしたのだ? 上では‥古代竜は、どうなっているのだ?!」
ゾーディアックが崖を見上げた時だった。
「う、うわーっ!」
炎に包まれた古代竜が、ゾーディアックの真上から落ちて来た。
ズズン‥‥
崖下で古代竜は完全に動かなくなった。
そして崖下では、ロメルの指揮で他の魔物も全て撃退されたようだ。
しかし、崖上からは、勝どきを上げる声が聞こえて来ない。
背中を黒焦げにしてぐったりしているユウを、抱きかかえてヴィーが泣き叫んでいる。
その周りで、皆、呆然と立ち尽くしていたのだ。