~異世界で仲間を増やしていきます⑧~
「皆さん、お待たせしました。舞を再開します。」
事情を聞いた僕が司会進行を務めた。
3人娘がステージに立つことが出来るのかと心配したが、3人とも目を少し腫らしているものの、決意に満ちた表情をしていた。
♪ ♪ ♪
音楽が始まると、ミクの歌声もヴィーとリリィのダンスも、素晴らしいものだった。その同じ舞台の後ろで舞うシリアからは、淡い光が渦を巻きながら立ち上っている。
そして踊りながらヴィー達は、水精に呼びかけていた。
「水精さん達、力を貸して下さいです。「道」を造りたいです。ここからセレス様の泉へ繋がる道を‥‥」
「ばあちゃんを‥」
「テレス様を‥」
「セレスの泉へ送る道を!!」
次の瞬間、
バシャバシャ
激しくため池の水面が波打つと、
そこから虹が立ち上った。
「うわーっ!」
「すごい虹だ!」
「こんな鮮やかな虹は見たことが無いよ!」
観客が湧き立つ中、ため池から立ち上った鮮やかな虹は、ぐんぐん延びていく。虹はセレスの泉の方向に向かって伸びていた。
◇
その頃、セレスの泉では、少女の姿に戻ってしまったセレスが一人で泣いていた。
『テレスが‥‥、ああ、私のかわいいテレスが‥‥』
悲しみのあまり、力が弱まってしまったのだろうか。セレスは、少女の姿に戻ったばかりか、今にも消え入りそうに見える。
そんなセレスに、水の郷の方から何やら聞こえて来た。それは人の耳には、ピシャピシャ、という水音にしか聞こえないだろう。しかしセレスには水音に交じって声が聞こえていた。
『‥‥ツクッテル』
『ミチ‥ヲ‥ツクッテル』
『ヨベッテ、イッテル』
その声がどんどん大きくなっていく。
『ヨベッテ、イッテル!』
声に振り向いたセレスが立ち上がると、鮮やかな虹がこちらに向かって伸びてくるのが見える。
その虹が泉に到達すると同時に、今度はミク達の声が聞こえて来た。
「セレス様、呼んで!」
「ばあちゃんを!」
「テレス様を!」
「「呼んで――っ!!」」
目を閉じてそれを聞いていたセレスが、かっ、と目を見開いて叫んだ。
『テレス! 私のかわいいテレス!! 私のもとへ来て‥‥ここへ来てーっ!!』
次の瞬間、
ヒュゴーッ!
バサバサッ!
「キャーッ!」
「すごい風!」
水の郷に物凄い突風が吹き荒れた。
「すごい風だったわね、お母さん。」
強風に揺れたテントの中で、テレスの遺体を庇う様に抱きしめていたリタは、風が止んでから、テレスの顔を見て驚いた。
「こんなに‥‥、こんなに笑っているようなお顔だったかしら?」
テレスの顔は、とても幸せそうに笑っているように見えた。
◇ ◇
数日後、ファーレの「菓子工房ミク」のテラス席では、ミクの声掛けで集まったヴィーとリリィの3人がお茶を飲んでいた。
「気がかりなことがあるから」というミクに呼ばれた2人も、同じ思いを抱えていたのだ。
「ばあちゃん、ちゃんとテレス様の所へ行けたのかなぁ‥‥」
「私も気になっているです。泉に行ってみるですか?」
「でも行ってみて、もしも、テレス様がお一人で泣いていたらと思うと‥‥」
「そうなのよねー‥‥」
3人は大きくため息をついた。
その時、店にやって来ていた客同士の会話が聞こえてきた。
「‥‥東部領に、「セレスの泉」っていうきれいな泉があるんだけどさ‥‥」
「!!」
思わず3人娘が、聞き耳を立てた。
「この前、行商の途中で休憩に寄ったんだけど、本当にきれいなところでさ。‥‥でも、そこでちょっと変な物を見ちまってさ‥‥」
「何だよ。何を見たっていうんだよ?」
「それが‥‥泉の上に、大きな光がフワフワ漂っていて、その後を追いかける小さな光も見たんだよ。」
「ヤバそうな物なのか?」
「それが、良く分かんねえけど。何だかとっても暖かい感じの光でさ。2つの光を見ていると、何だか‥‥幸せな気分になるんだよなぁ。」
「へーっ‥‥」
「ふふふ‥‥」
「良かったのです。」
3人娘は、テーブルの上で互いの手を握り合って微笑んだ。
「近いうちに会いに行こう。セレス様とばあちゃんに。」