表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/52

龍とはらすかす姫<3>

 てなわけで、チェフチリクさんの(やさ)しさに()たれ、さらには従業員(じゅうぎょういん)のリクルートのため、魔族(まぞく)(ひめ)救出(きゅうしゅうつ)()かうことになったのですが……。


 (みな)(しゅう)

 (つい)に、(つい)に、このときが()たってばよぉ!

 

 アニメやラノベの主人公(しゅじんこう)みたいにドラゴンの()()って()ぶ。

 どんだけ()ちに()ったことか。


 乗客(じょうきゃく)はどうなってるかといえば、霊器(れいき)(はい)った(ぼく)は、もちろんヒュリアと一緒(いっしょ)に、そしてついでにジョルジも、アティシュリの()()ることになりました。


 全員俺(ぜんいんおれ)()せんのかよ、ってドラゴン(ねえ)さん、グチってましたけど。

 まあ、ジョルジを一人(ひとり)()せるには不安(ふあん)がありますからね。


 そして……。


 巨大(きょだい)(つばさ)(ひら)めき。

 周囲(しゅうい)(あらし)巻起(まきおこ)し。

 ドラゴンは大空(おおぞら)舞上(まいあ)がります。


 (しゅく)(はつ)ドラゴン!

 テンションMAX!

 やっぱ、すげぇぜ、この速度(そくど)、この高度(こうど)! 

 しかも(かべ)がないから臨場感(りんじょうかん)がハンパないのよ!


 こりゃたまらん!

 うぇーいっ!


 あっ!

 えーと……。


 こほん。

 ちょけ()ぎたこと、お()びいたします。


 ところでジョルジのことなんすけど、(むね)(きず)完治(かんち)してないはずだから、耶代(やしろ)(のこ)るよう()ったんです。

 そしたら、ヒュリアさんだって(あし)(なお)ってねぇですけんど、って()()まれました。


 まあ、そうなんだけどって(こま)ってるとヒュリアが、()れぬ(けん)でも()いよりはマシだ、って同行(どうこう)(ゆる)しちゃって。

 ジョルジは散歩(さんぽ)()()してもらえた小犬(こいぬ)みたいに(よろこ)んじゃうわけです。


 カワイイ(やつ)よ。


 アティシュリさんの見立(みた)てだと、(たし)かにジョルジの(きず)は、ほとんど(なお)ってるみたいです。

 だから(きん)トレさせたり、ヒュリアに剣術(けんじゅつ)(なら)わせたりしたんでしょうね。


 タヴシャンさんは、10日以上(かいじょう)期間(きかん)()けて、毎日(まいにち)治癒(ちゆ)(じゅつ)(すこ)しずつかけて治療(ちりょう)するのよ、って()ってたんですけど。

 三日(みっか)くらいで、ほぼ完治(かんち)してますよね。


 これって、たぶん復体鎧(チフトベンゼル)のおかげっことなんでしょうか。

 あんなの()()れできる時点(じてん)で、人間離(にんげんばな)れしてるのは(たし)かですよね。


 そんなこんなでフライトは(すす)み、太陽(たいよう)中天(ちゅてん)()えます。

 昼飯(ひるめし)にしたいところですけど、ドラゴンの背中(せなか)じゃ、そうも()ってられません。

 不思議(ふしぎ)風圧(ふうあつ)とかは(つよ)くないんで、()べようと(おも)えば()べられるんですけど、安定性(あんていせい)がないんですよね。


 落着(おちつ)いて()べられる環境(かんきょう)とはいえないので、とりあえず我慢(がまん)してもらうしかありません。

 

 アティシュリに、あとどのくらいかかるのかって()いたら、宵口(よいのくち)には()くぜ、ってことでした。

 霊龍様(れいりゅうさま)相当速(そうとうはや)いですけど、それでも日暮(ひぐれ)までかかるとは。

 アヴジ王国(おうこく)南部(なんぶ)のディルパス(むら)までは、かなり距離(きょり)があるみたいですね。


 ところで、アヴジ王国(おくこく)はジョルジの()まれ故郷(こきょう)だそうです。

 (かれ)(いえ)代々猟師(だいだいりょうし)で、()りのためにスルスクラムの(もり)にもよく(はい)っていたらしいです。

 その(ころ)盗賊団(とうぞくだん)住処(すみか)なんかはありませんが、それでも危険(きけん)一杯(いっぱい)で、油断(ゆだん)すれば(いのち)(うしな)ってもおかしくなかったとか。


