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~異世界で最後の戦いに臨みます⑦~

    ◇   ◇


 「皆さん、落ち着いて下さい! 魔物の軍勢が攻めてきましたが、ロメル殿下とヤマダユウ様の魔道騎士団がいます。すでに敵は1/3以下に数を減らしています!

郊外に住む人達に、一応、城壁の中に避難してもらうものです!」

衛士隊が、城壁の外に住む領民を避難誘導している。


 「みんな、ご苦労さま。避難してきた人はこちらのテントで休んでね。もうすぐ炊き出しも始まるからね。」

ルー姉さんを中心とするウルド直売所のスタッフが、避難してきた領民達に声を掛けている。

しかし、衛士隊や直売所スタッフが当初予想していた様な慌ただしさは無かった。

避難所の設置準備を始めると、多くの市民達が「何か手伝わせてくれ。」と手伝いを買って出てくれたのだ。

郊外の市民達の誘導は、ほとんど手伝いの市民がやってくれた。


 有事の際には、市民がそれぞれ出来ることをやって助け合う。いつの間にか、ファーレの市民に根付き始めた習慣だ。

「これもユウちゃん達が、創り出した様なものだよね。」

ルー姉さんが、公爵の城を見上げて呟いた。


   ◇


 アヴェーラは、ヴィーを囮にすると聞いた時には大いに憤慨したが、あれ以来、何も言ってこない。

戦況についても時々、バートさんを通じて確認するだけで、あまり口出しして来ない。

僕とロメル殿下に任せてくれているのは良いが、少し不気味なくらいだ。

僕がそんな事を考えていた頃、


 アヴェーラは、ヴィーを心配するメイド達からあることを提案されていた。

そのため城では、ヴィーを囲んで少し慌ただしくなっていた。

そのヴィーも明日、鉱山跡へ向かうことになっている。



    ◇   ◇


 「ここでヴィーは、囮としてドラゴンを待つのね。」

鉱山跡にヴィーが移動すると、ミクやリリィ、ヴォルフといった仲間たちが集まった。

鉱山跡の崖の上に舞台のような台が造ってあり、そこでヴィーが古代竜を待つのだ。


「なんか本当に、生贄のお姫様ね。」

ミクが、ジト目で僕を見た。

ヴィーは、小麦色の肌に良く似合う黄色のドレスを着ていたのだ。

「これはアヴェーラ様が用意してくれたですよ。」


 ミクがドレスのスカート生地を見て、

「あれ? 何か刺繍がいっぱい入っているのね。」

「あ、この柄は‥‥」

何かに気付いた様子のリリィに、

「そうなのです。この柄は魔除けのおまじないなのです。」

この地域には「子供が無事に育つように」、「魔に魅入られないように」という意味を込めて子供の寝間着にこのような刺繍を付ける習慣があるそうだ。

「メイドさん達がみんなで、一つずつ刺繍をしてくれたですよ。」

スカートの裾を広げると。ドレスには数えきれないくらいの刺繍が施されていた。それをヴィーは嬉しそうに見つめていた。


 「ヴィー! 私達が絶対守るからね!」

「そうだ、任せてくれ!」

ヴィーの手を握るリリィの言葉に、ヴォルフが同意して拳を握っている。


 「仕掛けについては、任せて下さい。古代竜の野郎を絶対欺いて見せます。」

声を掛けて来たドワーフ工房のベレンさんが自らの胸を拳で叩くと、


「変なこだわりは要らないんだからね。確実に! 絶対に! ヴィーを助けてね!」

「わ、分かってますよぉ‥‥」

ミクに睨まれると、ベレンさんもたじろいでいた。


 「ねえ、あんなところに池があるけど、何か意味があるの?」

急ごしらえで造成したと思われる崖下の池を見下ろしてミクが尋ねた。

「セレス様に言われたです。一昨日の晩、セレス様とお城の庭の噴水のところでお話をしたです。その時に「近くに湧水が出るから、池を造っておきなさい。」って。「何かあったら駆け付けられるように」って言われたです。」

