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~異世界で国を興す準備が始まりました⑤~

     ◇


 今月は現世に行く予定はなかったが、ミクの予知を受けた僕は、急遽「トラベラー」の力でリーガン子爵領から、そのまま現世日本へ行くことにした。そして秋葉原の電気街で必要になりそうなものを注文するなどした後、そのままファーレン公爵領に戻った。


「ロメル殿下に緊急の相談があります。出来れば公爵様にも同席お願いします。」

城に行くと直ぐにバートさんに声を掛け、ヴォルフとリリィ、ヴィー、魔道騎士団副団長のゾラにも声を掛けた。



「ユウ、急にどうしたというのだ。説明せよ。」

僕らが揃った会議室に、やや遅れてアヴェーラ公爵が入って来た。

「はい。ラズロー伯爵領で、山崩れか地滑りのような大規模災害が、近日中に発生します。多くの犠牲者が出る大規模なものです。」

「なにぃ!? ‥なんだその「近日中に」と言うのは? ‥‥ん?! ミクか!? ミクが予知したのか?!」

「それは大変じゃないですか!」


 会議室がざわめく中、ロメルが立ち上がった。

「ユウ、事が急を要するなら、皆で手分けして取り組もう。役割分担はあるのか?」

「はい。スラム街の地震災害の時と同様、大司教様のご威光をお借りして、まずは、ラズロー伯爵を説得しようと思っています。ロメル殿下には教会に同行頂けませんか?」


 すると僕の言葉に首を傾げていたバートが立ち上がった。

「ユウ様、残念ながら‥‥現在、大司教様は王都の教会本部へ出かけておられます。お帰りは来月と聞いております。」

「ええっ?」

驚く僕にアヴェーラが、

「ユウ、大司教がいなければ、ラズロー伯爵を説得するのは難しいぞ。あ奴とカント公爵は、我々と敵対することで王宮の庇護を受けているのだ。あの男に「災害が起こる予言があった」などと言っても、大司教がいなければ、‥‥特にお前の言葉は信用しないだろう。」

ため息をつきながら言った。


 皆が心配そうに僕を見つめたが、

「それでも行って話をしてみます。住民を災害から救うためには、領主の了解を得て、避難してもらうしかありませんから。」

その後、僕は様々な準備について皆に説明し、手分けして取り掛かってもらうようにお願いした。


    ◇   ◇



「ほーぉ、それではヤマダユウ殿は、山崩れが起こるから領民に村を引き払えと言うのか?」

「はい、その通りです。」

「そして、その予言をしたのは、ファーレ大教会の大司教様だというのか?」

「はい、その通りです。」

僕は時を置かず、教会の神官を伴ってラズロー伯爵邸を訪れていた。


 白髪で小太りのラズロー伯爵は、僕を一瞥してから、教会から連れて来た若い神官に視線を移した。

若い神官は、伯爵に睨まれると目を合わせることも出来ずに下を向いてしまった。


「信用出来んな。ヤマダユウ殿は今、隣の領地でリーガン子爵を垂らし込んでいる最中であろう。どうせ、うちの領地に入り込む足がかりが欲しいのであろう。 帰れ! よりによって災害が起こるなぞと縁起でもない事を言いおって。ファーレン公爵には、抗議しておくからな!」

「お待ちください伯爵! せめて用心のため、村の住民達に危険を知らせても良いでしょうか?」

「なにぃ‥‥許さん! 許さんぞ! 領民をたぶらかすようなマネをしたら、ただでは置かんぞ!」

僕らは追い出されるようにして伯爵邸を後にした。



 帰り道の馬車の中で、心配顔の若い神官が、

「ところで子爵様‥‥先程も言っておられましたが、大司教様の留守中に「大司教様が預言した」などと言って本当に大丈夫なのでしょうか? 前回の地震のように「神の啓示」があった訳でもありませんし‥‥。」

