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~異世界の新たな領地で、水田開発に取り組みます⑧~

      ◇     ◇


 領民達の賛同も得られて、土地改良事業・水田開発は着工され、3ヵ月が経った。

 用水路や水田の造成はかなり進んできた。

 伯爵領の人口は、約2000人程度なのだが、交代で常時200人位の領民が工事に参加してくれていて、工事の進捗が早い。「お米の魅力」が、イベント参加者から多くの領民に伝わったことが後押ししているのだ。


 そして水路や水田に豊かな水の恵みが与えられるようにと願いを込めて「水の郷」と呼ばれるようになっていた。


「へえ、こりゃあ面白えもんを考えたもんだ!」

 職人ギルドのドワーフ達が、タブレットの映像を見て感心している。映している動画は「水車」の動画だ。


 この事業の重要施設、用水路から水を汲み上げる「水車」の製作は、職人ギルド長・ベルガさんのドワーフの工房にお願いした。


「ねえベルガさん、作れそう?」

 ミクが、タブレットを覗くベルガの肩越しに尋ねると、

「うーん、ちょっと難しいかなぁ。」

「そっかあ‥‥。」

(お兄ちゃんが、ベルガさんの工房に頼めば何でも作ってくれるって言ってたけど、ちょっと期待外れだなあ‥‥)

 ミクが少しがっかりしていると、

「用水路の水位や流量に関係なく、安定的に一定量を汲み上げるのは、ちょっと難しいなあ。」

 ベルガが、腕を組んで考え込んでいる。

「ちょっと待って、そんなすごい技術は要らないの!一定の水位以上の時に、水が汲み上げられればいいのよ!」

 要求以上の技術レベルを考えていたベルガだった。


   ◇


 リリィは、スート子爵家に来ていた。あれから頻繁にテレスの元を訪れるようになっていた。

 そしてリリィが訪れる様になってから「厳しいばかりの頑固婆さん」という雰囲気だったテレスが随分丸くなって来たと、子爵家でも評判がいい。


 今日もお茶を飲みながら、情報収集をしていた。

「セレス様が、お好きだったお花を教えて下さい。似ているもので結構ですから。」

 魔法のタブレットの画像を見せて確認している。


「どれ、見せてみなさい。」

 テレスは、タブレットを覗きながら考えていた。

(この娘達は、心からセレス姉さまの御心に答えようとしている。しかし、姉さまは許すまい。‥‥わしが生きているかぎりは。

娘達の郷づくりが終わったら、わしは、この命を捧げて許しを請うのだ。そして、この娘達が創る郷に水を回して頂くのだ。)

 説明するリリィを見ながら、テレスは微笑んだ。


   ◇


「久しぶりに顔を見せたと思えば、お前、‥‥ずいぶん格の高い‥‥精霊か何かに関わっているようだな‥‥」

 シリアはヴィーを見るなり、頬に両手を当てて、そんなことを言った。

 舞姫・シリアがスート子爵領の小さな神殿に来ていることを聞いて、ヴィーが尋ねて来たのだ。


「分るですか? 私達、泉の水を使う郷づくりをしていて‥‥。泉の主様・セレス様に認めて頂けるように、頑張っているです。」

「ふむ、お前とヤマダユウなら、間違いは起こさないと思うが、お前達が関わっているのは、とてもとても、格も‥‥徳も高い、精霊のようだ。」

「はい。そう思います。私達、主様‥‥セレス様に認められたくて調べているうちに、泉に‥‥セレス様に、とても悲しい事があったのを知ったです。」

 真剣な表情のヴィーに、

「なんだ? それでお前達は、どうしようというのだ?」

 シリアが尋ねた。

「私達、郷づくりに併せて、セレス様の御心をお救いしたいです!」


「ダークエルフのお前が動くのは、まだ解るが‥‥只人の娘達が、高位精霊を‥‥その御心を、救いたいと言うのか?」

「はいです。おかしいですか?」

 ヴィーは真剣だ。

「ああ、おかしい。 ‥人は精霊に、ましてや高位精霊になど、頼み事しかしないものだ。それを「救いたい」などと‥‥。お前達は本当に面白い。」

 シリアは、口では否定的に言った後で、ヴィーの手を強く握った。

「とても興味深い試みだ。」

 それを聞いたヴィーの表情がパッと笑顔に変わった。

「シリア様の力を貸して欲しいです! 主様に「降りて来てもらう」には、どうしても「力」がいるです!!」


 シリアは、ヴィーから詳しい話を聞いてから考え込んだ。

「しかしな、それは私の力だけでは無理だな。迎える側でも「場所」を造ってやらねばならん。‥‥それにも大きな力が必要になる。しかしそれも、お前達なら可能だ。お前達は‥‥」

 シリアとヴィーは策を考えた。


 セレスの御心を、魂を救う策を。


      ◇    ◇



 土地改良事業は、概ね第一期工事の完成が間近となって来た。

 水路の掘削や水田の造成が概ね出来上がったため、水路に「試験通水」を行う段階となったのだ。


 試験的とはいえ、「水を使わせてもらう」ことには変わりないので、祭壇に捧げものをして、3人はセレスに許しを請うことにした。

「セレス様、水を使わせて頂きます。」


 しばらく祈った後で、ヴィーが合図をした。

「じゃあ、どうぞ。水を引き込んで下さいです。」


 小川と掘削した用水路を隔てていた堰板が外されると、水が用水路に流れ込んだ。用水路内を水がうまく流れ、水車も回って田んぼにも水を入れることが出来た。


「やったーっ! 試験通水成功だーっ!」

 いよいよ水田開発「水の郷」づくりは、完成間近となった。


   ◇


「ばあちゃん! 私達の「水の郷」が出来たよ。10日後にお披露目会だからね。見に来てね!」

 スート子爵家に知らせに来たミクとリリィに微笑んで見せたテレスだが、心のうちでは、ある決意を固めていた。

(娘達の創った郷を見届けたら、わしは死んでセレス姉さまに詫びよう。それが一番良いのだ。)


 ミクとリリィを笑顔で見送りながら、テレスは考えていた。



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