~異世界で国を興します④~
◇
「良く来たな、ヤマダユウ。逃げずに来たことは褒めてやるぜ!」
古城に着いた僕らを迎えたのは、額の傷に包帯を巻いた大柄な衛士、カント公爵領の衛士隊長だ。そしてその後ろには衛士隊が100人余り控えていた。
それに対し僕らは、ヴォルフ、ドルー、ワレンの4人だけだ。ヴィーは塀の外に待機させ、影の手とリリィは別の目的で物陰に隠れて待機させていた。
僕らは、相手と20m位の距離を置いて向き合った。
「まず、人質を確認したい。見せてくれ!」
僕の言葉を受けて、
「おい、見せてやれ。」
後ろ手に縛られた6人の衛士達が引きずられるようにして連れて来られた。
今日、先に帰って来た衛士ほどではないが、皆、あちこちに傷を負っている様子だ。
「ヤマダユウ! 1人でこちらに歩いて来い。引き換えにこいつらを返してやる。」
相手の隊長の声に僕は、
「君らが、僕に何をするつもりか知らないが、一つ教えておいてやる。僕は魔導士だ。」
「そんなことは分かっている。だから何だ!?」
「腕に覚えのある魔導士は大抵、「反撃魔法」を仕込んでいるのを知っているか?」
「な、何だそれは?!」
隊長は明らかに警戒するような表情に変わり、隣の男に「手を出すのはちょっと待て」みたいなことを言っている。
「教えてやるよ。魔導士はね、命を狙われるような攻撃を受けた時、自動的に相手に向けて反撃が放たれるように、あらかじめ魔法を仕込んでおくんだ。」
「な、何だと!?」
「僕の命を狙ったヤツに届くわけだから、実行犯と首謀者が別々ならば、それぞれに届くよ。」
「何ぃ!?」
明らかに動揺している隊長に、
「隊長、そんな話は聞いたことがねえ! ハッタリに決まってますよ!」
脇にいた部下が余計な事を言っているが、
「いや、待て。我々だけならともかく、公爵様に反撃魔法が届いたら大変だろう。」
隊長はかなり慌てているようだ。黒幕の名前を言ってしまっている。まあ、カント公爵の指示であることは、影の手によって調べがついているが。
衛士達の集団の後方、古城脇の木陰をよく見ると、馬車が一台止まっている。
先程その馬車に向かって一人の衛士が駆け寄り、馬車の中の人物に何か伝えたようだが、中の人物に何か言われて困っているようだ。
そして僕と衛士達とのやり取りが始まると同時に、僕の後方では続々と配備に着く者達がいた。
やり取りのスキを覗い、徐々に接近して来ていたリリィは、僕らの右側後方の木陰で小銃を構えている。
また、リリィの手ほどきで影の手のスナイパーとして頭角を現してきたベニが、左側後方、古井戸の影から援護すべく準備している。
なおヴィーは、出かける前から僕を守ろうとしていた。
◇
「ユウ様、私も側に居させてくださいです。」
「来てもいいけど、後方に控えていてもらうよ。」
「いやです! 側にいるのです!」
出かける前にひと悶着あったが、
「それなら、精霊の加護をかけておくです。」
ヴィーは僕をイスに座らせると、呪文のような言葉を唱え、それが終わると最後に額にキスをした。
◇
「僕が歩いてそちらに向かう。だからそちらも同時に人質を解放しろ!」
「分った! 早く歩いて来い。」
やり取りの後、僕が歩き出した。
そして僕がゆっくり歩きだし、5、6歩進んだ時だった。
隊長の「やれ!」という掛け声とともに、前列の衛士達が一斉にしゃがみこんだ。
するとその後列では、十数人の衛士達が弓を構えていた。
その衛士たちが、僕に向かって一斉に矢を放った。
僕はこれを予測していたので、前列の衛士がしゃがむと同時に、倒れ込むように臥せると、後ろから飛び込んで来たヴォルフが、マントを広げながら僕に覆い被さる。
これと同時に僕の仲間も動いていた。
ズダダダダ!
リリィとベニは、前列の衛士がしゃがみ込むと同時に、後列の男達をフルオートにした小銃で一斉に剥ぎ払う様に掃射した。
そして後方のヴィーは、僕が歩き始める前から強く祈っていた。
「ユウ様をお守りください。私の命を捧げるです。」
重ねた掌を胸に当てて祈っていると、
『あなたの命は、もっと大切な時に使いなさい。それに貴方達には地精霊などより、もっと強い加護があるのですよ。』
聞き覚えのある声と共に、空に雨雲が広がっていく。
そして放たれた無数の矢が、ユウとヴォルフに向かって近づいて来た時、
ヒュゴッ、
雨を含んだ横殴りの突風が矢を薙ぎ払った。
結果的に、ヴォルフとユウの側に到達した矢は2本だけだった。僕とヴォルフには当たっていないのだが、僕が目配せするとヴォルフが、
「ユウ様! 大丈夫ですか?!」
あたかも矢を受けてしまった様に、僕を担ぎ上げると元来た方向へと駆け出した。
またユウに弓が放たれると同時に、ドルー・ワレンが、人質となっていた衛士の元へと駆け寄って、これを相手方から引き離す。
絶対的に有利と思っていたカント公爵側の衛士達だったが、気が付いた時には後列の弓隊は全滅しているし、しゃがみ込んだ前列の者達は、立ち上がった途端に魔道具(小銃)の餌食になると思うと動くことも出来なかった。
しかし、
「こっちだ。今のうちに奴らから離れるんだ!」
人質が取り返されようとしているのを見た隊長が声をあげた。
「何をしている。奴らを追うぞ!」
一斉に立ち上がり、駆け出した時だった。
ヒュルヒュル‥
という音が上から聞こえて来た次の瞬間、
ボーン!!
目の前を塞ぐように巨大な火柱が上がった。
うわーっ!!
飛び散った炎が服に燃え移った衛士が、火を消そうと転げまわる。
ギャーッ! 助けてくれーっ!
悲鳴を上げる衛士達に振り返ったヴォルフが叫ぶ。
「見たか! これがユウ様の反撃魔法だ!」
ヒュルヒュル‥
ボーン!!
逃げる衛士達に追い打ちをかける様に、2発目の火柱が上がる。
うわーっ!!
ギャーッ!
「反撃魔法とは‥‥な、なんと恐ろしい奴だ。しかしワシが、ここに居ることには気付かなかった様だな。反撃魔法も飛んで来ない‥‥」
馬車の中からその様子を見ていたカント公爵が、そう呟いた時だった。
ボーン‥‥
遠く、街の方で火柱が上がったのが見えた。
「ん? なんであんなところに火柱が?」
確認のために馬車から降りたカント公爵は、あることに気付いた。
「あの方向は?‥‥うおおっ! ワ、ワシの王都邸か?!」
その場にへなへなと座り込んでしまった。
僕を担いだヴォルフが、後衛のリリィ達と合流すると、そこにヴィーも来ていた。
「ヴィー。ありがとう。加護の力はすごいね。」
「地精霊の加護では、あんなすごい嵐は起こせないのです。」
「えっ? じゃあなんで?‥‥」
首を傾げる僕に、ヴィーがかざした手の先を見ると、半透明の美しい女性の姿があった。
「セレス様!」
よく見ると、セレスの足元に笑顔の幼女がまとわりついていた。
「テレス様も?! ありがとうございます。」
僕が頭を下げると、テレスは微笑み、幼女姿のテレスは「バイバイ」と手を振りながら消えて行った。