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~異世界で仲間を増やしていきます⑥~


「ヤマダユウ様。収穫の報告と、ご相談があって参りました。」

ロメルとリーファの婚礼式典から1ヶ月程過ぎた頃、旧ゲラン伯爵領の代官を務めるワグルが、市政官詰所を訪ねて来た。

「久しぶりだね。お米は、たくさん収穫出来そうかい?」

「それが‥‥だ、大豊作になりそうなのです。」

キリっとした顔で報告したいのだけれど、思わずニヤけてしまう、そんな表情のワグルに、

「おめでとう。」

僕は立ち上がって握手した。


「でも、私は何にもしていなくて‥‥、皆さんが開拓してくれた農地で、領民達が頑張ってくれて、セレス様の恵みも頂いて‥‥う‥ううっ‥良かった。良かったですっ!」

話しの途中から涙をこぼし始めたワグルの肩を抱いて、

僕は「良かったね。良かったね。」と言いながら、彼を代官にして良かったと、心から思っていた。



「それで、相談というのは何だい?」

お茶を飲んで少し落ち着いたワグルに聞いてみた。


「あ、すみません。実は「収穫祭」をやりたいと思いまして、ユウ様がウルドでされたような大規模な催しでなくていいんです。お世話になった皆様に感謝を伝えられれば‥‥」

「分った、取りあえず郷の完成式に来てくれた人には声をかけるとして、一応、公爵家にも声をかけてみようか。それから、準備はウルド直売所にも手伝ってもらおう。」

考えながらリストアップしている僕を見て、

「ユウ様、もう既に、かなり大がかりなんですけど‥‥」

ワグルが心配顔になっている。

「大丈夫だよ。全員出席できるとは限らないしさ、シリアさんとか公爵家の人とかは、忙しいだろうからね。」


   ◇   ◇



「ぜひ行かせてもらおう。その時には、何か美味い物を食わせてくれるのだろうな?」

スート子爵領の寺院で舞の稽古をしていたシリアは、二つ返事で出席を快諾してくれた。

「あ、それからな、私が食べたことのない様な珍しい物を食べさせてくれるなら、舞を奉納しても良いぞ。」

汗を拭きながら事も無げに答えるシリアを見て、ワグルが目を丸くして驚いて、僕に耳うちした。

「以前、父のゲラン伯爵が祝い事に招待したにですが、軽く断られてしまって怒り心頭でしたので‥‥。」



 次に公爵家に赴き、どなたかのご出席が可能かと相談したのだが、

「私、ぜひ行きたいです。ねぇ殿下、二人で参りましょうよ。」

「そうか、リーファが行きたいなら行くか。」

新婚のロメル殿下夫妻が出席することになった。


    ◇


「大丈夫でしょうか? 私は、心配になって来ました。」

移動の馬車の中でワグルがため息をついて、

「舞姫・シリア殿をお迎えするだけでも大変な事なのに、新婚のロメル公太子殿下夫妻をお迎えするなど‥‥一大事です。」

「ゴメンよ、ちょっと大掛かりになっちゃいそうだね。でも殿下夫妻が来るからには、警護は衛士隊に任せればいいよ。問題はシリアさんの扱いだな。‥‥混雑を避けるために秘密にするか、?それとも、来客によって人を集めて稼ぐことも目指すか。? 手伝ってもらう直売所のミクにも相談してみよう。」

僕達はウルド直売所に向かった。



「そりゃあ、オープンにして、お客さんいっぱいにして、ガンガン稼ごうよ!」

ガッツポーズで言ってからミクは、

「それでね。お米が出来たら、作ってみたかった物があるのよ。」

僕に耳うちしてきた。

「へえ、それはいいかもね。」


    ◇    ◇



「急にお呼び立てしてすみません。今日は収穫祭の前に、皆さんに確認してもらいたい事があって集まってもらいました。」

 旧ゲラン伯爵の居城、大広間で代官のワグルが挨拶した。

 現在、水田地帯では稲刈りを終えて、稲穂の天日干しが終わったものから「脱穀」に取り掛かっている。これが終われば稲刈りは一段落となる。今日は、それを見越して半月後に行われる収穫祭の打ち合わせを行うため、関係者が集められた。しかし、集まっているのは旧ゲラン伯爵領内の者だけではなかった。

 収穫祭の手伝いをしてくれるウルド直売所からミクとルー姉さんを始めとするスタッフ達に加えて、「今後の農業施策の参考になるから」と声をかけたスート子爵領から、子爵の母・テレスと農家代表2名が参加していた。なお、僕は「相談役」ということで参加している。


 また、いつまでも旧ゲラン伯爵領と呼んでいる訳にもいかないので、現在は通称「東部領」と呼ばれている。その東部領からは、農村の長と世話約数名が参加しているのだが、何か様子がおかしい。収穫祭という「お祝い」の打ち合わせに集まっている雰囲気ではなく、皆一様に不機嫌なのだ。


 話を聞いてみると、

「郷づくりを指導してくれたミク様が、あんな人だとは思わなかった。」

と言って皆、憮然としているのだ。理由を聞いてみると、

「俺達が苦労して作った米の扱いがひどい。」というのだ。

農村の世話役の一人が、理由を話してくれた。



「朝早くから来てくれたミク様やウルド直売所の人達に、朝一で挨拶をして、その後は邪魔にならねえようにって、作業を覗いていたんです。そしたら、信じられねえ様な事をしているのを見ちまって‥‥。

