~異世界の新たな領地で、水田開発に取り組みます➈~
◇ ◇
「ねえ、お兄ちゃん。なんで、こんなに水着があるのよ?」
ミクにジト目で見られて、
「ヴィ‥、ヴィーに選んでもらおうと思って色々買ったんだよ。い、いいだろう! 別に!」
僕は、しどろもどろになりながら答えた。
明日はいよいよ伯爵領で水田開発「水の郷」の完成式典だ。しかしヴィーが、
「その日の明け方に、ファーレで準備することがあるです。」
と言い出したため、前日のうちにリリィとミクも連れて、ファーレの宿舎に帰って来たのだ。
「明け方に川に入らなくてはいけない。」「出来るだけ水に浸かった方が良い。」でも、「裸になるのは困る。」などと相談していた3人だったが、ミクが、はたと思い当たった様子で、
「ねえ、お兄ちゃん。ヴィーの水着ってある?」と言い出したのだ。
ビキニが3着、ワンピースが2着あった。それで、
「なんでこんなに‥‥」となったのだ。
「これは、下着ではないのですね?」
リリィが不思議そうにビキニの水着を見ていた。
「とりあえず着てみるから、お兄ちゃんは出てって。」
僕を追い出した部屋で、3人はキャッキャと騒ぎながら水着を選んでいたが、試着を始めたところ、リリィが戸惑っている様子だ。その様子を見てミクが、
「リリィ、あんた! 「こんなちっちゃい布切れで私の胸が隠れるのかしら?」 とか思ってるでしょ! あたしとヴィーの胸は、十分隠れるのよ! 悪かったわね!!」
「えっ、そ、そ、そんなこと‥思ってません!」
図星だったようだ。
◇
夜が明ければ、伯爵領で完成式典の当日となる。
夜明け前にファーレの宿舎を出発した僕らは、街に沿って流れる川と、街の中を流れる運河とを繋ぐ「水門」のそばに来ていた。
ヴィーが言っていた「準備」というのは、「水精への呼びかけ」だそうだ。
水門のすぐそばの河原で、上着を脱いで水着になった3人娘が手を繋いで、明け方の川に入って行く。
「じゃあ二人とも、私に心を寄せて下さいです。」
ヴィーの言葉に、
「今、リリィに心を寄せて、って言われたら、無理かも知れないわ‥‥。」
ミクが、リリィのたわわな胸をジト目で見ながら呟く。
「そんなこと言わないで、今日は仲良くするですよ。」
「冗談だってば。今日は絶対、成功させるんだもんね!」
「はい!」
3人が膝上あたりまで水に浸かったところで、ヴィーが、
「二人とも、私に心を寄せて下さい。」
ちょうど昇って来た朝日が、川の水面に反射してキラキラ輝いている。そんな中でヴィーが、水面に向かって呼びかけた。
「この川と、街の運河にいる水精さん達、聞こえるですか?」
リリィとミクには、ヴィーの声が頭の中に響いてきた。
その瞬間、ミクとリリィは、
ピシッ、
という痺れに近い様な感覚をおぼえた。
自分達から川に向かって何かが静電気の様に流れ伝わり、それが広がっていく感覚を感じたのだ。そして、それが川と運河全体に一瞬のうちに伝わっていくのが分った。
川と運河の隅々までの情景が、一瞬のうちに頭の中に共有出来たからだ。
瀬と淵の変化を持った川の流れ、
水草の揺らめき、
小魚の群れ、
それを追いかける大きな魚、
ここから繋がるこの辺り一帯の水域の全ての情景が、一気に頭の中に入って来たのだ。
「ヴィー‥‥あなた本当にスゴイのね!」
ミクが驚きの声を上げる。
「私だけの力ではないのです。3人の力なのですよ。ミク、リリィ、運河完成式典の夜のように、水精さんに呼び掛けて下さいです。」
ヴィーを挟んで、ミクとリリィが顔を見合わせて、頷き合う。
「水精さん、聞いて下さい。私達に力を貸して欲しいのです。水精さん‥‥。」
その呼びかけが一帯の水域に伝わっていく。
すると、川の上流で、下流で、街の運河のいたるところで、
パシャパシャ、
風も無いのに小さな波が立った。
その波が立ったすべての場所から、何かが3人の所へ近づいてくる。
青い、半透明の魚のような何かの群れが、物凄い速さで近づいて来るのだ。
あっという間に、3人の周りの水面が青く輝く半透明の者達で溢れた。
「「ありがとう! 来てくれてありがとう!」」
3人の声に、パシャパシャ、と水面を叩いて答えてくれる。
ヴィーが切り出した。
「みんな、聞いて下さいです。お隣の領地に「セレスの泉」っていうきれいな泉があるです。そこの主のセレス様のために、力を貸して欲しいのです。」
すると、さっき感じたものと同じ、静電気のような流れを感じた。
それは川の上流側に伸びていき、川に合流する小川を遡り、瞬く間にセレスの泉にたどり着いた。
3人の頭の中にセレスの泉の清水のイメージが届くと、ミクが、
「そう、ここだよ。ここの主のセレス様の御心をお救いしたいの。あたし達なんかが、高位の精霊であるセレス様を「救いたい」なんて、生意気でゴメンね。でもあたし達、どうしてもやりたいの!」
「お願いです! 」
「お願いなのです!」
リリィとヴィーも水精達に呼びかけた。
すると、
パシャパシャ、と水面を叩く音で返事を返してくれた。
「ありがとう。私達は先に行ってあなたたちを呼ぶから、来てね!」
3人は、パシャパシャと水面を叩く水精達に手を振って別れると、伯爵領に向かった。