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~異世界で国を興します➁~

    ◇


 「ユウ、こちらの様子はどうだ?」

翌朝、王都公爵邸に着いたロメル殿下に聞かれて、

「水と食料は運び込みましたから、2,3日は大丈夫だと思います。」

なお、薬だけはシアンに直接届けてもらっていた。戻ったシアンに、ワレン隊長の怪我を確認したところ、幸い傷が化膿する前だったので、ポーション(現世の薬)が劇的に効き、回復に向かっている、とのことだ。



 「では交渉に行くのは、この顔ぶれでいいね。」

「はい!」

ロメル殿下の声掛けに応えたのは、公爵家執事で剣豪五指のバート、同じく剣豪五指ドルクとヴォルフ、そして僕・ヤマダユウと魔道騎士団の副団長のゾラの5人だ。


 「い、今この場の皆様だけで千人の衛士隊を相手にするのですか?!」

驚いているドルーに、

「ああ、そうだよ。別に戦う訳じゃないからね。‥‥でも、もし戦いになっても、この顔ぶれならそこそこイケると思うけどね。まあ、そう思わせるようでないと、交渉も有利に進まないからね。」

笑顔で答えるロメルに、

「まあ、そういう事ですな。」

クマのような大男、ドルクが同意した。

そしてバートとヴォルフは、笑顔で目配せしている。


(これが、我が国の剣豪五指と言われる武力の頂点に立つ男達か‥‥)

改めて僕達を見つめているドルーに、

「あ、僕は彼らとは違って、普通の人間ですからね。」

僕が顔の前で掌をヒラヒラと振ると、

「そんな彼こそが、多くの魔物を葬って来た、我が国の最強戦力だ。」

ロメルが僕を紹介すると、皆、大きくうなずいている。

(チョット違うと思うんだけど‥‥)

僕は苦笑いするしかなかった。


「どうか、仲間達をお願いします!」

僕らの前に膝を付いたドルーは、騎士の敬礼をして頭を下げた。


    ◇


 「さて、今日で5日目だ。そろそろ中の奴らも、音を上げる頃なんじゃねえのか?」

「どうするんだ? このまま日干しにするのか? それとも弱った頃合いを見て、攻め込んで全滅させるのか?」

古城を囲む野営地で王都の衛士達が談笑していると、豪華な馬車が近づいて来た。


 「誰だろう? ん、あの紋章は‥‥公爵家か? カント公爵の馬車だ!!」

カント公爵の馬車だと気付いた衛士たちが慌てて居住まいを正していると、彼らの前に馬車が止まった。

「おう、皆の者、ご苦労であるな。」

馬車からカント公爵が降りてきた。


 その様子を木陰から覗いて、

「カント公爵が来たぞ。ユウ様にお知らせしろ。それから、ユウ様に指示された件も準備しておくぞ。」

野営テントを監視するシアンの指示で、影が2つ「しゅっ」と消えた。



「殿下、カント公爵が到着したようです。」

影の手から連絡を受けた僕が声を掛けると、ロメルが立ち上がった。

「よし、乗り込むぞ!」

「おう!」

僕達は古城に向かった。


     ◇


 「これはこれは、カント公爵様。いらしていたのですか?」

「な、な!? ロメル殿! いったいどうして貴殿がここへ!?」

豪華な天幕の下で花見でもするかのように、妾に酌をさせていたカント公爵は、ロメルに声を掛けられると、驚いてイスからずり落ちそうになっている。

「そ、それに貴様! ヤマダユウ! 貴様まで、何しに来たのだ?!」

イスに座り直したカント公爵が、僕を見つけて立ち上がって指をさした。


「え? 用事があるから来たのに決まってるじゃないですかぁ。」

「き、貴様―っ! 私をバカにすると許さんぞ!」

僕の答えに、なぜか怒り心頭の公爵に、僕の連ればかりでなく、周りの衛士達もついニヤニヤとしてしまった時、ロメルの声が響いた。


「この場の衛士隊の責任者を出してくれ! なんでこんなことになっているんだ! 王都の警備をないがしろにして、君たちはどういうつもりだ! カント公爵と僕に経緯を説明してくれ!」


 急遽、説明の場が設けられた。

なおカント公爵が、詳しい経緯を確認することも無く、物見遊山で来ていることは確認済みだ。

カント公爵とロメルが並んで座る前に、カント公爵家の衛士隊長と王都の衛士隊長が立ち、説明を始めた。


 説明は概ね事実に沿っていたが、けんかの仲裁に入って背後から刺されたのは、カント公爵家の衛士ということになっていた。

話を聞いたカント公爵は大いに憤慨し、「卑怯者のラズロー伯爵領の衛士らしいわい!」と吐き捨てるように言った。


 これを聞いて、一人の衛士が野営テントからそそくさと離れていくのを、ヴォルフが見逃さなかった。

(追いかけてくれ。)

植え込みに目配せすると、植え込みから影が「しゅっ」と出て行き、その衛士を追った。


 説明を聞き終わった後で、ロメルが小さくため息をついて、

「いずれにしても、ケンカが発端だね。それがここまでの騒ぎになったことは遺憾だよ。こんな下らないことで、王都を守る衛士達が騒ぎを起こしてはいけないね。直ぐに撤収して本来の仕事に戻るべきだろう。」

