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~異世界で仲間を増やしていきます⑦~

      ◇


「ううむ‥‥美味いな。私は「けえき」よりも、このダンゴの方が好きかな? けえきも美味いのだが、食べた後で胸焼けがしたのを覚えているからな‥‥。」

「だってシリアさん、ケーキを一度に3つも食べたんだよ。「菓子工房ミク」のケーキは、1つで満足して貰えるように、大きめに作ってあるんだよ。」

来客用の控テントで団子を頬張る舞姫・シリアに、ミクが反論している。

 今日は、東部領の水田地帯「水の郷」の収穫祭だ。式典の前に来賓達に団子がふるまわれていた。


「確かにケーキとは別の美味しさですね。甘さも‥‥お団子は優しい甘さです。この地域の名物になるでしょうね。でも、私もファーレの街に来たばかりの時に、ケーキが美味しくて3つくらい食べましたけど、胸焼けはしませんでしたよ。」

同じテーブルで、リーファが涼しい顔で団子を頬張りながら言う。

それを聞いたシリアは、

「ううむ、若さか? 若さの違いなのか‥‥」

ブツブツ独り言を言っていた。


 リーファは、メイド姿で給仕を手伝うリリィとヴィーに目を移すと、

「それにしても、ミクさんを含めたリリィとヴィーの3人が、高名な舞姫のシリアさんとお知り合いだとは、知りませんでした。」


 リーファの言葉にシリアは、

「ああ。この娘達には、大事な奉納舞の折には、私の前座を務めてもらっていて‥‥まあ、私の妹分というか‥、弟子のようなものかな。」

その言葉に、テントに控えていたワグルと東部領の使用人たちがざわついた。

「ええっ?! シリア様って「孤高の舞姫」、お弟子さんは取らないって言われていたのに。」

「それって、シリア様に初めて認められた人達っていうことですよね。すごい!」


 改めてリリィとヴィーを見ると、配膳のさりげない所作も美しく見える。さすが舞姫の弟子は違う、と思ったが、

「でも、それってミク様も‥‥ですよね?」

誰かの声を聞いたミクが、

「なによ?! 私だけ見た目が普通ってこと? 私はビジュアル担当じゃないからいいのよ‥‥ってそれもイヤよね。私はボーカル担当なの! だから普通でいいの!」

ミクが唇を尖らせていると、


「ミクも可愛いらしくて可憐だぞ。可憐さではリーファが、やや勝るがな。」

ユウと郷の視察に出かけていたロメルが帰ってきた。


「ミク、見事な郷づくりを見せてもらったぞ。使いやすく機能的でありながら、それでいて気持ちを和ませる景観まで作り込んだのは見事だ。領民もみんな気に入っているそうじゃないか?」

ロメルの言葉に僕が付け足した。

「ミク達は、水源である泉の主様に認められる郷づくりとして、「みんなを幸せにする郷づくりをして見せる。」って息巻いて始めたんですよ。」


「へへーっ‥‥」

ミクは、リリィとヴィーと顔を見合わせて照れていた。


「しかしこれなら、この領地から出て行きたいという住民はいなくなるだろう。 ユウが言っていた「郷土愛」が芽生えるような地域づくりが出来ているのではないか?」

「ええ、この収穫祭の準備をしている時にも、こんなことがありまして‥‥」

僕は先日の会合の事もロメルに説明した。


 その後スート子爵家とも交渉し、小豆や大豆といった豆類や、やせた土地でも作れるソバ等について、栽培指導の協力を約束していた。ファーレン公爵領に東部領として含まれることになった旧ゲラン伯爵領はもとより、今後は、スート子爵領とも協力関係を構築していけそうだ。

 今後、農産物の流通が恒常化すれば、経済的結びつきも強くなり、連携はさらに強まっていくだろう。

     

    ◇    


 東部領「水の郷」の収穫祭には、広い郷がいっぱいになるほどの人が訪れていた。そして、

「これ、おいしい! 初めて食べるけど。」

10台ほど出した団子の屋台には、どこも行列が出来ていた。


「なぁ、団子ってどのくらい作ったんだ?」

テントから外を覗いた僕がミクに聞くと、

「最終的には、3千本くらいになるんじゃないかなぁ。東部領の人達は、「千本くらいでどうか?」って言ってたんだけど、私とルー姉さんが「全然たりないよ!」っていってね。」

