~異世界で代官になったので、領地を経営します~
完結を機会に誤字脱字・てにおは修正をしています。
◇ ◇
領内の「公共事業」は、道路補修に取り掛かっている。とりあえずは、大雨の時に道が流されて大きな窪地になってしまった箇所に、簡易な橋を架けるなど、通行止め区間をなくすことが優先だ。
「泉の改修」によって、信頼が得られたため、人手が確保出来ることになった。村長が積極的に人手を集めてくれている。僕が、領内補修工事全体のマネージメントと資材手配、ヴォルフが現場監督的な役割をはたして、世話役を中心とした領民たちと作業を進めてくれる。
道路補修が一箇所終わる毎に、作業にかかわった領民達を招いて、食事をふるまうことにしよう。領民達との距離縮めるために、そんなことも考えていた。
◇
「じゃあ、行ってくるから。」
「はい、お気をつけて。」
僕は、宿舎の自分の部屋の前に、リリィ・ヴィー・ヴォルフの三人を呼び、僕の異なる世界間を行き来する能力「トラベラー」の力を見せることにした。
部屋の扉を開けると光が吹き出し、僕がその光の中に入っていく。扉が閉まると光が消え、何事もなかった様に普通の扉に戻った。
残された三人は、しばらく唖然としていたが、
「ご主人さま‥‥、主人さまぁ?」
僕が消えた扉を開けて、心配顔で部屋の中をウロウロしているヴィーに、
「ご主人様を信じて、お待ちしましょう。」
リリィが笑顔で諭すと、ヴィーは小さく頷いた。
今回僕は二つの大きな目的持って現世日本に戻ってきた。日本での資金調達と資材購入だ。
今後、日本で資材調達をするためには、異世界で入手した金貨を日本円に換金することが必須だ。執事のバートさんに確認したところ、ファーレン公爵領を含む王国内に流通する金貨は、一般に流通する「小金貨」と、蓄財用の「大金貨」があるが、流通に耐える強度が必要な小金貨と違い、蓄財が目的の大金貨は「ほぼ純金」とのことだ。
僕は金の買取りも行う金券ショップの店舗に、大金貨を持ち込んでみることにした。
「酔狂な叔父が作った遺産の、換金を頼まれていて‥‥」
そんな言い訳を考えていたが、店舗受付では何も聞かれず事務的に「鑑定しますので、二時間ほどかかります。」とのことだった。結果を待つ間に、ホームセンターで資材調達だ。
ウルド領では、クワやスコップ等の道具が全て木製だった。「一揆」のような反乱を起こさせないためかもしれないが、作業効率を上げるためには、道具は金属製を使わせるべきだ。
店員に驚かれながら、クワとスコップをそれぞれ50本ずつ、ツルハシやバール等を何本か購入した後に、野菜の種なども購入し、軽トラックを借りてアパートへと運んだ。
2時間後、金券ショップに行ってみると、奥の部屋に通された。
「金貨を確認させていただきまして、金の含有率は、99%でした。今回は、この金額でいかがですか。」
提示された金額は、大金貨1枚当たり75万円、金相場の八割くらい? 温厚なおじさん風の店主が、微笑みながら買い叩いてきたのか?
「叔父の遺産の換金を依頼されていますので、僕の取り分にも影響します。今後、定期的に持ってくることが出来れば、買取査定額を見直して頂けますか?」
「もちろんです。まとまっていた方が、こちらとしても有り難いですから。」
「分かりました。今回は鑑定していただいたので、こちらにお世話になりますが、次からは他店にお願いすると思います。」
僕が丁寧に伝えると店主は慌てて「少々お待ちください。」と奥に戻り、電卓を片手に戻って来た。「では、これで」と提示された額は88万円。
「分かりました。次に来るのは、一ヶ月後くらいになると思います。酔狂な叔父が、財産を金貨にしたもので、怪しい入手経路ではありません。少しでも高く買っていただけるところに買っていただきたいのです。」
「うおお‥‥、ビビったけど、買取交渉完了―っ。」
僕は努めて落ち着いて店を出た後で、路地に入ってこぶしを握り締めた。大金貨3枚で264万円。これが、当面の現世日本での資材調達資金だ。公爵家から当面の運転資金として、大金貨4枚を融通してもらっていた。換金のことを考えて、小金貨でなく金の純度の高い(ほぼ純金)大金貨でお願いしたのだ。それを現世での換金で買い叩かれては元も子もない。今後も買取レートアップの交渉はしていこう。
そして公爵家には、僕との取引が魅力的で継続したいと思わせなければ。
◇
「ただいまー。」
代官屋敷の部屋の扉が開かれ、光の中から現れた僕に驚いてヴォルフは、固まってしまった。
ダダダッ
という足音とともに「お帰りなさいです。」ヴィーが駆け寄ってきた。
そのあとで、パタパタ とリリィがやって来て「お帰りなさいませ。」と丁寧にお辞儀をする。
たくさんの荷物を運びこむため、何度か現世日本とこちらの世界を行ったり来たりした後で、
「お土産だ。みんなで食べよう。」
コンビニ袋を見せると、リリィとヴィーは飛び跳ねて喜び、ヴォルフは不思議そうな顔をしていた。