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~異世界で仲間を増やしていきます③~

   ◇    ◇



 「ユウ様、資材の運搬と事前の準備は、全て完了しました。」

日暮れ近くに、ヴォルフとウルド直売所のスタッフが、公爵居城の庭園での会場の準備を終えて報告してくれた。

「おお、ありがとう。明日の設営もよろしく頼むね。」

「はい! 俺達も本番が、すごく楽しみになって来ました。お客さん達を絶対に驚かせて、楽しませてみせます!」


 いよいよ明日が、ロメル殿下とリーファ姫の結婚式だ。出来る準備は全て済ませたつもりだ。僕が披露宴パーティー会場の設営及びアトラクション全般を仕切り、ミクがメイン料理からデザートまでを仕切ることになっていた。ミクは昨日から泊まり込みで料理の仕込みを始めている。


 城の厨房に顔を出してみると、城の厨房スタッフに応援のウルド直売所のスタッフも加わってテキパキと準備が進められていた。

「あ、お兄ちゃん。こっちはだいたい準備完了だよ。そっちはどう?」

「ああ、こちらも今日の分は終わったよ。」


 僕らは城の中庭で準備の進んだ会場を眺めながらお茶を飲んでいた。

「準備を始めた時は「だいじょうぶなの?」と思ったけど何とかなったね。もうあたし、明日が楽しみでしょうがないよ!」

「うん、そうだね。」


「そうだミク、ヴィーとリリィの方も、上手く話が進んでいるみたいだよ。」

「ホント? 良かった!」

先月、水田開発の完成式典で協力してくれた水精達に「お礼がしたい」として、ヴィーとリリィの二人で川へ行ったのだそうだ。そして水精達に聞いてみたところ「酒を奉納して欲しい」という望みであることが分かった。

「ユウ様に手に入れてもらうから少し待っていて」などと伝えて、話し合いを終えて帰ろうとした時、水精達から伝えられたことがあった。

「セレス様が会いたがっているので、泉を訪ねて欲しい。」と。


   ◇


 翌日、バイクにサイドカーを付け、ヴォルフに送ってもらって二人はセレスの泉を訪ねた。


「ねえヴィー。この泉、水はきれいだったけど、これ程までにきれいなところだったかしら?」

セレスの泉に着くと、リリィも驚きの声をあげた。

「私も、これ程になっているとは思わなかったのです。」

ヴィーも驚いている。


 セレスの泉は、以前訪れた時には「森の中にひっそりとある、静謐な泉」というイメージだった。清らかな水を湛えるところはそのままだが、眩い光が降り注ぎ、湖畔に花が溢れた美しい泉になっていたのだ。そしてその湖畔には、多くの鳥や小動物が潤いを求めて集まって来ており「生命力に溢れた泉」という印象だ。


「主の格が上がったり、力が増したりすると、その土地が豊かになるですよ。」

ヴィーは泉の河畔に腰を下ろすと、傍でくつろぐウサギたちを撫でながら小鳥に声をかけたりしている。

そしてリリィと二人で泉に足を付けると声をあげた。

「セレス様ぁ!来たですよーっ!」

「会いに来ましたよーっ!」


 すると、

『良く来てくれました。』

澄んだ美しい声が響いたと思うと、泉の水面上に半透明の美しい女性の姿が現れた。


「セレス様?なのですか?」

リリィが驚いて声をあげると、

『そうですよ。あなた達のおかげで心配事も無くなり、大きな力が出せるようになりました。』

セレスは、先日見せた少女時代の姿よりも成長した大人の女性の姿になっていたのだ。


『お礼がしたくて、あなた達を呼んだのです。あなた達、何かかなえて欲しい望みはありませんか?』

セレスに問われてヴィーとリリィは顔を見合わせた。


「うーん‥‥、新しく造った郷に、これからも泉の水を頂ければ‥‥」

『もちろんそのつもりです。あなた達は、人だけでなく全ての生き物のことまで考えた郷づくりをしましたね。そんな郷に水を送り続けることは、もはや私の役目です。 ところで、あなた達は今、幸せに暮らせているのですか?』


