~異世界で最後の戦いに臨みます⑪~
◇ ◇
「おい、もう少しで魔物達が来るぞ!」
僕達が待つファーレ郊外の採掘場跡に、もう直ぐ古代竜がやって来る。
既に軍勢という戦力ではなく、傷だらけのアースドラゴンが引く荷台に古代竜が寝そべり、少数の小型の魔物がそれに続く状態だ。
しかし、数日前の戦いで古代竜の圧倒的な強さを見せつけられて、両者の力関係を図ることは難しくなっていた。
「みんな、無線機に異常はないな?」
「はい!」
「ヴォルフ、リリィ、ベルガさん、武器や道具の最終確認はいいな?」
「はい!」
僕が皆に確認をしていた時、
「ユウ!」
アヴェーラ公爵が尋ねて来た。
「少し話がある。少しだけだ。」
坑道の中に造られた小部屋で、僕はアヴェーラ公爵の話を聞いた。
「ユウ、もしも負けることが確定的になったら、お前達は逃げろ。鉄の馬で逃げれば簡単には追いつかれまい。」
「‥‥」
「皆のためにも、国のためにも、古代竜を覚醒させてはならんのだ。」
「‥‥」
僕がずっと黙っていると、
「ユウ!」
しびれを切らして、アヴェーラが僕の肩を掴んだ。
「アヴェーラ様が、「ヴィーを殺せ」とおっしゃらないように、僕とヴィーも、みんなを置いて逃げることなど出来ません。絶対に!」
ため息をついてからアヴェーラが、僕の目を見て、
「では、勝つしかないのだな。」
「そうです。それ以外にありません。」
僕も目を見て答えた。
◇
「来ました。古代竜が来ました!」
崖下に古代竜を乗せた荷台が到着した。
「皆、作戦の通りに行くぞ!」
「はい!」
僕らの掛け声を、
ギシャ―ッ!!
古代竜の雄叫びが一蹴した。
「来たのです。」
雄叫びを聞いた崖上のヴィーは、体の震えを押さえる様に、自らの二の腕を強く抱いた。
僕が古代竜を迎え撃つ場所は、現世で言うとトルコのカッパドキアの洞窟遺跡のような、崖地に穴がたくさん開いた場所だ。銀の採掘坑道だったそうだが、僕はその穴に仕掛けをしたのだ。
「おい、登って来るぞ!」
古代竜は、他には目もくれず、真っすぐに崖上のヴィーを目指して斜面を登り始めた。ヴィーがどこにいるのか、分っているのだ。
「ヴォルフ、リリィ、攻撃準備だ!」
「はい!」
ユウからの無線を聞いてヴォルフとリリィが、それぞれ砲台の椅子に座った。
僕が崖に造った仕掛けの一つは、崖地の坑道に格納できるようにした可動式の砲台だ。砲台の盾が斜面の岩の模様にカムフラージュされており、砲台の盾によって坑道に蓋ができるようになっていた。
そしてもう一つの仕掛けは、全ての坑道の入口に造った扉だ。砲台と同じ様にカムフラージュしてある扉を閉めれば、崖の斜面にしか見えないが、扉を開ければ、そこから対物ライフルやRPGで攻撃できる。
結果、穴だらけだった崖地の斜面は、切り立った岩の斜面にしか見えない。
ガシィ‥、ガシィ‥
その岩の斜面に、爪を立てて古代竜が昇って行く。
「よし、あいさつ代わりだ。」
崖を登っていく古代竜の腹の部分に当たる坑道の扉が、静かに開けられた。
坑道内では、ゾラが対物ライフルを構えていた。
ドルクが命がけで、古代竜の腹に打ち込んだ欠けた剣先が正面に着た瞬間、
ゾラが引き金を引いた。
ドンッ!
ギエェェーッ!
腹に刺さった剣先に当たった弾丸が傷を広げたようだ。古代竜は、物凄い叫び声を上げてゾラの坑口を睨むと前足を振り上げた。
「いかん! 扉閉めろ!」
慌ててしめたが、
ガシュン!
鈍い音と共に、爪が扉を突き破ってきた。
うわーっ!
ドワーフ達の悲鳴が響く中、その爪に引っ掛けるようにして、
ベキベキッ‥
扉は剥ぎ取られてしまった。
「お前達、急いで奥へ走れ!」
2人のドワーフと共にゾラが走り出すと同時に、古代竜の背びれが光った。
「火の玉だ! 扉閉めろ!!」
坑道内の仕切り扉に手をかけたが、
「2人が間に合わねえ!」
「間に合わせろ! 扉を閉めなきゃ全滅だ!」
ガラガラガラ!
坑道の内扉を閉める瞬間、ゾラに続いて、ドワーフ達が飛び込んできた。
ボーン!
扉を閉めると同時に、火の玉が着弾した。
「ひぃひぃ‥」
ドワーフの2人も間に合ったようだ。扉の内側にいる。