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~異世界で国を興す準備が始まりました⑦~

   ◇


 500人以上の救助隊による本格的な救助活動が始まった。

僕はその隊員達にある道具を持たせてあった。衛士の一人が細長い棒を潰れた家の隙間に差し込んでいる。そして手元のモニターを見て、

「おお、中が良く見えるぞ! 」

驚きの声を上げている。

僕が現世日本から持ってきたのは、ライト付き小型カメラだ。竿の先端に付けて隙間に差し込めば瓦礫に埋もれた中の様子を見ることが出来る。


「誰かいませんかーっ! 助けに来ましたよーっ!」

「声が出せなかったら、何でもいいから音を出してみて下さーい!」

そして皆に、出来るだけ声を掛け続けてもらう様にしていた。


「オイ! 人がいるぞ! 生きてるぞーっ! 」

「うおーっ!」

生存者を一人見つける度に現場が勢いづいた。


     ◇


 しかし、救助活動が続くルトの村に夕暮れが近づいてきた。

「くそーっ‥‥折角勢いづいてきたのに。」

唇を噛みしめるドルーに、

「作業は止めませんよ。」

僕の視線の先では、ゾラと魔道騎士団が照明を準備している。

現場を広く照らすバルーンライトと、要救助者が見つかった現場を集中的に照らすサーチライトだ。

「す、すげえ‥‥。これがヤマダユウ子爵の光魔法か‥‥」

伯爵領の騎士達が驚いている。


「あちらでは、何をやっているのですか?」

先程から、大きなテントを何棟も建てているのをドルーが指差した。

「あれは、救護テントです。グランピング‥‥大きなテントなので、多くの人を収容出来ます。そして、そのうちの一棟は、医療テントです。ファーレから医師を連れてきました。」

「何と‥‥」

ドルーが、言葉を失っていると、


「ドルー隊長! 隊長のご家族が救助されました!」

若い騎士が駆け寄って来た。

「な、なにぃ?! ‥‥い、いや、そうか。良かった。」

家族が救出されたという連絡を受けても、隊長として平然と振舞おうとしているドルーに、

「行ってあげて下さい。」

僕が笑顔で促すと、

「も、申し訳ありません!」

ドルーは、若い騎士と共に現場へ向かった。



「隊長‥‥実は、申し上げにくいのですが、息子さんは助かったのですが‥‥」

現場に着いたドルーに、

「あっ、父ちゃん!」

しがみついてきたのは、息子だけだった。


「奥様は、息子さんを守るようにして‥‥。ご遺体は、まだ暖かいのですが、既に呼吸はしていません。」

身をていして息子を助けて満足したのだろうか。ドルーの妻は、微笑む様な表情をしていた。


「つっ‥‥」

ドルーが、妻の亡骸に手を掛けようとした時、

「チョット待って下さい!」

ユウがタンカを持った衛士を連れて駆け寄った。

「まだ助かるかも知れません!」

「えっ‥‥、な、何を言っているのですか? 妻もうは死んで‥‥」

「とにかく医療テントへ!!」


    ◇


「次の患者は、誰だ?! 」

「はい! この子です!」

ダレン医師の声に応えているのは、リリィだ。まるで戦場のようにごった返すテントの中で、2人は冷静に振舞っていた。

それが一つでも多くの命を救うために必要な事だと分かっているかのように。


「ダレン先生! リリィ! AEDをお願いします。」

僕らがドルーの妻を運び込むと、リリィが箱から手早くAED機器を取り出し、横たわる妻の体に当てた。

「刺激を入れます。離れて下さい!」

リリィの声の後、

 バン!

機器が発した衝撃と共に、妻の体が大きく反るように跳ねた。


それを見た途端、今まで平静を装っていたドルーの表情が変わった。

「何をするんだ!止めてくれ!! 女房はもう死んでいるんだ! これ以上痛めつけないでくれーっ!」

妻の体に覆い被さろうとするドルーを、ヴォルフが後ろから慌てて押さえた。

「謝るっ‥。部下が無礼をはたらいたことは、謝るっ! だから‥止めてくれえぇ!!」

ドルーの悲痛な声を聞いたヴォルフは、羽交い絞めにしていた腕を持ち替えて、ドルーを後ろから抱き抱えるようにして、

「信じて下さい。ユウ様を! そして‥今、奥様の治療をしているのは、俺の妻です。信じて‥信じて下さい!」

ヴォルフも声を詰まらせる。


「もう一度、やります!」

 バン!