 セレスに問われて二人は、

「ええ? ‥‥し、幸せなのです。」

「そうよね。私達今、すごく幸せです。」

顔を見合わせてニマニマしていたが、ヴィーが、ふと思いついたように、

「あっ、そうなのです! 結婚式があるですが、お嫁さんに合わせてあげたい人がいるです。もう会えない人なんだけど‥‥合わせてあげたいのです!」

ヴィーの言葉にピンときたリリィも、

「セレス様のお力で、亡くなった人と会うことは出来ませんか? ほんの少しの間だけでも良いんです。会わせてあげたいのです。」

真剣な表情の二人に、

『簡単な事ではありませんが‥‥』

セレスは語りはじめた。


   ◇


 僕はヴィーに聞いた話をミクに説明した。

「そうなの‥‥。上手くいくといいね。」

「そうだね。でも「上手くいくかどうか分からないから、リーファ姫には内緒にしておいて」って言われているんだよね。」

そんな話をしていた僕らに後ろから声が掛かった。


「ユウ様、ミク様。」

振り向くと、ロメル殿下とリーファ姫が微笑みながら近づいてくる。

僕は口の前に人差し指を立ててミクと目配せした。


「私達のために、本当にありがとうございます。」

「リーファちゃん心配しないで。私達、思いっきり楽しんでいるから!」

ミクが笑うと、リーファはミクに駆け寄って手を取った。


「ユウ、私にもパーティー会場の全貌は知らされていないのだが、ヒントだけでも教えてくれないか?」

「そうですわ。」

ロメルに同意してリーファも口を尖らせる。


「うーん‥‥やっぱり内緒です。「この庭園を夢の国に仕上げる」とだけ言っておきます。」

「二人は、明日思いっきり楽しんでもらえればいいだけです。‥あ、それじゃあヒントです!」

ミクが思い出した様に人差し指を立てて、

「ヴィーが「お礼をしたい子達がいるから、会場に呼んでいいか?」って言うから、「いいよ」って言っちゃいました。ここを夢の国として盛り上げるのにもいいからね、って。」

「警備担当のヴォルフには伝えてありますよ。危険が無くても不審者だと思われたら困りますからね。」

僕はミクの言葉に笑顔で付け加えてから、

真面目な顔でロメル殿下に向き直った。


「殿下。今後の事を考えると、国中から有力者が集まるこの式典で、ファーレン公爵領の力を見せつけておく必要があります。具体的には財力と技術力です。そして時間に余裕がある方には、街の賑わいや食文化の豊かさも見てもらいたいですね。」

「ファーレン公爵領の力と魅力を見せつけることで、技術支援や交易によって「仲間」を増やそうということだな。」

「そして今後、交流関係を造りたい領主とは、逃してはならない会談の機会です。」

僕はロメル殿下と頷きあった。


   ◇   ◇



 カラーン、カラーン

祝事を告げる大教会の鐘が、今日は朝から頻繁にファーレの街に響いている。

そして城の中は朝から大忙しだ。


「ラートル侯爵様が到着されました。ご案内をお願いします。」

「セダム公爵様が到着されました。ご案内をお願いします。」

受付では公爵家執事のバートとメイド長が、来客を告げるとともに接遇の指示を出している。二人にはインカム付きのトランシーバーを持たせてある。


「おおバート、久しいな。ところでそれは、‥件の魔導士男爵の魔道具か?」

体格の良い初老の紳士がバートに声をかけた。

「これはこれは、ラートル侯爵様。本日は遠方よりお越しいただき、ありがとうございます。これですね。さすがお目が高い。今や公爵様の右腕となったヤマダユウ男爵の魔道具です。」

「ほう‥」

ラートル侯爵は興味深げに顎髭を撫でながら唸って、

「そのヤマダユウというヤツと会ってみたいな。その時にはロメル殿下も同席して頂いた方が良いかな?」

微笑んだ。

「はい! ぜひとも、お願いいたします。」

バートは深々と頭を下げた。

(さあ、始まりましたよ。リーファ様には申し訳ありませんが、今日の目的はお祝いばかりではありません。殿下とユウ様が描く「この国の未来」のための大切な日となるのです。)


   ◇


「ラートル侯爵とベレン伯爵には、ロメルとユウとの対談を間違いなく手はずせよ。なに?二つの公爵家はどうするかだと? お飾りの公爵家など私が挨拶に出向けば、それで十分だ!」

アヴェーラ公爵は、貴賓室から出たり入ったりしながらバートに指示していた。


 そんなアヴェーラ公爵に、使用人が駆け寄った。

「王宮から連絡が入りました。出席予定だった王太后バーシア様の体調が優れず、宰相のカレント伯爵のみがご出席だそうです。」

「そうか‥‥。まぁ、予定どおりだな。では皆の衆、今日は気楽にやってくれ!」

報告を受けて、来客たちに笑顔で声をかけた。


 来賓の出欠確認の際に、王太后の出席が告げられた時には皆驚いたが、アヴェーラは、

「来るわけあるまい。社交辞令というヤツだ。出席することにしておいて、直前で体調が悪いのなんのと断って来るに決まっておろう。」

そのように読んでいたのだ。


 先のゲラン伯爵によるファーレ侵攻について、王国の貴族たちの多くが「何らかの形で王太后が絡んでいたであろう。」という見方をしていたが、アヴェーラ公爵は、

「疑念はあったが、証拠は無かった。」と外向けに話していた。

しかし、ファーレン公爵家が大公爵家に格上げになったことや、ゲラン伯爵領の事実上の併合が認められた事は、何らかの交換条件が無ければありえない「破格の処遇」であり、王太后がアヴェーラ公爵に「落とし前を付けられた。」とする見方が一般的だった。


