~異世界で最後の戦いに臨みます④~
◇ ◇
ファーレン公爵居城・大広間には、連携している領地から騎士団長や隊長達が集められていた。
辺境の森に派遣していた偵察部隊から、魔国の動きについて情報が得られた。国境近くの森で魔物の集結が確認されたのだ。
このため、それを迎え撃つ準備を共同で進めるため、各領地から騎士団長や隊長級の者達が集められていたのだ。
ロメル公太子が壇上に立つと、
うおーっ!!
騎士達が、大広間の壁が揺れる程の歓声をあげた。
ロメルは歓声をあげる皆の顔を確認する様に見回してから、話し始めた。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは、魔国の動きと今後の我々の対応について、皆に確認しておくためだ。」
そして脇に目をやると、
「ユウ、ヴィー、来てくれ。」
2人を呼び寄せ、隣に立たせた。
「今回の魔国の侵攻には、二つの狙いがある様だ。一つは、これまでの通りヒューマンの国を自らの支配領域に広げようとしている事。そしてもう一つ、ヤマダユウの妻であるヴィーを狙っているのだ!」
ええっ!
一体どういうことなんですか!
会場にざわめきが広がるとヴィーは、身をすくめるようにしている。
ユウがその肩を抱く。
「ロメルのやつめ! いきなりそれを暴露するのか!」
アヴェーラ公爵が、いきり立って袖から壇上に飛び出して行こうとするのを、
「ご無礼、ご容赦下さい。」
バートが抱き上げて止めた。
「こら、離せ! 」
足をバタつかせるアヴェーラに、
「しばらく様子をご覧ください。」
バートに諌められると、
フン! と、不満そうに鼻を鳴らして、
「下ろせ、もう出て行かん。」
大人しくなった。
「まず皆に、魔国の動きについて説明しよう。」
ロメルが説明したこれまでの経緯は、次のような事だった。
・魔国は、ゲラン事変でユウに大敗したことを受けて、最強の魔物である「古代竜」の覚醒を進めている。
・古代竜は既に目覚めており、真なる覚醒のためにダークエルフの族長の娘であるヴィーの生き血を求めている。
・公爵家はヴィーを守っていく事を決めたが、ベレン伯爵は「公爵家のため」としてヴィーの暗殺を目論んで失敗した。
「ここで皆に確認したい!」
静まり返った大広間にロメルの声が響く。
「ヴィーを守るということは、覚醒していないとはいえ、古代竜を迎え撃つということだ!
そしてベレン伯爵が目論んだように、ヴィーを殺せば、古代竜は覚醒しないで済む。
それでも皆、僕達に賛同して一緒に戦ってくれるだろうか!?」
集まった皆の視線が、壇上のヴィーに注がれた。
ヴィーは小刻みに震えている。
「くっ‥‥」
再び飛び出して行こうとしたアヴェーラが、もう一度バートに抱え上げられた時、
「ヴィーちゃんがいなかったら、うちの領地はとっくに干上がってたぜ! 」
「そうだそうだ! ヴィーちゃんを見殺しにしたら、うちの大将にぶっ飛ばされるぜ!」
先に声をあげたのは、ラートル侯爵領の騎士達だ。
その言葉を確認する様に大きく頷いてから、
「我がフリード子爵領は、ユウ様、ヴィー様、お二人に大恩がある。ようやく、ようやくそれを返せる時が来たのですね!」
「ああ、腕が鳴るぜ!」
ドルクとバルクが拳を突上げた。
「我がラズロー伯爵領も、ヤマダユウ様に大恩がある! ぜひともご一緒させて頂きたい!」
ドルー隊長が声をあげる。
スート子爵領だって恩義があるぞ!
やろうぜ、みんな!!
そうだ、そうだーっ!
うおーっ!
うおーっ!
先程、ロメルが登壇した時よりも、物凄い大歓声だ。
僕は、顔をくしゃくしゃにして泣いているヴィーを強く抱きしめた。
アヴェーラ公爵が飛び出して来て、僕達を二人まとめて抱きしめた。
◇
少し時間をおいてから、壇上にスクリーンを用意して、魔物の状況説明を行うことにした。
壇上に僕が上がると、
ユウ様っ! 今こそ恩を返させてくれ!
俺達もだ―っ!
