~異世界の新たな領地で、水田開発に取り組みます⑦~
◇ ◇
「何か、すげぇ良い匂いがして来るんだけど。」
「そうだな。初めての匂いだけど、美味そうだってことは、間違いないよな。」
伯爵の城の庭に、たくさんシートが敷いてある。そしてその周りを、屋台が立ち並んでいる。
今日は「お米体験・食事会」だ。
これから始める「水田開発・郷づくり」に向けて、まず領民達にお米の魅力を伝えておこう、というイベントだ。
領内の全ての村に声をかけたのだが、これはミクが回ってくれた。
「ウルドを寒村から豊かな村に大変身させた「異国の賢者ヤマダユウ」が、今度はこの領地を大変身させるよ! 話を聞きにくれば、美味しいものが食べられるから、それだけでもお得だよ!」
そんな風に、触れ回ってくれたらしい。ちょっと照れるが、効果はあった様だ。
領主城の庭には、近隣の村から300人程の領民が集まってくれていた。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。この領内の農地は、今はかなり荒れてしまっているが、どうしてだと思う?」
僕が挨拶もそこそこに、こんな質問をすると、領民達から声が上がった。
「何だよ。そりゃねえですよ! ウルドが美味い野菜をたくさん売るから、うちの作物が売れなくなっちまったんじゃねえですか!」
「そうだ! そうだ!」
「俺達の仕事が無くなったのも、言ってみればウルドのせいでしょう!」
「そうだ!そうだ!」
「でも君たちは、そのウルドやファーレに引っ越したいっていう人が、多いんだろう?」
僕が、不思議そうに聞くと、
「しょうがねえじゃねえか! ここで作ったもんは、売れねえんだ!」
「そうだ、そうだ。俺達だって、家族を食わせなきゃ、いけねえんだ!」
「それで、故郷を捨てて出ていくのかい?」
僕が再び不思議そうに聞くと、集まった領民達の不満が爆発した。
「何言ってるんですか! しょうがねえからに決まってるだろう!」
「俺達だって、売れるもんが作れれば、ここで働きたいよ!」
「そうだ!そうだ!」
「そうか、君たちの言い分は分った。
今日は、これからこの領内で作ろうと思っている新しい穀物を試食してもらう。
この国でまだ作られていない、新しい穀物だ。「米」って言うんだ。
気に入ったら、みんなで作ってみないか?
この領地が、新しい穀物の特産地になるんだ!」
「えーっ?」
「別に新しい作物じゃなくて、ウルドで作ってる野菜を造ればいいじゃねえですか?」
領民達は不満そうにしている。
「いいや、僕は確信している。みんな気に入って、絶対、作りたいって言う! 絶対だ! さあみんな、「米」を食べてみてくれ!!」
「なんだよ。その自信は?」
「うまくなかったら、すぐ帰るぜ!」
領民達は、自信たっぷりのユウの態度が気に入らないようだ。
「お兄ちゃんてば、ずいぶんみんなを煽るわね?」
屋台で準備しているミクが苦笑いした。
「でも、ミクだって、自信はあるんだろ?」
屋台の準備をしているルー姉さんに聞かれると、
「あったり前でしょう!」
そして、しゃもじを持った手を高々と上げて、
「みんな、いいわね! 今日は全員、食べ過ぎにさせて、お腹パンパンにさせて、ヒィヒィ言わせるわよーっ!」
「おおーっ!」
「やってやろうぜーっ!」
ミクの気合に、屋台で準備を進めるウルド直売所のスタッフが勢いづいた。
「はーい、並んで、並んで!」
屋台が10台余り連なっているが、それぞれ屋台毎に別々のメニューを出すということだ。
列の端、最初の屋台は、シンプルなおにぎりを出した
「何だよ。こんなに小せえのか、ケチケチしてるぜ。」
小さなおにぎりを2つ渡されて、文句を言う領民の男に、ミクが、
「あのね、文句いうのは、全部の屋台を回った後にしてよね! わざわざ、お試しサイズにしてあるのよ!」
「へー、そういうもんかね‥‥。」
渡されたおにぎりは、岩塩の「塩にぎり」と佃煮が入ったおにぎり一つずつだ。
一口サイズを頬張ると、
「お、うめえ! うめえじゃねえか!」
「あったり前でしょう! 次は、隣の屋台に行ってね!」
ミクに促されて隣の屋台をのぞくと、
「この屋台は、炊き込みご飯です!」
スタッフに声をかけられて、うす茶色いおにぎりを2つ渡された。やはり小さい。
食べてみると、鶏肉とキノコの風味が口の中に広がった。
「うんめえ!」
「こっちは、焼き飯だよ!」
隣の屋台からは、なにやら焼けた香ばしい匂いがして来た。
「こりゃあ、すげえ! 全部うまいぜ!」
「こんなうまいもん、今まで食った事無かったぜ!」
「しっかり腹に貯まって、食べ応えがあるのもいいな!」
領民たちは、皆、大騒ぎで屋台を回った。
◇
「ふう‥‥。もう食えねえ。」
「腹いっぱいだぜ‥‥。」
しばらくすると、300人の領民が、一人残らず腹を膨らませて横になっていた。
「どうだ、まいったか?」
僕がミクを伴って、領民達に聞いて回った。
「ま、まいりました。‥ごっさんでした。」
「これが米だ。どうだ美味かったか?」
「「美味かったです!!」」
「この領地で作りたいか?」
「「作りたいです!!」」
「イエーイ!」
僕とミクは、高々と手を上げてハイタッチを交わした。
それを見たヴィーとリリィが、笑顔で拍手をしていた。