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~異世界で仲間を増やしていきます➁~

     ◇


 「ゲランの息子のワグルを代官に推薦するだと? 随分手近で間に合わせたものだな、ユウ。」

2日後、公爵居城の謁見の間で、僕は公爵にワグルを紹介していた。公爵に睨まれると、ワグルは思わず下を向いてしまった。

「推薦する以上は、そやつが何かやらかした時にはユウ、お前の責任だからな。」

公爵に言われると、ワグルが僕に耳打ちしてきた

「ヤマダユウ殿、やはり時期早々なのでは‥‥」


「では、うまくいったときの手柄は、僕のものですね!」

公爵に自信満々に言い放つ僕の横顔を見たワグルは、口を開けたまま固まってしまった。


「フン。そこまで自信があるなら、やらせてみろ。もう一度言うぞ。何かやらかしたら、お前の責任だからな。」

「僕ももう一度言います。うまくいったときの手柄は僕のものですよ。」

公爵は苦笑いしながら帰り際に、

「ワグル、ユウに恥をかかせるなよ。」と言って退出した。


「ははーっ!」

ワグルは床に頭が付くくらい深く頭を下げていた。



 「いやぁ、あんなに簡単にワグル殿を受け入れて頂けるとは思いませんでした。」

ワグルを先に返した僕は、アヴェーラ公爵とお茶を飲んでいた。

「実はテレス婆ぁにも、頼まれていてな‥‥」

公爵は、そう呟いてから話してくれた。


 先日、スート子爵家のテレスが、アヴェーラ公爵を訪ねて来たというのだ。

 実はアヴェーラは、テレスが苦手だった。隣接領地との調整事の際によく顔を出し、いつもしかめっ面で、なかなか首を縦に振らない。子爵家の隠居のくせに「面倒なババアだ」と思っていたのだ。


 そのテレスが来た早々に深々と頭を下げて、

「ヤマダユウ殿と配下の娘達に、この婆が、これまでの人生を救って頂きました。」

涙ながらに礼を言いに来たのだ。

話を聞いたアヴェーラも感激し、最後は手を取り合って二人で泣いたのだそうだ。


 テレスは、その話の後で孫のワグルについて触れ、

「あやつもヤマダユウ殿に触発されて随分変わりました。下働きでも、どんな仕事でもいいから、使ってみてもらえないでしょうか?」と、再び頭を下げてから帰って行ったというのだ。


「ユウ、お前との出会いによって、この国が、人が‥‥どんどん変わっていく気がする。私の周りに愛すべき者達が増えていくのは良いが、果たしてそれだけで済むのだろうか‥‥。しかし、まずは目先の大仕事をよろしく頼むぞ。」

「はい。そのために代官の人選を急いだのです。」



    ◇    ◇


 「ミク、披露宴に出す料理は、決まったのか?」

「ううん‥‥まだなの。」

「おい、材料の手配とか間に合うのかよ!」

「だってぇ‥‥公爵様から、「お前に任せる」って言われちゃったのよ! どうすればいいのよ!」


 僕とミクはファーレの街に開業した「ホテル」で相談していた。ここは僕が貴族の邸宅を買い上げて、この国で初の高級宿泊施設として開業させたものだ。


 ロメル殿下とリーファ姫の婚礼式典まで1ヶ月を切っている。結婚披露宴のパーティーメニューを早く決めて、材料の手配等をしていきたいのだが、先程の通りアヴェーラ公爵から「任せる」と言われたミクは頭を抱えていた。どうやら自分もサプライズを楽しみたいらしく、「楽しみにしているからな。失望させるなよ。」などとお気楽な事を言っている。

これに困った僕達は、ロメル殿下とリーファ姫に助言を求めようと尋ねてみた。


「何を心配しているのだ、ユウ。心がこもっていれば何でも良いに決まっているじゃないか。」

「そうです。それに私は‥‥ロメル様と結婚出来るだけで、もう何もいりません。」

「リーファ、君はなんて可愛いんだ!」

僕とミクは、最も頼りにならない人達に相談に来たことに後悔しながらホテルに戻った。


 ホテルに戻ると、バートさんが来ていた。この人だけは頼りになると安堵した僕らに、バートさんが深々と頭を下げた。

「お二人のご苦労が分かっておりながら、お願いがあってまいりました。」


 恐縮するバートさんから話を聞くと、

来賓の貴族達のために、公爵家が城内や後宮に宿泊部屋のやりくりをしていたところ、「ホテル」の評判を聞いた上級貴族たちが「そちらに泊まりたい」と騒いでいるとのこと。

後宮まで使って宿泊のやりくりしていたアヴェーラ公爵は、「勝手にしろ!」とおかんむりなのだそうだ。


 その話を聞いて、僕とミクは顔を見合わせた。参加するVIP来賓達の宿泊場所については、公爵家が確保することになっていたのだ。城壁に囲まれた公爵の城なら、不審者の侵入等を防げるため警備面で有利なのだ。ホテルで受け入れるのは、警備対象外の下級貴族に限定しようと考えていたのだ。

・王宮、公爵家、侯爵、伯爵、子爵クラスまでは、公爵家に宿泊して頂く。

・男爵以下貴族及びその他来賓については、ホテルに泊まって頂く。

それでもホテルの部屋数が足りず、急きょホテル内の改装によって部屋を増築しているところだったのだ。


「そんなこと言ったって、もう無理よーっ!」

ミクが泣きべそをかきながら頭を抱えるとバートさんが恐縮して再び頭を下げた。

「でも本当にいっぱいなんですよね。後は庭にテントでも張るか‥、でもそんなことVIP来賓に失礼‥‥」

「ん!?」

僕とミクが顔を見合わせた。

「豪華なテントは‥‥、なくはないよね。」

「この際、メインはお城の庭園にしちゃう?」

僕とミクはヒソヒソ話し合ってからバートさんに向き直った。


「公爵家の庭園に「一夜限りの夢の国」を造ります。そこに泊まれる施設も作りますので、部屋数も補えます。」


 パーティー会場のメインの催しが決まってしまえば、後はこれに繋げれば良いのだ。僕はバートさんに「必要経費は頂きますよ。」とくぎを刺してから、現世日本での必要資材のリストアップを始めた。式典までの間に満月は一回だけ、1週間後だ。

資材のリストアップは、確実にやっておかねばならない。



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