 ジョルジの()まれたオクバシュ(むら)はアヴジの北部(ほくぶ)にあります。

 (あと)でちょっと()ってみるかい、って提案(ていあん)すると、(べつ)()きたくねぇんで、と(かお)(くも)らせました。

 故郷(こきょう)()(おも)()がないんでしょうかね。


 太陽(たいよう)がかなり地平線(ちへいせん)(ちか)づき、(そら)がオレンジ(いろ)()まるころ、ようやくディルパス(むら)付近到着(ふきんとうちゃく)となりました。

 当然着陸(とうぜんちゃくりく)となるわけですが、霊龍様(れいりゅうさま)(おも)いっきり目立(めだ)ちますんで、直接村(ちょくせつむら)()りることはできないのです。

 なので、(むら)手前(てまえ)(もり)()りて、そこから(ある)くことになるわけです。


 (もり)(なか)(ある)いていると()(しず)んでしまい、月明(つきあ)かりを(たよ)りに(すす)むことなりました。

 これからはランプを用意(ようい)しとく必要(ひつよう)がありそうです。


 小一時間(こいちじかん)ほど(ある)いてると、やっと木々(きぎ)(あいだ)から、ポツポツと人家(じんか)(あかり)()(はじ)めます。

 チェフチリクの経営(けいえい)する酒場(さかば)、『(りゅう)のあくび(てい)』って名前(なまえ)だそうですけど、(むら)西側(にしがわ)にあるとのことでした。


 ディルパス(むら)には外敵(がいてき)(ふせ)ぐための(かこ)いもなく、出入(ではい)り、し放題(ほうだい)です。

 不用心(ぶようじん)すねって()ったら、チェフチリクが、自分(じぶん)()てからこれまで外敵(がいてき)(おそ)われたことは皆無(かいむ)だって(おし)えてくれました。

 (たし)かに、(むら)(なか)には掘立小屋(ほったてごや)みたいな(いえ)ばっかりで、金持(かねも)ってんぞって屋敷(やしき)(ひと)つもなさそうです。


「ここだ……」


 ふいにチェフチリクが立止(たちど)まり、ポツリと()いました。

 ()(まえ)には月明(つきあか)りに()らされた、(あお)(ふる)びた木造(もくぞう)建物(たてもの)があります。

 ()せた看板(かんばん)(かす)れた文字(もじ)が、『(りゅう)のあくび(てい)』であると()っていました。


 きっとオープンしているときは、(きゃく)(にぎ)やかな(こえ)美味(おい)しい料理(りょうり)(にお)いで(あふ)れていたのかもしれません。

 でも(いま)はひっそりとして、わずかに(さけ)()いた(にく)(にお)いが(のこ)っているだけでした。


 建物(たてもの)(よこ)に、墓標(ぼひょう)(ふた)(なら)んでいます。

 きっと老夫婦(ろうふうふ)のものなんでしようけど、もう(みせ)そのものが御墓(おはか)になってる、そんな()がします。


 事件当日(じけんとうじつ)真夜中過(まよなかす)ぎ、いかつい男達(おとこたち)数人(すうにん)(なわ)(しば)った二人(ふたり)女性(じょせい)(かた)にかついでスルスクラムの(もり)()かうのを、猟師(りょうし)目撃(もくげき)しています。

