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~異世界で国を興す準備が始まりました➁~

   ◇


「ねぇ私達、場違いなんじゃないかしら‥‥」

「私もそう思うです。でもユウ様に「ヴィーとリリィも同席しなさい。」って言われたですよ。」

城の会議室に集まった面々を見て、リリィとヴィーが小さくなってヒソヒソ話している。



 大きな楕円形テーブルの上座に座っているのはロメル殿下だ。空席を一つ挟んでその両側にリーファ妃、ミリア姫という公爵家の面々、それを囲むようにファーレ市政官のドレン子爵、同じく市政官のヤマダユウ子爵、剣豪5指であり公爵家執事のバート、同じく剣豪5指のドルクとヴォルフ。魔道騎士団副団長のゾラ、そしてミリア姫の側付きメイドのマリナの隣にリリィ、ヴィーが円卓を囲んでいるのだ。

ロメルの隣の上座の空席には、アヴェーラ公爵が座るのであろう。


 部屋に入った時、いつものように座席の後ろに立とうとするリリィとヴィーにバートが「お2人も座りなさい。今日は、そういう集まりですよ。」着席するようにと促したのだ。

マリナにも「私も座っていますから、座って下さい。」と促されたが、メイドといっても伯爵家の出身でミリアの側付きを務めているマリナと、リリィとヴィーとは立場が違う。


「皆、揃っているか?」

程なくして入室したアヴェーラが座席に着き、集まった面々を見渡して、

「バルクはフリード子爵領に帰したと言っていたな‥‥。おや、ミクが居ないではないか? それと東部領代官のワグルを呼んでも良かったのではないか?」

少し不満そうな口ぶりだ。


「2人には後で僕から話します。ミクは、政務には関わっていないので呼びませんでした。ワグルについては、東部領から招集させるのに時間がかかりますから。」

僕の言葉に、

「大事な話だから、領内の信頼できる者を集めろ、と言ったはずだ。」

唇を尖らせるアヴェーラに、

「その様にお叱りを受けたことを併せて、2人に伝えさせて頂きます。」

僕が深々と頭を下げると、

「まあ良い。「信頼できる者を集めろ」と言って、心当たりが沢山あるのは良い事だ。」


 機嫌を直したアヴェーラが立ち上がった。

「今日集まってもらったのは、他でもない。今後の我らの目標について、お前達に伝えておきたいのだ。 ロメル! ユウ!」

呼ばれた2人が立ち上がると、アヴェーラは目を閉じて大きく深呼吸をした。

「これから、ロメルを国王とする国を興す準備に入る。現王国から我らは独立するのだ。建国の暁には、宰相にヤマダユウを据えるつもりだ。」


「ほえっ!?‥‥」

ヴィーが椅子からずり落ちそうになったところを、リリィが腕を掴んで支えた。


 それを横目で見ながら、アヴェーラが続けた。

「今日集まった者達に、これに反対するものはいるか?」

アヴェーラが見渡すと、皆、満足げに首を振る。


「素晴らしいことだ! ロメル殿下が摂政に就かれた時は、そのまま王位を継いで頂くことを皆が望みましたが、それはかなわなかった。しかし、それなら国を興せば良いのですね! 他の領主や貴族の中にもロメル殿下とヤマダユウ殿の信奉者は多いでしょう。そうだろうバート?」

先の大戦の盟友・ドレン子爵に同意を求められたバートが、

「そうですね。先日、ユウ様を糾弾する目的で招集された「御前会議」でも、ラートル侯爵様とスート子爵様が味方して下さり、逆転勝利に終わった。そうですよね。殿下?」

声を掛けられたロメルが微笑みながら頷く。

「そうだったね。僕達はさらに味方を増やしていけることを確信したよ。しかし当面は「双王国」として現王国と共存することを提案する予定だ。我らに同意する領主達を結集させて、もう一つの国を造ることになる。」


「フリード子爵家は、弟のアレクが爵位を継ぎましたが、まだ未熟な故、内政・外政共に公爵家の支援で成り立っています。既に公爵領と一心同体の状態です。」

ロメルに嫁いで爵位を弟に譲ったリーファが微笑んだ。


 ミリア姫が立ち上がって、テーブル上の地図を指さした。

「ラートル侯爵領、フリード子爵領、スート子爵領、この3つの領地とは、既に深い連携関係にあるのよね。そして既に支援を始めているベレン伯爵領の他にも、こんなにたくさんの領地から、支援要請を受けているのね。」