    ◇


「本日は、遠方よりお越し頂きありがとうございます。ラートル侯爵。」

「おうロメル殿下。ご立派になられて。母上もさぞ安心な事であろう。」

ロメル殿下と僕は、ラートル侯爵を招いて会談に臨んでいた。


「僕の相棒、そして今や公爵の右腕と言えるヤマダユウ男爵です。」

僕がペコっと頭を下げると、

「なんだか、町人のような風体の男だな。」

僕を値踏みするように見つめてからニヤリとして、

「ファーレン公爵領に突然現れた男が、次々と魔物を打ち破り、様々な施策を講じて領内を豊かにしていく‥‥。今や国中から注目の的だぞ。お主。」

声をかけられた僕は、

「恐縮です。ところでラートル侯爵様は、南部の国境近くに広大な領地をお持ちだそうですね。」

「ああそうだが、俺の領地に何か役立つ施策があるのか?」

再び僕を値踏みするような目で見て来た。


「はい。今後興していく大きな産業を支える原料作物の提案があります。」

「ほう、それは良いな。しかし、食料作物も何か見繕ってくれよ。」

「はい。その場合には、土地を見せて頂いてから、いくつか提案させて頂くことになります。」

ラートル侯爵は僕の顔を見てニヤリとして、

「王家よりも、公爵家と組んだ方が得のようだな。ただし、条件がある。」

「何でしょうか?」

「原料作物というなら、必ず買い取ってくれよな。」

「もちろんです。提案したい作物はこれです。」


 僕は、後ろに置いてあった大きな袋から中身を取り出してテーブルに乗せた。

「綿花です。侯爵様の領地で、これを作ってみませんか?」

綿毛をたっぷり実らせた綿花を見せて説明した。これは、現世日本から種を持ってきてウルドで試験的に育てたものだ。


「おい! 何だこりゃ? これは作り物だろう? こんなバカげた綿花があるものか?!」

ラートル侯爵は、驚くというより何か怒っているようだ。

「何か、気に障る様な事がありましたか?」

ロメルが、口を挟むと

「こんなバカでかい綿花があるものか! って言っているんですよ!」

ラートル侯爵は、ロメル殿下にも食ってかかっている。どうやら僕が、ありもしない綿花の「作り物」を見せて、詐欺のような事を言っていると思ったようだ。


「すみません。事前に説明が必要だったようですね。これはこの国の綿花とは種類が違います。僕が故郷から取り寄せた物です。」

この国を含めたこの世界の衣服の素材は、貴族は主にシルクと毛織物、庶民は麻のような植物から作られる繊維を主に使っていた。この世界に綿が無いわけでは無いが、この世界の小さな綿花から少ししか取れない綿は、糸の素材にしか使われていなかったのだ。


「ファーレの川向うのウルドというところで、この綿花は試験的に作っています。これが作り物でないことが分かったら、作って頂けませんか?」

ラートル侯爵は、僕の表情をうかがう様にしながら、

「しかし、これ程の物が栽培できるのなら、なぜ自分の領地でつくらんのか。自分の領地で独占的に作らないのはおかしいだろう!」

「おっしゃることは良く分かります。では、順を追って話しましょう。ファーレン公爵領は、ファーレという大都市を抱えて人口も多いですから、農作物は食料が優先です。

そして、僕はこれから、新しい産業として綿を使った「織物産業」を大規模に興そうと思っています。そのためには、大量の綿花が必要になります。広大な農地で大量の綿花を作ってくれる産業のパートナーが必要なのです。」

ロメル殿下が僕の隣で大きく頷いている。


「素晴らしい話だが、すまんが実物を見てみないと信じられん。明日にでも畑を見せてくれんか?」

「ぜひ、お願いします。」

ラートル侯爵は、慎重だが決断力もある方だと聞いている。ウルドの視察にお誘いして先進的な農業を見て頂ければ、侯爵の取り込みは成功したも同然だろう。

この後に会談を行うベレン伯爵の領地は、ファーレと同じく洪水被害が多く、治水の技術協力を求めてくることは事前の調べで分かっている。


 協力を求める領主達との交渉を早く済ませよう。そして披露宴パーティー会場の確認を進めなければならない


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