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~異世界で仲間を増やしていきます①~

体調を崩して長期で更新が滞りました。すみません。また読んで頂けるとありがたいです。

     ◇     ◇


 水田開発「水の郷」完成式典の翌日、僕は城を訪ねて来たスート子爵と相談していた。子爵から開発支援等、今後の協力関係についての相談を受けたのだ。

 スート子爵は「母の人生を救ってくれた。」として僕らに最大限の謝意を示すとともに、元伯爵領の水田開発・郷づくりに大いに感心して、「我が領地の開発を支援してもらえないか?」という相談に来たのだ。


 僕からは、

「他の領地の開発支援については、主である公爵の許可が必要ですが、僕の方も困っていることがあります。その相談に乗って頂けるなら、前向きに検討しますよ。」と提案した。

 僕が進めている元伯爵領の振興施策の柱「農業の再生・大規模水田開発」については、概ねうまくいきそうだ。しかし、いつまでも僕が領主代行として滞在しているわけにもいかない。僕が相談・確認したかったのは、子爵家に身を寄せているゲラン伯爵の息子ワグルの、人となりについての確認だ。


 ゲラン伯爵を捕えて尋問したところ、伯爵をそそのかした怪しい男の存在が確認出来た。魔物を加担させての侵攻だったため、背後関係を疑ったが、やはり「ゾーディアック卿」が関わっていたようだ。

 今回の侵攻が、そそのかされたゲラン伯爵の独断によるものであれば、伯爵家を取潰しにはするが、領地を治める体制としての伯爵家の人員は活かしていきたい。地域行政に精通している人員を活用できれば、それに越したことはない。それでゲランの息子のワグルの人となりを確認したかったのだ。


 僕が相談すると子爵は、「短い間に人があれ程変わっていくのを初めて見た。」と言って、ワグルの近況を話してくれた。


     ◇


私の館に身を寄せた頃、ワグルは「俺が伯爵領を継ぐはずだったのに、親父が台無しにした。」と嘆いてばかりでしたが、私の母、祖母のテレスの元にあなた方が来るようになってからは、あなた方のなさることを盗み見るようにしていました。

 いや、悪い意味ではなく、あなたの仕事ぶりを見せて頂きたくても、中々言い出せなかったのでしょう。最初は、あなたと母を取り持つことで、あなたに接近しようとしたらしいのですが、それは叶わなかったようですね。母からも「姑息なことはするな」と叱られたようです。


 そのうち、あなたの代わりに可愛らしい娘さん達が母の元に来るようになったのを見た彼は、「どんな飯事ママゴト遊びをやっているのやら。」と思って現地に赴いたそうです。しかし、現地に行って彼は驚いた。

計画的に大規模に進められる農地開発に。

そして希望に溢れて働く、領民達の姿に。


 それからというもの彼は、あなた達の仕事のどこが優れているのか、なぜ、このような大仕事を進めていく事が出来るのか、それが知りたくて、色々探りを入れてみたそうです。

 希望に胸を膨らます領民達の気持ちが知りたいと、労働者として一緒に働いてみたり、ドワーフの技術者に紛れてヤマダユウ殿の妹君の話を聞いてみたり、労働者から本音を聞くために飯場(労働者の合宿所)に泊まることもしたそうです。


 そして、いくつかの答えに行きついたそうですが、彼はそれが正しい答えなのか分からず、悩んでいる様子です。


     ◇


 「彼の行きついた答えが知りたいですね。教えてもらえませんか?‥‥いや、自分で会って聞きたいです。」

僕がそう言うと、子爵は微笑んで、

「そう言って頂けると思って、連れてきました。」


「ワグル。入りなさい」

子爵に呼ばれてワグルは部屋に入ってくるなり、

「ヤマダユウ殿‥‥いや領主代行様、教えて欲しいことがあります。」

前のめりに話し始めたため、子爵が手で制して、

「これ、ご挨拶が先だろう。」

「いいですよ。僕もワグル殿の話が早く聞きたいです。」

僕が発言を促すと、ワグルは堰を切った様に語りだした。


「すみません。では申します。ヤマダユウ様は、なんというか‥‥今までの領主とは、何もかもが違うような気がして‥‥、しかし、政では、すごい事をやり遂げている。私は何が正しいのか分からなくなってしまったのです。そして、答えを出そうとすればするほど、私の頭がおかしくなったのかと思ってしまうのです。」


