~異世界で国を興します⑥~
◇
「王太后様、我らの謁見を一度は断りながらもお受け頂き、ありがとうございます。」
「良いのだ。他ならぬロメルの申し出だ。無礼にも目をつぶることにしたのだ。」。
謁見は冒頭、ピリピリしたムードで始まった。
(まいったなあ。叔父上の名代で来てみれば、こんな謁見の同席とは‥‥)
周りにバレないように小さくため息をついたワグルの隣で、フリード子爵のアレクが、
(頑張って、乗り切りましょう。)
笑顔で小さく囁いた。。
(そうだ。アレク様だって覚悟を決めている。私もしっかりしなければ‥‥)
ワグルが覚悟を決めた時、ロメルが本題に触れ始めた。
「本日は、我々の考えと今後の身の振り方についてお話しすべく、お伺いしました。」
ロメルの言葉に王太后は、
(アヴェーラから事前に話は聞いたが、ヤマダユウのあのような姿‥‥、本当にそんな話になるのだろうか?)
「カント公爵の計略によって怪我をした」という腕を吊ったユウを横目で見てから、小さくため息をついた。
「僕とヤマダユウは、領主が領地を運営するに当たっての基本的な考えを持っています。それは、領民に出来るだけ豊かな暮らしを提供すること。それによって領民が行う生業の下支えが出来て、持続的に好景気を維持できる。それによって税収も良くなります、」
ロメルの話に、
「ふむ。以前、ヤマダユウが申しておった話だな。」
先日の御前会議でのユウの話を王太后は覚えているようだ。
「しかし、この考えは、必ずしも全ての領主には受け入れられないようです。」
「そうだな。」
「特に、カント公爵は我々の考えを毛嫌いしている様で、先日もヤマダユウを亡き者にすべく謀略を図った様子で‥‥」
気遣う様にロメルが視線を僕に向けると王太后もつられて僕を見たので、僕は小さくお辞儀をした。
すると、
「何を言うか! 黙ってやられていた貴様では無かろう! ワシの王都邸を反撃魔法とやらで焼き払ったではないか!」
物陰から覗いていたカント公爵が、黙っていられずに飛び出してきた。
それを見たロメルが一瞬唇の端を吊り上げてから、
「おおカント公爵、いらしていたのですか。あなたは、これまでも我々のやり方が「国是に反する」として批判してきました。しかし、いくら国を思う忠義心からとはいえ、ヤマダユウを殺そうというのは、やり過ぎではありませんか!?」
「えっ?‥お、おおう! 当たり前ではないか。貴様らのやっていることは王家が治める我が国の国是に反するのだ。だからワシは、ヤマダユウに鉄槌を食らわせることにしたのだ!」
(え? カント公爵は、私怨でユウ様を亡き者にしようとしたのではないのですか?‥‥)
ワグルとアレクが顔を見合わせていると、
(よく見ておけ。これが計略‥いや、謀略というものだ。)
ラートル侯爵が2人に耳うちした。
「そ、そうだとも、ワシは、この国を憂う気持ちから、ヤマダユウに鉄槌を食らわせたのだ。先日の会議ではこ奴の口車に乗せられた馬鹿貴族どものせいで、こ奴を糾弾できなかった。
今こそ、王太后様の前で糾弾してやる。ヤマダユウ、そしてこ奴にそそのかされたロメル殿、そなたらのしていることは国是に反するのだ! この場に集まった者達も同じだ!」