僕は、出発前にロメル殿下と共にファーレ大教会に立ち寄り、大司教様のご威光をお借りする旨の確認は取っていた。

「急いでいたから説明を省いたけど、あの山は今にも崩れそうな危険な状態なんだ。それを言っても伯爵には信じてもらえないだろうから、大司教様のご威光をお借りしようと思ったんだよ。‥‥やっぱり駄目だったけど。

でも間違いなく近日中に災害は起こるから、大司教様に迷惑が掛かるようなことはないよ。」

僕は、ミクの予知に触れないように説明しながら、

(しかし、こうなったら‥‥次の段階に進まなければ‥‥。)

帰り道を急いだ。


 僕は、注文していた資機材を現世日本に取りに行った。ゾラに準備をさせている災害支援隊に使ってもらうためだ。そして、その他の準備も急がなければ。


     ◇


「ヤマダユウの奴め、縁起でもないことを言いおって。胸糞悪い奴だ。」

伯爵邸の執務室で機嫌を損ねたままのラズロー伯爵に、

「伯爵様。先程ヤマダユウの奴めが言っていた村の事で、実は私も、耳にした事がありまして‥‥」

「なんだ? 申してみよ。」

「はっ!」

日頃から伯爵の護衛を務めている近衛隊長のドルーが、伯爵の前にひざまずいた。


「なにぃ、「山鳴り」‥とな?」

ドルーは、災害が起こるといわれたルト村の出身で、一昨日用事で実家に帰った際に、妻に聞いた話を説明した。「山鳴りが聞こえる。何かの前触れではないか。と何人かの村人が言っている。」と言うのだ。しかし、執務で多忙な伯爵に報告する機会を逸してしまっていた、というのだ。


「ううむ、山鳴りか‥‥。もしもヤマダユウの話に耳を貸さずに、本当に山崩れが起きたら、わしは非難されるだけでなく、なにより領民が助けられんな。よし、ドルー。そなたはルト村で裏山を調べてみよ。」

「伯爵様、大変ありがたいお話なのですが、今、我が領地は、カント公爵様の命により、王都の守護隊として多くの衛士を出征させております。伯爵様のお側が手薄になっては‥‥」

「ばか者! お前はそんな心配をするな。いざとなったら、カント公爵様の衛士をお借りすればよいのだ。行ってまいれ。」

「はっ。ありがとうございます。」

ドルーは、伯爵に深く頭を下げた。



「みんな、急ぐぞ!」

「はい!」

同じルト村の出身の若い騎士2人を伴って、ドルーは村へと馬を走らせた。

 

      ◇


「ここで少し馬を休ませよう。」

村へ続く街道を走り、丘を登り切ったところでドルーは、若い騎士たちに声を掛けた。

ここからルト村を挟んだ反対側の丘陵地に、ドレガン子爵領の牧場地帯が見える。そこでヤマダユウが金儲けをエサに村人を垂らし込んでいると聞いた。

(まったく‥忌々しいかぎりよ。)

ドルーが、舌打ちをした時だった。


 ゴゴゴ‥‥

 何処からともなく、地鳴りのような音が聞こえた。その途端だった。


「ドルー隊長! 見て下さい! 山が‥‥うわーっ!」

若い騎士が指さす方向は、今向かっているルト村の方向だ。

村の裏山が滑るように崩れていくのだ。


 ドドド‥‥

 山の斜面が、立ち木をそのまま残して滑るように村へ向かっているのだ。

「‥‥」

あまりの不自然な光景に彼らの思考が一瞬止まってしまったが、山際の家が土砂に飲み込まれるのを見た瞬間、止まった思考が目を覚ました。

「た、大変だーっ!! 急げ! ‥‥いや、待て。一人は領主邸へ戻れ! この一大事を伯爵様にお知らせするのだ!」


 ドルー達2騎は村へ、そして1騎は、元来た道を伯爵邸へと駆け戻った。


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