~異世界で最後の戦いに臨みます⑧~
◇ ◇
ファーレン公爵の城、地下牢ではミリア姫がマリナと会っていた。
先日と同様、鉄格子を挟んで背中合わせに座っている。
「私ね、ユウのところへ嫁ぐのは止めようと思うの。」
「姫様?! 私がヴィーちゃんを遠ざけようとしたからですか? 申し訳ございません。その様な事になるとは‥‥」
慌てるマリナをなだめるように、
「違うわ、マリナ。安心して。私ね、前々から思っていたことが二つあるの。
一つは、私とて女だということ。結婚するなら相手の一番の想い人になりたいわ。でもユウとヴィーの間には、誰も入ってはいけないと思うの。それに‥‥」
「姫様‥‥」
心配そうにミリアの表情を覗おうとするマリナだったが、
「考えてみたら、私って面食いなのよね。ユウだと‥‥チョットね。」
不意を突かれたマリナは、
「ぷふっ・・・ヴィーちゃんに怒られそう。」
笑ってしまいそうになったが、ミリアは至って真面目に続けている。
「私って、なんでこんなに面食いなのかしら、って考えてみたの。
やっぱり身近にお兄様みたいなカッコいい人がいたからなの? なんて考えていたら思い出したことがあったの。もう一人のことを‥‥。」
「もう一人の方‥ですか?」
首を傾げるマリナに、
「私、礼儀作法見習いに、王宮に行っていたことがあるでしょう。」
「はい、行っておられましたね。」
(「あまり成果は無かったようだ」と公爵様は嘆いておいででしたが‥‥)
マリナは、小さくため息をつきながら思い出していた。
「私って、いつも怒られてばかりで、しょげていることが多かったのね。でも、王太后様がよくお部屋に呼んで下さって、お茶やお菓子を出してくれて慰めて頂いていたの。」
「そうなのですか? それは初めておうかがいします。」
(ミリア様と違って、アヴェーラ様は公女時代から完璧だったと伺っています。王太后様は、そんなご学友であったアヴェーラ様を疎ましく思われていたと思っていたでしょう。
その娘のミリア様に優しくして頂いたとは、‥‥少し意外です。)
マリナは首を傾げた。
「それがね、そば仕えのメイド達の話を聞いたのだけど、「あの子が可哀そうだから、慰めてあげて」って王太后様に進言してくれたのは、クラン王子みたいなの。
王太后様の部屋でお茶を飲むときは、いつも美しい王子様が一緒だったのを覚えているわ。」
「確かに‥‥お優しいクラン王子なら、あり得るお話ですね。」
「ミリア様が面食いになられた原因のもうお一方は、クラン王子だと?」
「うん、良く見ていたから‥‥。
それでね、私、今までは公女だったけど。今度は国王の妹という立場になるのよね。
格で考えると、私の相手はユウよりも、クラン王子が適していると思うの。」
「それはそうですが、グラント王国王宮は我々と相いれない者達の派閥です。
いくら面食いだからといって‥‥! 姫様! はぐらかすのはお止め下さい。面食いだからなんて、そんな話ではないのですね?!
お話しください! 姫様のお考えを!」
合わせていた背中をひるがえし、マリナが鉄格子を掴む。
するとミリアは、小さく頷いてから、
「双王国である以上、二つの国は、共存関係を保ち続けなければいけないわ。それには信頼関係が必要よね。」
「そ、そのために‥‥、国交のために。だからといって姫様が、そんな人質のような‥‥」
マリアが見つめるミリアは、暗い天井を見上げるようにして、
「私が最適だと思うし、私にしか出来ないと思う‥‥でもね、
それには、きちんと確認しておきたいの。クラン王子のお人柄を。」
「姫様‥‥」
(この方のお手伝いがしたい。たとえ奴隷に身を落としても、地を這ってでも‥‥)
マリナは握りしめた手を見つめながら強く思った。
その時、
「ミリア様!! ここにいらしたのですか?! 直ぐに上がって下さい! ロメル殿下の御一行が、こ、古代竜に敗れたご様子で‥‥皆様酷いお怪我をされています!!」
「ええっ!それはまことなのですか?」
駆け込んできた衛士に呼ばれて、階段を駆け上るミリアを見送る事しか出来ない。
歯がゆさに鉄格子を握りしめるマリナだった。