~異世界で最後の戦いに臨みます➁~
◇ ◇
「なにぃ! 魔国が古代竜の復活を目論んでいるだと!?」
公爵の執務室にアヴェーラ公爵、ロメル殿下、バートさんと僕だけを呼んで、ミリア姫がヴィーを連れて相談に来ていた。
「母上、古代竜をご存じなのですか?」
「ぬ? 知らんが。」
ロメルが、ちょっとコケた後で、バートと目を合わせた。
「では私から‥‥」
バートが立ち上がった。
「先の大戦で、私と殿下が力を合わせて撃退したドラゴンがいましたが‥‥」
「えっ? お2人でドラゴンを倒したのですか? 初耳なんですが?」
僕が口を挟むと、バートさんは少し不本意そうにしながら、
「撃退したと言っても、倒せたわけではありません。逃げられていますので、撃ち漏らしています。」
「でも、すごいじゃないですか!」
僕が驚くと、「フフン」と、なぜかアヴェーラ公爵が偉そうにしている。
「本題は、そこではないのです。その時に魔国の者が「古代竜が居ればこんな奴らに‥‥」と言ったのを聞きまして、その者を締め上げて、古代竜の情報を吐かせたのです。」
バートが聞き出した情報は、概ね次のようなものだった。
・今回の侵攻に使ったのは「アースドラゴン」2頭のみだ。
・アースドラゴンは魔物としては最強の部類に入るが、古代竜は防御力・攻撃力ともにこれを大きく上回る。
・古代竜は、魔力を身にまとった完全体であれば空を飛べる。空からファイアブレスを使って攻撃すれば、戦にさえならない。一方的な蹂躙が出来る。
・しかし、今は長い眠りについている。
「そ奴は自慢げに、古代竜の強さを話しておりました。多少の誇張はあるかもしれませんが、恐るべき敵には違いないと思いました。」
話を聞いていたヴィーが、自分の二の腕を強く掴んで震えを押さえるようにして、
「わ、私は、どこか遠くへ行くか‥‥、し‥死んだ方が良いのです。」
「ヴィー!!」
アヴェーラ公爵が席を立ってヴィーに駆け寄った。
「何を言うか! そんなことを言うと許さんぞ!」
強く抱きしめられたヴィーが涙を浮かべて、
「でも、でも‥‥私が居たらみんなに迷惑がかかるのです。」
「ユウ! 貴様も何とか言わ‥‥」
アヴェーラ公爵が僕を見て、文句を止めた。
怒りに震えて拳を握りしめながら、僕はあることを考えていた。
(この世界への影響とか、米軍基地の「J」にあまり迷惑をかけないようにとか、色々考えて遠慮してきたけど‥‥もう遠慮は止めだ! ゾーディアックも、魔国も、ぶっ潰す!!)
僕達は敵の動きを探るため、まずは辺境の森に向けて偵察部隊を出した。
そして魔国が侵攻してくるのであれば、建国祭は延期しなければならない。
◇
「あれ、ヴィーは?」
僕は「影に手」のベニを連れてヴィーを探していた。
「ちょっと前に、マリナさんに呼ばれて庭に行きましたけど。」
「ふーん‥‥」
偵察部隊から魔国の動きについて報告が来る前に、ヴィーの警護体制は先に整えておこうと考えた僕は、影の手のベニに行動を共にしてもらう様に頼み、それをヴィーに伝えようとしていた。
「マリナさん、ヴィーは何処にいるの?」
僕は庭に居たマリナさんを見つけて尋ねたが、
「知りませんわ。私は今日、ヴィーちゃんと会っていませんから。」
(あれ? じゃあ、ヴィーを呼んだって言うのは間違いだったのかな?)
