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~異世界で国を興す準備が始まりました④~


    ◇  ◇



「おお、美味いじゃねえか!」

「コクがあって、酒にもパンにも合いそうだ。」

試食会に参加した村の住人たちから歓声が上がった。


 僕らは、新たに産業振興の支援要請を受けたリーガン子爵領に来ていた。そこで僕とミクが目を付けたのは、放牧されていた乳牛だった。聞けば、牛乳を生産しているのだが、流通が発達していない領内では、余って処分することが多いというのだ。

そこで、チーズ・バター・生クリーム等、乳製品の加工技術を伝授することにした。

短時間で作れるモッツァレラチーズで試食会をしたところ好評だ。この村でも以前、バターや生クリームのようなものを作ってみたが、加工品として売り出すような物は作れなかったそうだ。

なお、出来上がった製品を瓶詰にする技術指導もウルド直売所のスタッフが行っている。


「ありがとうございます。これなら日持ちしますから、外に売り出していけます。」

丘陵地帯の村長むらおさからお礼を言われたミクは、

「良いのよ。その代わり売り出せるようになったら、私達に優先的に卸してね。菓子工房を続けていくには、乳製品の入手先が心許なかったのよね。」

今回の技術支援は、ミクやウルド直売所にも有益だった様だ。


     ◇


「お兄ちゃん。この領地では、農業振興のために乳製品の製造と野菜の栽培指導をするんだよね。あとは街で‥‥お裁縫を仕事として広めるんだっけ?」

「うん、領主のリーガン子爵からの要請は、丘陵地帯での農業振興と領都(といっても小さな街だが)での仕事づくりだったからね。街の方では、使っていなかった領主邸の倉庫をお針子さんの工房として使えそうだ。ファーレから技術指導に来てもらう予定だよ。」


 試食会を終えて一息付いた僕とミクは、牧場に造った仮設工房のテラスから丘陵地帯を見下ろしていた。

「でも、ここから見下ろせるお隣の領地、何て言ったっけ‥‥」

「ラズロー伯爵領。」

「そう、そのラズロー伯爵は、カント公爵と手を組んで、お兄ちゃんが子爵になるのを邪魔した人なんでしょ? でもロメル殿下が「ラズロー伯爵領は位置的にも重要」って、言ってたみたいだけど‥‥。」

「そうなんだよね。ラズロー伯爵領は、ファーレン公爵領からラートル侯爵領までの街道の中間地点だから、中継拠点を作りたいんだよね。‥‥でも難しい。カント公爵とラズロー伯爵は、ファーレン公爵家や僕を敵対視しているし、それによって王宮の庇護を受けている感じもするし‥‥。」


「ふーん。難しそうだね。‥‥えっ? あっ?! ああーっ!!」

突然、ミクが叫び声を上げて頭を抱えた。

「どうしたんだ?! ミク!?」

「キャーッ! 山が、山が崩れるっ! 家が潰れる! 逃げてーっ!! みんな逃げてーっ!!」

ミクは、頭を抱えて悲鳴を上げながら悶えている。


「ミク!! どうしたっていうの!?」

悲鳴を聞いたルー姉さんが駆け付けて、震えるミクを抱き寄せた。


「キャーッ! キャーッ! 家が潰れる! 人が埋まっちゃう! 早く‥‥逃げてーっ!」

「ミク! しっかりして! いったい、どうしたっていうんだい?!」

ルー姉さんに抱かれても、叫び声が止まらないミクを見て僕は気付いた。

(そうか! 明日は満月だ。ミクの予知が発動したんだ!)


「ミク! 「見えた」んだな? どこだ?! どこで災害が起こるんだ?」

「い、今‥今、見下ろしてた村‥‥キャーッ! 子供が埋まっちゃう!!」

「ラズロー伯爵領の村だな! いつだ!? いつ起こるんだ!?」

「わ‥分かんない‥。 でもこの感じは‥‥すぐだよ! すぐ来ちゃうよ! キャーッ!!」

ミクは悲鳴を上げて気を失った。


「ミク!? しっかりしておくれよ! どうしたって言うんだい!?」

腕の中で気を失っているミクを気遣いながら、ルー姉さんが僕を見上げた。

「ユウちゃん、ミクはどうしたっていうんだい?! 何か知っていそうだよね。教えてよ!」

僕はミクの能力について、「絶対に秘密にしてくれ」と念を押した上でルー姉さんに説明した。


「えーっ?! すごいじゃない! そんなすごい力、何でもっと使わないのさ?!」

不満顔のルー姉さんに、

「そうだね。ミクのこの力は、‥‥特に権力者が、こぞって欲しがるだろうね。そして‥‥是が非でもミクを手に入れようとするだろうね。」

「ええっ!?‥‥そんな‥‥。ご、ごめんよ。軽々しく聞いてごめんよ。 絶対、絶対! 秘密にするよ。」

ルー姉さんは後悔を口にした後で、

「ミク。そんな大変な秘密を持っていたなんて‥‥。みんなであなたを守るからね。あたし達が、絶対守るからね。」

ミクを優しく抱きしめて髪を撫でた。


(この事態は、‥‥直ぐに動かなければいけないな。)

僕は、ルー姉さんの腕の中のミクを見つめながら、思いを巡らせた。


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