 ただ(もり)はかなり(ひろ)いので、その(さき)どちらに()ったのかまではわかりません。


 チェフチリクは上空(じょうくう)から盗賊(とうぞく)住処(すみか)(さが)したようですが、(ふか)木立(こだち)(かく)されて()つけられなかったそうです。


 店内(てんない)のランプに()(とも)ると、酒場(さかば)はオレンジの(ひかり)()たされます。

 (つか)()営業(えいぎょう)をしていたときの活気(かっき)あふれる雰囲気(ふんいき)取戻(とりもど)したようでした。


「で、(なに)(さが)せって()うんだ、ツクモ?」


(なに)をじゃなくて、()ががりになりそうな(もの)なら(なん)でもです」


「ちっ、(えら)そうに。てめぇは(なん)もしねぇんじゃねぇか」


 アティシュリが(くち)(とが)らます。


 そりゃそうでしょ。

 現在(げんざい)(わたくし)優雅(ゆうが)(うつく)しい首飾(くびかざ)りの(なか)におりますので。

 雑用(ざつよう)下級国民(かきゅうこくみん)にお(まか)せいたしますわ、オホホホホホ。


 とりあえず酒場(さかば)()ったのは、盗賊(とうぞく)居場所(いばしょ)特定(とくてい)する遺留品(いりゅうひん)なんかを発見(はっけん)できるんじゃないかという(ぼく)提案(ていあん)からでした。


 遺留品(いりゅうひん)……。

 テレビの刑事(けいじ)ドラマから仕入(しい)れた知識(ちしき)です。

 もちろんツケヤキバですけど、きっと(なに)かあるでしょ。

 だいたいドラマじゃ、(なん)重要(じゅうよう)()がかりがみつかって。

 そっから犯人(はんにん)手口(てぐち)なんかが発覚(はっかく)しますもんね。


 だけど。

 ()(なか)、そう(あま)くありませでした。

 かなりの時間(じかん)(さが)しまくって(いただ)きましたが、(なに)()つかりません。


「おい、こりゃ、無駄骨(むだぼね)じゃねぇのか……?」


 アティシュリさんの視線(しせん)(いた)いです。


 でも、現場百遍(げんばひゃっぺん)だ、ってベテラン鬼刑事(おにけいじ)新米刑事(しんまいけいじ)怒鳴(どな)ってたし!

 だから現場(げんば)には(なに)かあるんだって!

 絶対(ぜったい)そうだって!


(みな)さんっ、ちょっこし、()でもらえますかぁ!」


 (そと)からジョルジの(こえ)がします。

 ()てみると建物(たてもの)裏手(うらて)で、ランプを()ったジョルジが地面(じめん)()いつくばっていました。


(なに)やってんだ?」


 アティシュリが(ちか)づいて(こえ)をかけます。


()でくだせぇ」


 ジョルジが()らした場所(ばしょ)には、うっすらと足跡(あしあと)がありました。


足跡(あしあと)か?」


 ジョルジが(うなず)きます。


足跡(あしあと)さ、6人分(にんぶん)で、(おお)きさがら()で、(おとこ)んだと(おも)います。最初(さいしょ)(もり)から()っきで、(みせ)(そば)二手(ふたて)(わか)れっと、3(にん)裏口(うらぐち)へ、3(にん)表口(おもてぐち)()っでます。そんで、裏口(うらぐち)から(おな)足跡(あしあと)さ、(もり)(もど)ってます。ただし、そんときにゃ一人分(ひとりぶん)足跡(あしあと)()っで、5(にん)さなってます。――おそらく、こいが盗賊(とうぞく)のもんだど(おも)うんですがぁ」


 ジョルジはランプの()かりで(しめ)しながら、盗賊達(とうぞくたち)(うご)きを解説(かいせつ)しました。

 (みせ)周囲(しゅうい)警備隊(けいびたい)踏荒(ふみあ)らされてますが、(すこ)(はな)れると足跡(あしあと)が、くっきり(のこ)っているのです。


「ああ、きっとそうだろうぜ。盗賊(とうぞく)一人(ひとり)()んでたんだよな?」


 チェフチリクが(うなず)きます。


「こん足跡(あしあと)さたどればぁ、住処(すみか)が、わかっと(おも)いますけんど」


「できるのか、ジョルジ?」


「はいぃ、オラ、()りんときは、『追俔(ついけん)』ば、やってたもんでぇ」


追俔(ついけん)?」


「はいぃ。追俔(ついけん)ってのは、獲物(えもの)(あと)()っかける役目(やくめ)のこって。足跡(あしあと)(ふん)気配(けはい)なんかで、獲物(えもの)行先(いきさき)見定(みさだ)めんのです」