それにカント公爵が噛みついた。

「ロメル殿下ぁ、甘いですな! だいたい、事の発端は、卑怯者のラズロー伯爵領の衛士でしょう。その事件に関わった奴らに出頭させて、まとめて処刑すべきですな。」

「いや、死人が出ているわけではないですから、少し刑罰が重すぎるでしょう‥‥」


 2人のやり取りを聞いていた衛士が、さらに数人、そそくさと離れていった。これも影の手が、追って行った。


 「だいたいな、ラズローの奴は、ついこの前まで私に尻尾を振っていたくせに、今は、ファーレン公爵に鞍替えしたようだ。きっとまた直ぐにファーレン公爵も裏切るぞ。そんな領地の衛士達だ。ろくなもんではないだろう。」

カント公爵が意気揚々と語っていると、

「カント公爵様、喧嘩の仲裁に入った衛士を背後から刺した犯人を捕えたようです。この場に引き立ててよろしいですか?」

バートが申し出ると、

「おお、貴様、ファーレン公爵家の家臣でありながら気が利くな。よし、引っ立ててまいれ!」


 これを聞いたカント公爵家の衛士隊長が、青ざめて下を向いた。

「あれぇ、カント公爵様。おたくの隊長、何か顔色が悪いみたいですよ。」

僕が指摘すると、

「うるさいわ! 貴様はだまっておれ!」

「ハイハイ。」

怒られて、僕はそそくさと引き下がった。


 「この男が犯人です。喧嘩があった酒場の店主も見ていたそうです。間違いありません。」

しかし、引き立てられた男を見たカント公爵は、

「き、貴様は確か‥うちの衛士ではないか? おい、バートとやら! 貴様、何をやっているのだ。人違いだぞ!」

「いいえ、カント公爵様。そもそも、そちらの隊長が嘘をついていたようです。喧嘩の仲裁をして刺されたのは‥‥こちらのラズロー伯爵領の隊長だったのです。」


 僕が肩を貸してワレン隊長を連れて来て、

「本当は、刺されたのはこの人でーす。」

笑顔で言うと、ようやく事態が飲み込めた公爵は、真っ赤になってウソをついた自領の衛士隊長を睨みつけた。


「貴様ぁ、私に恥をかかせおったな!」

声を荒げると、いきなり剣を抜いて隊長を切りつけた。

ギャッ‥

額を切られて転倒した隊長は、這うようにしてその場から逃げ出した。


 その顛末を見て、ロメルが笑顔でカント公爵に声を掛けた。

「ではカント公爵様、この場は、もう御開きで良いですね?」


 すると、剣を抜いたままのカント公爵は肩を震わせて、

「ロメル殿‥‥、あまり調子に乗らない方が良いですぞ。これは単に忠告のために言うのですが、千人を相手に、わずかな手勢で乗り込んでくるなぞ‥‥、あまりに調子に乗りすぎであろう!!」


 ジャキン‥

公爵の声に急かされたように、そばにいた数十人の公爵家の衛士達が一斉に剣を抜いた。


 「ほう‥‥」

それに反応したバートが、前に出ながらゆっくりと剣を抜いた。

「其方達‥‥我が主に向けて剣を抜いたのか? もしそうなら、それなりの覚悟があるのだろうな。」

剣を構えると前列に立つ衛士達を睨みつけ、剣に力を込めた。


 その途端、

「あ、あわわっ‥」

「ひ、ひぃ‥」

最前列の衛士達がよろけて膝を付いた。中には倒れる者もいる。

バートが剣を構えて、「威力」を込めると、強い覇気が波のように押し寄せた。それを受けると気の弱い者は、恐慌状態に陥ってしまうようだ。


 「なかなか、この域までは行かないんだよなぁ。」

「そうですね。まあ俺は、まだ駆け出しですから‥」

バートに続いてドルクとヴォルフが剣を抜き、威力を込めた。

衛士達は、今度は強く押される様な感覚を受けて、ドサリと尻もちを付いてしまう者が続出した。


 「う、うわぁーっ! 」

「こんな奴らに敵うわけがねえっ!」

公爵領と王都の衛士達は、先を争うようにして逃げ出した。

「こ、こら貴様ら! 逃げるな。逃げるなーっ!」

カント公爵がいくら怒鳴っても、いったん崩れた流れは止まらない。

「そうだ! この場は速やかに解散しなさい!」

ロメルが高らかに声をあげると、衛士達は「渡りに船」とばかりに立ち去って行った。


気が付けばカント公爵の側には、腰を抜かして逃げられない衛士と僅かな側近しか残らなかった。


 「では、御開きでよろしいですね。」

ロメル殿下がカント公爵に声を掛けたのを確認したので、

「みんなぁ、帰るよーっ! 伯爵領の衛士さんは、いったんうちの公爵邸に寄ってね。一休みして、健康状態の確認をしてから帰ってもらうね。」

影の手の手引きで古城の庭に整列していた伯爵領の衛士達に、僕は笑顔で声を掛けた。


「おのれぇ‥‥覚えておれよ!」


整然と退出していくラズロー伯爵領の衛士達を横目で見ながら、カント公爵は怒りに震えていた。


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