再び大騒ぎになりそうだったので、
「みんな、押さえてくれ。ユウが喋れなくなってしまうからね。」
ロメルが割って入った。
僕が喋れなくなるのは、騒ぎで声が聞こえなくなるより、感激で涙が出てしまうからだった。
「偵察部隊が、現在の敵の状況を確認しました。また新しく入手した武器を試していますので、それを合わせて報告します。
現地に行ってもらった魔道騎士団副団長のゾラ君から報告してもらいます。」
スクリーンには、ゾラを隊長とする偵察部隊が撮影してきた映像が写し出された。
◇
10日前、
ゾラ達は、国境近く辺境の森で魔国の大群を確認していた。
ユウから受けた指令は、魔国の切り札と言われている「古代竜」の確認と「新しい武器」を試験的に使ってみることだ。
その上で、安全を確保しながら実行できる範囲で、相手の数を減らす事を指示されていた。
魔物の軍団は、進行してくる途中の村や町を襲うだろう。出来るだけ魔物の数を減らしておくことも必要だと考えたのだ。
「おい、ものすごい数だな。」
「本当だ。すげえ!」
魔物達を見下ろせる谷の上に位置取ったゾラ達が、驚きの声をあげた。
オークやゴブリンといった低級の魔物が数千はいるだろうか。それを前衛部隊として、その後ろに本隊とみられる部隊がある。
本隊には、大きな魔物だけでもジャイアントオーガが5~6体とアースドラゴンとみられるドラゴンが3頭、そしてそのアースドラゴン達が引いている荷台に寝そべっているのが、古代竜のようだ。
魔国は、先の大戦ではオークやゴブリンを戦に率いて来たが、最近の侵攻では連れて来ていない。
これは、大群を動員する際の兵站(食料などの補給)が大変であるためと考えられる。
このことからも、古代竜の出動と合わせて、魔国が今回の戦に本腰を入れていることが推測された。
ゾラが隊員達の前に立ち、
「では、予定通り敵の数を削りながら、新しい武器の試験をするぞ。」
「はい!」
各自、持ち場に散った。
◇
休憩を取っていたゴブリンとオークの前衛部隊が、進行のため動き出そうとした時だった。
ヒュルヒュル‥
空から聞こえてくる音に、気が付いた一匹のオークが空を見上げた。
次の瞬間、
ボーン!
巨大な火柱が上がった。
ギエェーッ!
グギャーッ!
続いて
ボーン! ボーン!
二つの巨大な火柱が上がった。
魔物達が混乱する中に、合計10発の「爆炎魔法」が投下された。
これを陽動として、同時に別動隊が動いていた。
「ユウ様から貸与された魔道武器をアースドラゴンに試してみるぞ。」
「防御力が強い所と弱い所で試してみてくれという指示だ。1頭には背中に、もう1頭は腹を見せるタイミングがあったら打ち込んでみよう。」
茂みから魔物の本隊を監視している隊員は、新しい武器「RPG」を準備していた。
僕が新しく導入した武器の一つは、小型で携帯性に優れ、威力が大きいPRGだった。
「爆炎魔法」による最初の火柱が上がった時、
1頭のアースドラゴンが様子を見ようと、後ろ足で立ち上がった。
「おいっ! 今だ!」
バシュッ!
RPGが発射された。
ボガーン!!
ロケット弾はドラゴンの腹に着弾した。
ギエエーッ!
ドラゴンは凄まじい絶叫を上げ、
ズズン‥‥
地響きを上げながら倒れ込んだ。
続いて、
バシュッ!
2発目のRPGが発射された。
ボーン!!
ロケット弾は、もう一方のドラゴンの背に着弾した。
ウガウウッ‥‥
ドラゴンは驚いて声をあげたが、それ程ダメージを受けていないようだ。
「「発射するごとにすぐに移動しろ」と言われたよな。」
2組の別動隊が、RPGを担いで走り出して直ぐの時だった。
荷台の上に寝そべっていた古代竜が、首をもたげたかと思うと、
背びれが発光した次の瞬間、
ボワッ!
火の玉を吐き出した。
ボーン!
「うわっ!」
「声を出すなっ!」
火の玉が着弾したのは、数秒前に二発目のPRGを発射した場所だ。直ぐに移動しなかったら黒焦げになっていただろう。
走りながら振り向くと、古代竜がこちらをジッと睨んでいる。
(見つかった!)
(次が来たら終わりだ。)
そう思って走り続けたが、2発目が来ることはなかった。
これら一連の行動は、隊員のウェラブルカメラと、空中から撮影していたドローンの映像に記録されていた。
◇
現地状況の動画映像が終わるとゾラが補足説明を始めた。
「陽動を兼ねた「爆炎魔法」で、オークとゴブリンの前衛部隊のおよそ三分の一程度を壊滅させました。
おおっ!
すげえじゃねえか!
「そして、アースドラゴンに新しい魔道武器を試しましたが、背中に着弾したものは、効果がほとんどありませんでした‥」
お、おおぅ‥
先程とは違ってトーンダウンした声に、構わずゾラが続けた。
「しかし、腹に着弾した方は絶材な効果で、ドラゴンは動かなくなり、少なくとも戦闘不能になっています。」
なんと!
スゴイではないか!
うおおおっ!
会場が大歓声につつまれた。
「それから‥‥」
沈黙を促すように、ゾラが説明を続けた。
「古代竜に、火の玉を吐き出された時には、もう駄目かと思いましたが、団員は「俺達を睨んでいたが2発目は出さなかった。」と言っています。
考えてみたのですが、覚醒していない状態では、火の玉は連続して吐けないのではないでしょうか。
それと背中に翼がありましたが、‥翼の膜がとても薄く弱々しくて‥‥現状で空を飛べるとは考えにくいです。」
「ゾラ君、貴重な情報をありがとう。今後の作戦の参考になるよ。」
ユウの落ち着いた言葉と、笑顔のロメルに対して、一人噛みついてきた者がいた。
アヴェーラがズンズン登壇してきて、
「貴様ら、なぜ今の報告を先にしなかったのだ! 皆の気持ちを試すようなマネをしおって!
ヴィーは震えていたのだぞ!」
「しかし、おかげで皆の決意が‥‥真の心根が聞けました。‥‥まあ、こうなると分かっていましたけどね。」
すまして言うロメルに、
「いやらしい奴だ。」
文句を言いながらも、
(これで皆の気持ちが確認できた。今後は、どんな危機を迎えても、ベレン伯爵のような奴は出て来まい。)
安堵の表情のアヴェーラだった。