妻の体が再び大きくのけ反ったかと思った次の瞬間、

ゲホッ、ゴホッ‥

死んだと思っていた妻が、咳込み始めたのだ。


「気道確保します!」

すかさずリリィが、口を付けて呼吸を助けると、

「ゲホゲホ‥うえっ」

妻が泥水を吐き出した。

「ようし! 助かるぞ! 奥さんしっかりしてね! リリィちゃん良くやった!」

ダレン先生に声を掛けられたリリィは、口の周りに着いた泥を拭ってから微笑んだ。


「心臓が止まって呼吸が無くても、直ぐなら蘇生できる場合があるんだ! ユウ様のポーション(現世の薬)もある。みんな、死んでいる様に見えても諦めないで連れて来てくれ!」

「はい!!」

ダレン先生の声掛けに、皆さらに勢いづいた。


 全身の力が抜けた様にへたり込んでいたドルーは、

「あ‥ありがとう‥ありがとう‥」

ヴォルフに向き直って、拝むように手を握った。


 そしてリリィにも、

「ありがとう!」

今度は力強く声を掛けてから立ち上がった。

「ようし。助けよう! 1人でも多く、出来る限り助けよう!」

ヴォルフと顔を見合わせると、2人でテントから駆け出した。



 夜を徹して行われた救助活動によって、夜が明ける頃には、30名以上の村人が瓦礫の中から助け出された。

救助に当たったファーレン公領の衛士達は、村人が1人助け出される度に、自分の身内が助かったかのように歓声を上げ、残念ながら遺体で発見された人には、その場の全員で祈りを捧げた。


     ◇


「な、何が起こっているのだ。」

先刻からその様子を食い入る様に見つめている人物がいた。

カント公爵領から戻り、村に駆け付けたラズロー伯爵だ。


「いかがですか、伯爵。ヤマダユウの災害支援活動は?」

声を掛けられて伯爵が振り向くと、ロメル公太子が微笑んでいた。


 ロメルは、ラズローを救護テントに案内した。


「はーい、みんな、朝ゴハンなのですよ。」

「わーい!」

ヴィーが声を掛けると歓声が沸き、あっという間に子供達に囲まれた。

「たくさんあるです。慌てないでなのです。」

転びそうになった子を抱き起こしてから、ヴィーが、お握りを配っている。


「さあ、朝ゴハンの準備が出来たら、100人ずつ交代で食べさせるわよ。みんな準備はいい?!」

「おうっ!!」

ミクが率いるウルド直売所の炊き出し部隊が、声をあげている。


 これらを、目を丸くして見つめるラズロー伯爵に、

「座って、少し話しましょうか?」

ロメルとラズローは、テント裏にイスを出して、二人だけで話しをした。


「なぜ、ヤマダユウは‥‥、いやヤマダユウ子爵とファーレン公爵家は、この機に攻め込むこともせず、これ程大がかりな支援をしてくれるのですか?」

信じられない物を見て来たような表情の伯爵にロメルは笑顔で、

「ヤマダユウにとっては、弱みに付け込んで攻め込むよりも、領民を助けることの方が、優先だったからでしょう。」

「他所の領地の民ですぞ!? しかも、敵対しているわしの領地の!?」


 納得できずにいるラズローに、ロメルは微笑みながら、

「ヤマダユウの価値観は、この世界の常識とは異質のものです。しかし、落ち着いて考えれば、納得できることばかりです。」


 そして、もう一度微笑んでから遠くを見るようにして、

「伯爵、僕はね。ヤマダユウに会うまでは、ただ理想を思い描くだけで、踏み出す勇気を持てない男だった。」

筆頭公爵家の公太子にして剣豪五指にも数えられる「大戦の英雄」ロメルの、思いもよらない気弱な発言に、ラズローが驚いてその顔を見返した。


「ヤマダユウに会って僕は変わった。彼に会うまでは、世の中を変えていくなんて‥‥見果てぬ夢だと思っていました。しかし、ユウは実際に‥‥次々に村を、街を、領内を変えていく。多くの民を豊かにして、幸せにしていく。

それを見て僕は、自分のやりたかったことに気付きました。これを国中に広げていくべきだと。

もちろん、広げていく過程では、諍いも反論もあるかもしれない。でも、‥僕は見たい‥‥変わっていく世の中を‥‥僕達が変えていく未来を。」


そして驚きの表情のままのラズローに向き直って、

「僕らと一緒に行動してみませんか? その上で反論があれば、その都度、話し合っていきしましょう。」

ラズローが見上げるロメルの笑顔は、朝日に照らされて眩しかった。


   ◇


「ロメル殿下、我が領地の村をお助け頂き、ありがとうございます。そしてヤマダユウ殿、今まで申し訳なかった。そしてありがとう。」

救助活動が概ね終わった後、テント前で、僕達の前に座り込んだラズロー伯爵は、まるで土下座をするかのように頭を下げた。

僕は慌てて、伯爵の手を取って立ち上がらせて、

「いいえ。このような有事には、それまでのしがらみは捨てて、助け合うべきですから。」


 笑顔の僕を見た伯爵は、隣のロメルと目を合わせてから大きく頷いた。

「ヤマダユウ殿、私はカント公爵とは袂を分かちます。あなた達と行動を共にさせて下さい。」


 差し出された伯爵の手を僕が強く握ると、大きな拍手と歓声が沸き上がった。


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