あらかじめウルドに送ってあった米は、粉に挽いてきて、‥‥団子を作るみたいで、そこまでは良かったんですけど、段々と、ひでえ事をやり始めたんだ。

‥‥粉をこねてる最中に草が入っちまったみたいで、団子が緑色をしているんですぜ。

もっとひでえのは、別にこねて、折角真っ白に出来上がった団子に‥‥ど、泥みてえな物を乗っけて、皆で笑ってるんですよ! ひでえと思いませんか? 」


 僕は、途中から笑いをこらえて彼らの話を聞いていたが、

「ミクは、みんなのために一生懸命郷づくりをしてくれただろう。ミクを信じていれば絶対に悪いようには、ならないからね。」

そう言ってなだめた。

「お米だって、食べてみるまで美味しさが分からなかっただろう。」とも。



 ウルド直売所のスタッフが料理を運んでくると、一緒に入って来たミクが挨拶をした。 

「お待たせしました。私達は、東部領の新しい「名産品」を考えてみました。これを収穫祭でお披露目すれば、必ず大評判になると思うよ。そして東部領だけでは作りきれない材料もあるから、スート子爵領でも栽培してもらうことを提案します。東部領とスート子爵領で新しい名産品を創っていくんだよ。」

ミクは、東部領の農家代表の顔を見た後で、スート子爵家のテレスの顔を見てウインクをした。

それを見て、テレスがにっこりと微笑んで小さく頷いていた。


 しかし、料理の皿が並べられると、東部領の農家代表の男が立ち上がった。

「ちょっと待ってくれ。これはちょっと酷くねえか? 俺達が作った米で団子を作ってくれたのはいいけど、なんでこんな泥みてえな物をのっけるんだよ。」

そうだ! そうだ!

「それに、草が入って緑色になっちまった団子を、そのまま出すとは思わなかったぜ!」

そうだ!そうだ!


「あのねぇ‥‥」

ミクが説明を始めようとした時、


「みんな、待て! 我らの乏しい知識と判断だけで、失礼な事を言ってはいかん。」

ワグルが立ち上がった。

「ユウ様やミクさんは、我々の知らない知識を惜しみなく分け与えて下さるんだ。そもそも、お二人がいなかったら今の豊作は無いんだ。良く分からない事、納得いかない事は、ちゃんと話を聞いてから判断するんだ。」


 ワグルの話を聞きながら大きく頷いていたテレスが、

「そうじゃ、ワグルの言う通りじゃ。それに、これは泥なんかでは無いぞ。ミクや、これは豆を煮崩したものではないか?」

「さっすが、ばあちゃん。年の功だね。」

ミクが人差し指を立てて説明を始めた

「これはね、お団子にアンコっていう甘いものをかけてあるんだよ。そしてこのアンコは、小豆って言う豆で出来ているんだ。泥みたいに見えるかもしれないけど、甘くてとっても美味しいんだよ。

それから緑色のお団子はね、香りが良い食用菊の葉を練り込んだんだよ。

先ずは食べてみてよ。これを東部領の名産物にしてみない? きっとみんな気に入るよ!」


 ミクに笑顔で説明されたが、みんな中々手が出ない。そんな中、直ぐに手を伸ばしたテレスが、

「うんまい! さすがミクじゃ!」

団子を頬張って声をあげた。

それを見たみんなが、おずおずと手を出した。


「うわぁぁぁ‥‥うんめぇ。」

「甘くて美味いなぁ。」

みんな歓声を上げながら団子を頬張る中で、一人の長が立ち上がった。

「ミク様、すまねえ。俺達、知らねえことばっかりで‥‥。

でも米が出来て、すげえ豊作で。‥俺達、人に自慢できることなんか、今まで何んんにも無かったけど、この米はすげえ自慢で、だから‥‥。」

隣に座っていた男も、

「そうだ。俺達の自慢を‥‥誇りを、汚されたような気になっちまって‥‥。でもそれもミクさん達が作ってくれた田んぼが、あの郷があってこそだって言うのに‥‥。」

「すまねえ!」

「どうか許してくれ!」

みんなが立ち上がって頭を下げている。


  しばらく黙って聞いていたミクが、僕の方を向いたが、その目は潤んでいた。

「お兄ちゃん、私、嬉しいの。みんなが自分達の作ったお米に、こんなに誇りを持ってくれて。それがすごく嬉しい。」

「でも、さすがユウ様だ。こうなることが分かっていて、ずっと黙っていてくださったのですね。」

ワグルが、うんうんと頷きながら感心している。


「えっ‥、う、うん。そうだね。」

しかし、僕が今までやり取りの中に入らなかったのは、別の理由だ。今は大人しくなっているが、ルー姉さんをずっと押さえ付けていたのだ。

東部領の長達が言葉を発した途端に、「このヤロウ!」とばかりに腕まくりをして、席を立とうとするルー姉さんを必死で押さえていたのだ。


「ねえ、みんなに聞きたいんだけど、私達が考えて、みんなで作り上げた「水の郷」の事は好きになってくれた? 大切に思ってくれる?」

ミクに問われると、

「ずっと大切にしたい! 子供達にも引き継ぎたいです。大好きな場所ですから。」

「俺もそう思う。米が採れるだけじゃなくて、景色も、きれいな水が流れる水路も、みんな好きになっちまったんだ。」

「ああ、そうだな。今までは、手が足りねえからって女房・子供を畑に連れて来てたけど、あの郷には、景色を見せたいから、‥一緒に居たいから連れて行くんだよなぁ?」

「そうだよなあ。」

皆が口々に声をあげた。


 皆の言葉を、噛みしめるように聞いていたミクは、

「ヴィーとリリィにも伝えたい。みんなの言葉を。‥‥私が感じたこの思いを‥‥。」

にっこりと微笑んで一筋涙を流した。

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