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~異世界で国を興す準備が始まりました③~

   ◇   ◇



「フリード子爵様が、到着されました。」

来客が告げられると城内が色めき立った。

「アレク君が来たのね!」

「キャーッ! お出迎えしないと!」

ミリア姫とリーファ妃が駆け出すのを見て、慌ててメイド達が追いかけた。


 城の玄関ロビーには、少女と見まがうような色白で華奢な美少年が立っていた。

「アレクくーん。 いらっしゃーい。」

ミリアが駆け付けて声を掛けると、

「お迎えありがとうございます。ミリア様。アレク・フォン・フリード子爵、只今到着いたしました。」

貴族が外出時に被る装飾のついた大きな帽子を取ると、サラサラの金髪がほどけた。

切れ長で瑠璃色の瞳がリーファによく似ている。

アレクは今年13歳になったばかりだが、姉の嫁入りによって当主の座を譲り受けた少年領主であった。


「あら! アレク君、少し見ない間に、また背が伸びたのねっ! もう私よりも大きくなっちゃったのかしら?」

続いてリーファが、目の前に駆け寄って声を掛けると、

「もう姉上よりも、背は高いです。」

少し恥ずかしそうに答えた。確かに視線は少しだけミリアを見下ろしていた。


「じゃあ、何かあった時に、お姉ちゃんの後ろに隠れることは、もう出来ないってことね。」

「ミリア様、勘弁してください。」

ミリアにからかわれると、赤面して下を向いてしまうアレクだった。


「ミリア、その位にしておきなさい! いくら見た目が可愛らしくても、アレクは領主だぞ。無礼であろう!」

助け舟を出したのはロメルだった。

「あっ! ロメル殿下!」

ロメルを見つけると、駆け寄って跪き、騎士の敬礼をするアレクだったが、

「君は僕の義弟おとうとだ。そんな挨拶などは良いのだ。」

ロメルは、手を取ってアレクを立ち上がらせると、肩を抱いて歓迎している。


「ムフフ‥‥、萌えるわ。お兄様とアレク君‥‥。」

仲睦まじい2人を見て満足そうにつぶやくミリアであった。


    ◇


「スート子爵様が到着されました。」

「ベレン伯爵も、直ぐに到着されるようです。」

バートの元へ駆け寄って来た衛士が小声で告げた。


 アレクが城を訪れた翌日、公爵の城は、いつになくピリピリしている。

今日は、ある会談のため、周辺領地から秘密裏に領主達が集まって来ていたのだ。

既に東部領から代官のワグル、また、前日にフリード子爵家の現当主のアレクが来ており、ファーレン公爵家と親交の深い領主達が集められていた。



 先日と同じ会議室に集まっていたのは、ファーレン公爵家からアヴェーラ公爵とロメル公太子、そして家臣のヤマダユウ子爵、ドレン子爵、東部領(旧ゲラン伯爵領)を預かる代官のワグル、近隣領地からスート子爵とフリード子爵、やや遅れて参集したベレン伯爵だ。

集められたのは、遠方で簡単に来ることが出来ないラートル侯爵を除いて、現在、ファーレン公爵領と親密な連携関係にある全ての領主達だった。


「オホン‥‥皆様、本日は「産業振興協議会」にご召集頂きありがとうございます。当会議の議長を務めますヤマダユウでございます。この会議は、各領地の皆様と繊維産業や農業といった産業振興のための調整を行う目的で設置したものです。まず、会議に先立ちましてアヴェーラ大公爵からご挨拶を頂きます。」


 真面目に挨拶する僕の顔を、ジト目で見てからアヴェーラ公爵が、

「皆、良く集まってくれた。分かっていると思うが、この会議には裏の目的がある。ユウが白々しく紹介したのは、真の目的ではない。王宮がそれに感づいたとしても手出しは出来まいがな‥‥。

この会議では、我々が目指す今後の国造りについて話し合いたい。王宮とは異なる「国の在り方」を目指した国造りだ。そのために、まずは現王宮と並び立てる同盟、‥いや連携体制を築いていく。

経済力でも軍事力でも現王国をしのぎ、王宮に有無を言わせない体制を造るつもりだ。

その上で‥‥国を二つに分かつ「双王国」を提案するつもりだ。

その暁には、ロメルを国王とし、宰相にヤマダユウを据えるつもりだ。」


 おおーっ!