「つまり盗賊(とうぞく)行先(いきさき)()かるわけか」


「はいぃ」


「やるじゃねぇか、ジョルジ。どっかの(くち)だけ野郎(やろう)とは大違(おおちが)いだな」


 ダルがらみしてくるドラゴン(ねえ)さん。


「いや、やっぱり()がかりあったじゃないすか。ここに()って正解(せいかい)ってことでしょ」


 ここは、きちんと反論(はんろん)しときます。


「てめぇの手柄(てがら)みたいに()うんじゃねぇよ。ジョルジが、いたおかげだろうが」


 舌打(したう)ちしたドラゴン(ねえ)さんは、(たの)もしそうにジョルジに(かた)()をかけます。


「よしっ、ジョルジ、(まか)せたぜ。お(まえ)(たよ)りだ」


 随分(ずいぶん)あつかいが(ちが)うなぁ。

 キャラメルの(りょう)()らしたろか……。


「ほんなら、オラの(あと)さ、ついて()っくだせぇ」


 ちょっと得意(とくい)げなジョルジ。


 (ぼく)のおかげでもあるんだからねっ!


 ランプを(かか)げたジョルジは、先頭(せんとう)()って真暗(まっくら)(もり)へと(あし)()()れます。

 すぐに僕達(ぼくたち)(つづ)きました。


 (むら)(そば)はまだ、普通(ふつう)(もり)だったんです。

 でも、西(にし)(すす)んでいくと途中(とちゅう)から雰囲気(ふんいき)がガラリと()わりました。

 ただ(くら)いだけだったのに、小雨(こさめ)()(はじ)めたんです。

 スルスクラムの(もり)(はい)ったに(ちが)いないです。


 早速(さっそく)、『拡張霊器(かくちょうれいき)1』からも使用可能(しようかのう)になった『倉庫(そうこ)』から雨合羽(あまがっぱ)をとりだして、ジョルジとヒュリアに(わた)しました。


 ジョルジは、できる(かぎ)(こし)()とし、盗賊(とうぞく)足跡(あしあと)痕跡(こんせき)見逃(みのが)さないよう、慎重(しんちょう)(ある)いています。

 (あめ)地面(じめん)(やわ)らかくなっていて、ときどきぬかるんだ場所(ばしょ)もあるんですが、ジョルジはなんのためらないもなく、ぬかるみに()(ほほ)をつけて、地面(じめん)(のこ)痕跡(こんせき)(たし)かめていました。


 そんなことをしながら(すす)んでいると、アティシュリが突然(とつぜん)(まえ)(ある)くジョルジの(かた)()さえ、全員(ぜんいん)(あし)()めました。


 ドラゴン(ねえ)さん、自分(じぶん)右側(みぎがわ)にある(くろ)(やみ)()かって、じっと()()らしてます。

 最後尾(さいこうび)のチェフチリクも(おな)(ほう)()ています。

 そしてヒュリアとジョルジも、突然(とつぜん)(なに)かに()づいたように(やみ)視線(しせん)()けました。

 ヒュリアが(こし)のクズムスに()をかけようとしたとき、アティシュリの(するど)(こえ)()びます。


「ヒュリア、(うご)くなっ!」


 それと同時(どうじ)に、(なに)かが、ヒュリアの右肩(みぎかた)(うえ)(あらわ)れます。

 “それ”は、()のひらサイズの(ちい)さな灰色(はいいろ)のネズミのような()(もの)でした。

 でもネズミより(からだ)(なが)(かん)じがします。


 (かた)()っている()(もの)に、アティシュリが(かお)(ちか)づけます。

 するとそいつは後脚(うしろあし)だけで器用(きよう)立上(たちあ)がり、前脚(まえあし)身体(からだ)(まえ)()らして、()をつけの姿勢(しせい)をとりました。


「こりゃあ……、何年(なんねん)ぶりだぁ……」


 しみじみとしてるアティシュリに()かって、そいつはククククと鳴声(なきごえ)()げました。


「これはイタチ……、でしょうか……?」


 ヒュリアは自分(じぶん)(かた)にいる(ちい)さな客人(きゃくじん)を、微笑(ほほえ)ましく(なが)めています。


「ああ、そうだ。イタチの妖獣(ようじゅう)で『昧昧鼬(セヘルクルナス)』ってんだ。――こいつと最後(さいご)()ったのは1000年以上(ねんいじょう)(まえ)のことよ。もう()()せちまっただろうと(おも)ってたが……」


