表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/163

~異世界で国を興す準備が始まりました①~

   ◇


「はぁ‥‥ユウ様は、とうとう子爵様になっちゃったですか。」

帰宅した僕を、ヴィーがため息を付きながら出迎えた。

「うん、面倒くさそうだから男爵のままで良かったんだけどね。」

玄関先でそんな話をしていると、


「ヤマダユウ様、いらっしゃいますか?」

ミリア姫付きのメイドのマリナさんが訪ねて来た。


「公爵様の所へお越しください。ご相談があるそうです。」

「あ、はい。分かりました。」

僕に用事を伝えるとマリナは、ヴィーの前に立った。

「そして私は、ヴィーちゃんにお話があります。」

真っ直ぐに、ヴィーを見つめて言った。



 公爵に呼ばれて行かねばならないが、ヴィーとマリナの話の事も気になるところだ。僕が気にしているのに気付いたのか、

「ユウ様は、お城に行って下さいです。女同士の話なのです。」

ヴィーは、笑顔で僕を追い出す様に送り出した。



 ユウを送り出すとヴィーは、マリナに向き直った。

「ミリア様の事‥‥なのです?」

「はい。」

マリナは、ホッとしたような表情を見せた。

(ヴィーちゃんは、私がミリア姫の話をしに来たと考えた上で、ユウ様を出かけさせた。ユウ様の事を気にしないでいいようにしてくれたんだ。私も包み隠さず伝えよう。)


「ユウ様が子爵様になられたことで、いよいよ動き出します。‥‥ミリア姫様のお輿入れが。」

「!‥‥」

言葉を発せずにいるヴィーに、マリナが続けた。

「私はベレン伯爵家の出身ということになっていますが、庶子(妾の子供)なのです。本来ならば、姫様のお側付きなどにはなれません。しかし、姫様は「そんな事は関係ない。私はマリナがいい!」と言って頂きました。私は姫様のためなら、何でもできます。この命も懸けられます!」

胸に手を当てて熱く語るマリナに、気後れするような表情でヴィーが、

「そんなあなたにとって、私は‥‥邪魔者なのです。」

下を向いて呟く。


「はい‥‥そうなりますね。」

マリナの返答に、ビクっとしながらも、ヴィーは顔を上げてマリナと目を合わせた。

するとマリナの表情が柔らかくなった。

「ごめんなさい。私も最初はそう思っていました。公爵様にお話を聞くまでは。」

「アヴェーラ様が、何か言って下さったですか?」

少しホッとしたような表情のヴィーに、マリナが頷いた。


「ユウ様のお話をして頂いたの。「あ奴には、我らの常識も価値観も通用しないぞ」って。そしてユウ様が、どれ程ヴィーちゃんのことを大切に想っているか、っていう事も。」

「そ、そうなのですか‥‥」

ヴィーが頬を褒めて俯く。


「「ユウは、ロメルと共に、この国を大きく変えようとしている。そしてミリアもこれに協力しようとしている。マリナ、お前にしてみれば面白くないこともあろう。しかし、大きな視点で物事を見よ。」と、そのようにおっしゃいました。そして、

「ミリアとヴィーの間をうまく取り持て。その役目をお前に任せる。」そうおっしゃったのです。」


 マリナはヴィーを真っすぐに見つめて、

「ヴィーちゃん、正直に言って下さい。ミリア様の事をどう思っていますか?」

ヴィーも真っすぐに見返して、

「とても尊敬しているです。聡明で、勇気と行動力があって、でも‥‥公女様とは思えないくらい‥‥大らかで、楽しくて‥‥」

「そうなんです!」

マリナが嬉しそうに同意して、

「いつも私達を楽しませようとしていらっしゃいます。そして‥‥」

「ご自分も楽しんでいらっしゃいます!」「楽しんでいるのです!」

2人で同じことを言ってから噴き出した。


 少し笑い合ってから、

「でも、「ゲラン事変」の時の姫様は、本当にステキだったのです。」

ヴィーが、唇の前で掌を重ねて呟いた。

マリナは、そんなヴィーを見つめて、

「ヴィーちゃん‥‥あれは、あなたに触発されたせいもあると思うの。あなたは自分の身を危険にさらしても「自分に出来ることをしたい。」って言ったでしょう。姫様もあなたの考えを聞いたからこそ、あのようなお言葉が出たのだと思うの。だから姫様も、あなたの事をステキだと思っていると思うわ。」

