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~異世界で最後の戦いに臨みます⑩~

     ◇   ◇


 「なにぃ! ドルクとバルクが重体? ロメル殿下も大怪我? どれ程の相手なのだ?」

グラント王国の王宮にも戦況は届いていた。


 王宮警備隊の詰所では、隊長のバルガスが唇を噛みしめていた。

(ヤマダユウ様には俺だって恩義がある。俺はユウ様と会った後、一から修業をやり直して、前のように威力を使える様になった。今の俺なら役に立てるかもしれねえが‥‥、王宮警備隊長の俺が、王宮を離れる訳にはいかねえ‥‥。)


 ゲラン事変でアヴェーラ公爵にやり込められた王太后が、腹いせにバルガスをけしかけた。ロメルかバートと試合をさせたかったが、格下のヴォルフを相手に負けてしまった。

しかし、バルガスは、ユウとの出会いが自分を鍛えなおすきっかけだったと思っている。。


バルガスがそんなことを思い出しながら、握りしめた拳を見ていると、


 「バルガス! バルガスは居ませんか?」

駆け込んできた人影にバルガスは驚いて立ち上がった。

「王子!? どうなされたんですか? こんなところにいらして‥‥」


警備隊詰所に駆け込んできたのはクラン王子だった。



 「バルガス、君にお願いがあって来たんだ。」

「えっ、何ですか? お願いなんて言わずに、命じて頂ければ‥‥」

詰所の会議室で、驚いた顔のバルガスを、クランはじっと見つめた。

(どうもこの方に見つめられると照れちまう。男と分かっちゃいるんだけど、こうもお美しいとなあ‥‥)