 昧昧鼬(セヘルクルナス)はまた、ククククと()きました。


「はんっ?! 耶代(やしろ)()ばれて()たってのか?」


 にやにやしたアティシュリが、(ぼく)をのぞきこみます。


「どうやら、『請負役(うけおいやっく)』になりてぇみたいだぜ」


「えっ、『請負登録(うけおいとうろく)』ってことですか?」


 その途端(とたん)、チャイムが()って『羅針眼(らしんがん)』が立上(たちあ)がりました。


昧昧鼬(セヘルクルナス)請負登録(うけおいとうろく)してください。登録(とうろく)には請負役(うけおいやく)接触(せっしょく)して、締印(ていいん)()わす必要(ひつよう)があります』


「この状態(じょうたい)で、できんのかなぁ……」


 『霊器(れいき)』の(なか)(はい)った状態(じょうたい)で『請負登録(うけおいとうろく)』するのは(はじ)めてです。

 でも、やり(かた)(おな)じでしょうから、ヒュリアに首飾(くびかざ)りをイタチの(ひたい)()てるよう、お(ねが)いしました。


 ヒュリアは灰色(はいいろ)(ちい)さな(あたま)に、『霊器(れいき)』を慎重(しんちょう)(ちか)づけます。

 ちょこんと()れると霊器(れいき)とイタチの(ひたい)薄青(うすあお)(いろ)(ひか)(はじ)めました。

 しばらくすると(あお)五芒星(ごぼうせい)(ぼく)視界(しかい)浮上(うきあ)がりました。


 上手(うま)くいったみたいです。

 『羅針眼(らしんがん)』から登録成功(とうろくせいこう)報告(ほうこく)がありました。


「で、(きみ)(なに)をしてくれるのかね?」


 (ためし)に『霊器(れいき)』の(なか)から(はな)しかけると、(ちい)さな新入(しんい)りはキッキッククと返事(へんじ)をしてくれました。

 ()こえてるみたいです。


「なるほど、そうか。そいつは有難(ありがて)え。――こいつ、盗賊(とうぞく)住処(すみか)まで案内(あんない)するってよ。どうやら(もり)()連中(れんちゅう)も、あいつらには迷惑(めいわく)してるみたいだぜ」


 ふいに『昧昧鼬(セヘルクルナス)』は、ヒュリアの(かた)から掻消(かきき)え、すぐにジョルジの(まえ)(あらわ)れ、先頭(せんとう)()ちました。

 そして(くび)(うし)ろに(まわ)し、キッキッと()きます。


「ついてこいってよ」


 こうして(ちい)さな灰色(はいいろ)妖獣(ようじゅう)(ひき)いられ、あらためて霧雨(きりさめ)()ちこめる真暗(まっくら)(もり)を、盗賊(とうぞく)住処(すみか)目指(めざ)(すす)みます。


 この状況(じょうきょう)、なんか童話(どうわ)世界(せかい)(はい)りこんだみたいですよね。

 (おそ)ろしげな(もり)を、イタチに()れられて鬼退治(おにたいじ)()かう、ちぐはぐな四人組(よにんぐみ)

 絵本(えほん)にしたら面白(おもしろ)いかも。


 イタチのおかげで(いま)までのペースよりは格段(かくだん)にスピードが()がりました。

 それでも、もうかなりの時間(じかん)()っています。

 もしかすると、真夜中(まよなか)()ぎてるんじゃないでしょうか。


 イタチに、まだ(とお)いんかい?って()こうとしたとき、突然(とつぜん)(もり)途切(とぎ)れ、切立(きりた)った(がけ)(あらわ)れました。

 先頭(せんとう)にいたはずの昧昧鼬(セヘルクルナス)は、いつのまにかヒュリアの(かた)(うえ)(もど)り、ククククと()きます。

 どうやらここが目的(もくてき)場所(ばしょ)みたいです。


 崖下(がけした)には(おお)きめの洞窟(どうくつ)があり、(なか)に、ちらほらと(あかり)()えました。

 入口(いりぐち)(わき)には見張(みは)(やく)らしい(おとこ)一人座(ひとりすわ)りこんで、酒瓶(さかびん)直接口(ちょくせつくち)につけてラッパ()みしてます。