私怨でヤマダユウを襲い、それを糾弾されるものと思っていたカント公爵だったが、思わぬ大義を得て勢いづいた。
しかし、これを覚めた目で見ていた王太后は警戒を強めた。
(先日の事はあくまで私怨の揉め事だったはずだ。それをカント公爵に国是の大義をあたえるなど‥‥。ロメル‥‥貴様本当に‥‥。)
王太后は、歯ぎしりをしてロメルを睨みつけたが、カント公爵の言っていることは間違っていない。
王太后は黙って見守るしかなかった。
そしてこれは、アヴェーラが事前に情報をくれた筋書き通りの状況となっているのだ。
王太后の憂いをよそにカント公爵は勢いづいて、
「ワシはな、この国の民は全て王家のものだと思っておる。兵士も同じだ。それらを一時、領主達が預かっておるに過ぎないのだ。そうですな王太后様!」
「あ、‥ああ。相違ない。」
薄氷を踏む様な気分で慎重に答える王太后に対して、カント公爵は意気揚々と続けた。
「それをこ奴らは、民を豊かにするなどと戯言を言いおって。民も兵士も、その生殺与奪も含めて、王家のものだ。民は生かさず殺さず飼いならし、しっかり税を納めさせよ。それが分からん馬鹿者どもはこの国から出て行け! 王太后様、私は何か間違った事を言っておりますかな?」
王太后は、小さくため息をついた後で、
「公爵は概ね妥当な事を言っておる。しかしな、公爵家の者に対して「出て行け」というのは言い過ぎだ。今からでも遅くはない。悔い改めてはどうかな、ロメルよ?」
それまで目を閉じて話を聞いていたロメルが、自分に振られて目を開いた。
「王太后様にお伺いしたい。カント公爵が申される「国是」をないがしろにする我らは、この国に不要でしょうか?」
「い‥いや‥‥ファーレン公爵領は多くの国税を納めてくれて‥‥」
王太后が迷いながら答えようとした時、カント公爵が、
「そうだ! 国是に従えないようなら出て行くしか無いだろう。そうですな王太后様!」
「え‥しかし‥‥」
即答出来ない王太后だが、ロメルはその顔を見て大きく頷いた。
「そうでしょうね。私もずっとそれを考えていました。」
「ま、待てロメル‥‥」
慌てて立ち上がる王太后を他所に、
「そうだ、出て行け! あっはっは!」
カント公爵が大声を上げた。
ロメルは顔をあげて真っすぐ王太后を見つめて、
「我らは、民を豊かにする政を行いたいのです。兵士を私怨の争いのためなどに使いません。全ての領地で。全ての民が幸せに暮らせる国造りを目指します!」
高らかに宣言したロメルに向かって、
「では、出ていくのだな!」
カント公爵は、うすら笑いを浮かべている。
2人のやり取り聞いた王太后が慌てて玉座から降りながら、
「ま、待てお前たち、待つのだ‥‥」
(全てアヴェーラの筋書き通りだ。でも‥本当にこれで良いのか‥‥?)
必死に何かに抗っているかのようだ。
「ここに宣言します! 全ての民が豊かに暮らせる国造りを目指して、我らは国を興します!」
ロメルは声高らかに宣言した。
それを聞いたカント公爵が叫んだ。
「謀反だ! 謀反人がここに居るぞ! 衛士達、こ奴らを‥‥あっ‥‥ま、待て!」
しかし、言葉の途中で慌てて自ら口を押えてしまった。
(「殺せ」と言っては、ワシがヤマダユウの反撃魔法を食らってしまう。「捕らえろ」と言うだけなら大丈夫なのだろうか?)