「3千本かぁ、でも保存出来るものじゃないよな。余っても困るだろう?」

「大丈夫だよ。その時は、ファーレの街に持って行って売りきるよ。」

いつの間にか、やり手商売人のようになっていたミクだった。



「皆さま、そろそろ奉納舞の準備をお願いします。」

ワグルの呼びかけに、

「あっ、ちょっと待って、ばあちゃん大丈夫かなぁ。」

「心配です。」

ミクとリリィが心配顔だ。

スート子爵家のテレスも出席してくれているのだが「少し疲れた。」と言って別のテントで休んでいるのだ。


「では、奉納舞が終わったら会ってやって下さい。喜びます。」

ワグルに促されると、

「じゃあ、行きましょうか。」

「はい!」

「ハイなのです。」

ミクの声掛けにリリィとヴィーが立ち上がった。


「今日は、みんなリラックスしているんだな。」

僕が聞くと、

「だって、この前の時は「運河に絶対水精を呼び込まなくちゃいけない。」とか、プレッシャーがすごかったけど、今日は違うもんね。」

ミクの言葉に、ヴィーとリリィが「うん、うん」と同意していると、シリアが

「ふーん。そんなそなた達に伝えておいてやるが、今日は大切なお客様がいるのだぞ。」

「えっ? そんなこと聞いてないよ。」

「舞台に立てば分かる。「本当に楽しみにしています。」とおっしゃっていたぞ。」


「誰だろう?」

「ロメル殿下には、運河の式典で見て頂いたことがあるし‥‥、リーファ様に見て頂いてもあまり緊張はしませんよね。」

3人は首を傾げながら、舞台が設置してある「ため池」の方向に向かって歩いていると、

「あーっ! この気配は‥‥! なのです。」

ヴィーが驚きの声をあげた。

「ど、どうしたの?」

ミクとリリィが尋ねると、

「確かに、大切なお客様が来ているのです。」



 今日の舞台は、ため池に突き出した水上の舞台となっており、観客はため池の周りに集まっていた。

3人が舞台に上がると

『3人揃ったあなた達に会うのは久しぶりですね。今日は楽しみにしておりましたのよ。』

ため池の水面の上から、神々しい声が降り注いだ。

他の観客には見えていないようだが、ミク達3人には美しく、神々しい姿がはっきりと見える。

セレスの姿が‥‥。


『本当に楽しみにしておりましたのよ。』

満面の笑みのテレスに、

「が、頑張るです。」

「一生懸命やります。」

「やっぱり私達って、プレッシャーの中でやらなきゃいけない宿命なのね。」

満面の笑みのテレスに、気おされ気味の3人だった。


  ♪ ♪ ♪

 しかし音楽が始まれば、3人とも見事なパフォーマンスを見せて観客を沸かせていた。


 演目が終わった3人が、観客たちに手を振りながら下りてくる時、突然、セレスが何かに驚いたような顔をした後、姿を消してしまった。

「あれ? セレス様、シリアさんの舞は見ないのかしら?」


 首を傾げる3人が控えテントに戻ると、テントに女性が駆け込んできた。

「えーと、リタさん? ワグルさんのお母様の‥‥」

リタは、首を傾げるミクに駆け寄って腕を掴んだ。

「は、母が! 母のテレスが!」



「ばあちゃん!!」

「テレス様!!」

3人はテレスが休んでいるはずのテントに駆け込んだ。

テレスは眠る様に、息を引き取っていたのだ。


「ばあちゃん!」

「テレス様!」

3人がテレスを囲んだ時だった。

「お前達、もう一度踊ってくれないか。試してみたいことがあるのだ。」

テントに入って来たシリアに声をかけられた。


「こんな時に‥なに言ってんのよ! そんなのムリだよ!」

「そうです。いくらシリア様でも不謹慎です!」

ミクとリリィが涙を流しながら抗議したが、

「ひょっとして‥‥セレス様の所へ?」

「そうだ。やれるだけやってみようと思う。」

ヴィーの問いにシリアが大きく頷きながら答える。


「え‥? いったい何をやろうとしているの?」

涙を流しながら呆然としているミクとリリィに、シリアとヴィーが説明を始めた。


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