~異世界で仲間を増やしていきます⑤~
◇ ◇
「すごいな。本当に大きな‥‥見事な綿花が栽培されているのだな。」
翌日、僕達はラートル侯爵を案内するためにウルドの村を訪れた。僕達というのは、接遇の名目でミリア姫とラング殿下が同行しているのだ。国中から有力者が集まって来ているというのに年頃のミリア姫が城を空けていいのか?と、ラートル侯爵が心配して聞いてみると「お母様にも確認してある」とのことだった。
(アヴェーラ公爵は、ファーレン公爵家がラートル侯爵家との関係を重要視していることを国内に示したいのかもしれんな。)
ラートルは考えていた。
「これならば納得だ。綿花栽培の件、喜んで引き受けよう。疑ってすまなかったな。ヤマダユウ殿。」
「いいえ、ご納得いただければ結構です。せっかくウルドにお出で頂いたので、食料作物の選定のため、農産物直売所で試食をしていきませんか?」
「それは良いな。」
ラートル侯爵がうなずくと、
「やったーっ!」
歓声をあげたミリア姫が慌てて口を押えて、
「よ、よかったわねラング。直売所、楽しみにしていたんだもんねーっ。」
「え‥う、うん。楽しみーっ。」
幼い弟にフォローされていた。
僕達を乗せた馬車は、畑の中に整備された道を通って農産物直売所に向かった。しかし、直売所の入口にさしかかった所で、窓から外を見たラートル侯爵が、
「ちょっと待ってくれ。裏に続くこの道を行ってくれ。」
侯爵は、直売所の裏口が見たいのだろうか? 不思議に思いながら馬車を直売所のバックヤードに回すと、
「おう! なるほど、こうなっていたのか!」
馬車を飛び降りて感心している。そして直売所バックヤードの荷下ろし台をバンバン叩きながら、
「畑の中の道が街道の様に立派だった。それが直売所の裏まで続いている。不思議に思ったが、なるほどこうなっていたのか! ヤマダユウ殿、これは作物の収穫から集荷、そして出荷まで考えて、造ってあるのだな! 俺の領地にも、ぜひそなたの知恵を貸してくれ。頼むぞ!」
ガハハハッ、と嬉しそうに笑う侯爵の笑顔を見ながら僕は思った。
(この人は領民と一緒に汗をかいて来た領主だ。この人の力になりたい。そしてこの人にロメル殿下の味方になって欲しい。)と。
「おお、美味そうな物がたくさんあるな。」
「そうなんです! すごいんですよ。ここは。‥‥あ、売り場を拡張したのね。ユウったら教えてくれないんだから‥‥あっ!これはいかがですかラートル様? これも美味しそう!」
野菜や果物、加工品が並ぶ直売所の店内に入ると、ミリアは大はしゃぎだ。
そんなミリアの姿を見ながらラートル侯爵が、
「ヤマダユウ殿、アヴェーラ公爵はミリア姫の嫁ぎ先を既に決めているかのようだな。」
「そ、そうでしょうか?」
突然僕に振ってきたので驚いた。
「そうでなければ、国内の有力者が一同に会する日に、年頃の姫を外出させている場合ではないだろう。」
「はぁ‥‥、そうかも知れませんが‥‥」
僕が言葉を濁していると、
「ユウ、お料理が運ばれて来たわよ。私はラングとお店の中を見ているからね。ラートル侯爵に、ちゃんと説明するのよ! あっ、お料理は私達の分も残しておくのよ! いいわね!」
騒がしいミリア姫を苦笑いで見送って、僕達は侯爵領で栽培する農作物の相談を始めた。
◇
「ユウ、ラートル侯爵のウルド視察はどうだった?」
城に戻ると、直ぐにロメル殿下が確認してきた。
「ラートル侯爵は綿花の栽培状況を見て、直ぐに納得されました。その上で食料作物も確認されて、「うちの領地には、いつ来てくれるんだ?」って、すごい勢いで催促されました。」
「そうか。うまくいったんだな。ところで侯爵は一緒に戻らなかったのか?」
「姫様が「ファーレの街をご案内する。」って、そのままファーレの街へ行かれました。」
「そうか‥‥ではユウ、すまんが今度は、ベレン伯爵を案内してくれないか?」