ミリアが指差す地図は、連携関係にある領地は着色してあり、支援要請を受けている領地には目印のコインが置いてあった。


 皆が、王国の地図を囲んで盛り上がっていると、

「皆の者、浮かれた話はここまでにしてくれ!」

アヴェーラが声を厳しくした。

「皆の気持ちが確認できた。しかし、これは王宮にしてみれば謀反だ。今の話は、胸にしまい込んでくれ。これから我らが、大きな志を持って進んでいくという事だけを胸に刻み込んでくれ。

これから我らは、各領地の支援要請に応えて行く。その中で領主の「人となり」を見極めて、今後連携すべき相手かどうかを見定めていく事になる。 皆、心してかかってくれ!」

「「はい!」」


 皆の同意を確認するとアヴェーラは、僕の顔をチラリと見てから、

「ミリア、マリナ、ヴィー、残ってくれ。‥‥リリィとリーファもな。少し話がある。」

参加していた娘達全員に向かって声を掛けると、微笑んだ。


    ◇


 公爵は、自らの私室に場所を移すと、お茶を入れるようメイドに指示し、娘達をテーブルに着かせた。

リリィとヴィーが、メイドの配膳準備に加わろうとするのを手で制して「座っていろ」と指示した。


 紅茶の香りが漂う中、アヴェーラが配膳されたカップに口を付けてから切り出した。

「マリナ。ミリアのユウへの輿入れについて、準備状況を説明してくれ。」

「え? は‥‥は、はい!」

この件については公表されておらず、初めて聞く者もいるはずだ。説明を求められたマリナも直ぐに切り出せずにいる。その場の動揺した空気を感じ取って、小さくため息を付いたアヴェーラが、

「私は、お前達に隠し事をしたくないのだ。‥‥ミリアをユウに嫁がせる準備を進めている。」


 その言葉を聞いたリリィとリーファは、驚いてミリアの顔を見てから、横目で盗み見るようにヴィーの顔も見た。

ミリアは微笑んで頷いているが、果たして、

ヴィーも微笑んで頷いた。


 ガタン、

 マリナが立ち上がったのを見て、

「座って、‥お茶を飲みながらで良い。この場は、そういう場だ。」

アヴェーラが声を掛けた。


「は、はい。姫様とヴィーちゃん‥‥いえ、ヴィー様は‥」

緊張の面持ちのマリナに、

「いつもの通りで良いぞ。」

目を伏せたアヴェーラが、紅茶の香りを味わいながら呟く。


「は、はい! ‥‥ヤマダユウ様へのお輿入れに先立って、姫様の提案で、姫様とヴィーちゃんは、姉妹の契りを交わしました。」

「ええっ!?」

驚くリリィの顔を見ながら、ヴィーが、「そうなのです」と頷いた。


 これはアヴェーラも後から知らされた事らしく、どや顔で微笑むミリアに、

「まったく、お前達‥‥勝手な事をしおって。」

面白くなさそうにしているアヴェーラだ。

「申し訳ございません!」頭を下げるマリナとヴィーだったが、

「お前達、ずるいではないか?! 私の『名案』を認めなかったくせに。」

どうやら私情が絡んだ話のようだ。


「そりゃあ、お母様は公爵‥‥いえ、今や大公爵なのよ! ヴィーを養女にするなんて、簡単に出来る訳ないでしょう!」

(そんなこと考えてたんだ‥‥)

娘に諌められて嘆くアヴェーラに、皆がジト目を向けた。


 公女であるミリア姫をユウに輿入れさせるに際して、ヴィーが肩身の狭い思いをしないようにといろいろ策を巡らせる中で、ミリア姫が「姉妹の契り」を提案したのだ。

「姉妹の契り」という風習は、教会が仲立ちをして義理の姉妹の関係を結ぶもので、法的な拘束力は持たないが、訳あって固い絆で結ばれる事を望む女性同士が用いる「縁結び」であった。


 コンコン‥、

 ノックの音と共にドアが開かれて、声が掛かった。

「失礼しまーす。」

するとアヴェーラが、ガバッと顔を上げて、

「おう、来たか! ミク、入れ、入れ!」

大きな箱を持って、ミクが入って来た。


「ミクに「新作けーき」を持って来てもらったのだ。しかし、私を出し抜く様な娘達だ。はて、食べさせて良いものか?」

「えーっ! それとこれとは話が違うでしょーっ! お母様ヒドーイ!!」


賑やかな声が、部屋に響いていた。


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