「えー‥‥私なんか‥‥」

ヴィーは頬を染めて照れている。


 マリナは、そんなヴィーの顔を見ながら大きく頷いて、

「ヴィーちゃん、「姉妹の契り」って聞いたことがあるかしら?」

「はい。他人同士が教会の仲立ちで姉妹として契りを交わすです。」

「姫様とヴィーちゃんに、この契りを交わして欲しいの。」

マリナの言葉にヴィーは目を丸くして、

「そんな!? そんなこと出来ないです。身分が違い過ぎるのです!」


 驚いて反論するヴィーに、

「公爵様にあなたの事を聞いたわ。北の国の、ダークエルフの族長の娘だそうね。だったら貴族と同格よ。」

「あ‥う‥」

マリナに指摘されたヴィーは、言葉に詰まって下を向いた。


「ヴィーちゃん、貴方の出自を表沙汰にしろって言ってるわけじゃないの。姫様の意を組んで欲しいって言っているの。」

「ええっ‥‥?」

顔を上げていぶかしげな表情のヴィーに、

「これは、公爵様の指示じゃなくて姫様が望んでいることなのよ。」

マリナが笑顔で頷いて見せた。


   ◇


「ユウ、お前が子爵になったことを機に、いろいろ事を進めようと思っている。」

城に呼ばれるとアヴェーラ公爵とロメル殿下、バートさんが僕を待っていた。

そして会議テーブルの上には、王国の地図が広げてあった。


「ユウ、お前にはファーレ市政官を退いてもらう。今後も引き続き市政の相談には乗ってもらうがな。お前には、国内の領主達との連携を進めてもらう役職を創る。」

アヴェーラから目で合図されたロメルが、

「ユウ、先日の王宮での君の話に、強い興味を持った領主達から、技術協力の要請がたくさん来ていてね。」

ロメルが指さした地図には、要請があった領地に印が付けてあった。

地図を見ると、既に連携を深めているラートル侯爵領、スート子爵領、リーファ姫の実家フリード子爵領と最近技術協力を始めたベレン伯爵領、これだけでも地図上のかなりの部分を占める。この他に要請を受けた5つの領地に印が付いている。

それらを合わせると、この国の領土のおよそ半分を占めている。


「これらの領地と連携すれば、経済力はとても大きなものになりますね。」

地図を見て声をあげた僕に、

「経済力でも、‥‥軍事力でもな。」

アヴェーラが呟いた。

「ユウ、君はまだ、争いの事は考えなくていい。多くの領地を、そして多くの民を豊かにすることだけを考えてくれ。」

ロメルがユウを見ながらかけた言葉にアヴェーラは、

「しかし、それが結果的に軋轢を生む。お前が良かれと思ってやっていることを、心よく思わない奴らも多い。それを頭の片隅に置いておけ。」

それを聞いたロメル殿下が心配そうに僕を見つめる。


「ロメル殿下、ご心配なく。僕は繊維産業を興す時に確認していますよね。僕はこの国のより多くの人達が、幸せに暮らせる様にしたい。そのために、多くの仲間を作って行きましょう。」

明るく語る僕にアヴェーラが、

「それが、お前の命を危うくすることになってもか?」

睨むように確認してきた。

「そうです。以前お話させていただきましたね。領民を道具のようにしか思わない領主達と、領民の暮らしを豊かにすることを目指す我々と、‥‥反目し合うなら国を興してしまえばいいと。僕と殿下が、それを目標に据える以上、命を狙われることもあるでしょうね。」

僕の言葉を静かに聞いたロメルが、

「ユウ、ありがとう。私はもう迷わない! 母上! やらせて下さい!!」


 目を閉じて僕達の言葉を聞いていたアヴェーラが、静かに目を開けた。

「分った。明日、領内の信頼できる者を集めよ。我らの今後について、私から話す。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