「バルガス、お願いだ。母上は絶対反対すると思うけど、僕の頼みを聞いて欲しい!」

バルガスは、ごくりと唾を飲み込んで、

「そりゃあ、ひょっとして‥‥」


 「ファーレン公爵領に応援に行ってくれないか? 腕の立つ者を君が見繕って‥‥お願いだ!!」

そしてバルガスの拳を両手で掴んで、

「無理なお願いなのは分かっている。だけどお願いだ! 行ってくれないか? 母上は僕が何とか説得するから!」


 バルガスは小さくため息をつくと、

「王子、行かせていただきます。このバルガス、微力ではありますが、王子の御命令に全力でお応えします。」

「バルガス‥‥」

バルガスは立ち上がって、笑顔で王子に一礼すると、

「今すぐ分隊長を集めろ! 今すぐだ!!」


叫んだ後でもう一度、笑顔で王子に一礼した。


 試合でヴォルフに敗れたバルガスを、王太后は許さなかった。直ぐに更迭されたバルガスだったが、厳しい修行に励む彼を、再び隊長に推挙したのは、クラン王子だったのだ。



     ◇   ◇


 「クラン王子の命により、微力ながら応援に参りました」。

50人程の騎馬隊で、ファーレン公爵居城にバルガスが駆け付けた。


「おっ、なんだお前ら、死んだんじゃなかったのか?」

「うるせえよっ! って痛てて‥‥」


 命を取り留めて回復に向かっているドルクとバルクを見舞うバルガスをみて、ロメルとバートが目を見張った。

「これは‥‥力になりそうだ。」

「ええ、鍛え直したようですね。あの時とは、まるで別人です。」


ヴォルフとユウに大敗した後、バルガスがどれ程の修行を積んできたか、見る者が見ればわかるようだ。


       ◇


 「お姉さま! おいたわしい!」

地下牢にマリナを訪ねて来たのは、幼さの残る少女のようなメイドだった。

マリナは、ミリアに頼んで自分の妹分といえるメイドのメグと面会が出来る様に取り計らってもらったのだ。


 「あなたにしか頼めない事があるの。お願いを聞いて。」

マリナに耳うちされると。

「で、出来ません! そんなこと絶対出来ません!」

首を振って拒否するメグに、

「お願い、私は一度死んだ身‥‥そう言っても過言ではないわ。 それくらいの事はなんでもないの! お願い!!」

必死のマリナに、

「わ、分かりました。」

メグは青ざめてうなずいた。



 「こ、これはなんだ!」

「お姉さ‥マリナ様が、これをアヴェーラ様にお届けする様にと‥‥」

マリナに頼まれた事を済ませて直ぐに、メグはアヴェーラの執務室を訪れていた。

メグが、マリナに託されてアヴェーラに手渡したもの。

それは、ウエーブがかかった美しい栗色の髪の束だった。


 直ぐに地下牢へアヴェーラが駆け付けると、正座をしたマリナが平伏していた。マリナの髪は後頭部でばっさり切られ、少年のような髪型になっていた。

「私をお許し下さらなくて結構です。しかし、今は、この国の危機です。

私をお使いください! 私の、私の命を、お使い下さい!!」


 ガチャ‥

鉄格子を開けさせてアヴェーラが地下牢へ入って来た。

「ア、アヴェーラ様‥‥」

公爵が牢の中に入って来た事にマリナが驚いていると、アヴェーラがマリナを起こして強く抱きしめた。

「馬鹿者、お前の美しい髪は気に入っていたのに‥‥馬鹿者。」


 マリナの髪は、ポニーテールをする時に束ねるところでバッサリと切ってしまっていた。

抱きしめられた温もりにマリナは言葉に詰まったが、

「わ、私を‥‥私をお使い‥ください。」

「ああ。このような時に必要なのは‥‥覚悟のある者だ!」

アヴェーラは、マリナを抱きしめる手に力を込めた。


魔物の軍勢、いや、今や軍勢とは言えない程に数を減らしていたが、行軍を続けており、明日中にはファーレに到着する見込みとなっていた。


 

     ◇


 深夜のファーレン公爵領、城の後宮、

ミリア姫の寝室からは、安らかな寝息が聞こえてくる。


 突然、寝室の天井から降ってくるように3人の黒装束の男達が現れた。

一人がベッドで眠る姫の口を塞ごうとした途端、


パッ、と、まばゆい灯りが灯された。

「はい、そこまで。」

3人の男にライトを当てた「影の手」のシアンが小銃を突き付けるが、

「死ねえ!」

お構いなしに刃物を持って突っ込んできた。

ズダダダ!

発砲して仕留めるしかなかった。


 ベッドから身を起こしたのはミリア姫ではなく、身代わりとして潜んでいたマリナだった。そのマリナがベッドを降りて立ち上がろうとして、足元をふらつかせた。

「マリナ! 大丈夫?!」

ミリアが駆け寄って抱き止めた。


「ひ、姫さま‥」

マリナは少しもうろうとしている。

「何か、麻痺毒のような物を嗅がされたのかも知れません。」

影の手に介護されながら、

「姫様が‥ご無事なら、姫様さえ‥ご無事なら‥」

うわ言とのように呟くマリナをベッドに寝かせると、ミリアが頬を優しく撫でた。


「魔道具にお構いなしに突っ込んで来ましたね。」

「ああ、魔国の雇った間者だろう。」



 同じ頃、

 ぎゃっ!

 ぐえっ!

黒装束の2人組が次々に悲鳴を上げて倒れていく、


 リーファとロメルの寝室では、リーファが2本の細剣を構えていた。

「ロメル様がお怪我をしているからといって、私を忘れてもらっては困ります。」

片手でも間者くらいは討てるのだが、ロメルの出番はなかった。


時を同じくして、アヴェーラの寝室では、影の手のベニが黒装束の間者を倒していた。


 「本当に来ましたね。」

「ああ。古代竜を覚醒させるには、ヴィーの身柄が必要だからな。

ヴィーと交換でも‥‥古代竜の覚醒を前提にしても、交換せざるを得ない様な人質‥‥まさか3人同時に狙われるとは思わなかったけどね。」


 ロメルは、ユウと話した後で、

「今夜は返り討ちが前提で警備を甘くしたが、明日からは夜間は3人同じ部屋で過ごしてもらう。闘いが終わるまでは、用心してくれ!」

皆に声を掛けた。


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