 ワグルは戸惑いを隠そうとせずに続けた。

「私は今まで、領地を治めるため、人を治めるために、必要なものは力だと思っていました。領民を恐れさせる権力・武力だと思っていたのです。しかし、ヤマダユウ殿は、魔物を倒す程の武力がありながら‥‥ゆ、夢や希望、目標を持たせる事で、人を動かしているような気がするのです。

そして、‥‥自らの領主としての目標も‥‥領民に共有させている様に見えるのです。違いますか?!」


 ワグルは好奇心に満ちた顔で僕を見つめてくる。初めてこの家で会った時の、何とか僕に取り入ろうとする姑息さが見え隠れしていた表情とは、まるで別人のようだ。

 僕はその顔を見て即決してしまった。席を立ってワグルに歩み寄って右手を出した。するとワグルは「???」と、戸惑いの表情を見せながらも僕と握手をしてくれた。

「ワグル殿、君を、この領地の代官に推薦したい。一緒に公爵に会いに行こう!」


「「えーっ!」」

ワグルとスート子爵だけでなくその場にいた執事たちも、驚きの声を上げた。

「有り難いお話ですが、さすがにそれは時期早々なのではありませんか?」

スート子爵が慌てている。

「それを最終的に判断するのは公爵様です。僕からは「推薦」という形になります。」

「それにしても‥‥」

心配顔の子爵に向かって僕は続けた。


「そして子爵領からご相談を頂いた案件ですが、子爵領で作る作物は、ファーレン公爵領で作られていない作物で、今後、公爵領や国内で需要がありそうな物‥‥。そういう物の中から領民の皆さんと話し合って決めていきましょう。」

僕のスート子爵への提案を聞いて、

「それ、それです!」

ワグルが僕を指さして大声を上げた。

「これっ!」

子爵がしかりつけたが、僕の「良いんですよ。」という顔を見てワグルは続けた。


「す、すみません。つい‥‥。私が気になったのは、今のお話のように、領主が命令しないで「領民と話し合う」というところなんです。話し合いなんかしたら、「楽に作れる作物にしたい」なんて意見が出るんじゃないでしょうか? 領主が色々考えて、一番いい物を作るように命令した方がいいんじゃないでしょうか?」

ワグルは真剣な顔で僕を見つめている。

これには僕も真剣に答えよう。


「僕は領民の皆さんとは、目標を共有するべきだと思っています。そうすれば、細かいところまで逐一指示しなくても良くなるでしょう。そして領民の皆さんに「やる気」を出させるためには、目標設定の段階から参加させるのが良いと思っているのです。」

ワグルが大きく頷いた。

「やはり‥‥、領主代行は、そのようにお考えなのか‥‥。」


 何度も頷くワグルを見て、かつてはゲラン伯爵家に、今は領主代行の僕に使えている執事のカーンが声をかけた。

「ワグル様、理屈では分かったとしても、貴方様にそれが実行できますでしょうか?」

少し意地悪い言い方をしたのだが、ワグルは、

「ふん。これ程の成功例を見せつけられて、実行しない方が愚かなことじゃないのか?」

鼻息荒く答えた。


するとカーンは、僕とワグルの前にひざまずいた。

「領主代行・ヤマダユウ様、お願いでございます!ぜひともワグル様に機会をお与えください。ぜひとも!ぜひとも!!」


 この様子を部屋の入口からそっと覗いていた女性がいた。ゲラン伯爵の元妻でワグルの母親のリタだ。リタはあふれる涙を拭いながら、何度も大きく頷いていた。



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