「はい。伯爵には水門と運河を見て頂いて、我々の技術力を確認して頂くようにします。」
「頼んだぞ。」
僕はロメル殿下と分かれて、ベレン伯爵が待つ貴賓室へと向かった。
◇ ◇
「皆の者、本当にご苦労であった。今日は無礼講で楽しんでくれ。」
婚礼式典の3日後、全ての来客を見送った日の夕方、公爵居城の中庭で始まった慰労会でアヴェーラ公爵が皆に労いの言葉をかけた。
城で働く使用人やメイド達も含めた労いの場であるため、料理はウルド直売所からの出前だ。
僕は、公爵とミリア姫ら公爵一家と同じテーブルに着かされていた。
「一夜限りの夢の国、っていうのは、‥‥ウソだったのね。ユウ。」
再び点灯されたイルミネーションを、うっとりと眺めながらミリア姫がつぶやくと、
「そうなのだ。場を盛り上げるためには、こ奴は平気でどんどんウソをつく。」
アヴェーラ公爵も、ジト目で僕を見ながらつぶやいた。
「演出と言って下さい。」
僕が、しれっと答えると、アヴェーラはフッと軽く微笑んだ後で、
「ミク、お前もこちらに来てくれ。」
公爵家の面々が揃ったテーブルに、ミクも呼ばれた。
公爵家面々を前にして、ミクが居住いを正していると、
「改めて礼を言う。お前達のおかげで式典もパーティーも大盛況だった。ありがとう。」
「えっ、いや、私はお兄ちゃんのお手伝いをしただけですから‥‥」
アヴェーラ公爵に改めて礼を言われて戸惑っているミクだが、
「本当にありがとう。これからもよろしく頼むな。」
ロメルに微笑みながら声をかけられて、
「は‥‥はひ。お任せ下さい!」
ドギマギしながら答えていた。
「私からもお礼を言わせて下さい。」
リーファが立ち上がった。
僕の後ろに控えていたヴィーとリリィ、テーブルのミクにそれぞれ目を合わせてから、
「ヴィー、リリィ、そしてミク。私はあなた達に、生涯をかけてお礼をしていきたい。だから‥‥これからもずっと、お友達でいて下さいね。」
「お友達などとは恐れ多いです。ユウ様がお仕えするロメル殿下のお奥様なのですから‥‥」
お辞儀をしながら答えるリリィに、
「リリィ。リーファは「お友達で」と言っているのだ。よろしく頼む。」
アヴェーラが口を挟むと、リーファがリリィとヴィーに駆け寄った。
「お友達で!」
「は、はい。」「はいです。」
二人の手を取って微笑むリーファだった。
「ところでユウ、「織物産業の振興」についてだが、機織機の手配はどうなっているのだ。」
「そちらは職人ギルドのベルガさんに、試作機作りを進めて貰っています。」
僕とロメルの話に、ミクが心配顔で、
「お兄ちゃん。ベルガさんには気を付けないと、色々余計な機能まで付けてくれちゃうわよ。」
ミクは、土地改良事業の水車製作で力を借りて以来、職人ギルドの技術力は信頼しているのだが、余計な工夫まで考えてしまうところは心配していた。
「大丈夫だよ。先ずは「厚手の布地と薄手の布地を織れる機織機」ってお願いしてあるんだよね‥‥でも心配だから近いうちに見に行ってみるよ。」
「うん、その方が良いと思うわ。」
僕とミクの話を聞いていたミリアが、
「ユウ、今度はどんなことをやろうとしているの?」
興味深々で覗き込む様に聞いてきた。
「他の領地も巻き込んでのサプライチェーン‥‥ええと、原材料の生産から、製造、流通、販売までの一連の産業形態を新たに立ち上げようと思っています。」
それを聞いてミリアが小首を傾げながら、
「ふーん。よく分からないけど、よりたくさんの人が関わる事になるのね。」
「はい、そうなります。」
「じゃあ、よりたくさんの人を喜ばせて‥‥、みんなを幸せにしてね。」
微笑むミリアの顔が、とても美しく見えたからなのか、
「分りました。必ずや仰せの通りに。」
僕は思わず膝を付き、騎士の敬礼をしていた。
それを見ていたアヴェーラ公爵が、微笑みながら大きくうなずいていた。