 見張(みは)りなんかやってられっか、って(かん)じです。


 盗賊達(とうぞくたち)自然(しぜん)洞窟(どうくつ)根城(ねじろ)にしてたわけです。

 これじゃあチェフチリクが(そら)から(さが)しても()つからないはずです。


 (ぼく)らは木陰(こかげ)(かく)れ、作戦会議(さくせんかいぎ)をすることにしました。


「で、どうすんだ?」


 ()べたに、あぐらをかいたドラゴン(ねえ)さんが開口一番(かいこういちばん)()いてきました。

 (よこ)にチェフチリク、()かいあわせでジョルジとヒュリアが(こし)をおろします。


重要(じゅうよう)なのは、さらわれた二人(ふたり)居場所(いばしょ)です。それがわからないと作戦(さくせん)()てようがありません」


 ヒュリアの言葉(ことば)反応(はんのう)し、(かた)のイタチがクキックキッと()きました。


「そいつが居場所(いばしょ)調(しら)べて()るとよ」


 アティシュリが苦笑(にがわらい)しながら、通訳(つうやく)します。

 (くび)(まわ)したヒュリアは、灰色(はいいろ)友人(ゆうじん)微笑(ほほえ)みかけました。


「それはありがたい。ならば、二人(ふたり)居場所(いばしょ)だけでなく、あの入口以外(いりぐちいがい)にも、(そと)(つう)じる(みち)がないか調(しら)べてきてくれ。もちろん(ひと)(とお)れるだけの(ひろ)さのあるものだ」


 キッキッと()いたイタチは、またふいに(かた)から()()せます。

 そして、すぐに洞窟(どうくつ)入口(いりぐち)手前(てまえ)(あらわ)れました。

 見張(みは)りの(おとこ)は、(さけ)()むのに(いそが)しく、(ちい)さな偵察兵(ていさつへい)()づいていません。


 イタチは一瞬(いっしゅん)、こっちに(かお)()けると、素早(すばや)洞窟(どうくつ)(なか)(はし)りこんでいきました。


「あの偵察兵(ていさつへい)(もど)って()るまで(すこ)時間(じかん)がありそうですね。(あめ)(いま)()んでるし。――ちょうどいいや。ヒュリア、(ぼく)地面(ぢめん)()いてくれるかな」


 ヒュリアは首飾(くびかざ)りを(はず)して、地面(じめん)()きます。

 『調理(ちょうり)』を使(つか)って(あたた)かいお(ちゃ)とサンドイッチを具現化(ぐげんか)し、首飾(くびかざ)りの周囲(しゅうい)(なら)べました。

 サンドイッチの具材(ぐざい)自家製(じかせい)ハムと野菜(やさい)です。


昼飯(ひるめし)も、夕飯(ゆうはん)()きで()たからね。これ()べて元気(げんき)つけて」


「ありがとう、ツクモ」


 ヒュリアはハムサンドを()()りますが、すぐに()べずに()つめています。


「しかし、耶代(やしろ)(ちから)とは本当(ほんとう)にすごいものだな。これならどんな場所(ばしょ)でも、食事(しょくじ)不自由(ふじゆう)することはない。しかも兵站(へいたん)への配慮(はいりょ)不要(ふよう)だ。もしこの(ちから)汎用化(はんようか)されれば、戦争(せんそう)形態(けいたい)根底(こんてい)から()えてしまうだろうな」


「んでがすなぁ。食物(くいもん)不安(ふあん)さねぇってだけで、気持(きも)ちさ(らく)になっからぁ。ツクモさんが、神様(かみさま)みてぇに(おも)えます」


 そう()いながらジョルジは、ハムサンドからハムをはずして()べてます。

 それをジト()()てるドラゴン(ねえ)さん。

 (あと)で、おしおきだな、こりゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