 会議室が湧いたが、これは歓喜に沸いたもので、驚きによるものではなかった。

「これについて、今日は皆の忌憚のない意見を聞きたいと思っている。」

アヴェーラ公爵は、着席すると目を閉じて小さくため息をついた。



 整った顔立ちの白髪の紳士が、手を上げてから発言した。ベレン伯爵だ。

「現在、我が領地ではヤマダユウ殿に指南頂き、治水工事と、ファーレには及びませんが運河と道路の建設を進めております。工事の済んだ区間には早速、流通の拠点が出来始めました。これもファーレを模したものですが、‥‥これから領内が活気づく姿が目に浮かびます。先ずは御礼を申し上げます。」

僕への謝意を示してくれた後で、

「このような形で、先ずは領内・地域を計画的に整備して、領民の暮らしを安定させてから、無理のない税制を考えていく。これなら領民の「一揆」などの心配もなくなりますし、安定した税収増も見込めます。私は領地経営の在り方として正しいと思う。

ただ貴族の中でも、特に特権階級‥‥ファーレン大公爵家を除く2つの公爵家、そしてラートル侯爵家と並ぶもう一つの侯爵家には受け入れられないと考えられます。」

自分の同意とともに、国内の懸念を示した。


「よろしいでしょうか。」と手を上げたスート子爵が、ワグルを横目で見ながら、

「ご存じの事と思いますが、ヤマダユウ殿の「地域づくり」のやり方は、その地域の特性を生かした持続的な発展が望めるものです。

そして我が甥が看破しましたが、早い段階から領民に地域振興の進め方について理解を得たり、目指す目標を共有したりすることで非常にうまく政を進めていく。

この「領民に相談、目標を共有」というやり方も、先に挙げられた特権階級の方々はもちろんのこと、国内の領主達には中々受け入れられないでしょうな。」

この場に呼ばれただけで恐縮しているワグルは、伯父が自分をアピールしてくれても、あまり有難くは無かった。


 ベレン伯爵も大きく頷きながら、

「私も最初は驚いたが、土木工事も結果的にそのやり方で上手く進んでいた。「民を味方につけてから事を進める」というやり方は、普通の領主は「必要ないことだ」と考えるからね。」


 皆の発言を聞いていたロメルが、立ち上がった。

「我々の進めようとする国の在り方について、皆様が既に核心を突いておられることに敬意を表します。領民を豊かにすることが、領地の自力を上げることになる。政の方向性について、早い段階で領民の同意を得る。そして自分の領地だけが豊かになる方法を考えるよりも、いくつもの領地と連携した方が効果も大きく手法も広げられる。これがヤマダユウと僕が進めようとする国造りと政のやり方です。

特に前半の部分が、特権階級の方々には受け入れられないでしょうから、国を割ることになると考えています。」


 ベレン伯爵が、

「確認ですが、既にラートル侯爵領と深い連携関係にありますね。国内でも王家に次ぐ武力を持つファーレン公爵領とラートル侯爵領、それに次ぐフリード子爵領、これに我々が加わり、今後も仲間は増えていくでしょう。

そのような中で、‥‥この場だから申しますが、いっそ国を取ることも可能だと思いますが、敢えて国を割って「双王国」とすることについて確認させて下さい。」

自分にも考えがあるのだが、それを確認しておきたい、と言う様な表情だ。


「僕もユウも、無益に血を流したくありません。そして国外、周りの国を見回しても僕らの考え方は異質でしょう。周りの国々まで相手にするには、まだ時期早々だと思っています。それを考えて、現王家も存続させる「双王国」を提案するつもりです。」

ロメルの話を聞いたベレン伯爵は、概ね自分の考えと一致していたのであろう。何度も頷いていた。


 会議では「この件は当面、身内や側近にも秘密にして欲しい。」と要請して閉会となった。


   ◇


「ふう、大変な場に呼ばれてしまったなぁ‥‥。」

城の中庭で空を見上げたワグルは、大きなため息をついていた。


「大変な場に呼ばれてしまいましたね。お隣、よろしいですか?」

空を見ていたワグルが、美しい少女に覗き込まれて驚いた。

「えっ? あ、あなたは?!‥‥フリード子爵様!」

美しい少女と思ったのは、フリード子爵のアレクだった。

「アレクとお呼びください。」

少年領主だと分かっていても、微笑む顔が可愛らしくて、隣に座られると照れてしまうワグルだった。


「ワグル殿は、既にヤマダユウ様と深いお付き合いがあるのですね。‥‥羨ましいです。」

美しい瞳で見つめられて、さらに照れてしまったワグルは、正直に漏らした。

「い、いや、最初は打算的な考えで近づこうとして、その後も‥‥いや‥そういえば忘れておりましたが、最初の頃は、ユウ様に失礼な態度ばかりとっておりました。ああ‥、恥じ入るばかりです。」

頭を抱えるワグルに、

「でも、一緒に政を進めるうちに、打ち解けたのでしょう? 羨ましいです。

私などは‥‥ヤマダユウ様が姉上を助けて頂いている時に、何も知らずに親族の家に隠われていたのです。恥じ入るのは私の方です。」

ため息をついて、しょんぼりするアレクの手を握って、

「アレク様は、すごくお若いのですから、これからご活躍されれば良いのです。これからでございますよ。共に頑張りましょう!」

「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします。」


 そんな二人の様子を、庭の木陰から、そっと見つめる2つの影があった。

「先ずはお友達作りね。アレク君、頑張るのよ! お姉ちゃまからもワグルさんにしっかりお願いしておくからね。」


 鼻息の荒いリーファに、「余計な事はしない方が良い」と思いながらも、どう言って聞かそうかと思案するロメルだった。


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