「ふーん。水の高位精霊のセレス様は、水脈があった方が強いもんね。‥‥、あっ! シリア様!!」


話を聞いてシリアが、駆け付けてきたのだ。ヴィーを見つけて抱きしめて、

「こんな時に‥‥私は戦いには役に立たないが、せめて一緒に居させてくれ。」


「みんな、ここの仕組みを少し説明するから聞いてくれ。」

僕はヴィーが古代竜を待つ舞台と、鉱山の坑道跡に造った仕掛けを説明した。



 「なるほどね、アリの巣みたいに巡らされた鉱山の採掘坑道を利用するのか。

あっ! でも相手は火の玉を吐くんでしょう。坑道にそれを撃ち込まれたら‥‥全滅しちゃうんじゃない?! ダイジョブなの?」

ミクが自らの言葉に慌てている。


 「流石ミク、気付いたね。でも大丈夫なんだ。そのために防火扉を作ってある。外につながる全ての坑道入口と、途中何カ所かで仕切りが出来る様になっているんだ。

でも、作戦については、多くは言えないんだ。勘弁してくれ。」

「えー、いいよそんなの。だってお兄ちゃんがやっているみたいに、相手が盗み聞きしていないとも限らないでしょう。」

「うん。そうなんだよね。」


うなずき合う僕らのすぐそばの岩陰に、一匹の蛇がいた。

蛇はユウ達に気づかれないように、じっとしているようだった。


   ◇


 古代竜の寝そべる荷台で、ゾーディアックは何かを手に持って耳に当てていた。

「ちっ、用心深いのか、それとも感がいいのか‥‥。しかし、何か仕掛けているのは確かのようだな。 だが、この古代竜には、つまらん小細工は通用せんぞ。」

ゾーディアックが耳から手を下すと、手の中から小さな蛇が出て来た。


そして古代竜を横目に、

「こやつは覚醒前といっても、これまでの魔物とはものが違う。そしてこやつが覚醒した時‥‥世界は私にひれ伏すのだ。」



     ◇   ◇


 魔物の軍勢が、いよいよファーレン公爵領に入って来た。しかし、その数はかなり少なくなっていた。

オークやゴブリンなどの小型の魔物は、数十匹程度しかいない。そして大型の魔物も古代竜以外では、アースドラゴンが1頭とジャイアントオーガが2体だ。

古代竜は相変わらず荷台で寝そべっている。

古代竜はアースドラゴンと比べると一回り以上小さいため、アースドラゴン1頭でも荷車は引けるようだ。


 「ユウ様は、古代竜との決戦までに、他の魔物をどのくらい減らせって言っているんだ?」

「「出来るだけ減らしてくれ」って言われている。最初は無茶言うなよ、って思ったけど、なんとかなるもんだな。」

魔道騎士団の団員達は、RPGの他にヴォルフが使っているものと同じ型の対物ライフルを貸与されていた。

彼らは街道に穴を掘って待ち伏せし、下からアースドラゴンにPRGを食らわせたのだ。

現世のゲリラが行う「対戦車歩兵戦」のような戦いぶりには、ユウも大いに感心した。

そして、ジャイアントオーガは、ドルクとバルクの協力を得て対物ライフルで倒していた。


 しかし、気になることがある。古代竜の様子が変なのだ。

古代竜は、味方の魔物がやられても、あまり関心がないかの様に見える。

自分の気に障れば攻撃してくるが、そうでなければ見方がやられても無関心であるかの様なのだ。

そんなわけで、古代竜と距離を取りさえすれば、古代竜の存在を気にしないで大型の魔物を集中的に攻撃することができた。



 それを聞いたロメル殿下が、「古代竜の様子を確認しておきたい。」として、バートさんを伴って前線に参加することになった。

決戦に備えて武器の確認と調整をしているヴォルフを除く剣豪五指の4人がそろったのだ。


「おい! スゲエ顔ぶれだぜ!古代竜だって倒せちまうんじゃねえのか?!」


 兵士達が色めき立つ中でロメルが、バート、ドルク、バルクに魔道騎士団のゾラを加えたメンバーと車座に座っている。

「ファーレで古代竜と決戦前するに、出来るだけ相手の事を確認しておきたい。剣豪五指の僕達で探りを入れてみるから魔道騎士団は他の魔物を押さえていてくれ。

そしてゾラは我々の後方支援に加わって、古代竜に魔道武器を試してみてくれ。」

「はい。」


達魔道騎士団では、大型の盾に切込みを入れて、そこに対物ライフルをセットして使っていた。ゾラはそれを構えて、後方支援として加わる事にした。


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