僕が戻ろうとした時、
「マリナ様、ウソをつくのはお止めください。」
ベニが指摘した。
「な、何を無礼な! な、何を証拠に私が嘘をついていると‥‥」
慌てるマリナにベニは冷静に続けた。
「私達は、人が嘘をつく時の‥‥呼吸の乱れや鼓動、目の動き、そんな変化が分かります。あなたには、当てはまる事ばかり‥‥」
突然、踵を返して駈け出そうとするマリナを、ベニが素早く取り押さえた。
「ヴィーさんを、どこへやったのですか!!」
騒ぎを聞いた他のメイドや使用人達が集まって来て、騒然となった。
◇
「何をしているのだ無礼者ども! マリナを放せ!」
会議室でマリナを尋問していると、ベレン伯爵が入って来た。マリナは手首を縛られた状態で椅子に座らせていた。
「貴様ら、マリナは庶子(平民の妾の子)とはいえ。私の娘だぞ! 無礼者どもめ!」
入って来た伯爵は、マリナの姿を見るなり激高していた。
「どうした? 何か喋ったか?」
出かける準備で席を外していた僕が戻るとベレン伯爵が駆け寄って来た。
「おお、ヤマダユウ殿。あなたに話があります。あなたはダークエルフの娘などにかまけている場合ではありませんぞ。聞けばミリア姫様とのご縁談もあるとか。
国に仇なす存在は、早々に処分すべきと思って私は‥‥」
バン!
僕が天井に向けてはなったグロックの銃声が、ベレン伯爵の言葉を遮った。
僕はそのまま、グロックを伯爵の喉に押し付けて、
「ヴィーをどうした?」
静かに聞いた。
「ヴィーさんは、もうここには居ないわ。」
「マリナ、黙れ!」
ベレン伯爵がマリナを制するが。
「もう間に合わないわ。ヴィーさんは、ここから離れたところで‥‥死ぬことになっています。」
そこまで聞いた僕は、
「ヴォルフ! リリィ! 行くぞ!!」
ベレン伯爵を突き飛ばすと、部屋を出ようとした。
「ヤマダユウ殿! いい加減目を覚ましなさい! ダークエルフなどにかまけて、国を危険にさらすなど‥‥」
バン!
頭をかすめた銃弾が、伯爵の言葉を止めた。
「間に合わなかったら‥‥ヴィーが死んだら、お前を殺す。 ‥‥いくぞ!」
僕はヴォルフが庭に用意してくれていたバイクに跨ると、アクセルをふかした。
ズドドド‥‥
3台のバイクが走り去ると。
「馬鹿者めらが、目を覚ませというのに‥‥」
ユウに突き飛ばされて尻もちを付いていたベレン伯爵が立ち上がろうとした時だった。
ベシィ!
顔に衝撃を受けて再び尻もちを付いた。
「だ、誰だ!? 無礼者!!」
「私だ。」
声に気が付いて見上げると、サーベルを持ったアヴェーラ公爵に見下ろされていた。
ベレン伯爵は、サーベルの腹で叩かれたのだ。
「こ、公爵様、何をなさいます! この国のためにやった事ですぞ!」
アヴェーラは、ベレン伯爵を一瞥すると、マリナに向き直った。
「貴様は、自分のやったことでミリアが喜ぶとでも思っているのか?」
マリナはアヴェーラを見上げて、
「直ぐには‥分かっていただけないでしょう。しかし、いつかきっと分って頂けます。」
「ヴィーが攫われたって?!」
部屋に駆け込んで来たミリアにアヴェーラが、
「ヴィーを攫わせたのは、この親子だ。そしてこ奴らは、良かれと思ってやった事だと‥‥ミリアもいつか分かってくれる、などと言っておるぞ。」
その言葉に怒りに震えたミリアは、
「マリナ‥‥もう二度と私の前に顔を見せないで‥‥」
マリナの顔も見ずに言った。
「おかしいのは公爵家の皆様の方ですぞ! いくらヤマダユウ殿の妻であっても、ダークエルフですぞ! しかも、我が国を危機に追いやるかも知れんのですぞ!」
ベレン伯爵が大声をあげているとロメルが入って来た。
「殿下! 殿下なら正しいご判断が出来るでしょう! 流れ者だったヤマダユウ殿の‥‥
ダークエルフの妻ですぞ! 建国を間近にした今、何が一番大切なのか!?」
懸命に主張するベレン伯爵を見下ろしてロメルは、
「君こそ分かっていない。もともとユウがいなければ、建国など出来なかったのだ。そしてヴィーのこれまでの貢献を知らずに、危機が迫ったからといって亡き者にしようとするなど‥‥短慮はお前達の方だ! 取りあえず二人とも地下牢へ入れておこう。」
「ま、待ってください! 私は伯爵ですぞ! ダークエルフの娘なぞとは命の重さが違うでしょう!」
「黙れ!! 今、首をはねるぞ!」
アヴェーラに怒鳴られるとベレン伯爵も大人しく連行されて行った。
「ユウ‥‥間に合って。」
ミリアが呟くとロメルもアヴェーラも窓の外を見つめた。