口を押えて首を傾げるカント公爵を横目で見てからロメルが、
「王太后様、近いうちにまた、ご挨拶にまいります。それでは本日は失礼いたします! 皆、帰るぞ!」
「はい!」
ワグルやアレク達が立ち上がった。
そしてこれまでのやり取りに皆が気を取られているうちに、ゾラの率いる魔道騎士団が謁見の間の入口近くまで侵入してきていた。
それを確認していたユウが叫んだ。
「魔道騎士団出でよ!」
ユウの掛け声で魔道騎士団20人余りが、謁見の間に駆け込んだ。ロメル達を護衛しながら退出するためだ。直ぐにロメルやユウ達を囲んで小銃を構えた。
それを見た王宮の衛士隊も玉座の王太后を囲むように集結して、魔道騎士団と対峙した。
ロメルが、魔道騎士団の前に出て来て、
「王宮の衛士達に申しておく。ヤマダユウの魔道騎士団は、強力な魔道具を使って数多の魔物を葬って来た。その魔道具を君達に使いたくない。我らを通してくれないか。」
これを聞いた王宮の衛士達は、
「う‥‥」
「どうすればいいんだ? 「謀反だ」と叫んだ公爵様は、命令を途中で止めてしまったし‥」
集結したものの、立ち尽くしていた。
その時、
「皆の者、静まってくれ!」
澄んだ声が謁見の間に響いた。
一見女性と見まがう様な華奢な青年が、大男を伴って謁見の間に入って来た。
「‥‥クラン!」
王太后の安堵の声を聞いて、皆も気付いた。女性のような華奢な容貌だが、まぎれもなくクラン王子だ。そして後ろに控える大男は、いつかヴォルフが「手合せ」をさせられた王宮親衛隊長のボルケスだ。
「ロメル。君の話は聞いた。君とヤマダユウが進める政が、各地で成果を上げていることも承知している。しかし、君達の政は我が王国では、受け入れ困難なものが多いのだ。」
王子に声を掛けられたロメルが前に進み出て、騎士の敬礼をしてから立ち上がった。
「王子、申し訳ありませんが、我々は、我々の国を興すつもりでございます。」
真っすぐ見つめて宣言した。
王子は目を閉じて、小さくため息をついてから、
「そなたから‥‥ロメルからは、もっと色々学びたかった。‥‥残念だ。」
いったん目を伏せてから、顔を上げた。
「しかし私とて、そなた達の独立をおめおめと認めるわけにはいかない‥‥しかし、そなた達と戦うことは‥‥、とても得策だとは思えない。」
そんな2人のもとにツカツカと歩み寄ったカント公爵が声を上げた。
「クラン王子、この謀反人達を逃してはなりませんぞ!」
それを聞いたロメルが、一瞬、唇の端を上げてから、王太后を横目で見て、
「ほう、ご自分が命令すれば、ヤマダユウの反撃魔法を食らってしまう。とはいえ‥‥王子に命令させようとするとは、酷いですね。」
「な‥何を言うか!? ワ、ワシはそんなつもりは‥‥」
慌てるカント公爵を見て王太后が立ち上がった。
「どういう事なのですか?! ロメル?」
我が子に危険が迫ったことを察知した母の顔だ。
「ご説明します。」
ロメルが、ヤマダユウの反撃魔法について説明すると、王太后の目がみるみる吊り上がっていく。
「い、いや王太后様‥‥ワシは決してそのようなつもりは‥‥」
カント公爵が必死に弁明しても聞く耳は持たない。
「だから自分は、命令を途中で止めたのですね。そして‥‥身代わりにクラン王子を危険にさらすなど、もってのほかだ! 衛士達よ、カント公爵を捉えよ! 地下牢へ入れておきなさい!!」
「こ、こら‥離せ!ワシは公爵だぞ! 王太后様、誤解です! 王太后様―っ!!」
衛士に両腕を掴まれてカント公爵が退場した後、王太后が静かに立ち上がった。
「ロメル、この件の扱いについては、先程、クラン王子の言ったとおりです。
そなたたちは強い。ひとたび戦となれば‥‥、多くの死者を出し、王都は焦土と化すでしょう。しかし、我々とて黙って独立を許すことは出来ない。
独立を許す条件に付いては、クラン王子とロメル公太子が、‥‥この先を担う者同士が話し合いなさい。」
言い終えると王太后は玉座に崩れるように座り込み、
(口惜しいが、全てアヴェーラに聞かされた筋書き道理に運んだ。しかし、私はクラン王子さえ‥‥クラン王子の先行きさえ守れれば、それで良いのだ。)
どこか遠くを見ているような表情だった。
当初の予定より、ずいぶん長くなってしまいましたが、ストーリーは最終段階に入ります。ちょっと間隔があきますが、(体調が戻ったので、9月までのようなことはありません。)どうかよろしくお願いします。